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「青色革命」
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「青色革命」
うだるような暑さ――と思うも一瞬、突然の積乱雲とともに大粒の雨が降り注いだ。
傘を忘れた水原美紀|《みずはらみき》は予想だにしない突然のスコールに「信じらんない!」と叫びながら、寂れたバス停の下に滑り込んだ。
「晴れの予報だったのになぁ」
頭の先から靴下の中までビショビショ。つい先日、防水機能を持ったスマートフォンに変えていなければどうなっていたかと、制服の裾を絞りながら起動してみた。
やはり最新機種の防水加工が施されているスマートフォン。水滴がついているだけで、すぐに起動してくれた。
――うーん……。
雨雲レーダーを調べてみると、どうやら通り雨。あと十分も待っていればまた晴れ間が来てくれる。
しばらくここで待つか、と朽ちかけている水色のベンチに座り込んだ。
――雨ばっかだなぁ。
せっかく部活が休みで、放課後の時間を受有に使えるそんな楽しい一日のはずが、突然のスコール。このずぶ濡れの格好のままどこか寄り道するなんてことができるわけもなく、この後の予定は自宅に帰る一択だ。
美紀は、俗に言う雨女。
入学式や卒業式はもちろん、幼稚園の劇で自信が主役の時や、ピアノの発表会の時、修学旅行に部活の大会などなど、大事な場面ではことごとく雨。
そんな不幸が続いたおかげで、嫌いなものは水、嫌いな色は青。自分の苗字すらも煩わしく感じるほどだった。
「どうにかならないかなぁ」
「何がですか?」
背後からの声に「ひっ⁉」と悲鳴を上げる。
このバス停には一人のはず――再び雨の下に出てバス停の中を注視すると、やはりだれもいない……と思ったが、時刻表の横に一人の男子生徒が立ち竦んでいた。
存在感のなさはまるで幽霊級だが、足はちゃんとある。
「ご、ごめんなさい」
「いいんですよ、存在感の無さは自覚しているんで」
再び屋根の下に戻る美紀。しかし、一度認識してしまうとどこか恥ずかしくて、若干体温が感じているのを感じていた。
「雨、止まないですね」
男子生徒が気を使ってくれたのか、話しかけてくれる。
「さっきレーダー見たらすぐ止むみたいですよ」
「そうなんですね。良かったです」
そこから再び無言。
雨で張り付いたシャツを見られてくない美紀は、その男子以上に存在感を消そうと努めた。
※
翌日。昨日の雨が嘘のように、カンカン照り――だったはずが、部活終わりの帰り道に再びゲリラ豪雨に襲われた。
「もうなんなのホント!」
今日も傘は持ってこず。
昨日と同じように、バス停の屋根の下へ。
――誰もいないよね……?
今度は注意深く観察してみるが、今度こそ誰もいない。
よし、と今日は遠慮なく靴下を脱ぎ棄て、水を搾る美紀。
そんな彼女の目の前を、昨日の男子が通りかかった。
傘をさして、悠々自適に帰路についている。
こっちに気が付かないでという願いも通じず。「あっ」という明らかに気が付いた言葉を漏らした男子は「こんばんは」と美紀に話しかけた。
「……こんばんわ」
二日連続で情けない姿を見られた美紀は、昨日よりも体が火照り、湯気でも出ているんじゃないかと思うほど。
早く行って――そんなことを願っていると「これ、よかったら」と、男子は折り畳み傘を美紀に一つ差し出した。
「え?」
「良かったら使ってください」
「いいんですか?」
「傘忘れたと思ってコンビニで買っちゃったんですよ」
「いや、でも悪いですよ」
「いえいえ。お気になさらず」
そう言い、男子は青色の傘を美紀に手渡すと「僕たち雨に恵まれてますね」と言い残して男子は立ち去った。
「雨に、恵まれてる……か」
はだしのままローファーを履き、ガッポガッポと雑な音を立てながら美紀は帰路についた。
譲ってもらった、青い傘を差して。
※
そこからしばらくは、正に真夏。雨なんか降る気配すら見せず、このままなら深刻な水不足になるんじゃないか。そんなニュースが駆け回る中、美紀は心を躍らせていた。
今日は、あの日みたいに部活が休み。
そんなときはだいたい――と、予想通りにゲリラ豪雨が降り注ぐ。
ただ、準備は万全。あの日貰った青色の傘を差しながら帰路についていると、あのバス停へ。
今日はどうやら、美紀の方が遅かったらしい。男子が、初めて会ったあの日と同じように時刻表の横に立ち竦んでいた。
「こんばんわ」
「あ、こんばんは」
「良かったら一緒に帰りません?」
「いいんですか?」
「はい。この傘いただいたお礼です。方向も多分同じですよね」
「あ、じゃあ……」と、男子は美紀の傘の中に入って雨の下へ出た。
※
「なーに、それ」
美紀のカバンについているストラップを見た同級生が、意地悪な顔をして話しかけてくる。
「この間水族館行ってさ。その時に買ったの」
「えっ⁉ あんだけ水嫌いだったのに。ストラップも青いし」
「最近好きなんだよね、水も雨も、青も」
「何があったの?」
「うーんと……なんていうのかな」
言葉に迷いながら、ふとカバンの中を見る。
コンビニで安く売っている、青い折り畳み傘が目に入ると「ふふっ」と笑いながら美紀はこう返した。
「ひょんなことでさ、青色が好きになったの」
「なんじゃそりゃ。青に革命起きてんじゃん」
「あ、いいねそれ、いただき」
「へっ?」
「私に今起きてる現象は……青色革命! 間違いない!」
うだるような暑さ――と思うも一瞬、突然の積乱雲とともに大粒の雨が降り注いだ。
傘を忘れた水原美紀|《みずはらみき》は予想だにしない突然のスコールに「信じらんない!」と叫びながら、寂れたバス停の下に滑り込んだ。
「晴れの予報だったのになぁ」
頭の先から靴下の中までビショビショ。つい先日、防水機能を持ったスマートフォンに変えていなければどうなっていたかと、制服の裾を絞りながら起動してみた。
やはり最新機種の防水加工が施されているスマートフォン。水滴がついているだけで、すぐに起動してくれた。
――うーん……。
雨雲レーダーを調べてみると、どうやら通り雨。あと十分も待っていればまた晴れ間が来てくれる。
しばらくここで待つか、と朽ちかけている水色のベンチに座り込んだ。
――雨ばっかだなぁ。
せっかく部活が休みで、放課後の時間を受有に使えるそんな楽しい一日のはずが、突然のスコール。このずぶ濡れの格好のままどこか寄り道するなんてことができるわけもなく、この後の予定は自宅に帰る一択だ。
美紀は、俗に言う雨女。
入学式や卒業式はもちろん、幼稚園の劇で自信が主役の時や、ピアノの発表会の時、修学旅行に部活の大会などなど、大事な場面ではことごとく雨。
そんな不幸が続いたおかげで、嫌いなものは水、嫌いな色は青。自分の苗字すらも煩わしく感じるほどだった。
「どうにかならないかなぁ」
「何がですか?」
背後からの声に「ひっ⁉」と悲鳴を上げる。
このバス停には一人のはず――再び雨の下に出てバス停の中を注視すると、やはりだれもいない……と思ったが、時刻表の横に一人の男子生徒が立ち竦んでいた。
存在感のなさはまるで幽霊級だが、足はちゃんとある。
「ご、ごめんなさい」
「いいんですよ、存在感の無さは自覚しているんで」
再び屋根の下に戻る美紀。しかし、一度認識してしまうとどこか恥ずかしくて、若干体温が感じているのを感じていた。
「雨、止まないですね」
男子生徒が気を使ってくれたのか、話しかけてくれる。
「さっきレーダー見たらすぐ止むみたいですよ」
「そうなんですね。良かったです」
そこから再び無言。
雨で張り付いたシャツを見られてくない美紀は、その男子以上に存在感を消そうと努めた。
※
翌日。昨日の雨が嘘のように、カンカン照り――だったはずが、部活終わりの帰り道に再びゲリラ豪雨に襲われた。
「もうなんなのホント!」
今日も傘は持ってこず。
昨日と同じように、バス停の屋根の下へ。
――誰もいないよね……?
今度は注意深く観察してみるが、今度こそ誰もいない。
よし、と今日は遠慮なく靴下を脱ぎ棄て、水を搾る美紀。
そんな彼女の目の前を、昨日の男子が通りかかった。
傘をさして、悠々自適に帰路についている。
こっちに気が付かないでという願いも通じず。「あっ」という明らかに気が付いた言葉を漏らした男子は「こんばんは」と美紀に話しかけた。
「……こんばんわ」
二日連続で情けない姿を見られた美紀は、昨日よりも体が火照り、湯気でも出ているんじゃないかと思うほど。
早く行って――そんなことを願っていると「これ、よかったら」と、男子は折り畳み傘を美紀に一つ差し出した。
「え?」
「良かったら使ってください」
「いいんですか?」
「傘忘れたと思ってコンビニで買っちゃったんですよ」
「いや、でも悪いですよ」
「いえいえ。お気になさらず」
そう言い、男子は青色の傘を美紀に手渡すと「僕たち雨に恵まれてますね」と言い残して男子は立ち去った。
「雨に、恵まれてる……か」
はだしのままローファーを履き、ガッポガッポと雑な音を立てながら美紀は帰路についた。
譲ってもらった、青い傘を差して。
※
そこからしばらくは、正に真夏。雨なんか降る気配すら見せず、このままなら深刻な水不足になるんじゃないか。そんなニュースが駆け回る中、美紀は心を躍らせていた。
今日は、あの日みたいに部活が休み。
そんなときはだいたい――と、予想通りにゲリラ豪雨が降り注ぐ。
ただ、準備は万全。あの日貰った青色の傘を差しながら帰路についていると、あのバス停へ。
今日はどうやら、美紀の方が遅かったらしい。男子が、初めて会ったあの日と同じように時刻表の横に立ち竦んでいた。
「こんばんわ」
「あ、こんばんは」
「良かったら一緒に帰りません?」
「いいんですか?」
「はい。この傘いただいたお礼です。方向も多分同じですよね」
「あ、じゃあ……」と、男子は美紀の傘の中に入って雨の下へ出た。
※
「なーに、それ」
美紀のカバンについているストラップを見た同級生が、意地悪な顔をして話しかけてくる。
「この間水族館行ってさ。その時に買ったの」
「えっ⁉ あんだけ水嫌いだったのに。ストラップも青いし」
「最近好きなんだよね、水も雨も、青も」
「何があったの?」
「うーんと……なんていうのかな」
言葉に迷いながら、ふとカバンの中を見る。
コンビニで安く売っている、青い折り畳み傘が目に入ると「ふふっ」と笑いながら美紀はこう返した。
「ひょんなことでさ、青色が好きになったの」
「なんじゃそりゃ。青に革命起きてんじゃん」
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「へっ?」
「私に今起きてる現象は……青色革命! 間違いない!」
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