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第三章──光の勇者と学院生活
シノサキ・テルの学院生活
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まず──起床。シエラの目覚ましによって叩き起こされるテルは、ひとまず【浄化】の魔法を自らにかける。
そしてそのままの勢いで、全属性の陣の調子を確認していくのだ。
「──やっぱ、土は苦手だなぁ」
『全然使わないもんね、便利なのに』
他の魔法陣の起動よりも約0.2秒ほど差がある。
シエラの言う通り、テルの戦い方ではあまり使う陣ではないのだ。
そして【守護結界陣】、【韋駄天陣】、【増幅】、【超増幅】の調子を確認して──伸びをひとつ。
「シエラー、どんくらい縮まってる?」
『一週間前に比べたら0.1秒くらいだね、結構劇的だよ』
そう、結局の所無陣というのは反復練習がものを言うテクニックなのだ。
針の穴を通すように緻密な作業も、何千回何万回とやっていればだんだん慣れてくる。
毎日よく使う陣を百回無陣で描く。それがテルが自分に課したノルマだった。
「お姉様~、起きてらっしゃいますか~?」
そしていつもの通り、フィーネが扉をノックする。
「起きてるよー、すぐ行く」
こうして朝食に連れていってくれるから、熱中して遅れてしまうようなこともない。
……フィーネと知り合う前は、よく朝食を抜いてしまったものだが。
「今日のこれ、美味いな」
卵の乗ったトーストらしきものを指しながら上機嫌にテルが言うと、フィーネが嬉しそうに答える。
「なんでも隣国で黄金のカルタリが大量発生したそうで、卵の値段が急降下しているのです。……そのおかげですね」
カルタリ──というのは、確かあれだ、とテルは必死で記憶を辿る。
だが、シエラはその努力を無慈悲に一蹴して答えを言ってしまった。
『三十二層にいた鳥だよ』
「……ああ、うん」
そうだ、鶏みたいなやつだ。
とはいえ──卵なぞ、どうやって。
『隣国じゃ迷宮なんてないからね、普通に地上に魔物が発生してるんだよ』
「(それは危なそうだな……)」
『こっちが平和すぎるだけだけどね。魔物の肉とかそういうの、全部輸入なんだよこの国』
どっかで聞いたような話だ。
先進的になりすぎて第一次産業が怠る的な。
ともあれ、地上に魔物が出てくるような修羅の国よりかはマシだ。
来た国がここで良かったと、テルはトースト(らしきもの)にかぶりついた。
そして、朝食後。
寮へと戻ったテルがするのは──筋トレだ。
いくら魔力によって増強ができるとはいえ、運動に慣れていなければそれだけ体への負担は大きい。
「四十八、四十九、五十…………っと」
『はいお疲れ様、次腕立て伏せね』
柔らかな美少女の体を改造するのは少し気が引けたが、どうもその心配はないらしく。
筋肉がついてもまるでそのしなやかさに変わりがないのは、なんというか流石だ。
「シエラって見た目無茶苦茶いいよな」
『……魔導保育器の中で育てられたからかも』
「まど、ほい……? なんじゃそりゃ」
困惑するテルに、シエラはぽつりぽつりと話し出す。
『私、すごい早産でね。……魔法が使えない原因もそれにあるんだけど、とにかくそのままじゃ勝手に死んじゃうくらいだったの。だこら魔導保育器で育てられたんだけど──そんな不安定な時期に魔法で最適化されて育ったら、見た目も最適化されるんじゃないかなって。私お母様にもお父様にも似てないし』
──初めて聞いた話だった。
「早産、か……それで見た目がいいってんなら、ある意味呪いなのかな」
別にこうなりたくてこうなったわけじゃない、というシエラの主張を予測したテルはそう呟いたが──。
『ん、いや、この外見にはかなり助けられたし……別に思うとこはないよ。テルは心配症だなぁ』
「……なんだよ」
そうだ、シエラはテルが思うよりずっと自分の体と付き合ってきている。
──杞憂だった。
それで済んでよかった、とテルは内心ほっとした。
「……さて、それでは今日のアルティメットタイム……」
ごくり、とテルは喉を鳴らして──。
そして、ベッドへと勢いよくダイブする。
「おやすみぃ……」
そう。
これは遂になしえた、最大にして最強の娯楽。
───お昼寝ッ!!!!
ここから約三時間、テルは寝るのである。
先にやることを済ませてからのお昼寝というのは別格で、疲れた体はいとも容易く眠りへと吸い込まれていく。
起床
運動(魔法)
食事
運動
睡眠
この一連の流れは、テルの習慣となっている。
そしてこの後は──テンキにちょっかいを出しに行ったり、校内をブラブラさまよったり、図書館で本を読んだり、フィーネと昼食夕食──と様々。
テンキとバカをやるのも楽しいし、何より前世について語り合えるのは安心感が違う。
フランドル学院はそもそもが私立だからか、かなり設備が優秀だ。魔法薬学や錬金術などの別分野を覗きに行くのも新鮮で楽しい。
図書館で本──は、主にシエラのためだ。
かなり積み上げていたもののあれは厳選していて、まだ読んでない本はいくらでもあるらしい。
フィーネは……とにかく癒される。
全肯定というのは時折突っ込みたくなるが、気持ちの良いものだ。
ともあれテルは、この学院生活を思う存分満喫していた。
──それも、明日で最後。
起き上がったテルは、魔導祭に向けて拳を握りしめた。
そしてそのままの勢いで、全属性の陣の調子を確認していくのだ。
「──やっぱ、土は苦手だなぁ」
『全然使わないもんね、便利なのに』
他の魔法陣の起動よりも約0.2秒ほど差がある。
シエラの言う通り、テルの戦い方ではあまり使う陣ではないのだ。
そして【守護結界陣】、【韋駄天陣】、【増幅】、【超増幅】の調子を確認して──伸びをひとつ。
「シエラー、どんくらい縮まってる?」
『一週間前に比べたら0.1秒くらいだね、結構劇的だよ』
そう、結局の所無陣というのは反復練習がものを言うテクニックなのだ。
針の穴を通すように緻密な作業も、何千回何万回とやっていればだんだん慣れてくる。
毎日よく使う陣を百回無陣で描く。それがテルが自分に課したノルマだった。
「お姉様~、起きてらっしゃいますか~?」
そしていつもの通り、フィーネが扉をノックする。
「起きてるよー、すぐ行く」
こうして朝食に連れていってくれるから、熱中して遅れてしまうようなこともない。
……フィーネと知り合う前は、よく朝食を抜いてしまったものだが。
「今日のこれ、美味いな」
卵の乗ったトーストらしきものを指しながら上機嫌にテルが言うと、フィーネが嬉しそうに答える。
「なんでも隣国で黄金のカルタリが大量発生したそうで、卵の値段が急降下しているのです。……そのおかげですね」
カルタリ──というのは、確かあれだ、とテルは必死で記憶を辿る。
だが、シエラはその努力を無慈悲に一蹴して答えを言ってしまった。
『三十二層にいた鳥だよ』
「……ああ、うん」
そうだ、鶏みたいなやつだ。
とはいえ──卵なぞ、どうやって。
『隣国じゃ迷宮なんてないからね、普通に地上に魔物が発生してるんだよ』
「(それは危なそうだな……)」
『こっちが平和すぎるだけだけどね。魔物の肉とかそういうの、全部輸入なんだよこの国』
どっかで聞いたような話だ。
先進的になりすぎて第一次産業が怠る的な。
ともあれ、地上に魔物が出てくるような修羅の国よりかはマシだ。
来た国がここで良かったと、テルはトースト(らしきもの)にかぶりついた。
そして、朝食後。
寮へと戻ったテルがするのは──筋トレだ。
いくら魔力によって増強ができるとはいえ、運動に慣れていなければそれだけ体への負担は大きい。
「四十八、四十九、五十…………っと」
『はいお疲れ様、次腕立て伏せね』
柔らかな美少女の体を改造するのは少し気が引けたが、どうもその心配はないらしく。
筋肉がついてもまるでそのしなやかさに変わりがないのは、なんというか流石だ。
「シエラって見た目無茶苦茶いいよな」
『……魔導保育器の中で育てられたからかも』
「まど、ほい……? なんじゃそりゃ」
困惑するテルに、シエラはぽつりぽつりと話し出す。
『私、すごい早産でね。……魔法が使えない原因もそれにあるんだけど、とにかくそのままじゃ勝手に死んじゃうくらいだったの。だこら魔導保育器で育てられたんだけど──そんな不安定な時期に魔法で最適化されて育ったら、見た目も最適化されるんじゃないかなって。私お母様にもお父様にも似てないし』
──初めて聞いた話だった。
「早産、か……それで見た目がいいってんなら、ある意味呪いなのかな」
別にこうなりたくてこうなったわけじゃない、というシエラの主張を予測したテルはそう呟いたが──。
『ん、いや、この外見にはかなり助けられたし……別に思うとこはないよ。テルは心配症だなぁ』
「……なんだよ」
そうだ、シエラはテルが思うよりずっと自分の体と付き合ってきている。
──杞憂だった。
それで済んでよかった、とテルは内心ほっとした。
「……さて、それでは今日のアルティメットタイム……」
ごくり、とテルは喉を鳴らして──。
そして、ベッドへと勢いよくダイブする。
「おやすみぃ……」
そう。
これは遂になしえた、最大にして最強の娯楽。
───お昼寝ッ!!!!
ここから約三時間、テルは寝るのである。
先にやることを済ませてからのお昼寝というのは別格で、疲れた体はいとも容易く眠りへと吸い込まれていく。
起床
運動(魔法)
食事
運動
睡眠
この一連の流れは、テルの習慣となっている。
そしてこの後は──テンキにちょっかいを出しに行ったり、校内をブラブラさまよったり、図書館で本を読んだり、フィーネと昼食夕食──と様々。
テンキとバカをやるのも楽しいし、何より前世について語り合えるのは安心感が違う。
フランドル学院はそもそもが私立だからか、かなり設備が優秀だ。魔法薬学や錬金術などの別分野を覗きに行くのも新鮮で楽しい。
図書館で本──は、主にシエラのためだ。
かなり積み上げていたもののあれは厳選していて、まだ読んでない本はいくらでもあるらしい。
フィーネは……とにかく癒される。
全肯定というのは時折突っ込みたくなるが、気持ちの良いものだ。
ともあれテルは、この学院生活を思う存分満喫していた。
──それも、明日で最後。
起き上がったテルは、魔導祭に向けて拳を握りしめた。
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