御手洗くんの紛うことなき現代社会での滑稽な非日常について。

されど電波おやぢは妄想を騙る

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Act.04 会社から始まる非日常について。②

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 最早、何度も見慣れた魔界――社長室の内装に大きな溜息を吐いた――。


 壁と言う壁の至るところに、大きく引き伸ばした孫娘の写真が貼りまくられているだけでは飽き足らず、義父とうさんが言うところの親密なお友達の素体で制作された、等身大のとっても精巧な孫娘人形が色んな香ばしいポーズで数体もあって、その全てにとっても高級そうな素敵な衣装が着せられて、とっても大事に飾られてあるわけですね。


 ここにもしもナニも知らない来客が招かれようモノなら、きっと――


 いや、絶対にドン引き、或いは卒倒すると思うよ?


 そんな魔界――社長室の突き当たりに、とっても高そうな革張りの高級な社長椅子に踏ん反り返り、葉巻風電子煙草を咥えて窓から外を見ていた、体格の良い初老の男性が一人。

 徐に椅子をクルリと半回転させてオレの方に身体を向け、机に脚を投げ出して組むと言った香ばしいポーズを取った。

 理由は全く解らないけど、コント的探検衣装に身を包んでおり、被っている探検家の帽子――テンガロン・ハットをクイッとサムズアップで香ばしく跳ね上げて――。


「はっはっは――私が、伏木コンチェルンの偉大なる始祖にして総帥、伏木ふしぎ 十兵クリストファーだ!」

 凄い満面のドヤ顔で言い放ってくれた義祖父じーちゃん


「――義祖父じーちゃん、オレの顔見ていきなりナニほざいてんの? 本名は十兵とうべえでしょうが? 今度は冒険家ゴッコにでもハマってんの?」

 半ば呆れ気味に受け答えしておく。

 年齢不相応な日本人離れした堀の深い顔は、黙っていればハードボイルドを地でいくナイスガイな義祖父じーちゃんなんだけど――残念で仕方ないよ、オレ。

「そーぢよ、私のことは十兵クリストファーと呼んでくれたまえよ!」

「――解った。今日からは義祖父じーちゃんって呼んでやらない。思いっきり余所余所しく、伏木社長って呼ぶことにするから」

 職場とか仕事上では、社長と呼ばれることを止むなく受け入れて我慢している節がある義祖父じーちゃん

 何故かオレに面と向かって伏木社長と呼ばれることだけは、本気で凄く嫌がるんだよね?

 親類や家族の時だけは遠慮無く義祖父じーちゃんと呼んでいるし、こんなちょっと変わった本性も公然と曝すわけですね。

「むぅ……それは嫌だな。止むなしと言うんだったか? ――実はな、そーぢよ。この探検衣装は未来みらいちゃんとお揃いなんだよ! 私は年甲斐もなく嬉しくて仕方がなかったのだよ……」

 とっても高そうな革張りの高級な社長椅子に、ショボ~ンとなって座り直した。

 未来ちゃんとは、義父とうさんの愛娘さんのことを指していて、義祖父じーちゃんのお孫さんに当たるヒト。

 確か、オレより三つか四つは歳上の筈。

 一応、さん付けでは呼んでいるけど、見た目が中学生で美少女な未来さんだから、傍目から見たら妙な違和感があるらしく、初見だと皆んなは必ず驚くよ。

 しかし……いつも思うけど、義祖父ぢーちゃんは孫の未来さんが本当に大好きで仕方ないんだな。


 ちょっと――いや、かなりのドン引きに成らざるを得ないぐらい。


「相変わらずだね、義祖父じーちゃん。要は病的に未来さんラブでお揃のヒャッハーってオレに伝えたいんだね? ――で、一ヶ月も先のことをプランニング企画立案するって理由で休日出社までさせておいて、その実、オレを前倒しで呼んだ理由がソレ? ――オレ、貴重な休みを返上してまで、態々、ここに来たんだけど?」

 態と顰めっ面をして、軽く愚痴ってあげるオレ。


 内心は全然、怒っていないんだけどね。
 いつものことなんで。


「そんなに褒めてくれるな、そーぢよ。――理由は二つある。未来ちゃんから直々にお願いされたのだから、当然、私が直々に動かねばならんのだよ。そう、全ては超ラブリーな未来ちゃんの為に! ――ゆえに失敗は絶対に許されないのだよ? 失敗は私の死を意味すると知れ、そーぢよ」

 全く意を介さず、平然と未来さんラブで押し通してくる義祖父じーちゃん

「ハイハイ。一応、言っておくけど、間違っても褒めてないからね? ――で、もう一つは?」

「むぅ……折角、日本に来たんだからな。久しぶりにそーぢの顔が見たかったのと――その……そーぢとな……ただ遊びたかった……だけだ」

 頬袋に向日葵の種を頬張ったハムスターのように、頬っぺたをぷく~っと膨らませて拗ねる義祖父じーちゃん

「――帰っていいかな、オレ?」

 やっぱり、半ば呆れ気味に受け答えしておく。

 年齢不相応な日本人離れした堀の深い顔は、黙っていればハードボイルドを地でいくナイスガイな義祖父ぢーちゃんが、そんな可愛い仕草をしてもリアクションに困るだけなんだけど?

 やっぱり、残念で仕方ないよ、オレ。

「――なんと⁉︎ そんな連れないことは言わんでくれたまえよ、そーぢよ。――私は寂しいぞ? 寂しいと泣くぞ? 泣いちゃうんだぞ?」

 嘘泣きっぽい仕草をして、チラチラとオレを見やる義祖父じーちゃん

 愛されてるのは態度を見てれば解るけど、どんだけ構って欲しいのかって思う。
 仕方ない、オレが折れておくか。

「ハイハイ。相変わらずだよね義祖父じーちゃんは……解った、解った。仕方ない、付き合うよ。――但し、仕事の話が終わってからだけどね」

 義父とうさんや義母かあさんに恩返し出来る絶好のチャンス。
 義祖父じーちゃんじゃないけど、オレも背水の陣みたいな心構えで挑むんだから、キッチリ手筈は詰めておきたいし。

「おおっ! 流石は我が孫のそーぢよ! ――実はなこんなことも有ろうかと、仕事先からどっちゃり持ち帰ってた世界各国のお土産がこれこの通り!」

「――仕事の話が終わってからだって言ったよ?」

 可哀想なモノを見る生暖かい目で軽く威圧を掛けてあげたオレ。


 勿論、言うほどに悪意は含んでないけどね。
 いつものことだから。


「むぅ……。少しは私の気持ちも解ってくれたまえよ、そーぢよ」

「ハイハイ、あとあと。――で、具体的にはどうやって進めてくの?」

「うむ。さっさと済ませるとしよう。実はな――」

 そうして、義父とうさんの店舗兼住居の改築についてのプランニング――仕事の話は、今日のところは簡潔に数十分で切り上げられた。

 対して、オレと遊ぶことには丸一日も費やしてくれた義祖父じーちゃんだったり。
 久しぶりで本気で嬉しいのが伝わってきて解るけど……、


 失敗は許さないのと違くて?
 良いのかそんなで?


 ――両親を早くに亡くしたオレは、当然、家族の温もりなんてモノは、数年前まで姉さんしか知らなかったし居なかった。

 親戚に預けられるも厄介払いの如く、転々とたらい回しにされた挙句、結局は放り出されたわけで。

 姉さんが中学生の頃なんて、どんだけ辛かったことか――。


 でも、今現在は違う――。


 血の繋がりのないオレを、本当の孫のように想ってくれていて、他人には絶対に見せない滑稽な姿を嘘偽りなく曝して、


 こんなにも愛してくれているのだから――。


 間違っても口に出しては言ってあげないけど――オレも嬉しかったりだよ、義祖父じーちゃん



 ―――――――――― つづく。
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