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第三章──光の勇者と学院生活
ブレイヴ・バトル
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「ていうかシエラ、学院に入ったはいいけどここからどうやって公認試験を受けるんだ?」
『あれ、言ってなかったっけ。一週間後にある一年に一回の大規模な実技大会──魔導祭で優秀な成績を修めると、国家公認試験受験の資格が貰えるんだよ』
「魔導祭……ねぇ……」
『大会のルールは各自持ち込み魔法陣はひとつまでのバトルロイヤル。そこで四人まで絞って決勝トーナメントって形だよ』
「あるあるだな……てかそれなら、魔法実技の授業受けといた方がいいんじゃないか?」
きょとんとするシエラに、テルはニヤリと人差し指を立てて笑う。
「偵察だよ」
■ ■ ■
「勇者様パネェな……」
そんなわけで魔法実技の授業に出てみたテルだったが、その実態は教師置いてけぼりの勇者無双だった。
「オラオラ甘ェぞ!! 躱されると確信したら、次の行動を読んで魔法陣をさっさと起動しやがれ!! その何秒かが命取りになンだよ!!」
ほぼあいつが先生のようなものだ。
六人を相手に傷一つ負っていない。
「初めて見る人はそういう反応になりますよねぇ。いつもあーなんですよぉ、テンキくんは」
「そっすか……」
先生もかなりたぶらかされているようだ。顔が赤いのが丸わかり。
「! テr……シエラもやろうぜェ!! 前からお前の強さを知りたかッたんだ」
「え、やだ」
ズッコケるテンキに、テルは欠伸をひとつ。
『即答……』
「(負けるに決まってんじゃん嫌だよ)」
勝敗の決まっている勝負を、しかもなんのリターンもなしに受けるなぞドMでもない限りしない。
「ふぁあ……」
それにこのとおり、テルは眠いのだ。
やはり授業なんぞ出るんじゃなかった、さっさと帰りたい、そんな思いがテルの胸中を支配している。
『別に途中で抜けて帰ってもいいと思うけど』
「……それもそうか、帰ろ」
「お前ェ、何しに来たンだよ……」
「冷やかし」
「言い切ッたなオイ!?」
げんなりとするテンキを置いて、テルは寮へと帰った。
■ ■ ■
「…………醤油は?」
目の前には、海に生息する魔物──つまるところ、魚の刺身。
マグロに似た赤身が食欲をそそるが──。
「……醤油は?」
だが、肝心のものがない。
「なぁテンキ、醤油はどこだ」
縋るようにしてテンキを見るテルに、テンキはにやりと笑う。
手元で紫の液体の入った小瓶を弄びながら。
「醤油と同じ味の調味料だ。コレ作るのァ苦労したぜ? 俺と戦ッてくれたらやるよ」
瞳を燃やして席を立つテルに、シエラは困惑する。
『……え、テル、やるの?』
「当たり前だ!! 醤油なしわさびなしの刺身なんざ食えるか!!」
『感性が分からない……!!』
あぁそうだろうそうだろうとも、この感覚には日本人にしか分からないだろう──!!
砂糖、塩、醤油、胡椒、マヨ、一味、その他諸々──!!
揃っていなければとてもじゃないが満足出来ない。
そのためならば勇者だろうがなんだろうが戦ってやる───!! と、テルは意気込む。
「つーわけだァ!! 審判任せたぜ先生!」
「はぃ、任されましたぁ」
いつの間にか現れた先生が転移陣を起動する。
連れられて屋外運動場のスタジアムへとやってきた二人は、準備運動をしながら睨み合った。
「醤油……!!」
「思った以上に釣れるなオイ……」
『ダメだこれ……』
テルの目には、もう後の醤油しか見えていない。
そして試合の始まる直前、食堂で騒ぎになっただけあり──続々と野次馬が転移してくる。
「あいつ確か帝級だっていう編入生だよな……? どっちが勝つか分かんねえぞ、これ!!」
テルの評判は学院中に広まっている。
当然尾ひれもついているわけで、勇者に勝てるなどと思う者もいるのだ。
しかし、いくら噂がそうでもテルの外見は少女。
「バーカ、いくら帝級って言っても可愛い女の子じゃない。テンキくんが勝つに決まってるでしょ」
よって、どちらが勝つかの賭けは綺麗に二分された。
「いや分からんですぞ、【嵐】といっちゃなんでも、ダンジョンの最下層をらくらく踏破したらしいですからな」
「マジで!? うおお、シエラちゃんパネェな!!」
「たとえそれでも勇者様に勝てるわけないですよ」
『……テル、気をつけてね。アイツの魔力量、とんでもないってレベルじゃないよ』
「(分かってる)」
魔力の感知できないテルでもやばさを肌で感じる。
──やっぱり醤油のためとはいえ、やめとけば良かった──などという風に湧き上がってくる後悔を無視して、テルは構えた。
「はじめっ!!」
先生の合図が聞こえても、テンキは動かず悠長に構える。
「いつでもかかッてこい」
「なら遠慮なくッ!!」
振りかぶり、全力の一撃を放つ。
醤油のためだ、躊躇ってる暇などない。
起動した魔法陣は七つ。
火、風、水、地、光、冥──そして図書室で知った、【超増幅陣】の陣!!
「【超増幅・全原嵐解】!!」
六色の属性陣が交差し、無色の災害をその場にもたらす。
弱点も耐性も分からない状態では、間違いなくテル中最高負荷の一撃である。
無陣で放つ場合の所要時間は二十秒を超えるが、陣さえあれば五秒足らずだ。
その辺の時間短縮の練習は毎日しているから、だんだん短くなってきている。
───そしてそれを、テンキは。
「痛ッッてェ……そんなン聞いてねェぞオイ!! 面白ェことしてくれやがる!!」
『嘘ぉ……』
「……なんだそのチート」
何やら、バリアのようなものを展開して防いでいた。
【守護結界陣】、ではない。
そもそも、魔法陣を一切起動していない。
「あァ、これか? これは勇者の加護【聖光】ッてヤツだ。それを貫通するとかよテメェ、中々バケモンじゃねェか」
化け物はどっちだ、とテルは思う。
今ので決める予定だった。完全に本気だった。
テルだって充分強くなっているのに、まさかここまで差があるとは。
「んじゃ次はオレの番だ、食らえッ!!」
テンキが腰に吊るした剣を抜くと、それだけでとんでもない斬撃の波がテルを襲う。
十──いや、二十発はある。
そしてやはり、魔法陣はない。
咄嗟に【韋駄天陣】を起動し、全てスレスレのところで避けたテルは、次のテンキの行動を見てぎょっとした。
それ自体は攻撃ですらなかったらしく、テンキは剣を大きく振りかぶって叫ぶと同時──地面に思い切り叩きつけたのだ!!
「【なんかスゲー攻撃】ッ!!」
「小学生みたいな名前つけてんなおい!!?」
とてもこんなダサい技に負けてはいられない、とテルは風の陣を無陣で起動し、自らを上空へとぶっ飛ばすことで回避する。
それを更に跳躍して追いかけてくるテンキ。
あんな重そうな剣を持ちながらこの機動力。どんな身体能力をしているのかとテルは苦笑する。
「【スゲー強い一撃】!!」
『今だよ、テル!!』
「あぁ!」
わざと不便な上空へと退避し、迎撃して来るのを誘ったのだ。
先程の全力の一撃……そこにはまだ濃厚な魔力の塊が蠢いている。
あそこまで魔力量が多ければ、この位置からでも充分に操作が可能となる。
──つまり!!
「【固定転移陣】!! 引っかかったな、食らえ!!」
「しま──ッ!!」
いくら速く強いとはいえそんな大振りの攻撃では後隙も大きい。
風の属性陣と身体強化をかけた右足で、思い切り蹴りあげ──ぶっ飛ばす!!
痺れる足を振り払い、吹っ飛んでいくテンキを見てテルは呟いた。
「バケモンはお前だろやっぱり……!」
手応えはあった。だが、テンキは咄嗟に腕でガードしていた。
三十メトリほど吹っ飛んだ所で、テンキは叫ぶ。
「はァァァァァァッ!!」
気迫だけ。そう、気迫だけだ。
それだけで勢いが殺され、逆にこちらが一歩退く始末。
……とてもじゃないが、敵わない。
全く敵わないとは言わないが……明らかに実力に差がある。相手はまだまだ本気を出していない様子だった。
「…………無理、降参、終わり!! 醤油はよこせよ!! はぁ……やってらんねえ……」
正直命の危険を感じたから、ここで終わることにした。
自分はかなり強くなったと思っていたが……まだまだ世界は広いらしい。
『いやこいつがおかしいだけでしょ』とは、シエラの談だが──まぁ、醤油が手に入ったのでテルはどうでも良しとした。
■ ■ ■
「勇者と編入生が試合?」
「そうそう、フィーネも見に行こうよ」
「……別にいいですけど」
編入してきたシエラとやらが、帝級の冒険者であることは知っていた。
だからといってなんの興味もなかったが。
勇者という称号も怪しいものだ。
国に認められたわけでもなく、テンキの知名度は低い。
ただ学院内で名乗っているだけなのだ。
帝級冒険者とやらもよく分からない。
そもそも冒険者など庶民がなるものだ。
自分たち貴族の通う学院にわざわざ乗り込んできて上から目線とは──随分嫌な性格をしているに違いない。
そうして嫌々ながらも友達に連れられ、二人の戦いを見たフィーネは──驚愕に、空いた口が塞がらなかった。
こんなとんでもないことが起こりうるのか。
フィーネは、勇者とやらの力の片鱗すらも知らなかったのだ。
編入生が右腕を振り上げると同時に、最早それは魔法なのかと言える程の大規模な閃光が立ちのぼる。
最早アレは災害だろう。
自分がもし食らったら、骨のひとつも残らない自信がある。
あの勇者が負傷した。
あんな所は見たことがない。
踊るように戦う二人の挙動は全く見えない。
「次元が、ちがう……」
速すぎる。何が起こっているのか全く分からなかった。
空中に続々と魔法陣が描き出されていく様子は、ただただ美しい。
確かあれは、実質不可能だと言われている無陣とかいうテクニックだ。
それをああも使いこなすとは、最早人間の域を出ている。
フィーネを含め、生徒たちは皆見入っていた。
気づけば勇者が吹っ飛んでおり、何故かそこで編入生は何かを諦めたように白旗をあげた。
フィーネには、編入生──シエラが、勇者に勝ちを譲ったように見えた。
──あれだけの強さを見せて、なんと謙虚な!!
実際は敵わないと確信したからなのだが、フィーネにはそれが分からなかった。
今まで思い描いていた編入生の性格と随分違うその行動に、フィーネは心打たれた。
そして何より、これは一目見た時から思っていたのだが──見た目が、可愛すぎる。
輝く金の髪、爛々と光る青い目、触れたら傷ついてしまいそうな、真っ白な柔肌。
頬の赤味も可愛らしく──あ、アホ毛もかわいい。
ともあれ、あまりにも好みすぎた。
「はぁ……やってらんねえ」
あの見た目で、あの強さで、この口調。
頭を掻く、歳不相応な仕草。
──可愛い、なんか気だるげなのかっこいい、あ、これお姉様だ、あ、ぁ、好き……。
「ちょ、ちょっと、フィーネ? どしたの」
「……すき……」
フィーネはテルの前世で言うところの、限界オタクと化していた。
「ちょっとフィーネ!? ねぇ、おーい!? 現実に戻ってきて!?」
「お姉様…………すき……」
焦点を失ってうわ言のようにお姉様、好き、と呟くフィーネ。
流石にヤバイその状態に、この場に誘った友達はぐらぐらとフィーネを揺り動かすが──効果はない。
編入生シエラに、もっと大きく心を揺さぶられてしまっていたから。
『あれ、言ってなかったっけ。一週間後にある一年に一回の大規模な実技大会──魔導祭で優秀な成績を修めると、国家公認試験受験の資格が貰えるんだよ』
「魔導祭……ねぇ……」
『大会のルールは各自持ち込み魔法陣はひとつまでのバトルロイヤル。そこで四人まで絞って決勝トーナメントって形だよ』
「あるあるだな……てかそれなら、魔法実技の授業受けといた方がいいんじゃないか?」
きょとんとするシエラに、テルはニヤリと人差し指を立てて笑う。
「偵察だよ」
■ ■ ■
「勇者様パネェな……」
そんなわけで魔法実技の授業に出てみたテルだったが、その実態は教師置いてけぼりの勇者無双だった。
「オラオラ甘ェぞ!! 躱されると確信したら、次の行動を読んで魔法陣をさっさと起動しやがれ!! その何秒かが命取りになンだよ!!」
ほぼあいつが先生のようなものだ。
六人を相手に傷一つ負っていない。
「初めて見る人はそういう反応になりますよねぇ。いつもあーなんですよぉ、テンキくんは」
「そっすか……」
先生もかなりたぶらかされているようだ。顔が赤いのが丸わかり。
「! テr……シエラもやろうぜェ!! 前からお前の強さを知りたかッたんだ」
「え、やだ」
ズッコケるテンキに、テルは欠伸をひとつ。
『即答……』
「(負けるに決まってんじゃん嫌だよ)」
勝敗の決まっている勝負を、しかもなんのリターンもなしに受けるなぞドMでもない限りしない。
「ふぁあ……」
それにこのとおり、テルは眠いのだ。
やはり授業なんぞ出るんじゃなかった、さっさと帰りたい、そんな思いがテルの胸中を支配している。
『別に途中で抜けて帰ってもいいと思うけど』
「……それもそうか、帰ろ」
「お前ェ、何しに来たンだよ……」
「冷やかし」
「言い切ッたなオイ!?」
げんなりとするテンキを置いて、テルは寮へと帰った。
■ ■ ■
「…………醤油は?」
目の前には、海に生息する魔物──つまるところ、魚の刺身。
マグロに似た赤身が食欲をそそるが──。
「……醤油は?」
だが、肝心のものがない。
「なぁテンキ、醤油はどこだ」
縋るようにしてテンキを見るテルに、テンキはにやりと笑う。
手元で紫の液体の入った小瓶を弄びながら。
「醤油と同じ味の調味料だ。コレ作るのァ苦労したぜ? 俺と戦ッてくれたらやるよ」
瞳を燃やして席を立つテルに、シエラは困惑する。
『……え、テル、やるの?』
「当たり前だ!! 醤油なしわさびなしの刺身なんざ食えるか!!」
『感性が分からない……!!』
あぁそうだろうそうだろうとも、この感覚には日本人にしか分からないだろう──!!
砂糖、塩、醤油、胡椒、マヨ、一味、その他諸々──!!
揃っていなければとてもじゃないが満足出来ない。
そのためならば勇者だろうがなんだろうが戦ってやる───!! と、テルは意気込む。
「つーわけだァ!! 審判任せたぜ先生!」
「はぃ、任されましたぁ」
いつの間にか現れた先生が転移陣を起動する。
連れられて屋外運動場のスタジアムへとやってきた二人は、準備運動をしながら睨み合った。
「醤油……!!」
「思った以上に釣れるなオイ……」
『ダメだこれ……』
テルの目には、もう後の醤油しか見えていない。
そして試合の始まる直前、食堂で騒ぎになっただけあり──続々と野次馬が転移してくる。
「あいつ確か帝級だっていう編入生だよな……? どっちが勝つか分かんねえぞ、これ!!」
テルの評判は学院中に広まっている。
当然尾ひれもついているわけで、勇者に勝てるなどと思う者もいるのだ。
しかし、いくら噂がそうでもテルの外見は少女。
「バーカ、いくら帝級って言っても可愛い女の子じゃない。テンキくんが勝つに決まってるでしょ」
よって、どちらが勝つかの賭けは綺麗に二分された。
「いや分からんですぞ、【嵐】といっちゃなんでも、ダンジョンの最下層をらくらく踏破したらしいですからな」
「マジで!? うおお、シエラちゃんパネェな!!」
「たとえそれでも勇者様に勝てるわけないですよ」
『……テル、気をつけてね。アイツの魔力量、とんでもないってレベルじゃないよ』
「(分かってる)」
魔力の感知できないテルでもやばさを肌で感じる。
──やっぱり醤油のためとはいえ、やめとけば良かった──などという風に湧き上がってくる後悔を無視して、テルは構えた。
「はじめっ!!」
先生の合図が聞こえても、テンキは動かず悠長に構える。
「いつでもかかッてこい」
「なら遠慮なくッ!!」
振りかぶり、全力の一撃を放つ。
醤油のためだ、躊躇ってる暇などない。
起動した魔法陣は七つ。
火、風、水、地、光、冥──そして図書室で知った、【超増幅陣】の陣!!
「【超増幅・全原嵐解】!!」
六色の属性陣が交差し、無色の災害をその場にもたらす。
弱点も耐性も分からない状態では、間違いなくテル中最高負荷の一撃である。
無陣で放つ場合の所要時間は二十秒を超えるが、陣さえあれば五秒足らずだ。
その辺の時間短縮の練習は毎日しているから、だんだん短くなってきている。
───そしてそれを、テンキは。
「痛ッッてェ……そんなン聞いてねェぞオイ!! 面白ェことしてくれやがる!!」
『嘘ぉ……』
「……なんだそのチート」
何やら、バリアのようなものを展開して防いでいた。
【守護結界陣】、ではない。
そもそも、魔法陣を一切起動していない。
「あァ、これか? これは勇者の加護【聖光】ッてヤツだ。それを貫通するとかよテメェ、中々バケモンじゃねェか」
化け物はどっちだ、とテルは思う。
今ので決める予定だった。完全に本気だった。
テルだって充分強くなっているのに、まさかここまで差があるとは。
「んじゃ次はオレの番だ、食らえッ!!」
テンキが腰に吊るした剣を抜くと、それだけでとんでもない斬撃の波がテルを襲う。
十──いや、二十発はある。
そしてやはり、魔法陣はない。
咄嗟に【韋駄天陣】を起動し、全てスレスレのところで避けたテルは、次のテンキの行動を見てぎょっとした。
それ自体は攻撃ですらなかったらしく、テンキは剣を大きく振りかぶって叫ぶと同時──地面に思い切り叩きつけたのだ!!
「【なんかスゲー攻撃】ッ!!」
「小学生みたいな名前つけてんなおい!!?」
とてもこんなダサい技に負けてはいられない、とテルは風の陣を無陣で起動し、自らを上空へとぶっ飛ばすことで回避する。
それを更に跳躍して追いかけてくるテンキ。
あんな重そうな剣を持ちながらこの機動力。どんな身体能力をしているのかとテルは苦笑する。
「【スゲー強い一撃】!!」
『今だよ、テル!!』
「あぁ!」
わざと不便な上空へと退避し、迎撃して来るのを誘ったのだ。
先程の全力の一撃……そこにはまだ濃厚な魔力の塊が蠢いている。
あそこまで魔力量が多ければ、この位置からでも充分に操作が可能となる。
──つまり!!
「【固定転移陣】!! 引っかかったな、食らえ!!」
「しま──ッ!!」
いくら速く強いとはいえそんな大振りの攻撃では後隙も大きい。
風の属性陣と身体強化をかけた右足で、思い切り蹴りあげ──ぶっ飛ばす!!
痺れる足を振り払い、吹っ飛んでいくテンキを見てテルは呟いた。
「バケモンはお前だろやっぱり……!」
手応えはあった。だが、テンキは咄嗟に腕でガードしていた。
三十メトリほど吹っ飛んだ所で、テンキは叫ぶ。
「はァァァァァァッ!!」
気迫だけ。そう、気迫だけだ。
それだけで勢いが殺され、逆にこちらが一歩退く始末。
……とてもじゃないが、敵わない。
全く敵わないとは言わないが……明らかに実力に差がある。相手はまだまだ本気を出していない様子だった。
「…………無理、降参、終わり!! 醤油はよこせよ!! はぁ……やってらんねえ……」
正直命の危険を感じたから、ここで終わることにした。
自分はかなり強くなったと思っていたが……まだまだ世界は広いらしい。
『いやこいつがおかしいだけでしょ』とは、シエラの談だが──まぁ、醤油が手に入ったのでテルはどうでも良しとした。
■ ■ ■
「勇者と編入生が試合?」
「そうそう、フィーネも見に行こうよ」
「……別にいいですけど」
編入してきたシエラとやらが、帝級の冒険者であることは知っていた。
だからといってなんの興味もなかったが。
勇者という称号も怪しいものだ。
国に認められたわけでもなく、テンキの知名度は低い。
ただ学院内で名乗っているだけなのだ。
帝級冒険者とやらもよく分からない。
そもそも冒険者など庶民がなるものだ。
自分たち貴族の通う学院にわざわざ乗り込んできて上から目線とは──随分嫌な性格をしているに違いない。
そうして嫌々ながらも友達に連れられ、二人の戦いを見たフィーネは──驚愕に、空いた口が塞がらなかった。
こんなとんでもないことが起こりうるのか。
フィーネは、勇者とやらの力の片鱗すらも知らなかったのだ。
編入生が右腕を振り上げると同時に、最早それは魔法なのかと言える程の大規模な閃光が立ちのぼる。
最早アレは災害だろう。
自分がもし食らったら、骨のひとつも残らない自信がある。
あの勇者が負傷した。
あんな所は見たことがない。
踊るように戦う二人の挙動は全く見えない。
「次元が、ちがう……」
速すぎる。何が起こっているのか全く分からなかった。
空中に続々と魔法陣が描き出されていく様子は、ただただ美しい。
確かあれは、実質不可能だと言われている無陣とかいうテクニックだ。
それをああも使いこなすとは、最早人間の域を出ている。
フィーネを含め、生徒たちは皆見入っていた。
気づけば勇者が吹っ飛んでおり、何故かそこで編入生は何かを諦めたように白旗をあげた。
フィーネには、編入生──シエラが、勇者に勝ちを譲ったように見えた。
──あれだけの強さを見せて、なんと謙虚な!!
実際は敵わないと確信したからなのだが、フィーネにはそれが分からなかった。
今まで思い描いていた編入生の性格と随分違うその行動に、フィーネは心打たれた。
そして何より、これは一目見た時から思っていたのだが──見た目が、可愛すぎる。
輝く金の髪、爛々と光る青い目、触れたら傷ついてしまいそうな、真っ白な柔肌。
頬の赤味も可愛らしく──あ、アホ毛もかわいい。
ともあれ、あまりにも好みすぎた。
「はぁ……やってらんねえ」
あの見た目で、あの強さで、この口調。
頭を掻く、歳不相応な仕草。
──可愛い、なんか気だるげなのかっこいい、あ、これお姉様だ、あ、ぁ、好き……。
「ちょ、ちょっと、フィーネ? どしたの」
「……すき……」
フィーネはテルの前世で言うところの、限界オタクと化していた。
「ちょっとフィーネ!? ねぇ、おーい!? 現実に戻ってきて!?」
「お姉様…………すき……」
焦点を失ってうわ言のようにお姉様、好き、と呟くフィーネ。
流石にヤバイその状態に、この場に誘った友達はぐらぐらとフィーネを揺り動かすが──効果はない。
編入生シエラに、もっと大きく心を揺さぶられてしまっていたから。
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