1 / 10

第一話 ありふれた日常。

しおりを挟む
 いつもと変わらない、平凡な朝の風景。
 人々が忙しなく行き交う町を歩き、今日も仕事へと出掛ける。

 駅に着くと、真面に歩くのもままならない、有象無象の人混みに嫌気が差す。
 毎朝のことだと諦めて、人混みを掻き分け改札口へと急ぐ。

 ホームに辿り着くと、電車に乗る順番待ちの乗客で長蛇の列だった。
 うんざりだと思う前に電車が到着する。

 そして今日も今日とて通勤ラッシュの時間帯に、押すな押すなの鮨詰すしずめ状態に陥る。

 俺は何処にでもある日常、いつもと変わらない朝を、今日もしがなく過ごす筈だった――。


 ◇◇◇


「何が……起きた……?」

 気付けば人が折り重なるように伸し掛かり、呼吸が覚束ないばかりか身体中が痛い。

 そこら中から老若男女の呻き声と、悲鳴に怒号が耳に届く。

 外からは爆発音。その度に大きく揺れてビリビリと振動が伝わってくる。

 煙が充満し焦げ臭いうえ、錆びた鉄の臭いが入り混じった、火葬場独特の嫌な臭いも鼻についた――。

(電車……事故?)

 そんな風に感じている俺は、身動きが取れない。
 身体に伸し掛かる感触から察するに、どうやら折り重なる乗客らの下敷きになっている模様。

「くっ……伸し掛かってる人! 早く退いて!」

 腹の底から怒号をあげたが、ピクリとも動いてくれやしない。


“ キュイン、キュイン、キュイン―― ”


 喧騒の中、妙な電子音が鳴り響いているのに不意に気付く――。

(なんの音?)

 音の発生源を耳で追うと、腰のポーチに入れてある俺のスマホから鳴っているようだった。

 伸し掛かる人が邪魔で取り出し難いが、なんとか取り出せた。そして割れていた画面を見る。

「壊れた? 違う! なんだっ⁉︎」

 目を見開き、スマホの割れた画面を見入ってしまった。何故なら――。


“ このまま死にたくなければ念じなさい――無念、と ”


 ブラックアウトした液晶画面一杯に書かれる、赤く血塗られたなぐり書きのメッセージがあったからだ。
 割れて液晶が機能していないんだから、当然、メールやSNSの類いであるわけがない。

「なんなんだっ⁉︎ 俺が死ぬだっ⁉︎ 冗談は大概にしろよっ!」

 馬鹿馬鹿しいにもほどがあると怒り心頭な俺は、なんとかこの状況から脱出する為、押し退けようと必死に足掻く。
 だがしかし。折り重なる乗客は一人ではないようで、重く伸し掛かったままビクともせず、無駄な抵抗に終わった。

「これ、たぶん圧迫死とか窒息死とか……そんなだな」

 どうにもできず半ば投げやりになって、今までの人生を思い起こす――。


 見た目がビン底メガネのブサメンで、デブなボディかつ生粋の美少女アニメオタクな俺は、親しい友達も居なければ、当然、彼女なんて良い人も居ない。
 辛く寂しい学校生活を経て、今年ようやく勤めた会社は、何の因果か超ブラック企業。
 更に同僚からもハブられ、上司にも毎日なぶられる始末。
 良いことも愉しいことも何ひとつなく、何も解らないままに、二十歳に満たない短い人生を、今日、終えるのか……。


 そんな嫌なことを思っている間も、喧しく鳴り響いてくれやがる俺のスマホ。

「この音を聴きつけて救出してくれると良いんだけど……」

 そんな風に考えて、壊れて鳴り響いていることに感謝した、まさにその時だった――。


 一際、大きな爆発音が轟き、床全体が大きく揺れるのだった。


 直後、伸し掛かっていた乗客らが更に重みを増し、俺を急激に圧迫した。
 今のであばら骨が折れたのか、鈍い衝撃と鋭い焼けるような痛みが俺を襲う。

「ゲホ……」

 折れたあばらが突き刺さったか、内臓を潰されたのかは知らないが、俺は口から吐血した。
 血の味が口内に広がってむせ返る。最早、息をするどころではなくなった。
 焼けるような痛みも重なって、意識が次第に遠退いていく――。


『このまま死にたくなければ念じなさい――無念、と』


(幻聴か? 何を念じろと? このまま死ぬのが、悔しくて堪らないって?)

 さっき見たメッセージと同文の内容が、今度は抑揚のない機械じみた合成音声で、ダイレクトに頭に響いた。

「誰だって……死にたくは……ねぇだろ……普通? 俺だって……死にたくない……聴くまでもねぇわ……阿呆か?」

 ぼんやりと疑問が浮かび、最後に悪態を吐いたところで、そのまま意識が途切れかけた。



 その時――。



 ――――――――――
 世界の行く末は、俺の頑張り次第?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...