妖精に連れ去られた娘

紫ノ宮風香

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こんな事は今までなかった。

解離したもう1人のあたしが呟く。



食事も休息もなく過酷な労働はあっても、通常の人であれば致命傷となるであろう暴力は受けなかった。
それと同時に、生け贄として魔獣や魔物に喰われる事も、神に捧げられる様な事もなかった。

似ていないようで似ているようで、どれも過酷な内容で。生まれ直しを何度もしているのに死の記憶がないのは、限界を越えて無理に生かされたために、どこかで自覚なしで朽ちたのだろう。



檻馬車は悪路のせいで酷い揺れが続いている。
緑の濃い匂いを感じる。どこかの森に入ったのだろう。

「出ろ!」

男の乱暴な声と共に檻馬車から出された。
目の前には急ぎ作られた祭壇らしきものと、石造りの輪が見える。その奥には魔方陣も。

「都合のいい生け贄が手に入ったのは幸運だったよ。次の生け贄を準備する必要がないからな!」

男はあたしを嘲笑いながら祭壇にくくりつけ、逃げるように去っていった。



森の中は既に薄暗く、祭壇の上で僅かに見える空も藍色の夜空になりつつあった。
普通の娘であれば、恐怖で我を喪っているはずであろう場面。なのにあたしの心は何故か凪いでいた。
魔方陣に見覚えがあるような懐かしさを感じたのか、常に悪意に晒されていたあたしが、森の中で安らぎを感じたせいか。

どんどん暗くなっていく筈の森が少しずつ明るくなっていく。
魔方陣の上に扉【ゲート】が浮かび、魔方陣と扉【ゲート】が光り輝き──








☆★☆★☆★

女の悲鳴が響き渡る。

「やめて・・・
人外が人間に干渉しないで。
私が破滅するなんてありえないわ!」

──あの小娘が苦しみ続ければ全て平和に収まるのよ
それ以外の未来など認めない──

女の狂気めいた呟きは虚空に消える。

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