16 / 59
第一章
16、景気よく、一本イッとく?
「やっべー……忍者さんケダモノじゃん、うへへへへへへぇ……」
ルビーは駅の入り口からだらけきった顔を覗かせ、呟いた。
もちろん、というか、例によって、アクアとセルジュの性交をじっくり眺め、十分に堪能して。
治療してもらったあと、すぐにアクアの後ろについて動向を見守っていたのだが、思っていた以上の濃厚なラブシーンを拝むことができた。
「やっぱイイッ! 美形同士の濃厚な絡みは堪りませんなァ……! 苦労した分、感動も快感も一入だァ……うひ、うひひひひひひっ」
恍惚の表情を浮かべ、ルビーは舞台装置が上手くいった喜びを噛み締める。
思い返せば、人払いをするところから始まり、屋外でセルジュと事に及ばせるまで、すべてが綱渡りであった。
人通りが途切れぬ街の往来、駅前、駅構内。まともな思考の持ち主であれば、まずこんなところで性交しようなどとは思わないだろう。
だが、アクアをセルジュと引き合わせて連れ去られるのは、非常に都合が悪い。セルジュの根城が、難攻不落の要塞でもあったら攻略するのに時間がかかる。ふたりの絡み合いを楽しみたい気持ちはあれど、それはあくまでもアクアの安全が確保できていることが前提でなければならない。
アクアの安全。それすなわち、ルビーの監視の目が届き、いつでも助けられる状況を指している。
だからルビーは、アクアが安心して犯される舞台を整えることにした。
「ふへへへへへ……街をめちゃくちゃにしながら殴られたかいがあったってモンだぜ……! 今回はかなりハードル高かったけど、イイッ! 最ッッッ高……!」
まず、セルジュと戦闘を展開し、攻撃を仕掛けるついでに建造物を破壊しまくった。駅から人を遠ざけるために。目論み通り、人々は恐怖に駆られて逃げていった。これで無人の屋外が完成したことになる。
次にアクアを呼び寄せなければならなかったが、これは簡単だった。
いくら調子が優れないとはいえ、ルビーがピンチと知れば、アクアがすぐさま駆けつけてくることは目に見えていた。困っている人を放っておけない、それも仲間の窮地とあればなおさら。アクアとは、そういう性分なのだ。
なのでルビーは、駅から人がいなくなったのを確認してから、わざとセルジュの攻撃を受けた。満身創痍になったと救援信号を発信すると、ルビーの目論見通りアクアは十五分と経たないうちに姿を現した。
問題は、アクアが駅に来たそのあと。セルジュがこの場でアクアと交わってくれるかどうか。その一点だ。
はっきりいって、あまり期待はしていなかった。セルジュからすれば、こんな屋外でアクアを犯す理由がない。アクアに種付けしなければならないのだとしても、どう考えたって自分の領域に連れ帰るのがいいに決まっているし、セルジュもその腹積もりだったはずだ。
なので、ルビーはセルジュがアクアを連れ去る素振りを見せたら、すぐ助けに入る予定だった。セルジュがこの場でアクアを襲ってくれたら万々歳、ぐらいの気持ちでいたのだが。
僥倖だった。アクアがツクヨミと獣融化したのも、その姿を目の当たりにしたセルジュが、激しく欲情したのも。
ルビーの斜め上を行く努力と、様々な偶然が重なり、本願である『アクアとセルジュの性交』を堪能できたのは、本当に運が良かった。
「わかるぅ、わかるよぉ……ウサギアクアちゃんも可愛いもんねぇ。えちえちすぎて、忍者さん、襲わずにはいられなかったんだよねぇ……ぐぇへへへへへ」
脳内麻薬を大量に分泌させ悶えていたルビーだったが、頬をフェーのくちばしで突っつかれて我に返る。薔薇色の視界が明けると、セルジュの足元から黒い手が伸びていくのが見えた。黒い手は、ショーウインドウの前で横たわるアクアを持ち上げて大事そうに抱きかかえる。この光景は以前にも見た。どうやらヤることをやって満足したセルジュは、いよいよアクアを連れ帰るつもりらしい。
「ありゃ。アクアちゃん、まぁた気絶しちゃったのか。フィニッシュで気絶するえっちって、どんだけ激しいんだ。男はケダモノ、狼、猛獣だぁ。怖いねぇ、フェーちゃん?」
心にもないことを口にしつつ、ルビーは顎に指を添えて首をわずかに傾ける。
「うーん、このまま泳がせて、敵のアジトを突き止めるのもひとつの手だよねぇ。でも、そしたらファイブが壊滅させろー、ってうるさそうだしぃ。まだ生かしときたいから、今回はフツーにアクアちゃん助けるかなー。となると、忍者さんの足止めをしないとだねぇ」
アクアを奪還したとしても、セルジュに付き纏われたのでは鼬ごっこになってしまう。セルジュには、ここで死なない程度に再起不能になってもらう必要がある。
「んじゃ、景気よく脚の骨一本ぐらいイッとこうか、パキッと!」
ルビーが実に清々しい笑顔で言い放った瞬間、空気が凍りついた。フェーのくりくりとした目が、途端に細くなる。
「ルビー、怖イ」
「ええー、なんでー? 怖くないよ、ちゃんと綺麗に折るから! フェーちゃん知ってる? 骨って綺麗に折ると綺麗に治るんだって~。アクアちゃんを気持ちよくしてくれる忍者さんの大事な身体だもん、壊したりしないって! そういうわけだから、とうッッ!」
誰が聞いても何一つ腑に落ちないであろう言葉を発し、ルビーは駅の入り口から飛び出した。瞬時にセルジュの目の前へと躍り出たルビーが、拳に炎を纏わせ見事なヒーローポーズを決める。
「不死鳥のごとく、ルビーメダリオン華々しく大・復・活! さぁ、アクアちゃんを返してもらうぞぉ!」
「……あれだけ痛めつけてやったのに、よく歯向かってこられるものだ」
セルジュはルビーの姿を認めると、黒い手を背後に下がらせて態勢を整えた。この構えにも見覚えがある。ゲームセンターで対峙した際に放たれた、一撃必殺の貫手の構えだ。
「その胆力だけは褒めてやらんこともない。だが、お前はここで終いだ」
一触即発の緊張感が、ルビーとセルジュの間を駆け抜ける。互いに距離をじりじりと詰めていき、あと数ミリでも近づけば、両雄、大地を踏み切って飛びかかるだろう、といった間合いに入った、そのときだった。
ルビーとセルジュを分断するように、銀色の鎚が打ち下ろされた。地面が木殺しの中心で穿たれ、コンクリートの破片が飛び散り、ルビーの勢いは殺されてしまった。
「やあ、こんにちは」
銀鎚の柄を持つ男が、ルビーにそう声をかけた。実に軽快に、まるで知己に出会ったかのような気軽さで。
しかしルビーは、鎚を持つこの男の異様さに驚き、ステップバックで大きく距離を取った。
安全圏に入ったところで、男の姿をまじまじと見てみる。
背丈はセルジュよりも少々高い。目測になるが、おそらく一九〇は越えているだろう。
それにしても、珍妙な恰好だった。
スチームパンク調のゴーグルとガスマスクを着用し、黒いフードを被っており素顔が見えない。それどころか、人間然としているのはそのフードの隙間から垂れ下がっている緩い三つ編みで結われた銀髪ぐらいなもので、他は生身の部分がいっさい伺えなかった。声を聞かなかったら、性別すら判別できなかっただろう。
光沢はあるが、傷だらけのなめし革製エプロンにズボン。両腕両脚を覆うのは錆びついた籠手と脛当て。肩や胸にも、様々な金属板を繋ぎ合わせた装身具を纏っている。ジャンク品やスクラップ品を継ぎ接ぎにして造った鍛冶師。銀色の槌を肩に担ぐ男を見て、ルビーはそんな印象を抱いていた。
「シリウス! 一度ならず、二度も邪魔だてする気か!」
セルジュが、鍛冶師の背に向かって吼える。
「いや、もうホント、勘弁してくれよ。俺がどれだけの時間を費やしてきたか、セルジュだってわかっているだろう? 段取りを台無しにしないでくれよ、頼むから」
シリウス。この鍛冶師の名前だろう。そして先ほどから、どこかで聞いた声だと思っていたルビーだったが、これで合点がいった。このシリウスという男は、ゲームセンターで聞いた謎の声の主だ。
つまり、それは。
「そこのなんちゃってC-3POさんも、ジェバイデッドの人だよね」
ルビーが弱冠の警戒心を含んで問うと、シリウスがその無機質な頭部を向けてきた。
「どうも。そういう君は、地球史上最強と名高いヒーロー、ルビーメダリオンか。参ったな、まだ君と事を構えたくないんだ。ここはひとつ、穏便に済ませてくれないかな?」
敵意は感じられないし、挑発的な態度というわけでもない。シリウスの口調からは、それなりの誠実さが伝わってくる。
だが、ジェバイデッド人であれば紛うことなくルビーたちの敵だ。その一点だけでも、提案をすんなり呑み込めない理由としては十分だろう。
「寝言はスクラップになってから言って欲しいなぁ、焼却処分してあげよっか? ジェバイデッドの人たちは、地球を侵略しに来たんでしょ? 一応、地球を守る正義の味方なんてやってる身の上、ただでお帰りいただくわけにはいかないんだなぁ。それよりもなによりも、私のアクアちゃんを返してもらわなきゃいけないし」
「私のアクアちゃん?」
シリウスは首を傾いだ勢いで振り返った。その目線の先に、セルジュから発生した黒い手に抱えられているアクアの姿がある。
「ああ、アクアマリンメダリオンか。どうして“闇の腕”が持っているんだ」
「この女が、俺の所有物だからだ」
セルジュはそう言い切った。まったく言い澱みもせずに。そんな図々しさに、ルビーが黙っていられるはずもない。
「テメーのじゃねぇって何遍言ったら理解すんだ、おお? 耳の穴にライフル弾ぶち込んで、風通り良くしてやんねぇといけねぇみてぇだなぁぁぁ!?」
そう言うや否や、ルビーはフェーを狙撃銃に変えて構えた。狙いは言うまでもなくセルジュなのだが、その手前に障害物がいる。スコープの標準は、そのシリウスのゴーグルに当てられていた。
しかしシリウスはライフルの銃口に怯むことなく、尚もセルジュと会話を続ける。
「セルジュ。お前、人様の恋人を分捕ったのか?」
「女はより強い男の元に流れる。自然の摂理だ」
「いや、引くわ……野生の獣かお前は。少しは成長したかと思ってたのに、昔とちっとも変わってないじゃないか」
ガスマスクから溜め息を吐き出し、シリウスは頭を横に振った。
そのシリウスの服の裾から、幾本ものチューブやケーブルが生えてきた。機械でできた触手とでも呼べばいいのか、それらに紛れて、ロボットアームのような大きな腕が二本、黒い手に抱えられているアクアの方へと伸びていく。アームは黒い手からアクアを奪い取ると、方向転換してルビーの方へと向かい、その小さな胸に押し付けた。
「え、ええ?」
ルビーが戸惑うままにアクアを受け取ると、アームは瞬時に縮んでシリウスの背に消える。
突然アクアを返還されて困惑してるのはルビーだけにあらず、セルジュもだった。
「ふざけるな、シリウス! その女は俺の戦利品だぞ! 第一、お前には危急の事態だと伝えたはずだろう!」
「あの娘じゃなきゃ、性的反応が起こらないってヤツか? お前な、この地球にどれだけの女性がいると思ってるんだ? 地球中捜しまわれば、他にも欲情できるような人が見つかるって。今は事を荒立てない方が優先なんだ、あの娘は諦めろ」
仲間であるはずのジェバイデッド人ふたりが、言い争いを展開している。
すっかり置いてけぼりになったルビーがどう対処しようかと悩んでいると、腕の中のアクアが身じろいだ。
「う、ん……ルビーさん……?」
ルビーは駅の入り口からだらけきった顔を覗かせ、呟いた。
もちろん、というか、例によって、アクアとセルジュの性交をじっくり眺め、十分に堪能して。
治療してもらったあと、すぐにアクアの後ろについて動向を見守っていたのだが、思っていた以上の濃厚なラブシーンを拝むことができた。
「やっぱイイッ! 美形同士の濃厚な絡みは堪りませんなァ……! 苦労した分、感動も快感も一入だァ……うひ、うひひひひひひっ」
恍惚の表情を浮かべ、ルビーは舞台装置が上手くいった喜びを噛み締める。
思い返せば、人払いをするところから始まり、屋外でセルジュと事に及ばせるまで、すべてが綱渡りであった。
人通りが途切れぬ街の往来、駅前、駅構内。まともな思考の持ち主であれば、まずこんなところで性交しようなどとは思わないだろう。
だが、アクアをセルジュと引き合わせて連れ去られるのは、非常に都合が悪い。セルジュの根城が、難攻不落の要塞でもあったら攻略するのに時間がかかる。ふたりの絡み合いを楽しみたい気持ちはあれど、それはあくまでもアクアの安全が確保できていることが前提でなければならない。
アクアの安全。それすなわち、ルビーの監視の目が届き、いつでも助けられる状況を指している。
だからルビーは、アクアが安心して犯される舞台を整えることにした。
「ふへへへへへ……街をめちゃくちゃにしながら殴られたかいがあったってモンだぜ……! 今回はかなりハードル高かったけど、イイッ! 最ッッッ高……!」
まず、セルジュと戦闘を展開し、攻撃を仕掛けるついでに建造物を破壊しまくった。駅から人を遠ざけるために。目論み通り、人々は恐怖に駆られて逃げていった。これで無人の屋外が完成したことになる。
次にアクアを呼び寄せなければならなかったが、これは簡単だった。
いくら調子が優れないとはいえ、ルビーがピンチと知れば、アクアがすぐさま駆けつけてくることは目に見えていた。困っている人を放っておけない、それも仲間の窮地とあればなおさら。アクアとは、そういう性分なのだ。
なのでルビーは、駅から人がいなくなったのを確認してから、わざとセルジュの攻撃を受けた。満身創痍になったと救援信号を発信すると、ルビーの目論見通りアクアは十五分と経たないうちに姿を現した。
問題は、アクアが駅に来たそのあと。セルジュがこの場でアクアと交わってくれるかどうか。その一点だ。
はっきりいって、あまり期待はしていなかった。セルジュからすれば、こんな屋外でアクアを犯す理由がない。アクアに種付けしなければならないのだとしても、どう考えたって自分の領域に連れ帰るのがいいに決まっているし、セルジュもその腹積もりだったはずだ。
なので、ルビーはセルジュがアクアを連れ去る素振りを見せたら、すぐ助けに入る予定だった。セルジュがこの場でアクアを襲ってくれたら万々歳、ぐらいの気持ちでいたのだが。
僥倖だった。アクアがツクヨミと獣融化したのも、その姿を目の当たりにしたセルジュが、激しく欲情したのも。
ルビーの斜め上を行く努力と、様々な偶然が重なり、本願である『アクアとセルジュの性交』を堪能できたのは、本当に運が良かった。
「わかるぅ、わかるよぉ……ウサギアクアちゃんも可愛いもんねぇ。えちえちすぎて、忍者さん、襲わずにはいられなかったんだよねぇ……ぐぇへへへへへ」
脳内麻薬を大量に分泌させ悶えていたルビーだったが、頬をフェーのくちばしで突っつかれて我に返る。薔薇色の視界が明けると、セルジュの足元から黒い手が伸びていくのが見えた。黒い手は、ショーウインドウの前で横たわるアクアを持ち上げて大事そうに抱きかかえる。この光景は以前にも見た。どうやらヤることをやって満足したセルジュは、いよいよアクアを連れ帰るつもりらしい。
「ありゃ。アクアちゃん、まぁた気絶しちゃったのか。フィニッシュで気絶するえっちって、どんだけ激しいんだ。男はケダモノ、狼、猛獣だぁ。怖いねぇ、フェーちゃん?」
心にもないことを口にしつつ、ルビーは顎に指を添えて首をわずかに傾ける。
「うーん、このまま泳がせて、敵のアジトを突き止めるのもひとつの手だよねぇ。でも、そしたらファイブが壊滅させろー、ってうるさそうだしぃ。まだ生かしときたいから、今回はフツーにアクアちゃん助けるかなー。となると、忍者さんの足止めをしないとだねぇ」
アクアを奪還したとしても、セルジュに付き纏われたのでは鼬ごっこになってしまう。セルジュには、ここで死なない程度に再起不能になってもらう必要がある。
「んじゃ、景気よく脚の骨一本ぐらいイッとこうか、パキッと!」
ルビーが実に清々しい笑顔で言い放った瞬間、空気が凍りついた。フェーのくりくりとした目が、途端に細くなる。
「ルビー、怖イ」
「ええー、なんでー? 怖くないよ、ちゃんと綺麗に折るから! フェーちゃん知ってる? 骨って綺麗に折ると綺麗に治るんだって~。アクアちゃんを気持ちよくしてくれる忍者さんの大事な身体だもん、壊したりしないって! そういうわけだから、とうッッ!」
誰が聞いても何一つ腑に落ちないであろう言葉を発し、ルビーは駅の入り口から飛び出した。瞬時にセルジュの目の前へと躍り出たルビーが、拳に炎を纏わせ見事なヒーローポーズを決める。
「不死鳥のごとく、ルビーメダリオン華々しく大・復・活! さぁ、アクアちゃんを返してもらうぞぉ!」
「……あれだけ痛めつけてやったのに、よく歯向かってこられるものだ」
セルジュはルビーの姿を認めると、黒い手を背後に下がらせて態勢を整えた。この構えにも見覚えがある。ゲームセンターで対峙した際に放たれた、一撃必殺の貫手の構えだ。
「その胆力だけは褒めてやらんこともない。だが、お前はここで終いだ」
一触即発の緊張感が、ルビーとセルジュの間を駆け抜ける。互いに距離をじりじりと詰めていき、あと数ミリでも近づけば、両雄、大地を踏み切って飛びかかるだろう、といった間合いに入った、そのときだった。
ルビーとセルジュを分断するように、銀色の鎚が打ち下ろされた。地面が木殺しの中心で穿たれ、コンクリートの破片が飛び散り、ルビーの勢いは殺されてしまった。
「やあ、こんにちは」
銀鎚の柄を持つ男が、ルビーにそう声をかけた。実に軽快に、まるで知己に出会ったかのような気軽さで。
しかしルビーは、鎚を持つこの男の異様さに驚き、ステップバックで大きく距離を取った。
安全圏に入ったところで、男の姿をまじまじと見てみる。
背丈はセルジュよりも少々高い。目測になるが、おそらく一九〇は越えているだろう。
それにしても、珍妙な恰好だった。
スチームパンク調のゴーグルとガスマスクを着用し、黒いフードを被っており素顔が見えない。それどころか、人間然としているのはそのフードの隙間から垂れ下がっている緩い三つ編みで結われた銀髪ぐらいなもので、他は生身の部分がいっさい伺えなかった。声を聞かなかったら、性別すら判別できなかっただろう。
光沢はあるが、傷だらけのなめし革製エプロンにズボン。両腕両脚を覆うのは錆びついた籠手と脛当て。肩や胸にも、様々な金属板を繋ぎ合わせた装身具を纏っている。ジャンク品やスクラップ品を継ぎ接ぎにして造った鍛冶師。銀色の槌を肩に担ぐ男を見て、ルビーはそんな印象を抱いていた。
「シリウス! 一度ならず、二度も邪魔だてする気か!」
セルジュが、鍛冶師の背に向かって吼える。
「いや、もうホント、勘弁してくれよ。俺がどれだけの時間を費やしてきたか、セルジュだってわかっているだろう? 段取りを台無しにしないでくれよ、頼むから」
シリウス。この鍛冶師の名前だろう。そして先ほどから、どこかで聞いた声だと思っていたルビーだったが、これで合点がいった。このシリウスという男は、ゲームセンターで聞いた謎の声の主だ。
つまり、それは。
「そこのなんちゃってC-3POさんも、ジェバイデッドの人だよね」
ルビーが弱冠の警戒心を含んで問うと、シリウスがその無機質な頭部を向けてきた。
「どうも。そういう君は、地球史上最強と名高いヒーロー、ルビーメダリオンか。参ったな、まだ君と事を構えたくないんだ。ここはひとつ、穏便に済ませてくれないかな?」
敵意は感じられないし、挑発的な態度というわけでもない。シリウスの口調からは、それなりの誠実さが伝わってくる。
だが、ジェバイデッド人であれば紛うことなくルビーたちの敵だ。その一点だけでも、提案をすんなり呑み込めない理由としては十分だろう。
「寝言はスクラップになってから言って欲しいなぁ、焼却処分してあげよっか? ジェバイデッドの人たちは、地球を侵略しに来たんでしょ? 一応、地球を守る正義の味方なんてやってる身の上、ただでお帰りいただくわけにはいかないんだなぁ。それよりもなによりも、私のアクアちゃんを返してもらわなきゃいけないし」
「私のアクアちゃん?」
シリウスは首を傾いだ勢いで振り返った。その目線の先に、セルジュから発生した黒い手に抱えられているアクアの姿がある。
「ああ、アクアマリンメダリオンか。どうして“闇の腕”が持っているんだ」
「この女が、俺の所有物だからだ」
セルジュはそう言い切った。まったく言い澱みもせずに。そんな図々しさに、ルビーが黙っていられるはずもない。
「テメーのじゃねぇって何遍言ったら理解すんだ、おお? 耳の穴にライフル弾ぶち込んで、風通り良くしてやんねぇといけねぇみてぇだなぁぁぁ!?」
そう言うや否や、ルビーはフェーを狙撃銃に変えて構えた。狙いは言うまでもなくセルジュなのだが、その手前に障害物がいる。スコープの標準は、そのシリウスのゴーグルに当てられていた。
しかしシリウスはライフルの銃口に怯むことなく、尚もセルジュと会話を続ける。
「セルジュ。お前、人様の恋人を分捕ったのか?」
「女はより強い男の元に流れる。自然の摂理だ」
「いや、引くわ……野生の獣かお前は。少しは成長したかと思ってたのに、昔とちっとも変わってないじゃないか」
ガスマスクから溜め息を吐き出し、シリウスは頭を横に振った。
そのシリウスの服の裾から、幾本ものチューブやケーブルが生えてきた。機械でできた触手とでも呼べばいいのか、それらに紛れて、ロボットアームのような大きな腕が二本、黒い手に抱えられているアクアの方へと伸びていく。アームは黒い手からアクアを奪い取ると、方向転換してルビーの方へと向かい、その小さな胸に押し付けた。
「え、ええ?」
ルビーが戸惑うままにアクアを受け取ると、アームは瞬時に縮んでシリウスの背に消える。
突然アクアを返還されて困惑してるのはルビーだけにあらず、セルジュもだった。
「ふざけるな、シリウス! その女は俺の戦利品だぞ! 第一、お前には危急の事態だと伝えたはずだろう!」
「あの娘じゃなきゃ、性的反応が起こらないってヤツか? お前な、この地球にどれだけの女性がいると思ってるんだ? 地球中捜しまわれば、他にも欲情できるような人が見つかるって。今は事を荒立てない方が優先なんだ、あの娘は諦めろ」
仲間であるはずのジェバイデッド人ふたりが、言い争いを展開している。
すっかり置いてけぼりになったルビーがどう対処しようかと悩んでいると、腕の中のアクアが身じろいだ。
「う、ん……ルビーさん……?」
あなたにおすすめの小説
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?