33 / 179
第一部
1-28「怪物との遭遇(4)」
しおりを挟む
「じゃ、まずは放課後の練習ね」
野球部のマネージャーとはどんなことをするのか体験をしたいと話す二人を、野球部のグラウンドに連れてきた。
まだ放課後になったばかり。着替えを終えた生徒がまばらに顔を出している状況だ。まだ練習本番ではないが、マネージャーの仕事はここから始まる。
「じゃ、まず最初の仕事……お茶出しね」
二人を連れて準備室の扉を開く。部屋の中を見渡すと、すでに先に来ていた先輩たちが軽めの用具を選んで行ったのだろう。残っているのは、準備する中でも体力を使うタイプのものしか残っていない。
――出遅れた!
心の中で舌打ちをしてから、由香は容器を手に取る。赤い容器にスポーツドリンクの素を入れてから音葉に、緑の容器にお茶の素を入れてから真奈美にそれぞれ手渡した。
「スポーツやったことあるなら見たことあるかもだけど、これは〝ジャグ〟っていう入れ物で、見てわかるように飲み物を入れるヤツ」
由香自身も青色のジャグを二つ取り出すと「じゃ、行こっか!」と準備室を後にした。
「これ、色分けって何か意味があるんですか?」
「赤のジャグはスポドリ、緑のジャグはお茶を入れるって感じ」
「なるほど」
感心しながら真奈美は手渡された袋を開いてお茶の素を。「中学で経験あったんですけど、結構大きいんですね」と呟くと、音葉は「八リットルか」と容量を確かめる。
「海瀬は中学の時マネやってたんだ」
「はい。選手だったんですけど、怪我しちゃって……ほんの短い間でしたけど一応経験はあります」
「そっか。経験者ってのは助かるなー!」
「ごめんなさい、未経験で」
「あ、気にすることないよ! 私もマネなんてやったことなかったし!」
「そうなんですか?」
「そうそう。ただ野球が好きだって理由だけで選んだから!」
そこまで話すと、グラウンドに備え付けの水道へ。水を入れると、その重さは数倍にもなる。
――ほほぅ。
経験者と言っていた音葉は大丈夫だろうと思っていたが、もう一人の真奈美も軽々と八リットル入ったジャグを持ち上げている姿に、由香はガッツポーズをして唸った。
「凄いね、一発目から持てると思わなかった」
「以外にパワーあるんですよ」と真奈美は胸を張りながら「でも、やっぱ結構重いです……コレ余ったらどうするんですか?」と質問を投げてきた。
「基本的には余らないよ! 寧ろ何回か入れ直したりするレベル」
「えっ、無くなるんですかぁ⁉」
「打撃練習の時はそこまでなんだけど、守備練習の後なんかはすぐねぇ。この時期でもあっという間に無くなっちゃうよ!」
「なるほど……高校生恐るべし」
少しだけだが、根性もありそうだし力もある。
――もしかしたら入ってくれるかも。
由香は青色のジャグに水をためながら笑みを浮かべた。
※
二人との勉強会を終えると、空はもうすっかり赤く染まっている。
今更練習に参加するわけにもいかないな、と悩んでいると、二人に提案されて土手でキャッチボールをすることに。
近場の土手。まだ太陽は沈んでいないので、ギリギリボールは見える。
――ま、キャッチボール程度ならいいか。
簡単なアップを済ませると、各々自前のミットを取り出した。一星が出したキャッチャーミットで確信を持った雄介に、彗が「なあなあ、一個提案」と話しかける。
「ん?」
「さ、そろそろ本気で行くぜ。な、坂上さ、絶対当てねーから、バッターボックスっぽいところに立ってくれよ」
野球部のマネージャーとはどんなことをするのか体験をしたいと話す二人を、野球部のグラウンドに連れてきた。
まだ放課後になったばかり。着替えを終えた生徒がまばらに顔を出している状況だ。まだ練習本番ではないが、マネージャーの仕事はここから始まる。
「じゃ、まず最初の仕事……お茶出しね」
二人を連れて準備室の扉を開く。部屋の中を見渡すと、すでに先に来ていた先輩たちが軽めの用具を選んで行ったのだろう。残っているのは、準備する中でも体力を使うタイプのものしか残っていない。
――出遅れた!
心の中で舌打ちをしてから、由香は容器を手に取る。赤い容器にスポーツドリンクの素を入れてから音葉に、緑の容器にお茶の素を入れてから真奈美にそれぞれ手渡した。
「スポーツやったことあるなら見たことあるかもだけど、これは〝ジャグ〟っていう入れ物で、見てわかるように飲み物を入れるヤツ」
由香自身も青色のジャグを二つ取り出すと「じゃ、行こっか!」と準備室を後にした。
「これ、色分けって何か意味があるんですか?」
「赤のジャグはスポドリ、緑のジャグはお茶を入れるって感じ」
「なるほど」
感心しながら真奈美は手渡された袋を開いてお茶の素を。「中学で経験あったんですけど、結構大きいんですね」と呟くと、音葉は「八リットルか」と容量を確かめる。
「海瀬は中学の時マネやってたんだ」
「はい。選手だったんですけど、怪我しちゃって……ほんの短い間でしたけど一応経験はあります」
「そっか。経験者ってのは助かるなー!」
「ごめんなさい、未経験で」
「あ、気にすることないよ! 私もマネなんてやったことなかったし!」
「そうなんですか?」
「そうそう。ただ野球が好きだって理由だけで選んだから!」
そこまで話すと、グラウンドに備え付けの水道へ。水を入れると、その重さは数倍にもなる。
――ほほぅ。
経験者と言っていた音葉は大丈夫だろうと思っていたが、もう一人の真奈美も軽々と八リットル入ったジャグを持ち上げている姿に、由香はガッツポーズをして唸った。
「凄いね、一発目から持てると思わなかった」
「以外にパワーあるんですよ」と真奈美は胸を張りながら「でも、やっぱ結構重いです……コレ余ったらどうするんですか?」と質問を投げてきた。
「基本的には余らないよ! 寧ろ何回か入れ直したりするレベル」
「えっ、無くなるんですかぁ⁉」
「打撃練習の時はそこまでなんだけど、守備練習の後なんかはすぐねぇ。この時期でもあっという間に無くなっちゃうよ!」
「なるほど……高校生恐るべし」
少しだけだが、根性もありそうだし力もある。
――もしかしたら入ってくれるかも。
由香は青色のジャグに水をためながら笑みを浮かべた。
※
二人との勉強会を終えると、空はもうすっかり赤く染まっている。
今更練習に参加するわけにもいかないな、と悩んでいると、二人に提案されて土手でキャッチボールをすることに。
近場の土手。まだ太陽は沈んでいないので、ギリギリボールは見える。
――ま、キャッチボール程度ならいいか。
簡単なアップを済ませると、各々自前のミットを取り出した。一星が出したキャッチャーミットで確信を持った雄介に、彗が「なあなあ、一個提案」と話しかける。
「ん?」
「さ、そろそろ本気で行くぜ。な、坂上さ、絶対当てねーから、バッターボックスっぽいところに立ってくれよ」
0
あなたにおすすめの小説
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる