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第一章──冒険者登録が無双の門出
その当たり前が嬉しくて
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「おらァァ!!」
『しょっぼ』
宿で一人、テルはひたすら魔法の試行を繰り返していた。だが何度やっても実用的な威力は出ない。
「……はぁ、はぁ……こ、これだったら、素直になんかで殴りかかった方がまだマシだぞ……くそ……」
『魔力を扱おうと考えすぎなんだよ、意識するから余計にチグハグになって勢いが殺されちゃうの。もっとこう、しなやかに!!』
「んな事言ったってさぁ……コツとかないのかよ」
『私も魔法使えないからそんなのわかんないよ。魔法陣の知識はあるけど……』
二人揃ってはぁぁ、と項垂れる。
初日とはいえ酷い有様だ。こんなことで魔法が使えるようになるのだろうか。
「シエラ、ご飯。…………何してるの?」
「なんでもないよ……ありがと、すぐ行く」
異世界で初めての食事。よくよく考えれば、色々ありすぎたせいでお腹が空いていることすら忘れていた。意識した途端、きゅうううとお腹が訴える。
とはいえテルは好き嫌いが結構激しいから、どちらかというと期待より不安が勝った。
「待たせてごめん、魔法の練習してて……」
「みんな今集まったばかりアル、気にすることないアルよ」
「んじゃ注文するか」
ダゴマがテーブルの真ん中に置かれた水晶のようなモノを起動する。
すると空中にARのごとき画面が現れて、次々にメニューが表示された。
「すっげ」
『これも魔法だよ。この国じゃ至る所に生活魔法が仕込まれてるからこれくらいは普通なんだ』
「僕これ。……ムル、いつもの?」
「もちろんアル」
「俺もいつものだ、シエラちゃんは何にする?」
「え、じゃあ、俺もそれで……」
正直、見たことも無いような肉や魚の羅列で何を頼んでいいのかサッパリだ。
それなら場に合わせて同じモノを頼んでおいた方がいいだろう。
『自分の意思がないなあ……』などと呆れるシエラを無視して、同じモノを頼んだ。
……すると。
水晶がチカチカと光り、耳から水の抜ける時のような気持ちの良い音を立てた。
気づけば、各々の目の前にご馳走が並べられている。
「……どうなってんのこれ」
『同じく生活魔法。個人で使おうと思ったら相当な鍛錬がいるけど……まぁ王宮の魔導士さんが作った魔法陣で制御されてるからね、こんな凄いことが簡単に出来ちゃう。便利な世の中になったもんだよねえ』
「なるほどな……こういうとこで使った分の魔力が、迷宮に集められてるわけか」
『そ。冒険者は間接的に市民の生活を支えているのです』
腰に手を当てて言うシエラを、別にお前が威張ることじゃないだろと睨んで、出現したご飯に向き直る。
和食とも洋食とも、和洋折衷とも言い難いそれは、パプリカのような色の肉と逆に肉色をした野菜というなんともチグハグなカラーバランスをしていた。
思わず眉間を寄せるテルだが、いやしかし食わず嫌いは良くない。そもそも自分で頼んだものだ。
「いただきます……」
既にむしゃむしゃと美味そうに食べ始めている彼らも後押しとなって、テルはナイフと、先端が五ッ又にもなっているフォークのようなものを手に取った。
そして、その鮮やかなステーキを───口に、運ぶ。
少し酸味の効いたそれは、柔らかに口の中で溶けて肉汁を迸らせた。
食べたことの無いそれは、テルの語彙では──!!
「…………え、うま……っ!?」
と、ただそう表現する他になかった。
旨いッ!!
ただただ───旨いッ!!
『ほんとだ、美味し……』
感覚を共有しているシエラも、幸せそうな顔をしている。
空かした腹が歓声を上げて肉を迎える。
テルの手はどんどんそれらを口に運んで、止まることを知らない。
ただ黙々と、新鮮な旨みと食べている実感を味わうテルの両目からは、熱いものが流れていた。
「おい、しい…………ほんとに、おいしい……っ!!」
「…………シエラちゃん、ギルドの飯は旨いだろ? よかった、ほんとによかったなぁ」
「はい…………はい……っ!」
たった一日だ。
たった一日の、たった数時間だ。
テルが衣食住全てを奪われたのはたったそれだけの時間だ。
だが、それでも──!!
それらが当たり前にそこにある幸せ。
当たり前に、当たり前の生活ができる幸せを実感するには……充分すぎた。
■ ■ ■
『私、あんな美味しいものが生涯のうちにまた食べられるなんて思ってもいなかったよ』
ふかふかなベッドの上、そう零すシエラ。
テルは、その言葉に胸を突き刺すような痛みを覚えた。
「……あぁ、そうだよな」
テルはたった一日のたった数時間だった。
だが、シエラは?
もっと長い間、もっとずっと我慢してきたはずだッ!!
しかも彼女は自分よりも幼い──。
もっとずっと痛くて、ずっとずっと『コレ』を渇望してきたはずなのだッ!!
テルは自分が恥ずかしくなった。
当たり前の生活を約束された空間で、何の感謝もなしにそれを当然とばかりに受け取った。
そこで満足せずに、振り返らずに次を求めていた……過去の浅ましい自分が……。
「生きるって……いいな」
呟いてから、そんな言葉が飛び出した自分に驚く。
ただ無為に命を消費して自堕落な生活を送っていた自分から、よくもこんな言葉が飛び出したものだ。
『うん』
彼女風に、ポジティブに考えるなら。
テルは、異世界に飛ばされたからこそ成長出来た。命を、生きることを前より大切に思うことができるようになった。
……それなら。
自分が、何か彼女にお返しできることは?
自分に、何ができるだろうか?
───決まっている。
「絶対、お前を幸せにしてやるから──見ていてくれ」
『────うん』
宙に見えるシエラの頬は、こころなしかいつもより赤い気がした。
『しょっぼ』
宿で一人、テルはひたすら魔法の試行を繰り返していた。だが何度やっても実用的な威力は出ない。
「……はぁ、はぁ……こ、これだったら、素直になんかで殴りかかった方がまだマシだぞ……くそ……」
『魔力を扱おうと考えすぎなんだよ、意識するから余計にチグハグになって勢いが殺されちゃうの。もっとこう、しなやかに!!』
「んな事言ったってさぁ……コツとかないのかよ」
『私も魔法使えないからそんなのわかんないよ。魔法陣の知識はあるけど……』
二人揃ってはぁぁ、と項垂れる。
初日とはいえ酷い有様だ。こんなことで魔法が使えるようになるのだろうか。
「シエラ、ご飯。…………何してるの?」
「なんでもないよ……ありがと、すぐ行く」
異世界で初めての食事。よくよく考えれば、色々ありすぎたせいでお腹が空いていることすら忘れていた。意識した途端、きゅうううとお腹が訴える。
とはいえテルは好き嫌いが結構激しいから、どちらかというと期待より不安が勝った。
「待たせてごめん、魔法の練習してて……」
「みんな今集まったばかりアル、気にすることないアルよ」
「んじゃ注文するか」
ダゴマがテーブルの真ん中に置かれた水晶のようなモノを起動する。
すると空中にARのごとき画面が現れて、次々にメニューが表示された。
「すっげ」
『これも魔法だよ。この国じゃ至る所に生活魔法が仕込まれてるからこれくらいは普通なんだ』
「僕これ。……ムル、いつもの?」
「もちろんアル」
「俺もいつものだ、シエラちゃんは何にする?」
「え、じゃあ、俺もそれで……」
正直、見たことも無いような肉や魚の羅列で何を頼んでいいのかサッパリだ。
それなら場に合わせて同じモノを頼んでおいた方がいいだろう。
『自分の意思がないなあ……』などと呆れるシエラを無視して、同じモノを頼んだ。
……すると。
水晶がチカチカと光り、耳から水の抜ける時のような気持ちの良い音を立てた。
気づけば、各々の目の前にご馳走が並べられている。
「……どうなってんのこれ」
『同じく生活魔法。個人で使おうと思ったら相当な鍛錬がいるけど……まぁ王宮の魔導士さんが作った魔法陣で制御されてるからね、こんな凄いことが簡単に出来ちゃう。便利な世の中になったもんだよねえ』
「なるほどな……こういうとこで使った分の魔力が、迷宮に集められてるわけか」
『そ。冒険者は間接的に市民の生活を支えているのです』
腰に手を当てて言うシエラを、別にお前が威張ることじゃないだろと睨んで、出現したご飯に向き直る。
和食とも洋食とも、和洋折衷とも言い難いそれは、パプリカのような色の肉と逆に肉色をした野菜というなんともチグハグなカラーバランスをしていた。
思わず眉間を寄せるテルだが、いやしかし食わず嫌いは良くない。そもそも自分で頼んだものだ。
「いただきます……」
既にむしゃむしゃと美味そうに食べ始めている彼らも後押しとなって、テルはナイフと、先端が五ッ又にもなっているフォークのようなものを手に取った。
そして、その鮮やかなステーキを───口に、運ぶ。
少し酸味の効いたそれは、柔らかに口の中で溶けて肉汁を迸らせた。
食べたことの無いそれは、テルの語彙では──!!
「…………え、うま……っ!?」
と、ただそう表現する他になかった。
旨いッ!!
ただただ───旨いッ!!
『ほんとだ、美味し……』
感覚を共有しているシエラも、幸せそうな顔をしている。
空かした腹が歓声を上げて肉を迎える。
テルの手はどんどんそれらを口に運んで、止まることを知らない。
ただ黙々と、新鮮な旨みと食べている実感を味わうテルの両目からは、熱いものが流れていた。
「おい、しい…………ほんとに、おいしい……っ!!」
「…………シエラちゃん、ギルドの飯は旨いだろ? よかった、ほんとによかったなぁ」
「はい…………はい……っ!」
たった一日だ。
たった一日の、たった数時間だ。
テルが衣食住全てを奪われたのはたったそれだけの時間だ。
だが、それでも──!!
それらが当たり前にそこにある幸せ。
当たり前に、当たり前の生活ができる幸せを実感するには……充分すぎた。
■ ■ ■
『私、あんな美味しいものが生涯のうちにまた食べられるなんて思ってもいなかったよ』
ふかふかなベッドの上、そう零すシエラ。
テルは、その言葉に胸を突き刺すような痛みを覚えた。
「……あぁ、そうだよな」
テルはたった一日のたった数時間だった。
だが、シエラは?
もっと長い間、もっとずっと我慢してきたはずだッ!!
しかも彼女は自分よりも幼い──。
もっとずっと痛くて、ずっとずっと『コレ』を渇望してきたはずなのだッ!!
テルは自分が恥ずかしくなった。
当たり前の生活を約束された空間で、何の感謝もなしにそれを当然とばかりに受け取った。
そこで満足せずに、振り返らずに次を求めていた……過去の浅ましい自分が……。
「生きるって……いいな」
呟いてから、そんな言葉が飛び出した自分に驚く。
ただ無為に命を消費して自堕落な生活を送っていた自分から、よくもこんな言葉が飛び出したものだ。
『うん』
彼女風に、ポジティブに考えるなら。
テルは、異世界に飛ばされたからこそ成長出来た。命を、生きることを前より大切に思うことができるようになった。
……それなら。
自分が、何か彼女にお返しできることは?
自分に、何ができるだろうか?
───決まっている。
「絶対、お前を幸せにしてやるから──見ていてくれ」
『────うん』
宙に見えるシエラの頬は、こころなしかいつもより赤い気がした。
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