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第一章
18、実のところ、なにも解決していない
「徹底抗戦です」
白き神殿の祭祀場に、白の女王ファイブの声が反響した。
そのすぐ後に、黒筒の書状が床に叩きつけられる音が続く。そこに、ファイブの持つ錫杖から放たれた白光のビームが直撃し、書状がスパークを起こす。
(だよねぇ)
足元に転がってきた書状を拾いながら、ルビーは顔色ひとつ変えないファイブを前に、そうとわからぬよう肩を竦める。
ほんの数分前に、黒の帝国ジェバイデッドからの要請と、その旨が記された書状をファイブに渡したのだが、その答えがこれだ。
ファイブが強い拒絶反応を示すのはわかりきっていた。書状に目を通してもらうよう仕向けられただけでもよくやった方だと、ルビーは自分を褒め称えたい気分だった。
「外来種の受け入れなど有り得ません。たとえ塵程度だとしても、地球に悪影響を及ぼす可能性があるものは、駆除あるのみです」
ファイブは瞬きひとつせずに断言する。なるほど、外来種、と言わればファイブの考えが納得できないでもない。
こと地球においても、たった一匹の外来種混入により、元からその場所に生息していた在来種が絶滅してしまった、という問題が発生しているぐらいだ。
ジェバイデッド人を外来種、地球人を在来種に置き換えれば、受け入れを拒絶するのはごく自然なことに思えてきた。
しかも、ジェバイデッド人は地球人と同じように、いや、それ以上の知識と科学力を有している。そんな彼らを地球に迎え入れれば、政治的な問題も浮上するだろう。他にもどんな影響が出るか、予測がまったくつかない。
こうして考えてみれば、ファイブの言い分は道理が通っているように思う。
「外来種の汚れた遺伝子など、地球に散布されては敵いません。ジェバイデッド人は見つけ次第、駆除を。命令に変更はありません。良いですね」
ファイブはジェバイデッドの事情など一顧だにしない。ジェバイデッドが強大な力を有しているということも、まるで考慮していない。
ただ地球を守ること。ただそのひとつのことだけに、全身全霊をかけている。そんなファイブの頑なな意志を曲げるのは、きっと神でも無理だ。
「……了解でーす」
ルビーは生返事をし、祭祀場から出ていく。
向かった先は、祭祀場から少し離れた小部屋だ。ルビーが扉を押し開けた先にある部屋は、祭祀場と同じ真っ白い壁と床と天井で構成されている。そこに、ベッドと医療用具が並んでいた。サイバーチックとでもいえばいいのだろうか、いずれもSF映画にでも出てきそうな、先鋭的なデザインをしている。
ここは診療室だ。ちょうど診察が終了した直後だったのか、ルビーに気づいたアクアが、ベッドから身を乗り出して前のめりになる。残念なことに、ツクヨミとの獣融化は既に解かれており、通常の戦闘衣姿だった。
アクアは、ルビーの持つ黒煙を発する書状を一目見て悲し気に眉を下げる。
「……女王さまのお考えは、変わらないんですね」
「まあねー、ジェバイデッドの人に会ったら問答無用でビーム炸裂しそうな勢いだったよー。アクアちゃんの方は?」
ルビーが尋ねると、アクアの頬がぽっと色づいた。質問の意図は、もちろん“妊娠したかしなかったか”なのだが。口ごもるアクアに代わり、診察に当たっていたティモテオが答えてくれた。
「心配は無用です、ルビー殿。アクア殿は身籠っておりません」
「ふーん? 妊娠促進剤なんて言う割には、大したことないじゃーん」
言いながら、ルビーはこれまでのアクアとセルジュの性行為を思い返してみた。ふたりが会ったのはたったの二回と少ないが、その間にアクアが膣内射精された回数は優に十回を超えているはず。加え、妊娠促進剤を服用させられている。それにも関わらず、アクアは受精にも至っていない。これではアクアの不妊症、あるいはセルジュの無精子症を疑いたくなってくる。
だが、ルビーのその考えを否定するかのように、ティモテオが首を横に振った。
「いえ……アクア殿はいつ身籠ってもおかしくない状態ではあります。アクア殿が飲まされた薬は、強制的に排卵を促すもののようですので」
「じゃー、あの忍者さんが無精子症だ」
ルビーの無神経とも取れる発言に、ティモテオが眉間を揉む。
「そうではなくて……単純に、違う種族間では妊娠が成立しづらいということなのでしょう。交配が可能であるということと、交配しやすいかどうかは、また別問題ですから」
大きく溜息を吐いたあと、ティモテオはアクアの両手を強く握り、瞳を真っ直ぐに見据えた。
「清純なアクア殿には無用の忠告かもしれませんが……地球人の男性と、みだりに性交を行わないようにしてください。アクア殿が、今すぐ誰かの子を産みたいというのであれば、話は別ですが……」
「は、はえ……?」
そんなことを釘差されるとは、露ほどにも思っていなかったのだろう。アクアはカッと赤くなって、あからさまに動揺していた。そんなアクアに対し、ティモテオの忠告が続く。
「今回は相手が異星人だったから事なきを得たようなものですが、同じ種族同士で交わったらどうなるか、わかりますね?」
アクアが常時排卵している状態だと仮定して、そこに同種族の精子を注がれたら、どうなるか。ほぼ確実に、身籠るだろう。そんな有り様を想像してしまったのか、アクアの顔が赤いまま青褪めていった。
「あ、あの……ティオさん。その、ジェバイデッドの人から、薬の効果は、私が、に、妊娠するまで続くって、言われて……その間は、発情しっぱなしになるって……」
涙目になりながら、アクアは必死に言葉を紡いでいる。
「それで、一時的にでも発情を鎮めるには、せ、せ、精液を摂取するしかない、って……」
診察室に、痛いほどの静寂が訪れた。
まるでエロ漫画のような展開だなぁ、とルビーは思ったが、口には出さなかった。
アクアが薬の影響で発情した様子は、ルビーも目の当たりにしている。発情したままでは日常生活に支障が生じるであろうことは、容易に想像できた。だが、その発情を抑えるために必要なのが、精液とは。
ほぼ100%妊娠する身体に対して、精液。
一般的な結婚を経て、一般的に妊娠出産したいと考えている十六歳のアクアにとって、これほど絶望的な状況はないだろう。
「ど……どうにかなりませんか、ティオさん……」
アクアが弱々しく尋ねれば、ティモテオも困り果てたように額を押さえる。
「どう、と申されましても……」
そこからアクアとティモテオの問答が始まった。
ピルを飲めばどうか、精液と同じ成分のものを摂取すればいいのではないか、等々。話し合いは白熱しているが、どれも決定打に欠けるようで、両者の表情は決して明るくない。
「……わかりました。とにかく、媚薬と妊娠促進剤に対する中和剤を作成しましょう。ですが……我が白の聖王国ル・イエーの科学力をもってしても、すぐに中和剤が完成するとは限りません。おそらく、何度も試作を重ねることになりましょう」
数十分の後、ティモテオがひとつの案を出した。
「試作品が出来次第、アクア殿に試す形を取ります。恐縮ですが、何日か置きに私の元へお越しいただけますか」
「は、はい、それはもちろん。女王さまを説得しないといけませんし……ティオさん、面倒をおかけしますが、よろしくお願いします……」
一縷の望みが生まれ、アクアは平常心を取り戻したように見えるが、その心にはさざ波が立っていることだろう。またいつ発情するかもわからなければ、それを治めるための確固たる方法が、今のところ精を注がれるしかないとあれば。いくらアクアの倫理観が多少バグっているとはいえ、この状況はかなり辛いはずだ。
そんなアクアには申し訳ないのだが、ルビーは気になっていることを尋ねずにはいられなかった。
「ねー、アクアちゃーん。女王さまを説得するって、本気? かなり無理ゲーだと思うよー。またビーム撃たれちゃうかも」
ジェバイデッドとの戦いを避け、地球に迎え入れる。これをあの女王ファイブに承諾させるのは、骨を何本折っても不可能だろう。
「でも、ジェバイデッドの人たちは、“助けてほしい”って言ったから……私は、彼らの力になりたい」
これはアクアの美点であり、悪癖だ。自分がどんな困窮な状態にあっても、他に困っている人がいればそれを放っておけない。
元来ルビーは、人助けというものは救助に当たる本人が万全でなければならないと思っている。下手をすれば、共倒れになってしまうからだ。自分を犠牲にしてまで他人を助ける、というのは、一聴すると美談かもしれない。だが、ルビーはそういった誰かの多大な代償の上で成り立つ平和や平穏というものが、反吐が出るほど嫌いだった。
そもそも、他人を助ける、何かを守るというのは、簡単に成し遂げられるものでもない。人々が常日頃から軽々しく口にするのとは裏腹に、本当に難しいことなのだ。
その辺りのことは、アクアも十分理解しているはずだ。理解はしても、受け入れられないといったところか。
ルビーは軽く溜息を吐きつつも、アクアに協力することを密かに決意する。
「ねー、ティオさんからも女王さまになんとか言ってやってよー。ジェバイデッドも、戦うのは最終手段って言ってるわけだし? せめて詳しい話を聞くぐらいしてくれても、よくない?」
「……私は、ファイブ陛下のご意向には背けません。陛下がジェバイデッドを排除せよと仰るのなら、それに従うのみです」
ティモテオから、こういう答えが出てくるのもルビーは想定済みだった。この男は、どこまでいってもファイブの忠実な僕でしかない。
役に立たねぇなぁ、と内心でこきおろし、ルビーはティモテオの耳に口を寄せる。
「女王さまの説得を手伝ってくれたら、アクアちゃんも感激して、ティオさんのほっぺにちゅーぐらいしてくれるかもよー?」
小声で囁くと、ティモテオの能面が瞬く間に赤く染まり、目が見開かれた。いつ頃からか、ティモテオがアクアに淡い恋心を抱いているのは知っていた。本人はおくびにも出していないつもりだったようだが、そんなものはルビーの観察眼にかかれば簡単に看破できてしまう。
「──中和剤の作成に取り掛かります。どうぞお引き取りを」
ティモテオは、何かを振り切るように颯爽と診察室を出て行ってしまった。なんとなく気持ち悪い空気が、後に残る。
「ちぇ、堅物は面白くないなー」
悪態をつきながら、ルビーはアクアの方に向き直ると、満面の笑みを浮かべた。
「今日はさ、アクアちゃんの大好きなチーズケーキ、食べに行こう! その前に、スーパー銭湯でさっぱりしたいかな~」
現状、やれることはやり尽くした。他にルビーとアクアにできることといえば、英気を養うぐらいのものである。美味しいものを食べ、ゆっくりと湯に浸かり、ついでにアクアの抜群のプロポーションを拝めるとあらば、ルビーにとってこれ以上の至福はない。
「そうですね。たまには贅沢も、いいかも」
アクアもルビーに同意して、微笑んで頷く。女王の説得と、来る発情に備える方が建設的だと、気持ちを切り替えたらしい。
しかし、アクアのそんな心意気も空しく──。
アクアはより淫靡で、より濃密なエロティックの世界へと呑み込まれていくこととなる。
白き神殿の祭祀場に、白の女王ファイブの声が反響した。
そのすぐ後に、黒筒の書状が床に叩きつけられる音が続く。そこに、ファイブの持つ錫杖から放たれた白光のビームが直撃し、書状がスパークを起こす。
(だよねぇ)
足元に転がってきた書状を拾いながら、ルビーは顔色ひとつ変えないファイブを前に、そうとわからぬよう肩を竦める。
ほんの数分前に、黒の帝国ジェバイデッドからの要請と、その旨が記された書状をファイブに渡したのだが、その答えがこれだ。
ファイブが強い拒絶反応を示すのはわかりきっていた。書状に目を通してもらうよう仕向けられただけでもよくやった方だと、ルビーは自分を褒め称えたい気分だった。
「外来種の受け入れなど有り得ません。たとえ塵程度だとしても、地球に悪影響を及ぼす可能性があるものは、駆除あるのみです」
ファイブは瞬きひとつせずに断言する。なるほど、外来種、と言わればファイブの考えが納得できないでもない。
こと地球においても、たった一匹の外来種混入により、元からその場所に生息していた在来種が絶滅してしまった、という問題が発生しているぐらいだ。
ジェバイデッド人を外来種、地球人を在来種に置き換えれば、受け入れを拒絶するのはごく自然なことに思えてきた。
しかも、ジェバイデッド人は地球人と同じように、いや、それ以上の知識と科学力を有している。そんな彼らを地球に迎え入れれば、政治的な問題も浮上するだろう。他にもどんな影響が出るか、予測がまったくつかない。
こうして考えてみれば、ファイブの言い分は道理が通っているように思う。
「外来種の汚れた遺伝子など、地球に散布されては敵いません。ジェバイデッド人は見つけ次第、駆除を。命令に変更はありません。良いですね」
ファイブはジェバイデッドの事情など一顧だにしない。ジェバイデッドが強大な力を有しているということも、まるで考慮していない。
ただ地球を守ること。ただそのひとつのことだけに、全身全霊をかけている。そんなファイブの頑なな意志を曲げるのは、きっと神でも無理だ。
「……了解でーす」
ルビーは生返事をし、祭祀場から出ていく。
向かった先は、祭祀場から少し離れた小部屋だ。ルビーが扉を押し開けた先にある部屋は、祭祀場と同じ真っ白い壁と床と天井で構成されている。そこに、ベッドと医療用具が並んでいた。サイバーチックとでもいえばいいのだろうか、いずれもSF映画にでも出てきそうな、先鋭的なデザインをしている。
ここは診療室だ。ちょうど診察が終了した直後だったのか、ルビーに気づいたアクアが、ベッドから身を乗り出して前のめりになる。残念なことに、ツクヨミとの獣融化は既に解かれており、通常の戦闘衣姿だった。
アクアは、ルビーの持つ黒煙を発する書状を一目見て悲し気に眉を下げる。
「……女王さまのお考えは、変わらないんですね」
「まあねー、ジェバイデッドの人に会ったら問答無用でビーム炸裂しそうな勢いだったよー。アクアちゃんの方は?」
ルビーが尋ねると、アクアの頬がぽっと色づいた。質問の意図は、もちろん“妊娠したかしなかったか”なのだが。口ごもるアクアに代わり、診察に当たっていたティモテオが答えてくれた。
「心配は無用です、ルビー殿。アクア殿は身籠っておりません」
「ふーん? 妊娠促進剤なんて言う割には、大したことないじゃーん」
言いながら、ルビーはこれまでのアクアとセルジュの性行為を思い返してみた。ふたりが会ったのはたったの二回と少ないが、その間にアクアが膣内射精された回数は優に十回を超えているはず。加え、妊娠促進剤を服用させられている。それにも関わらず、アクアは受精にも至っていない。これではアクアの不妊症、あるいはセルジュの無精子症を疑いたくなってくる。
だが、ルビーのその考えを否定するかのように、ティモテオが首を横に振った。
「いえ……アクア殿はいつ身籠ってもおかしくない状態ではあります。アクア殿が飲まされた薬は、強制的に排卵を促すもののようですので」
「じゃー、あの忍者さんが無精子症だ」
ルビーの無神経とも取れる発言に、ティモテオが眉間を揉む。
「そうではなくて……単純に、違う種族間では妊娠が成立しづらいということなのでしょう。交配が可能であるということと、交配しやすいかどうかは、また別問題ですから」
大きく溜息を吐いたあと、ティモテオはアクアの両手を強く握り、瞳を真っ直ぐに見据えた。
「清純なアクア殿には無用の忠告かもしれませんが……地球人の男性と、みだりに性交を行わないようにしてください。アクア殿が、今すぐ誰かの子を産みたいというのであれば、話は別ですが……」
「は、はえ……?」
そんなことを釘差されるとは、露ほどにも思っていなかったのだろう。アクアはカッと赤くなって、あからさまに動揺していた。そんなアクアに対し、ティモテオの忠告が続く。
「今回は相手が異星人だったから事なきを得たようなものですが、同じ種族同士で交わったらどうなるか、わかりますね?」
アクアが常時排卵している状態だと仮定して、そこに同種族の精子を注がれたら、どうなるか。ほぼ確実に、身籠るだろう。そんな有り様を想像してしまったのか、アクアの顔が赤いまま青褪めていった。
「あ、あの……ティオさん。その、ジェバイデッドの人から、薬の効果は、私が、に、妊娠するまで続くって、言われて……その間は、発情しっぱなしになるって……」
涙目になりながら、アクアは必死に言葉を紡いでいる。
「それで、一時的にでも発情を鎮めるには、せ、せ、精液を摂取するしかない、って……」
診察室に、痛いほどの静寂が訪れた。
まるでエロ漫画のような展開だなぁ、とルビーは思ったが、口には出さなかった。
アクアが薬の影響で発情した様子は、ルビーも目の当たりにしている。発情したままでは日常生活に支障が生じるであろうことは、容易に想像できた。だが、その発情を抑えるために必要なのが、精液とは。
ほぼ100%妊娠する身体に対して、精液。
一般的な結婚を経て、一般的に妊娠出産したいと考えている十六歳のアクアにとって、これほど絶望的な状況はないだろう。
「ど……どうにかなりませんか、ティオさん……」
アクアが弱々しく尋ねれば、ティモテオも困り果てたように額を押さえる。
「どう、と申されましても……」
そこからアクアとティモテオの問答が始まった。
ピルを飲めばどうか、精液と同じ成分のものを摂取すればいいのではないか、等々。話し合いは白熱しているが、どれも決定打に欠けるようで、両者の表情は決して明るくない。
「……わかりました。とにかく、媚薬と妊娠促進剤に対する中和剤を作成しましょう。ですが……我が白の聖王国ル・イエーの科学力をもってしても、すぐに中和剤が完成するとは限りません。おそらく、何度も試作を重ねることになりましょう」
数十分の後、ティモテオがひとつの案を出した。
「試作品が出来次第、アクア殿に試す形を取ります。恐縮ですが、何日か置きに私の元へお越しいただけますか」
「は、はい、それはもちろん。女王さまを説得しないといけませんし……ティオさん、面倒をおかけしますが、よろしくお願いします……」
一縷の望みが生まれ、アクアは平常心を取り戻したように見えるが、その心にはさざ波が立っていることだろう。またいつ発情するかもわからなければ、それを治めるための確固たる方法が、今のところ精を注がれるしかないとあれば。いくらアクアの倫理観が多少バグっているとはいえ、この状況はかなり辛いはずだ。
そんなアクアには申し訳ないのだが、ルビーは気になっていることを尋ねずにはいられなかった。
「ねー、アクアちゃーん。女王さまを説得するって、本気? かなり無理ゲーだと思うよー。またビーム撃たれちゃうかも」
ジェバイデッドとの戦いを避け、地球に迎え入れる。これをあの女王ファイブに承諾させるのは、骨を何本折っても不可能だろう。
「でも、ジェバイデッドの人たちは、“助けてほしい”って言ったから……私は、彼らの力になりたい」
これはアクアの美点であり、悪癖だ。自分がどんな困窮な状態にあっても、他に困っている人がいればそれを放っておけない。
元来ルビーは、人助けというものは救助に当たる本人が万全でなければならないと思っている。下手をすれば、共倒れになってしまうからだ。自分を犠牲にしてまで他人を助ける、というのは、一聴すると美談かもしれない。だが、ルビーはそういった誰かの多大な代償の上で成り立つ平和や平穏というものが、反吐が出るほど嫌いだった。
そもそも、他人を助ける、何かを守るというのは、簡単に成し遂げられるものでもない。人々が常日頃から軽々しく口にするのとは裏腹に、本当に難しいことなのだ。
その辺りのことは、アクアも十分理解しているはずだ。理解はしても、受け入れられないといったところか。
ルビーは軽く溜息を吐きつつも、アクアに協力することを密かに決意する。
「ねー、ティオさんからも女王さまになんとか言ってやってよー。ジェバイデッドも、戦うのは最終手段って言ってるわけだし? せめて詳しい話を聞くぐらいしてくれても、よくない?」
「……私は、ファイブ陛下のご意向には背けません。陛下がジェバイデッドを排除せよと仰るのなら、それに従うのみです」
ティモテオから、こういう答えが出てくるのもルビーは想定済みだった。この男は、どこまでいってもファイブの忠実な僕でしかない。
役に立たねぇなぁ、と内心でこきおろし、ルビーはティモテオの耳に口を寄せる。
「女王さまの説得を手伝ってくれたら、アクアちゃんも感激して、ティオさんのほっぺにちゅーぐらいしてくれるかもよー?」
小声で囁くと、ティモテオの能面が瞬く間に赤く染まり、目が見開かれた。いつ頃からか、ティモテオがアクアに淡い恋心を抱いているのは知っていた。本人はおくびにも出していないつもりだったようだが、そんなものはルビーの観察眼にかかれば簡単に看破できてしまう。
「──中和剤の作成に取り掛かります。どうぞお引き取りを」
ティモテオは、何かを振り切るように颯爽と診察室を出て行ってしまった。なんとなく気持ち悪い空気が、後に残る。
「ちぇ、堅物は面白くないなー」
悪態をつきながら、ルビーはアクアの方に向き直ると、満面の笑みを浮かべた。
「今日はさ、アクアちゃんの大好きなチーズケーキ、食べに行こう! その前に、スーパー銭湯でさっぱりしたいかな~」
現状、やれることはやり尽くした。他にルビーとアクアにできることといえば、英気を養うぐらいのものである。美味しいものを食べ、ゆっくりと湯に浸かり、ついでにアクアの抜群のプロポーションを拝めるとあらば、ルビーにとってこれ以上の至福はない。
「そうですね。たまには贅沢も、いいかも」
アクアもルビーに同意して、微笑んで頷く。女王の説得と、来る発情に備える方が建設的だと、気持ちを切り替えたらしい。
しかし、アクアのそんな心意気も空しく──。
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