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●愛したのが始まり●

6-3

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シンとなるリビングで、祥子は顔を静真に向けた。

「……ごめんなさい」

糸坂の罪を知ってから、祥子はずっと静真に謝っている。
祥子が発する言葉は、ほぼ謝罪だけだった。

「……ごめんなさい」

「ッ!……」

祥子の謝罪の声に、静真は息を止める。
なんと返事をして良いか分からないのだ。

「……ごめんなさい」

祥子は両手で顔を覆い涙を流し始める。
どうして良いか分からない。父親の罪は自分の罪でもあると祥子は思っている。
今思えば、健が父親に向けていた、怖いと感じた敵意に満ちた冷徹な眼差しにも納得がいく。

「静真」

健が静真に声をかける。

「祥子さんは俺が預かる。お前は1人で自分の気持ちを考えろ」

「何を勝手な事を言ってるんだよ!」

健の言葉に静真はカッとなる。

「お前が糸坂と祥子さんを切り離せないなら、一緒にいたってお互い不幸だ。俺は祥子さんに憎しみはない。お前と愛し合っていなくても、こうなった時に祥子さんのことは助けるつもりだった」

糸坂が捕まれば、弥之を殺害した罪が認められれば、祥子は1人で生きていけないと健は思っていた。
祥子が拒否しないのであれば、傷が癒えるまで遠くから支えて行こうと思っていた。
健の思いに静真は言い返す事ができない。
今の自分では、祥子を支える事も愛し続ける事も出来ると断言できなかった。

「祥子さん。あなたの父親がしたことはあなたには関係ない。あなたのこれからの生活は、落ち着くまで俺に面倒を見させてくれないか?」

健の笑顔と穏やかな声に、祥子は悲しい顔で微笑む。

「楜沢さん。本当にごめんなさい。父がした事は裁かれて済むことではないと分かってます。それなのに気にかけてくれて。私は、楜沢さんを苦しめる存在なのに。静真の事も、忘れないといけないのに」

「関係ないと言ったでしょ?あなたにはあなたの人生がある」

健と祥子のやり取りに、静真はグッと握り拳を作った。

「……ったよ」

「うん?」

健は何かを呟いた静真に顔を向けた。

「分かったよ!あんたに任せるよ!祥子のこと、俺の気持ちの整理がつくまで守ってくれ!こんな事で、本当は祥子を嫌いになんてなれない!」

静真のジレンマが分からない訳ではない。
健は頷くと微笑んだ。

「ああ。祥子さんのことを、迎えに来れる日が来る事を信じてるよ」

健の余裕の顔に静真はムッとしながらも、いつか素直に健のことも兄さんと呼びたいと思った。
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