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第二部 新たな出逢い。そして――。
二十八発目 今そこに在る、何処にでも湧く痴女の系譜。
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翌日の朝早くから、事態は往々にして動く。
謎の怪文書から得られる情報は少なく――と言うかただの塵。
結局、御二方の向かった現地へと赴き、謎物体を手に入れた経緯に詳細などを詳しく事情聴取して、足りていない情報を補完する運びとなった。
そんなワケで、その依頼を遂行する面子が、会議室へと集められていた――。
◇◇◇
「私も同行したいのは山々なんだけどね。色々と事情が山々だけに山積みで、ちょっと無理っぽいのよ……で、代わりを用意したから」
なまら広い会議室には十人掛けの長い卓。
その上座に座るアー姉が、そう言って紹介してくれる方々――と言っても俺とアー姉以外には二人しかいないんだけど。
「宜しくお願いします」
まず、右列に座る人物がすくっと立ち上がり、俺に対して深々と頭を下げた。
淡い栗色の長い髪を上品に纏め上げ、アルビノのような色白肌。
鋭くも優しい切れ長の目から覗く瞳は真っ赤と言う、独特な特徴のデラべっぴんさん。
まんまカゲヨさん。どう見てもカゲヨさん。
瞬きを数回、再度、見直してみてもカゲヨさん。それ以外の何者でもない。
おっと、理由は俺の知るところでは全くないんだけども、今は世を忍ぶ仮の姿であるヤミヨさんと名乗ってる――かもしれないんだったっけ?
但し、その証拠云々はなく、未だに俺の勝手な推測に憶測でそう決めつけているだけ。
でもね、絶対にそれで合ってると思う。
ただ本音を言うと、長く暮らしを共にしてきた、なまら淑女の素敵なヤミヨさん――の設定? まぁ、そんなで居て欲しい。そう心から切に願って止まない。
「ヨメヨ=クウキに御座――ケホケホ。と申します。魔――ケホケホ。タダヒト様。姉のカゲヨ、ヤミヨに続き、組んず解れつお早うからおやすみまでお世話して――あ痛。お、お世話になります……です」
辿々しい自己紹介の途中、どうやら机の下で足を踏まれたようです。
「ゆ、弓の名手で中等級の野伏よ。あ、あと斥候の技術も持ってるから。カゲヨとヤミヨに連なる三つ……え、何よ? うん? 五つ子の末っ子にして? なんで? 腹違い? その方が後々で都合が良い? もうややこしいわね――ま、まぁ、見た目とか雰囲気とか癖とか仕草とか物言いとか声色とか、なんかもう色々と激似で瓜二つだから、そう言われても見分けつかないでしょ? って、それで納得しとこ?」
なんかコソコソと妙なやり取りを交わしながらのご紹介です。
あのさ……そのやり取りでバレない、或いは誤魔化せてると思ってる時点でもうスゲーよ。歪みねーよ。
アンタらのその不審なやり取りが、そのまま痴女の系譜のその全てが、最早、同一人物だって、見事に公言しちゃってるに等しいと気付けや。
「いくら設定にしてもヨメヨって名前はおかしかね? 人の名前と違くね? 単に空気読めよって文章の表現じゃね? 空気読まずそこツッコんだら負け? 俺の負けなのか? 更に三つ子? 五つ子? まぁそんなってことを今決めるのもどーなん? カゲヨさんとヤミヨさんは瓜二つな双子の姉妹と違ごたん? もしか『設定とは、あとから出た方が優先されるのよ』とかしれっと吐かし、無茶な設定を押し通して推して参る気が満々なわけ? んで、俺に参ったの意味で『参る~ぅ』とか言わせちゃう気? そんなだったらさ、夜な夜な枕を濡らし殺しちゃうよ、俺? 二人で共謀して『バレなきゃ良いんですよ』とかさ、まぢ思ってね?」
内緒にする気が皆無な、あまりにも酷いやり取りと内容に対して、あらゆる角度から盛大にツッコミまくる――も。
「――貴方の知らない世界って、実は存在するのよ? ほら、知らない方が幸せって言うじゃない? ね、タダヒト?」
「私もそのように思います、よ」
途端に二人から冷酷なまでに冷たい視線、寒気を覚える嫌な殺気が、容赦なく俺に向けられるときた。
「くっ……」
これ以上、追求すると、身の危険が増し増しでヤバさテラMAXなのを悟った俺は、誠に遺憾ながら有無を言わさず口籠もる? ――否、黙らされた、だな。
「――こ、こちらこそ、普段通りに宜しく。えっと今は……ヨメヨさん」
もうそれで良いやと諦めて受け入れた空気が読める俺は、細やかな抵抗から含みを持たせて挨拶を返すと。
「はい。では、私のことは愛称である『ヨメ』と気軽にお呼び下さい」
そんなことを真顔で仰るときた。
くっ……そうきたか。そうきましたか。
そう言う意味できちゃいましたか。
俺が名前を呼ぶ、或いは紹介する度に、『ヨメさん』って言わす気が満々ってわけだな。
行く先々で要らぬ誤解を産ませ、外堀からきっちり埋める作戦なのな。
一つ間違えば、ヤバさテラMAXな修羅場になる未来が垣間見えるわ。
「ヨメヨについてはこのくらいで。さて――」
内心で憤慨してるのも束の間、自軍の不利を悟ったのか、直ぐにもう一人の紹介を始め出すアー姉。
次に紹介されたのは、アー姉の右後ろに気配を消して控えていた、黒い燕尾服に礼装用の円筒形の高い帽子を被って杖をついて佇む、浅黒い痩身痩躯な男性だった。
「お初にお目にかかります。ワタクシめはセイバス=ジーヤンと申します。親方様に御令嬢と同様、『セバスちゃん』と気兼ねなくお呼び下さい、タダヒト様。ワタクシは冒険者では御座いませぬゆえ、等級は御座いません。あくまでもギリミゥーチ家に仕える一介の執事に御座います。それゆえ道中の御者、御身のお世話をさせて頂く程度の役立たずに御座いますこと、予めご承知おき下さいませ」
立派に生えた口髭を摘んで優雅に傅くセバスちゃんは、右目を閉じてのウィンク。
同時に左目にかけた片眼鏡がキラッと光ってのご挨拶ときた。
見た目の雰囲気からは想像もつかない、実に茶目っ気のある方のようだ――と思う。
ただね? その奥から覗く白目が黒い独特の金の瞳が、鋭くも凄まじい眼光を帯びてまして……仰る通りの役立たずではないと物語ってたり。
種族がどーのこーのと言う前に、なまら怖いんだけども。
「怖がらなくて良いわよ? おそらく独特の金眼で気付いたと思うけど、セバスちゃんは魔に連なる者。だからと言って、ただそれだけ。私が全幅の信頼をおいているのには違いない、とても良い人だから安心して」
「お嬢様。ワタクシめには勿体なきお言葉に御座います」
謙虚に深々と頭を下げるセバスちゃんだった。
アー姉が全幅の信頼をおいている時点で、絶対に只者ではない――。
◇◇◇
同行者の紹介が終わり、一階の酒場兼待合所で待ってくれている、ナイチチちゃんとアルチチちゃんの元へと急ぎ向かう。
前半の阿呆なやり取りで、結構な時間を浪費――ゲフンゲフン。消費してしまったからだ。
階段を降りる間に、何処に居るかと探す……までもなかった。
料理がてんこ盛りの卓に子供用の椅子が二脚。
場違い気味にそこに座っている美幼女が二人なわけで、それはもう目立つ目立つ。
「待たせてごめんよ。つまんない大人の話しが長引いちゃってね」
「もぐ……ぱぱ、おそい、です!」
「もぐ……むー、なの!」
頬っぺたをぷくっと膨らませての尊いオコ。
そんな仕草までそっくりの二人。
「忙しいところ悪いね、面倒みさせて」
同席している聖騎士――フラスコさんに頭を下げた。
本来ならばヤミヨさんが付き添いで来るのが普通だけども、先日のアルチチちゃんへの説明会の折、酒場のバッドスメルマンズからの色々なお誘いが殺到しウザかったらしく、今日はなまら激しく辞退してきた。
今そこに居るんだけどもさ……。
ヨメヨさんって偽名でさ……たぶん。
「何、気にするな。こんな天使らと食事を共にする機会などないに等しいからな? 私にとってはご褒美だよ。――やはり純真無垢な子供ってのは国の宝だ。殺伐とした気持ちが随分と癒やされた。とても有意義な時間を過ごさせてもらったと感謝したいくらいだ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「――で、そちらのお嬢さんと御仁は?」
「あゝ俺達と同行することになった新しい面子。今はヨメヨさんとセバスちゃんだ」
「今は? そちらの御仁にはちゃん付け?」
俺の物言いに首を傾げるフラスコさん。
「ヨメです。宜しくお願いします」
しれっと言いました。
「これはこれはフラスコ氏。お噂は予予。素晴らしい武勲の数々、聴き及んでおります。どうぞお見知り置きを」
礼を尽くした上品な挨拶。
「よめ? それってなに、です?」
「よめ? なの」
「嫁? ああ、奥さんって意味で……って、タダヒト⁉︎ お前、結婚してたんかいっ⁉︎ い、いつの間に⁉︎」
勢い良く立ち上がってからの、イケメン台なしな驚き顔で詰問される、と。
はい、予想通りになりましたー。
「そのヨメはただの勘違いだ。単に名前が変わってるだけの正しく未婚のヨメヨさんな?」
「――って、脅かすなよ」
安堵した表情で着席する。
だがしかし。
ここで至高の御方たる幼乳神様ズから、空気読まない悪意なき呪詛が放たれた――。
「やみよままと、ちがう、です?」
「けはい、いっしょとおなじ、なの。……へん、なの?」
流石は至高の御方たる幼乳神様。
どうやら見抜いていらっしゃる模様。
呪詛の向かう先が、今回、俺でなかったことが、この上なく実にめっさ嬉しいです。
「い、妹ですよ、えっと……ナイチチちゃん、アルチチちゃん。ヤ、ヤミヨ姉さんと……そそそ、そっくりすぎて……おおお、驚いたでしょ? ――はは、ははは」
すっごい引き攣った笑顔で、苦しい言い訳を辿々しく騙る。
「びっくり、です!」「なの、なの!」
「どどど、道中はね、ヤミヨママの代わりに頑張るから! そそそ、その……よ、宜しくね? ね?」
「はい、です!」「なの!」
え? あっさりと納得? 良いんかそんなで?
「ままの、じぃじ、です?」
「じぃじ、ちがう、せばすちゃん、なの!」
二人がそれで納得したのか、矛先が変わって興味はセバスちゃんへ。
「ほっほっほ……これまた尊い天使様に御座いますね。私のことは好きに呼んで下さって結構に御座いますよ、ナイチチ様、アルチチ様」
「じぃじ、です!」
「わたしも、じぃじがいい、なの!」
「天使様のご意向、確かに拝命致しました。このセイバス。本日、只今を持ってその名を捨てましょう。私めは今日からジのつく召使い、単にじぃじと名乗ることと致しましょうか」
そう良いながら、二人の頭を優しく撫でるセバスちゃん。
「じぃじ、です!」「じぃじ、なの!」
「ほっほっほ、まさに天使。実に愉快愉快」
口髭を摘んでの爺様笑いを披露した。
ちょっとちょっと良いんですか?
そんな簡単に決めちゃって?
あと魔に連なる者が天使って褒めても大丈夫なので?
まぁ、態度を見る限り、二人に合わせてくれた冗談なんだろうけどね。
見た目がめっさ怖い変態紳士っぽさだけど、実に優しい人――人違うけど。
そうしてると本当の祖父みたいで、なんか俺までほっこりします、うん。
怖がってごめんなさい。
――――――――――
本日より加わる新たな仲間。
流れからして真面な筈がないっ⁉︎ ∑(゚Д゚)
謎の怪文書から得られる情報は少なく――と言うかただの塵。
結局、御二方の向かった現地へと赴き、謎物体を手に入れた経緯に詳細などを詳しく事情聴取して、足りていない情報を補完する運びとなった。
そんなワケで、その依頼を遂行する面子が、会議室へと集められていた――。
◇◇◇
「私も同行したいのは山々なんだけどね。色々と事情が山々だけに山積みで、ちょっと無理っぽいのよ……で、代わりを用意したから」
なまら広い会議室には十人掛けの長い卓。
その上座に座るアー姉が、そう言って紹介してくれる方々――と言っても俺とアー姉以外には二人しかいないんだけど。
「宜しくお願いします」
まず、右列に座る人物がすくっと立ち上がり、俺に対して深々と頭を下げた。
淡い栗色の長い髪を上品に纏め上げ、アルビノのような色白肌。
鋭くも優しい切れ長の目から覗く瞳は真っ赤と言う、独特な特徴のデラべっぴんさん。
まんまカゲヨさん。どう見てもカゲヨさん。
瞬きを数回、再度、見直してみてもカゲヨさん。それ以外の何者でもない。
おっと、理由は俺の知るところでは全くないんだけども、今は世を忍ぶ仮の姿であるヤミヨさんと名乗ってる――かもしれないんだったっけ?
但し、その証拠云々はなく、未だに俺の勝手な推測に憶測でそう決めつけているだけ。
でもね、絶対にそれで合ってると思う。
ただ本音を言うと、長く暮らしを共にしてきた、なまら淑女の素敵なヤミヨさん――の設定? まぁ、そんなで居て欲しい。そう心から切に願って止まない。
「ヨメヨ=クウキに御座――ケホケホ。と申します。魔――ケホケホ。タダヒト様。姉のカゲヨ、ヤミヨに続き、組んず解れつお早うからおやすみまでお世話して――あ痛。お、お世話になります……です」
辿々しい自己紹介の途中、どうやら机の下で足を踏まれたようです。
「ゆ、弓の名手で中等級の野伏よ。あ、あと斥候の技術も持ってるから。カゲヨとヤミヨに連なる三つ……え、何よ? うん? 五つ子の末っ子にして? なんで? 腹違い? その方が後々で都合が良い? もうややこしいわね――ま、まぁ、見た目とか雰囲気とか癖とか仕草とか物言いとか声色とか、なんかもう色々と激似で瓜二つだから、そう言われても見分けつかないでしょ? って、それで納得しとこ?」
なんかコソコソと妙なやり取りを交わしながらのご紹介です。
あのさ……そのやり取りでバレない、或いは誤魔化せてると思ってる時点でもうスゲーよ。歪みねーよ。
アンタらのその不審なやり取りが、そのまま痴女の系譜のその全てが、最早、同一人物だって、見事に公言しちゃってるに等しいと気付けや。
「いくら設定にしてもヨメヨって名前はおかしかね? 人の名前と違くね? 単に空気読めよって文章の表現じゃね? 空気読まずそこツッコんだら負け? 俺の負けなのか? 更に三つ子? 五つ子? まぁそんなってことを今決めるのもどーなん? カゲヨさんとヤミヨさんは瓜二つな双子の姉妹と違ごたん? もしか『設定とは、あとから出た方が優先されるのよ』とかしれっと吐かし、無茶な設定を押し通して推して参る気が満々なわけ? んで、俺に参ったの意味で『参る~ぅ』とか言わせちゃう気? そんなだったらさ、夜な夜な枕を濡らし殺しちゃうよ、俺? 二人で共謀して『バレなきゃ良いんですよ』とかさ、まぢ思ってね?」
内緒にする気が皆無な、あまりにも酷いやり取りと内容に対して、あらゆる角度から盛大にツッコミまくる――も。
「――貴方の知らない世界って、実は存在するのよ? ほら、知らない方が幸せって言うじゃない? ね、タダヒト?」
「私もそのように思います、よ」
途端に二人から冷酷なまでに冷たい視線、寒気を覚える嫌な殺気が、容赦なく俺に向けられるときた。
「くっ……」
これ以上、追求すると、身の危険が増し増しでヤバさテラMAXなのを悟った俺は、誠に遺憾ながら有無を言わさず口籠もる? ――否、黙らされた、だな。
「――こ、こちらこそ、普段通りに宜しく。えっと今は……ヨメヨさん」
もうそれで良いやと諦めて受け入れた空気が読める俺は、細やかな抵抗から含みを持たせて挨拶を返すと。
「はい。では、私のことは愛称である『ヨメ』と気軽にお呼び下さい」
そんなことを真顔で仰るときた。
くっ……そうきたか。そうきましたか。
そう言う意味できちゃいましたか。
俺が名前を呼ぶ、或いは紹介する度に、『ヨメさん』って言わす気が満々ってわけだな。
行く先々で要らぬ誤解を産ませ、外堀からきっちり埋める作戦なのな。
一つ間違えば、ヤバさテラMAXな修羅場になる未来が垣間見えるわ。
「ヨメヨについてはこのくらいで。さて――」
内心で憤慨してるのも束の間、自軍の不利を悟ったのか、直ぐにもう一人の紹介を始め出すアー姉。
次に紹介されたのは、アー姉の右後ろに気配を消して控えていた、黒い燕尾服に礼装用の円筒形の高い帽子を被って杖をついて佇む、浅黒い痩身痩躯な男性だった。
「お初にお目にかかります。ワタクシめはセイバス=ジーヤンと申します。親方様に御令嬢と同様、『セバスちゃん』と気兼ねなくお呼び下さい、タダヒト様。ワタクシは冒険者では御座いませぬゆえ、等級は御座いません。あくまでもギリミゥーチ家に仕える一介の執事に御座います。それゆえ道中の御者、御身のお世話をさせて頂く程度の役立たずに御座いますこと、予めご承知おき下さいませ」
立派に生えた口髭を摘んで優雅に傅くセバスちゃんは、右目を閉じてのウィンク。
同時に左目にかけた片眼鏡がキラッと光ってのご挨拶ときた。
見た目の雰囲気からは想像もつかない、実に茶目っ気のある方のようだ――と思う。
ただね? その奥から覗く白目が黒い独特の金の瞳が、鋭くも凄まじい眼光を帯びてまして……仰る通りの役立たずではないと物語ってたり。
種族がどーのこーのと言う前に、なまら怖いんだけども。
「怖がらなくて良いわよ? おそらく独特の金眼で気付いたと思うけど、セバスちゃんは魔に連なる者。だからと言って、ただそれだけ。私が全幅の信頼をおいているのには違いない、とても良い人だから安心して」
「お嬢様。ワタクシめには勿体なきお言葉に御座います」
謙虚に深々と頭を下げるセバスちゃんだった。
アー姉が全幅の信頼をおいている時点で、絶対に只者ではない――。
◇◇◇
同行者の紹介が終わり、一階の酒場兼待合所で待ってくれている、ナイチチちゃんとアルチチちゃんの元へと急ぎ向かう。
前半の阿呆なやり取りで、結構な時間を浪費――ゲフンゲフン。消費してしまったからだ。
階段を降りる間に、何処に居るかと探す……までもなかった。
料理がてんこ盛りの卓に子供用の椅子が二脚。
場違い気味にそこに座っている美幼女が二人なわけで、それはもう目立つ目立つ。
「待たせてごめんよ。つまんない大人の話しが長引いちゃってね」
「もぐ……ぱぱ、おそい、です!」
「もぐ……むー、なの!」
頬っぺたをぷくっと膨らませての尊いオコ。
そんな仕草までそっくりの二人。
「忙しいところ悪いね、面倒みさせて」
同席している聖騎士――フラスコさんに頭を下げた。
本来ならばヤミヨさんが付き添いで来るのが普通だけども、先日のアルチチちゃんへの説明会の折、酒場のバッドスメルマンズからの色々なお誘いが殺到しウザかったらしく、今日はなまら激しく辞退してきた。
今そこに居るんだけどもさ……。
ヨメヨさんって偽名でさ……たぶん。
「何、気にするな。こんな天使らと食事を共にする機会などないに等しいからな? 私にとってはご褒美だよ。――やはり純真無垢な子供ってのは国の宝だ。殺伐とした気持ちが随分と癒やされた。とても有意義な時間を過ごさせてもらったと感謝したいくらいだ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「――で、そちらのお嬢さんと御仁は?」
「あゝ俺達と同行することになった新しい面子。今はヨメヨさんとセバスちゃんだ」
「今は? そちらの御仁にはちゃん付け?」
俺の物言いに首を傾げるフラスコさん。
「ヨメです。宜しくお願いします」
しれっと言いました。
「これはこれはフラスコ氏。お噂は予予。素晴らしい武勲の数々、聴き及んでおります。どうぞお見知り置きを」
礼を尽くした上品な挨拶。
「よめ? それってなに、です?」
「よめ? なの」
「嫁? ああ、奥さんって意味で……って、タダヒト⁉︎ お前、結婚してたんかいっ⁉︎ い、いつの間に⁉︎」
勢い良く立ち上がってからの、イケメン台なしな驚き顔で詰問される、と。
はい、予想通りになりましたー。
「そのヨメはただの勘違いだ。単に名前が変わってるだけの正しく未婚のヨメヨさんな?」
「――って、脅かすなよ」
安堵した表情で着席する。
だがしかし。
ここで至高の御方たる幼乳神様ズから、空気読まない悪意なき呪詛が放たれた――。
「やみよままと、ちがう、です?」
「けはい、いっしょとおなじ、なの。……へん、なの?」
流石は至高の御方たる幼乳神様。
どうやら見抜いていらっしゃる模様。
呪詛の向かう先が、今回、俺でなかったことが、この上なく実にめっさ嬉しいです。
「い、妹ですよ、えっと……ナイチチちゃん、アルチチちゃん。ヤ、ヤミヨ姉さんと……そそそ、そっくりすぎて……おおお、驚いたでしょ? ――はは、ははは」
すっごい引き攣った笑顔で、苦しい言い訳を辿々しく騙る。
「びっくり、です!」「なの、なの!」
「どどど、道中はね、ヤミヨママの代わりに頑張るから! そそそ、その……よ、宜しくね? ね?」
「はい、です!」「なの!」
え? あっさりと納得? 良いんかそんなで?
「ままの、じぃじ、です?」
「じぃじ、ちがう、せばすちゃん、なの!」
二人がそれで納得したのか、矛先が変わって興味はセバスちゃんへ。
「ほっほっほ……これまた尊い天使様に御座いますね。私のことは好きに呼んで下さって結構に御座いますよ、ナイチチ様、アルチチ様」
「じぃじ、です!」
「わたしも、じぃじがいい、なの!」
「天使様のご意向、確かに拝命致しました。このセイバス。本日、只今を持ってその名を捨てましょう。私めは今日からジのつく召使い、単にじぃじと名乗ることと致しましょうか」
そう良いながら、二人の頭を優しく撫でるセバスちゃん。
「じぃじ、です!」「じぃじ、なの!」
「ほっほっほ、まさに天使。実に愉快愉快」
口髭を摘んでの爺様笑いを披露した。
ちょっとちょっと良いんですか?
そんな簡単に決めちゃって?
あと魔に連なる者が天使って褒めても大丈夫なので?
まぁ、態度を見る限り、二人に合わせてくれた冗談なんだろうけどね。
見た目がめっさ怖い変態紳士っぽさだけど、実に優しい人――人違うけど。
そうしてると本当の祖父みたいで、なんか俺までほっこりします、うん。
怖がってごめんなさい。
――――――――――
本日より加わる新たな仲間。
流れからして真面な筈がないっ⁉︎ ∑(゚Д゚)
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