宝環戦士メダリオン ~変身ヒロインに対するえっちな展開が終わらない、ただひとつの原因~

蟹江ビタコ

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第一章

16、景気よく、一本イッとく?

「やっべー……忍者さんケダモノじゃん、うへへへへへへぇ……」

 ルビーは駅の入り口からだらけきった顔を覗かせ、呟いた。
 もちろん、というか、例によって、アクアとセルジュの性交をじっくり眺め、十分に堪能して。

 治療してもらったあと、すぐにアクアの後ろについて動向を見守っていたのだが、思っていた以上の濃厚なラブシーンを拝むことができた。

「やっぱイイッ! 美形同士の濃厚な絡みは堪りませんなァ……! 苦労した分、感動も快感も一入ひとしおだァ……うひ、うひひひひひひっ」

 恍惚の表情を浮かべ、ルビーは舞台装置セッティングが上手くいった喜びを噛み締める。
 思い返せば、人払いをするところから始まり、屋外でセルジュと事に及ばせるまで、すべてが綱渡りであった。

 人通りが途切れぬ街の往来、駅前、駅構内。まともな思考の持ち主であれば、まずこんなところで性交しようなどとは思わないだろう。
 だが、アクアをセルジュと引き合わせて連れ去られるのは、非常に都合が悪い。セルジュの根城が、難攻不落の要塞でもあったら攻略するのに時間がかかる。ふたりの絡み合いを楽しみたい気持ちはあれど、それはあくまでもアクアの安全が確保できていることが前提でなければならない。

 アクアの安全。それすなわち、ルビーの監視の目が届き、いつでも助けられる状況を指している。

 だからルビーは、アクアが安心して犯される舞台を整えることにした。

「ふへへへへへ……街をめちゃくちゃにしながら殴られたかいがあったってモンだぜ……! 今回はかなりハードル高かったけど、イイッ! 最ッッッ高……!」

 まず、セルジュと戦闘を展開し、攻撃を仕掛けるついでに建造物を破壊しまくった。駅から人を遠ざけるために。目論み通り、人々は恐怖に駆られて逃げていった。これで無人の屋外が完成したことになる。

 次にアクアを呼び寄せなければならなかったが、これは簡単だった。
 いくら調子が優れないとはいえ、ルビーがピンチと知れば、アクアがすぐさま駆けつけてくることは目に見えていた。困っている人を放っておけない、それも仲間ルビーの窮地とあればなおさら。アクアとは、そういう性分なのだ。
 なのでルビーは、駅から人がいなくなったのを確認してから、わざとセルジュの攻撃を受けた。満身創痍になったと救援信号を発信すると、ルビーの目論見通りアクアは十五分と経たないうちに姿を現した。
 
 問題は、アクアが駅に来たそのあと。セルジュがこの場でアクアと交わってくれるかどうか。その一点だ。

 はっきりいって、あまり期待はしていなかった。セルジュからすれば、こんな屋外でアクアを犯す理由がない。アクアに種付けしなければならないのだとしても、どう考えたって自分の領域に連れ帰るのがいいに決まっているし、セルジュもその腹積もりだったはずだ。
 
 なので、ルビーはセルジュがアクアを連れ去る素振りを見せたら、すぐ助けに入る予定だった。セルジュがこの場でアクアを襲ってくれたら万々歳、ぐらいの気持ちでいたのだが。

 僥倖ぎょうこうだった。アクアがツクヨミと獣融化したのも、その姿を目の当たりにしたセルジュが、激しく欲情したのも。
 ルビーの斜め上を行く努力と、様々な偶然が重なり、本願である『アクアとセルジュの性交』を堪能できたのは、本当に運が良かった。
 
「わかるぅ、わかるよぉ……ウサギアクアちゃんも可愛いもんねぇ。えちえちすぎて、忍者さん、襲わずにはいられなかったんだよねぇ……ぐぇへへへへへ」

 脳内麻薬を大量に分泌させ悶えていたルビーだったが、頬をフェーのくちばしで突っつかれて我に返る。薔薇色の視界が明けると、セルジュの足元から黒い手が伸びていくのが見えた。黒い手は、ショーウインドウの前で横たわるアクアを持ち上げて大事そうに抱きかかえる。この光景は以前にも見た。どうやらヤることをやって満足したセルジュは、いよいよアクアを連れ帰るつもりらしい。

「ありゃ。アクアちゃん、まぁた気絶しちゃったのか。フィニッシュで気絶するえっちって、どんだけ激しいんだ。男はケダモノ、狼、猛獣だぁ。怖いねぇ、フェーちゃん?」

 心にもないことを口にしつつ、ルビーは顎に指を添えて首をわずかに傾ける。

「うーん、このまま泳がせて、敵のアジトを突き止めるのもひとつの手だよねぇ。でも、そしたらファイブ女王さまが壊滅させろー、ってうるさそうだしぃ。まだ生かしときたいから、今回はフツーにアクアちゃん助けるかなー。となると、忍者さんの足止めをしないとだねぇ」

 アクアを奪還したとしても、セルジュに付き纏われたのでは鼬ごっこになってしまう。セルジュには、ここで死なない程度に再起不能になってもらう必要がある。

「んじゃ、景気よく脚の骨一本ぐらいイッとこうか、パキッと!」

 ルビーが実に清々しい笑顔で言い放った瞬間、空気が凍りついた。フェーのくりくりとした目が、途端に細くなる。

「ルビー、怖イ」

「ええー、なんでー? 怖くないよ、ちゃんと綺麗に折るから! フェーちゃん知ってる? 骨って綺麗に折ると綺麗に治るんだって~。アクアちゃんを気持ちよくしてくれる忍者さんの大事な身体だもん、壊したりしないって! そういうわけだから、とうッッ!」

 誰が聞いても何一つ腑に落ちないであろう言葉を発し、ルビーは駅の入り口から飛び出した。瞬時にセルジュの目の前へと躍り出たルビーが、拳に炎を纏わせ見事なヒーローポーズを決める。

「不死鳥のごとく、ルビーメダリオン華々しく大・復・活! さぁ、アクアちゃんを返してもらうぞぉ!」

「……あれだけ痛めつけてやったのに、よく歯向かってこられるものだ」

 セルジュはルビーの姿を認めると、黒い手を背後に下がらせて態勢を整えた。この構えにも見覚えがある。ゲームセンターで対峙した際に放たれた、一撃必殺の貫手ぬきての構えだ。

「その胆力だけは褒めてやらんこともない。だが、お前はここでしまいだ」

 一触即発の緊張感が、ルビーとセルジュの間を駆け抜ける。互いに距離をじりじりと詰めていき、あと数ミリでも近づけば、両雄、大地を踏み切って飛びかかるだろう、といった間合いに入った、そのときだった。

 ルビーとセルジュを分断するように、銀色の鎚が打ち下ろされた。地面が木殺しの中心で穿たれ、コンクリートの破片が飛び散り、ルビーの勢いは殺されてしまった。

「やあ、こんにちは」

 銀鎚の柄を持つ男が、ルビーにそう声をかけた。実に軽快に、まるで知己に出会ったかのような気軽さで。
 しかしルビーは、鎚を持つこの男の異様さに驚き、ステップバックで大きく距離を取った。

 安全圏に入ったところで、男の姿をまじまじと見てみる。

 背丈はセルジュよりも少々高い。目測になるが、おそらく一九〇は越えているだろう。
 それにしても、珍妙な恰好だった。
 スチームパンク調のゴーグルとガスマスクを着用し、黒いフードを被っており素顔が見えない。それどころか、人間然としているのはそのフードの隙間から垂れ下がっている緩い三つ編みで結われた銀髪ぐらいなもので、他は生身の部分がいっさい伺えなかった。声を聞かなかったら、性別すら判別できなかっただろう。
 光沢はあるが、傷だらけのなめし革レザー製エプロンにズボン。両腕両脚を覆うのは錆びついた籠手ガントレット脛当てレガース。肩や胸にも、様々な金属板を繋ぎ合わせた装身具を纏っている。ジャンク品やスクラップ品を継ぎ接ぎにして造った鍛冶師。銀色の槌を肩に担ぐ男を見て、ルビーはそんな印象を抱いていた。

「シリウス! 一度ならず、二度も邪魔だてする気か!」

 セルジュが、鍛冶師の背に向かって吼える。

「いや、もうホント、勘弁してくれよ。俺がどれだけの時間を費やしてきたか、セルジュだってわかっているだろう? 段取りを台無しにしないでくれよ、頼むから」

 シリウス。この鍛冶師の名前だろう。そして先ほどから、どこかで聞いた声だと思っていたルビーだったが、これで合点がいった。このシリウスという男は、ゲームセンターで聞いた謎の声の主だ。
 つまり、それは。

「そこのなんちゃってC-3POさんも、ジェバイデッドの人だよね」

 ルビーが弱冠の警戒心を含んで問うと、シリウスがその無機質な頭部を向けてきた。

「どうも。そういう君は、地球史上最強と名高いヒーロー、ルビーメダリオンか。参ったな、まだ君と事を構えたくないんだ。ここはひとつ、穏便に済ませてくれないかな?」

 敵意は感じられないし、挑発的な態度というわけでもない。シリウスの口調からは、それなりの誠実さが伝わってくる。
 だが、ジェバイデッド人であれば紛うことなくルビーたちの敵だ。その一点だけでも、提案をすんなり呑み込めない理由としては十分だろう。

「寝言はスクラップになってから言って欲しいなぁ、焼却処分してあげよっか? ジェバイデッドの人たちは、地球を侵略しに来たんでしょ? 一応、地球を守る正義の味方なんてやってる身の上、ただでお帰りいただくわけにはいかないんだなぁ。それよりもなによりも、私のアクアちゃんを返してもらわなきゃいけないし」

「私のアクアちゃん?」

 シリウスは首を傾いだ勢いで振り返った。その目線の先に、セルジュから発生した黒い手に抱えられているアクアの姿がある。

「ああ、アクアマリンメダリオンか。どうして“闇のかいな”が持っているんだ」

「この女が、俺の所有物だからだ」

 セルジュはそう言い切った。まったく言い澱みもせずに。そんな図々しさに、ルビーが黙っていられるはずもない。 

「テメーのじゃねぇって何遍なんべん言ったら理解すんだ、おお? 耳の穴にライフル弾ぶち込んで、風通り良くしてやんねぇといけねぇみてぇだなぁぁぁ!?」

 そう言うや否や、ルビーはフェーを狙撃銃スナイパーライフルに変えて構えた。狙いは言うまでもなくセルジュなのだが、その手前に障害物シリウスがいる。スコープの標準は、そのシリウスのゴーグルに当てられていた。
 しかしシリウスはライフルの銃口に怯むことなく、尚もセルジュと会話を続ける。

「セルジュ。お前、人様の恋人を分捕ぶんどったのか?」

「女はより強い男の元に流れる。自然の摂理だ」

「いや、引くわ……野生の獣かお前は。少しは成長したかと思ってたのに、昔とちっとも変わってないじゃないか」

 ガスマスクから溜め息を吐き出し、シリウスは頭を横に振った。
 そのシリウスの服の裾から、幾本ものチューブやケーブルが生えてきた。機械でできた触手とでも呼べばいいのか、それらに紛れて、ロボットアームのような大きな腕が二本、黒い手に抱えられているアクアの方へと伸びていく。アームは黒い手からアクアを奪い取ると、方向転換してルビーの方へと向かい、その小さな胸に押し付けた。

「え、ええ?」

 ルビーが戸惑うままにアクアを受け取ると、アームは瞬時に縮んでシリウスの背に消える。
 突然アクアを返還されて困惑してるのはルビーだけにあらず、セルジュもだった。

「ふざけるな、シリウス! その女は俺の戦利品だぞ! 第一、お前には危急の事態だと伝えたはずだろう!」

「あの娘じゃなきゃ、性的反応が起こらないってヤツか? お前な、この地球にどれだけの女性がいると思ってるんだ? 地球中捜しまわれば、他にも欲情できるような人が見つかるって。今は事を荒立てない方が優先なんだ、あの娘は諦めろ」

 仲間であるはずのジェバイデッド人ふたりが、言い争いを展開している。
 すっかり置いてけぼりになったルビーがどう対処しようかと悩んでいると、腕の中のアクアが身じろいだ。

「う、ん……ルビーさん……?」
 
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