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第伍章 混沌の胎動――謎の孤島編。

佰陸拾漆話 帰路、其の弐。

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 程なくして、合流地点――目印の極小なマストが海面に浮き出ている海域に到着する俺達。

 だがしかし。
 そこで待機している筈の船舶らしきモノは、ナニも停泊していないのだった。


 何故ならば――。


 俺達を回収する船は、今まさにタイミング良く海中から海面へとゆっくりと浮上して、その姿を晒してくるのだからだ!

 秘密の花園っつー謎の団体は所謂、秘密の特務機関に属するらしいので、こーゆー怪しい乗りモノでの送迎になっていたりするわけで。

 そう。俺達を運んだ船……?
 船って言って良いのか、コレ?

 日本が誇る世界最強と巷で噂の『そうりゅう型』と呼称される、素敵メカ満載の潜水艦……違うな。アリサ的痛潜水艦だ。


 ◇◇◇


「お帰りなさいませ、お嬢様――」

「直ぐに出るのよ? ――見られると面倒になるなのよ?」

「イエス・マ――クシュン。畏まりました、お嬢様」

 ちなみにLCACも潜水艦も、秘密の花園に配備されているモノではなく、アリサが個人で所有している自家用艇とのことだった。

 なので、どっちもアリサ的痛何某と言う枕詞が指し示す通り、それはもうね、オタク泥酔の神絵師による痛いロリキャラのイラストが外装全面に所狭しと好き放題、自由気ままに爛々と輝いているんだな。

 こんな戦略級な軍備、個人で所有しようとするだけでも、相当、難儀な代モノなのに、あまつさえ甲板や装甲周り何ぞに痛車みたいなノリで容赦なくペイントした挙句、そんな派手な乗りモノで隠密行動に出張るつーんだからな、アリサは?
 意味不明にもほどがあるって。
 やっぱり、大概な俺の電波脳でもアリサだけは理解できんわ、うん。

 コレって大好んトコが横流――ゲフンゲフン。あー、出所って何処だよ~? いくらすんのコレ~? あゝホント、闇は深いな~、深淵の様に広いな~、うん。

「あらあら。アリサったら」

「俺は見なかった! 俺はナニも見なかった!」

 つまり、聴かぬが神さま、知らぬが仏さまだな。
 更に言うと、俺は疑問に思わなかったことにする。
 だから勝ちってことで問題なし。
 うんうん、それが最適解だ、うん。


 ◇◇◇


 さて、一旦戻ろうと提案した理由。
 件のゲート前での一悶着で、改めて実感したことの為である。

 停泊場もそうだが、予想以上に色々なヒトが孤島に入って来ているのを今さっき痛感した。
 その所為で、ナニかと動き辛いのなって言う考えに行き着いたのが主たる理由だった。

 俺の手元に在るや居るモノ。
 存在自体が最早ファンタジー、ある意味ではジョーク&ホラーなオーバーテクノロジーの塊でオーパーツな産物ばかりなのだ。

 あれだけのヒトがひしめく真っ只中で、何ぞな技能や仕掛なんざ使ってみせてみ?
 俺達の抱えているモノに気付く凄い輩も居るやも知れん……。
 そうなれば、大問題に発展してしまうのは確実だからだ。


 つまり、世の中に無用な大混乱を招きかねない。


 更に言うと、先ほどの不遜な輩のように、権力欲や独占欲云々何ぞなしょーもない争いの発端――最悪、戦争の引き金にも成りかねないのだよ。

 公に知られるってのはそう言うことだよ。
 是が非でも回避したい。
 なので、秘匿できることは秘匿して、可能な限り秘密裏に行動するよう心掛けておきたいのでな。

「はーい、皆さま注目! 潜水艦乗船記念会議を始めます! どうやってゲートを調べるか、唐突ですが今から協議したいと思いまーす!」

 そんなこんなな帰路の最中、唐突に未来プレゼンツ、アリサ的痛潜水艦乗船記念プチ対策出張家族会議がアリサのプライベート痛船室で開かれたり。

 何故持ってんのか俺の知るところでは全くないのだが、未来的痛ピンクの伊達メガネ、キラッキラ! に、レーザーポインターでホワイトボードを指し示すときた。


 ナニが記念なのか、何故ホワイトボードまで在るのか何ぞは、当然、俺の知るところでは全くないのだがな?


 参加者は例によって俺家族と親族のアリサのみ。
 今回、従僕三匹とリペアについては、別件で大好に付き従っていてここには居ない――。

 実は孤島で見つけたとあるモノを少し調べたいらしく、先の戦闘で失った有能な隊員の代わりにと従僕三匹を徴兵――ウォッホン。協力を要請してきたのでな?
 愛玩動物一匹までもを強制連行――ゲフンゲフン。任意同行で連れて行来やがった。


 従僕共は解るんだが……。
 リペアを連れて行く意味が良く解らんのだが?
 もしか衛生兵のつもりか?


 家族会議の結果、いざこざを避ける為にも深夜にもう一度訪れてアタックしようと言うことになり、それまでの限られた時間で各々準備を整える運びとなる。


 ◇◇◇


「んじゃ、予定通りに。皆も少しは休んでおくようにな」

 俺もアリサ的痛ホラーハウスに戻るなり、修理済の俺的玩具何ぞや使えそうなモノを、俺的バックパックに詰め込めるだけ詰め込んで備える。

 ナニが在るのか居るのか出て来るのかは、俺の知るところでは全くないのだが、備えあれば憂いなしだかんな。


 些細な油断は大惨事に繋がるのでな。


 しっかしだな、こんなこともあろうかと予め用意しておいた、俺セレクト俺的玩具詰め合わせケースが手元に有れば良かったんだが……ないモノはないで仕方ないのな。
 嵩張るからあえて置いて来て、必要なら直ぐに取り寄せる算段だったのに……義父おやぢめ。
 こんなことなら一緒に持って来ておけば良かったと、まぢ後悔だ。
 俺居城に帰ったら、病的なまでに未来ラブな義父おやぢは、最優先で絶対に泣かす!

 俺的バックパックに詰め込むだけ詰め込んだあと、備え付けのふっかふかな社長御用達な高級椅子にドカリと座り込み背もたれに背中を預け、徐に窓の外から見える大自然そのままな、素敵な夕焼けを眺める俺だった。

「――俺もノウみたく、ヒト払いとか認識阻害の技能持ちとかだったら良かったのにな……そんなチートもなく、身体的にもナニも持たざるモノは辛い。はぁ~」

 いざこざを避ける何ぞ良い策はないモノかと、深い溜息で大きく肩を落とし愚痴る俺は、夜戦と言うか夜襲と言うかに備えて、少しだけ眠ることにした――。



 ―――――――――― つづく。
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