5 / 12
第一部 現代編――。

第五話 コンビニの夜勤、実は忙しい。

しおりを挟む
「口程にもない。なんと嘆かわしい」

「あれなる下等種など、マリアお嬢様のお手にかかれば、ノミに等しい害虫に過ぎません」

 美幼女と下衆いおっさんに姿を戻された二人が愚痴る通り遊ぶ間もなく、ほんの僅かな一瞬で終わってしまったのだった。


 争うと言った表現すら不要なほど、圧倒的な暴力で。かつ一方的に。


 それを証明するかの如く、辺り一帯に錆びた鉄の臭いと生臭さが充満する。
 壁や電柱には飛び散った赤黒い染み。
 道には元が解らないほどにミンチと化した肉片と、舗装路が抉れてできた血溜まり。

「ま、そうなのじゃが――えーいっ、近こう寄るなと言っておろうが、下衆っ! 妾が穢れるっ! 孕むっ! 虫唾がはしるっ! 吐き気もしよるっ! 鳥肌も立つっ!」

「お褒めに与り、光栄に御座います――はぁはぁ」

「戯け、うつけ者がっ! 妾は褒めてなんぞおらぬわっ! 貴様の頭は常にお花畑かっ!」


 恍惚とするおっさんと激昂する美幼女。
 傍目から客観的に見ても、変。


「しかし忌々しい。事が済めば直ぐにこのナリじゃ。……もう少し長く遊びたかったのにのぅ」

「止むを得ません。何度も進言しております通り、命があるだけ良しとしましょう……私めなぞ、醜悪極まりないこのような姿で――はぁはぁ」

「貴様はその姿を存外に喜んで満喫しておろうがっ! まさかの変態紳士に加えて更にM属性マゾ付きとは、流石に妾もドン引きじゃっ! ――全く、ミジンコ程度の僅かばかりは同情しておったと言うのに……」

「お褒めに与り、光栄に御座います――はぁはぁ」

「だーかーらーっ! 妾は褒めてなんぞおらぬと言うておろーがっ! 惚けるでないわっ! それ以上、醜悪な面を妾に向けるでないわっ!  妾が穢れるっ! 孕むっ! このうつけ者めがっ!」

「はぁはぁ――うぅっ⁉︎」

『マリー様、ののしれば罵るほどにドツボに嵌りますゆえ、下衆様はしれっと放置された方がまだ楽かと』

「うむ。そうする――孤独に身悶えておれ、下衆」

『とても素直で好感が持てます、マリー様』

「ふんっ!」

「はぁはぁ――マリア様のツンデレを拝み、放置プレイもまた! ――はぁはぁ」

「喧しいわっ!」『存外、キモいですね』

 返り血を浴びまくった美幼女のマリーと美女のミサの二人に蔑まれ、どす黒い血に塗れて恍惚の表情を浮かべる下衆徒君。


 歓喜に身悶える穢らわしいおっさんが正気をを取り戻し普通に戻る頃には、銭湯に着いていた。
 ただ二人の酷い有り様を目撃した銭湯の番台さんと、入浴客がドン引きだったってことは言うまでもない――。


 ◇◇◇


「袋はご入り用ですか? ――こちらのお弁当は温めますか? ――お煙草と冷たい品は、別けてお入れしますか?」

 そんな事態になってるとは露知らない俺は、バイト先のコンビニで真面目に励んでいた。
 仕事帰りで混み合うクソ忙しいラッシュ時間、押し寄せる客をテキパキと捌いているのだった――。
 
「家主は辛いよな……なんで俺ばかりが身を粉にして働かねばならんのか? めっさ理不尽だよなぁ……」

 ぼやきながらも業務を淡々と熟す。

「コンビニの夜勤は身入りも良く暇だって言うから、バイトに入ったっつーのに。詐欺だよ、全く。アイツは今度泣かす」

 俺と同じ大学でコンビニに勤める友人から教えてもらっていた話しはそんな感じだった。
 だがしかし。蓋を開けてみれば、休む間もない重労働ときた。
 店内清掃から検品、棚入れから発注、夜中に来店する客の相手云々。分刻みで仕事を熟さないと終わらないってんだからね。

「これなら夜の街のイケメンさんにでもなってれば良かったよ、全く……」

 ぶちぶちとぼやきながらも店内清掃を終えて、厨房の掃除に取り掛かろうとした、丁度、その時だった――。


 入店を知らせる、ピンポーンが鳴った。


「いらっしゃーい、ませー。少々お待ち下さいねー」

 慌てて手を洗い、厨房からカウンターへと移動する。

「か、金だっ! 金を出せっ! は、早く、早くしろっ!」

 顔を覆い隠す大きなマスクと、真っ黒なサングラスにニット帽。
 体格を誤魔化す厚手のダウンジャケットに身を包み、極めの出刃包丁を俺に突きつける阿呆がそこに居た。

カネサン? 金サンなる人ハ、勤務してマセーンデスが?」

 ワザと似非外人の喋りで応対する。
 なんせ俺の見た目は名前からして、完全に異国の人なんで。

「クッソ、外人かよっ⁉︎ 言葉の意味も解らんのかテメェはっ⁉︎ えーと、金はスチール……違うな。コイン? いや、札もあるからな……」

「マネー?」「そう、それだっ! 早くしろっ!」

しろと?」「そ、そうだっ! 早くしろっ!」

「金サン出しやがれ、コンチクショー?」

 右手で指鉄砲を作り、強盗相手に似非外人のフリをしたまま巫山戯る俺。

「テメェ、いい加減にしやがれっ! 殺すぞっ! ……えっと、殺すはキルだっけ?」

「合ってますよ。簡単な英語だと、『I will kill you』で通じますけど?」

「そうか、悪い、助かったわ。――って、違うわっ⁉︎ 俺が今まさにそれだっつーのっ!」

「知ってるよ――」「――がはぁ!」

 俺が返事をした直後、強盗が呻きを上げて吹き飛んだ。
 よっぽど運が悪いのか、吹っ飛んだ際に自動ドアの角に後頭部を打つけて、泡を噴きつつもれなく気絶してしまった。


 俺は右手の指鉄砲で、単にだけなのにね? 弱すぎ。


 向こう側からこっち側に戻される際に、俺にしてもちゃんと技能などは剥奪、装具などの没収もされている。ズルもなし。
 俗世間の創作で流行っている、所謂、チート的なのは、向こうの偉いさんが管理する事情と言う建前で持ち帰った、特例中の特例のミサのみ。

 だがしかし。俺は異界にいた間、思い出すだけでも血の気が失せる、生きるか死ぬかの地獄の日々に耐え抜いた。
 現代の各国に配備される、有名な特殊部隊の地獄の訓練が生温いと思えるほど、それこそ足元にも及ばない遥かに凌ぐ過酷さでね。


 要は鍛え抜かれたで、単に対応したに過ぎないって訳だ。
 そこらのおっさんでただの暴漢如き、鎮圧するなんざ造作もないのさ。


「俺の居るコンビニに押し入らんでも……ホント、運のないおっさんだ。――さてと。警察へ連絡しないとな。面倒臭いことさせんなっての。ホント、ウザいわ」

 武士の情けでパンツだけ残して裸にひん剥き、店内にある荷造り用のビニール紐で、両膝にモップを噛ませて縛ったあと、左右の親指を後ろ手で同様に縛り、ついでに股間経由の鼻フックと繋いでおき、更に目と口にはガムテープを貼って、そこらに転がしておく鬼畜な俺。


 連絡を受けた警察が駆け付けた時には、目を見開き驚いていた――。



 ――――――――――
 悪戯はまだまだ続く。(笑)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

処理中です...