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●目には目を歯には歯を●

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「目撃していないのに、着ていた服装まで詳細に言えると言うのは、犯行前に会ったのでは?もしかして協力されていたのでは?あまりにも犯行のタイミングが良すぎるんですよ」

健の問いに富子は観念し素直に頷いた。

「……可哀想だったんだよ」

健が気づいてると悟り、もう隠せないと富子は諦めた。

「ずっといじめに遭っていて、やっと親が守ってやっていたようなのに、あいつら、その子が1人の時に家に押し掛けて、暴行して大怪我させたんだッ!」

噂の被害者、黒井聡太の話かと健は思った。
そして犯人はその兄、黒井純也。
ここにくる前に、富子の情報と引き換えに大知から聞いた。

「純也君もその弟も良い子だったんだよ!でも、弟を傷つけた奴らがどうしても許せないって、仕返しするって。それで、可哀想になって」

大家の口から純也と聞いて、やっぱりかと健は確信した。
健は犯人としか言っていない。

「犯人とは、どう言う関係ですか?」

「……るいさん。純也君のおばあちゃんと私はデイサービスで知り合いになってね。純也君の弟が大怪我をして、その怪我をさせた相手がこのアパートの住人だと知って、純也君は私に相談してきたんだ」

「なぜ犯行を止めなかったんですか?」

大事な友人の孫の犯行を、なぜ思いとどまらせなかったのかと健は憤る。

「同情もあったけど、私もあの家の家族には迷惑していたからね。痛い目に遭えば良いと思ってしまった」

どこかで富子も魔が刺したのだ。

「犯人の黒井純也は、もう警察に捕まっています。犯行後、直ぐに警察は重要参考人として調べていたそうです」

富子の顔が強張る。
健は、純也が捕まっていることをここへ来る前に大知に教えてもらった。
純也は蓮司が調べていた頃には、もう捕まっていたのだ。
純也を取り調べて行くうちに、情状酌量の余地があるとして、犯人の身体的特徴などを警察はあまり大きく報道はさせなかった。

「警察に行って事情を話してくれませんか?彼1人に罪を背負わすのはあまりにも可哀想だ。あなたは多少なりとも、犯行に協力したのだから」

健の言葉に、富子は涙ぐみながら頷いた。
傷害事件で終わったが、もしかしたら殺害していたかもしれないのだ。
富子にも、事の重大性を自覚して欲しかった。
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