溢れる雫

五嶋樒榴

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ウヰスキー

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「俺ね、高校の時の初体験ですげー惨めな思いしたの。それからまともな恋愛出来なくなって。そんな俺の前に君が現れた。君はもう死んでいなくなった彼を今でも真剣に愛してる。そんな一途な君にさらに惹かれたさ。俺も君と真剣に愛し合いたいって。分かってるよ、こんなこと言われたって迷惑だって。でも、俺は君を失いたくないんだ!例え君が俺を好きにならなくても、俺は君が好きなんだ!」
弥生は涙が止まらない。震える声で弥生は言った。
「そんなの、先生は私を誤解してるんです。私はそんなに、先生に好きになってもらえるような女じゃないもの」
「謙遜と過小評価は違うんだよ!」
前にマスターから言われたセリフが比呂志の口から飛び出た。
「君の魅力は俺が知ってる!愛ってやつを教えてくれたのは君だもの!だからこれからも俺の相手してくれよ。もっともっと、そばにいて欲しい!」
弥生はただただ泣いて、何も言ってくれない。
「迎えに行くから、どこにいるか教えて」
優しく静かに比呂志は言った。
「………今、新幹線の中です。東京駅に21時に着きます」
比呂志は腕時計を見て今の時間を確認した。事務所から東京駅はすぐだったので、比呂志は仕事を中断すると、すぐ様東京駅の新幹線口に向った。
「今の告白は何?」
まだびっくりしている同僚たちは、走り去る比呂志をただ見送った。
東京駅に着くと比呂志は弥生に電話をかけた。電話には出なかったが東海道新幹線の中央のりかえ口に弥生の姿を見つけた。弥生が改札から出てくると、比呂志は目一杯弥生を抱きしめた。周りは二人の姿にざわついたが、比呂志はそんな事は一切気にしていなかった。
「良かった、無事で」
比呂志は抱きしめながらそう言うと、弥生の甘い香水の香りに弥生を実感した。
東京駅を出て丸の内のビル群を二人で歩いた。もう雨は止んでいたが、雲が月をほぼ隠していた。
弥生は黙ったまま比呂志について行った。
「さっきの電話で言ったこと、本当に本心だよ。もうカッコつけてもしょうがないから。でもどうせなら電話じゃなくて、目の前で言いたかったけどね」
悔しそうに比呂志は言った。弥生はまだ黙ったまま。
「もう、こんな気持ちの俺と話しもしたくないよね。でも最後にこれだけはお願い。生きて。君が生きてくれていれば俺は嬉しい。本気で好きになれた君だから生きていて欲しい」
弥生が比呂志をじっと見つめた。
「先生との電話、楽しかったのは本当です。はじめは、なんでこんなに電話してくるんだろうって思いました。でもさっきの告白で目が覚めました。先生と話してる間は、彼を忘れてたなって。東京駅に迎えにきてくれると言ってくれた時、私の気持ちははっきりしたんです。先生に会いたいって。そして会って抱きしめられた時、その温もりが優しくて暖かくて。先生にそばにいて欲しいのは、私の方だったんだって」
比呂志は跪きはしなかったが、右手を弥生に差し出した。
「この手を受け入れてくれたら俺は誓うよ。来年も再来年も、ずっと君のそばにいるって」
弥生は比呂志を見つめたまま、そっと比呂志の手に自分の右手を差し出した。比呂志はその手を強く握ると弥生を引き寄せ抱きしめた。
「愛してる」
比呂志はそう言うと、さらに弥生を強く抱きしめる。
街灯に照らされ、二人の影はずっと重なっていた。    
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