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「桜色」
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「桜色」
カーテンの隙間から覗く太陽の光で私は目を覚ました。
背を伸ばし、寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる。
ようやく鳴りを潜めた冬。少し前までは窓を開けると鼻をつんざくような寒さが押し寄せるが、今日の外は「春が来ましたよ」と言わんばかりな暖かさを持った風で、優しく頬を撫でた。
――……あったか。
あたりを見渡してみると、冬を乗り越えた桜たちが〝自分たちの季節だ〟と色鮮やかに咲き誇っていた。人の手では作り出せない、出会いと別れの象徴とも言える、桜色。
「この景色ともサヨナラかぁ」
ふと、言葉が漏れた。
今日は引っ越し当日。
夜、お母さんの運転する車で新しい住居へ向かう予定になっている。
中学校を卒業したらみんな離れ離れになるし、私がそのタイミングで少し遠くに行くだけ。ただそれだけ――と自分に嘘を言い聞かせていると、ポンッと遮るようにスマホが鳴った。
同い年で、引っ越しした時からずっと仲良くしてくれていた、あかねからの連絡。
『今から外出れる? 直接話したい』
――なんだろ。
卒業式に話して以来の連絡。いきなりなんだろ、思いながら『わかった』と返して身支度を整えた。
母に相談してから家を出ると、メッセージを送ってきた張本人のあかねが待ち構えていた。仁王立ち、やっと来たかと言わんばかりに鼻を鳴らしている。
「さくら久しぶりー」
「どしたの急に」
「いやーちょっと伝えたいことがあって。時間大丈夫?」
「家出る八時前に戻ってくれば大丈夫だって。かわりにお菓子買ってきてって頼まれた」
申し訳ない、と手を合わせながら「じゃ、めいっぱい遊ぼっか!」と私の手を引いた。
そこからは思い出をたどるミニ旅行。
桜舞う入学式で初めて出会った小学校ではタイムカプセルを無断で掘り起こし、中学校では同じ部活だった吹奏楽部の部室で机の裏に落書きをし、ショッピングモールを練り歩き、映画を見て――気が付けば、もう夕方。
もうすぐ夜。
お別れの時間。
「あー楽しかった」
いろいろなところを巡り、最後にたどり着いたのはあかねとよく遊んだ公園。
この時間になるともう誰もおらず、古ぼけた明かりが照らすのはブランコに座ってる私たちだけ。
「もうこうやって遊べなくなるね」
「また来るよ。夏休みとかさ」
「……ね、朝の話したかったことなんだけどさ」と、あかねはカバンをごそごそと弄り始めるとよいしょ、とババ臭い言葉を漏らしながら茶色い封筒を私に差し出してきた。
「なにこれ?」
開けて見てみてよ、と促されるままに封筒の中身をみると、何枚もの原稿用紙が詰まっていた。
「あたしが書いた。移動中に読んで」
「わ、すごいね」
「ね、いつか教えてくれたじゃん。女優になりたいってさ」
「うん」
「最初、うそでしょって思った。けど、オーディションに受かって高校からデビュー。すごいよホント」
「うん」
「で、あたしは夢なかったからさ。一生懸命考えた結果がコレ」
「……うん」
「私の作った物語で、主人公役をさくらにやってほしい」
「……うん」
「それで、エンドロールで私たちの名前が載るんだ、一緒に。それが私の夢」
「…………うん」
「だからさ、さくらに追いつけるよう頑張るから! 向こう行ってもがんばれ!」
「……もちろん!」
一番の友人から貰った、これ以上ないエール。言葉を振り絞ったその時には、もう涙であふれていた。涙で、手書きの原稿がにじんでいく。
「そんな泣かないでよ。あたしたち、これからスタートなんだからさ!」
「ははっ、ごめんごめん」
「全く……ってあっ! タイトルのところ滲んで読めなくなってるじゃん!」
「あっホントだ! なんてタイトルだったの?」
「口にするのはなんか恥ずかしいなぁ」と、涙ぐみながらあかねは息を吸い込んで零す。
「タイトルはね……」と、風に舞って落ちる桜の花びらを手に取り「これ!」と桜の花びらを見せた。
「……桜?」
「そ! 私たちの出会いもこの色から始まった思い出の……桜色!」
※
――あ、そろそろかな。
時計を見ると、丁度お昼時。
家族だったり、仲のいい友人とだったり、恋人とだったり。そんな大切な人たちと過ごしているだろう時間にピッタリのバラエティー番組がやってる時間。
テレビを点けると、正に今、そんなイメージ通りのバラエティー番組が、馴染みの音楽を伴って締めに入っていた。
これまでただ眺めるだけだった世界。
そんな夢みたいな中に、進行役のベテラン芸人と、大人になったさくらがいる。
『――って彼女との約束があって。だから、『桜色』の主人公を演じるためにこれまで頑張ってきました』
バラエティーに出て映画の番宣をしているさくらの白い肌は、ほのかに桜色に染まっていた。
明日、いよいよあたしたちの夢が叶う――。
カーテンの隙間から覗く太陽の光で私は目を覚ました。
背を伸ばし、寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる。
ようやく鳴りを潜めた冬。少し前までは窓を開けると鼻をつんざくような寒さが押し寄せるが、今日の外は「春が来ましたよ」と言わんばかりな暖かさを持った風で、優しく頬を撫でた。
――……あったか。
あたりを見渡してみると、冬を乗り越えた桜たちが〝自分たちの季節だ〟と色鮮やかに咲き誇っていた。人の手では作り出せない、出会いと別れの象徴とも言える、桜色。
「この景色ともサヨナラかぁ」
ふと、言葉が漏れた。
今日は引っ越し当日。
夜、お母さんの運転する車で新しい住居へ向かう予定になっている。
中学校を卒業したらみんな離れ離れになるし、私がそのタイミングで少し遠くに行くだけ。ただそれだけ――と自分に嘘を言い聞かせていると、ポンッと遮るようにスマホが鳴った。
同い年で、引っ越しした時からずっと仲良くしてくれていた、あかねからの連絡。
『今から外出れる? 直接話したい』
――なんだろ。
卒業式に話して以来の連絡。いきなりなんだろ、思いながら『わかった』と返して身支度を整えた。
母に相談してから家を出ると、メッセージを送ってきた張本人のあかねが待ち構えていた。仁王立ち、やっと来たかと言わんばかりに鼻を鳴らしている。
「さくら久しぶりー」
「どしたの急に」
「いやーちょっと伝えたいことがあって。時間大丈夫?」
「家出る八時前に戻ってくれば大丈夫だって。かわりにお菓子買ってきてって頼まれた」
申し訳ない、と手を合わせながら「じゃ、めいっぱい遊ぼっか!」と私の手を引いた。
そこからは思い出をたどるミニ旅行。
桜舞う入学式で初めて出会った小学校ではタイムカプセルを無断で掘り起こし、中学校では同じ部活だった吹奏楽部の部室で机の裏に落書きをし、ショッピングモールを練り歩き、映画を見て――気が付けば、もう夕方。
もうすぐ夜。
お別れの時間。
「あー楽しかった」
いろいろなところを巡り、最後にたどり着いたのはあかねとよく遊んだ公園。
この時間になるともう誰もおらず、古ぼけた明かりが照らすのはブランコに座ってる私たちだけ。
「もうこうやって遊べなくなるね」
「また来るよ。夏休みとかさ」
「……ね、朝の話したかったことなんだけどさ」と、あかねはカバンをごそごそと弄り始めるとよいしょ、とババ臭い言葉を漏らしながら茶色い封筒を私に差し出してきた。
「なにこれ?」
開けて見てみてよ、と促されるままに封筒の中身をみると、何枚もの原稿用紙が詰まっていた。
「あたしが書いた。移動中に読んで」
「わ、すごいね」
「ね、いつか教えてくれたじゃん。女優になりたいってさ」
「うん」
「最初、うそでしょって思った。けど、オーディションに受かって高校からデビュー。すごいよホント」
「うん」
「で、あたしは夢なかったからさ。一生懸命考えた結果がコレ」
「……うん」
「私の作った物語で、主人公役をさくらにやってほしい」
「……うん」
「それで、エンドロールで私たちの名前が載るんだ、一緒に。それが私の夢」
「…………うん」
「だからさ、さくらに追いつけるよう頑張るから! 向こう行ってもがんばれ!」
「……もちろん!」
一番の友人から貰った、これ以上ないエール。言葉を振り絞ったその時には、もう涙であふれていた。涙で、手書きの原稿がにじんでいく。
「そんな泣かないでよ。あたしたち、これからスタートなんだからさ!」
「ははっ、ごめんごめん」
「全く……ってあっ! タイトルのところ滲んで読めなくなってるじゃん!」
「あっホントだ! なんてタイトルだったの?」
「口にするのはなんか恥ずかしいなぁ」と、涙ぐみながらあかねは息を吸い込んで零す。
「タイトルはね……」と、風に舞って落ちる桜の花びらを手に取り「これ!」と桜の花びらを見せた。
「……桜?」
「そ! 私たちの出会いもこの色から始まった思い出の……桜色!」
※
――あ、そろそろかな。
時計を見ると、丁度お昼時。
家族だったり、仲のいい友人とだったり、恋人とだったり。そんな大切な人たちと過ごしているだろう時間にピッタリのバラエティー番組がやってる時間。
テレビを点けると、正に今、そんなイメージ通りのバラエティー番組が、馴染みの音楽を伴って締めに入っていた。
これまでただ眺めるだけだった世界。
そんな夢みたいな中に、進行役のベテラン芸人と、大人になったさくらがいる。
『――って彼女との約束があって。だから、『桜色』の主人公を演じるためにこれまで頑張ってきました』
バラエティーに出て映画の番宣をしているさくらの白い肌は、ほのかに桜色に染まっていた。
明日、いよいよあたしたちの夢が叶う――。
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