拙さと、儚さと、喧しさと。~『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕~

殿馬 莢

文字の大きさ
721 / 734
第11章 春よ、来い

エピソード60-18

ザ・リッチ・カールトン東京 和食レストラン『山岡』

 大司教は静流を隣に座らせ、お酌をさせている。
 それを見たシャルルが大司教をからかった。

「もしかしてモーフィアス卿、シズルを『茶坊主』にスカウトしようとしていますね?」
「これこれチミたち、 ひとの心の中を覗くでないぞ」

 そう言った大司教は、何故か顔を若干赤らめた。

「茶ボウズ? ああ。 からくり人形の?」

 静流が思い浮かべたのは、江戸時代に有名な人形師が作った『茶運び人形』の事だろう。

「ん? まぁ、それに近いかな?」
「人形か。 言い得て妙だな……」

 シャルルたちは頬をポリポリと掻いた。
 そのやり取りを見ていた睦美が広美に聞いた。

「今、 気になるワードがあったな?」
「ああ……確かに聞き捨てならないワードだ」

 広美は隣にいるジルに聞いた。
 
「ジルベール殿、 『茶坊主』とはどの様な意味で?」
「それはですね……」

 ジルは返答に困っていた。
 茶坊主の本来の意味は、江戸時代に将軍や大名に仕え、茶の湯の世話や来客の接待、城内の雑用などを行った人物を指す。
 ありていに言えば『使い走り』である。

「やはり『雑用係』、いわゆる『パシリ』という事ですな?」
「それだけなら良いのですが……」
「まだ何か? まさか……」

 ジルのたどたどしい態度に、睦美と広美が顔を見合わせた。

「……はい。 添い寝や『下の世話』もあるとか……」
「何だって!?」
「けしからん! 実にけしからん!」

 広海は若干大きめに声を荒げた。
 それに反応した大司教が両手を広げて広海を制した。

「気分を害されたのなら謝罪する。『茶坊主』とは大きな意味で『弟子』である」
「弟子? 理由を聞いても?」

 広海は眉間にしわを寄せた。

「シズルは女神シズルカを自由に呼ぶ事が出来る事が分かった。 それは我が教団にとって喜ぶべき事である半面、 不安要素もある」
「それは権能の『乱用』を危惧されているのですか?」

 今まで黙っていたジルが、大司教に意見した。

「左様。 この権能はみだりに使ってはならんのだ」
「ですから、 使用には制限を設けているのです!」
 
 ジルは大司教に強めに言った。

「今はな。 しかし、 今後の対応はどうするのだ?」
「そ、 それは……」

 大司教にそう言われ、ジルは言い返せない自分に苛立ちを感じた。

「モノリスに女神シズルカの名が刻まれた以上、 シズルを正しい道に導かねばならんのだ」
「それは勿論、 わかっております……」

 沈黙が訪れたと同時に、店員が椀物と刺身を運んで来た。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 順調に料理を堪能し、満足げの大司教。
 そこに、今回のメインであろう料理が卓に運ばれた。

「『寒ビラメの塩焼き』でございます」

 夕食会が和食だと知った時、メインはなるべく焼き魚は避けたかった静流。
 しかし、静流は落ち着いた表情で器用に身と骨を分け、口に運んでいた。
 大司教は静流の箸さばきを感心しながら見ていた。

「ほう。 なかなか器用だな?」
「はい。 今日の為に特訓しましたから」パァァ

 大司教に褒められ、静流は満面の笑みを浮かべた。

「うほっ!? おぉぉ……」

 その笑顔を目の当たりにした大司教は、素っ頓狂な声を上げた。
 その様子を見た睦美が、ニヤつきながら広海に言った。

「見て見ろ親父殿、 大司教が静流キュンの『洗礼』を受けたようだぞ?」
「『洗礼』か……待てよ? ジルベール殿!」

 ふと何かに気付いた広海が、ジルに耳打ちした。

「おお! そうですね。 それは名案です!」

 そう言ってジルと広海は頷きあった。
 大司教は静流に向き直った。

「時にシズル、 シズルカ様に『憑依』されている時の記憶は全くないのか?」
「いえ、 それが……シズルカのビジョン、 というか……断片的に覚えている所があるんです」
「ほう。 それはどのようなビジョンなのだ?」

 大司教は静流の言葉を興味深く聞いている。

「僕と同じ……桃色の髪をした、 母に似た人と僕より年上の男性と女性、 それにあと何人かの人が砂漠? の様な所にいる映像でした」

 静流の説明はえらく鮮明だったのは言うまでもない。
 静流が言った事に、広海が反応した。

「それは恐らく、五十嵐庵クンのご家族でしょう」
「イオリの?」
「そうです」

 広海は些か芝居がかりながら語った。

「私どもの調べでは、 五十嵐モモさんと息子さんたちは地球ではない『ある星』に『転送』されたと見ています」
「『断捨離の儀』に『裁きの書』が使われたと言いたいのだな?」
「ええその通り。 ある所では『星流しの刑』と呼ばれています」

 広海の話を聞き、大司教は顔をしかめた。

「噂に聞いた程度だが、 政治的に支障となる者を排除する為に使用された事があると……」
「行方不明者の中には大物革命家もいるとの報告もありますね」

 大司教は大きなため息を吐いた。

「禁書を私的に使用するなど、 あってはならない行為だ」
「では、 本格的に調査を進めて下さると?」
「無論だ」

 モモたちの解放にまた一歩近づいた手ごたえを感じ、睦美は心の中でガッツポーズを取った。
感想 1

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》

盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。  ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……  始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。    さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!