宝環戦士メダリオン ~変身ヒロインに対するえっちな展開が終わらない、ただひとつの原因~

蟹江ビタコ

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第二章

50、黄昏の来訪者

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 どう見ても生徒ではないし、教師陣の中にも彼のような人物はいなかったように記憶している。
 となれば、学校を訪ねにきた来客か。

 男はやや間を置いてから、ふっ、と柔らかな笑みを浮かべた。

「……ごめんね、職員室にはどう行ったらいいのかな。いい歳して、迷子になっちゃったみたいなんだ」

 やはり来客らしい。ミラは目をごしごしと擦り、乱れた髪を整えながら立ち上がる。

「ご案内します」

「え? ああ、でも仕事中みたいだし、おおまかな場所だけ教えてもらえれば大丈夫だよ」

 ほんの少しだけキョトンとした表情を見せた男だったが、またすぐに微笑んでミラの申し出を断った。

「ここから職員室までは、ちょっとわかりにくいので。私の仕事も急ぎではないの、で……」

 遠慮はいらない、と続けようとしたところで、ミラは言葉を失う。

(……美影みかげくん、と、セルジュさんに似てる)

 間近に見る男の顔に、美影清十郎せいじゅうろうとセルジュの面影が認められて、ついまじまじと見つめてしまった。
 そんなミラに対してなにを思ったのやら、男がふっと目を細める。

「俺の顔に、なにかついてる?」

「あ、い、いえ! すみません不躾に……職員室でしたね。行きましょう」

 ミラはハッと我に返り、斜陽が差し込み始めた廊下に出て男を先導する。

 十星じゅうじょう高校には数多くの最新設備が導入されており、それに付随してなのか校舎はかなり大きい。しかも、その大規模な校舎が三つの棟に分かれている。だから部外者が迷うのは無理もないことなのだ、とミラが伝えると、男は楽しそうに笑った。

「いや、ついこの間も学校ここに来たばかりなんだけど、まさか迷子になるとはね。ぼーっとしてたのかな。ここンとこ、仕事が立て込んでたから……」

 夕陽に照らされた男の横顔は、少し疲れているように見えた。しかし、ミラの方に向き直った男の口は、緩やかな弧を描いている。

「守衛さんも案内します、って言ってくれたんだけどね。大丈夫ですって断っちゃった手前、引き返すのもかっこ悪いなぁ、なんて思って歩いてたらこのザマだ。君に会えて本当に良かった。君みたいに親切な生徒がいるってことは、ここが良い学校だっていうあかしだね。色々調べて入学させた労力が報われるよ」

 口ぶりからして、男はこの学校に通う生徒の保護者のようだ。それにしては、少々若すぎるようにも思えるが。
 それを踏まえて、ミラはすでに男の素性に目星をつけていた。

(美影くんのお兄さん、だよね、たぶん……)

 清十郎本人から、家族に関する話を聞いたことはないが、十中八九、この男は清十郎の親族……保護者なのだろう。
 そのことを尋ねてもいいかどうか、ミラは決断しかねていた。
 普段から、清十郎はあまり自分のことを話したがらない。それなのに、本人不在のところで根掘り葉掘り探るような真似をするのは、ミラとしても不本意だった。

 だがいまは、少しでもいいから清十郎に関する情報が欲しいというのも事実で。

(ん、ん~……確認したらダメ、かな。でも、美影くんがいまどうしてるのか気になる)

 ミラはそわそわと落ち着かない様子で、男の顔を横目でちらちらと覗く。
 清十郎は元気に過ごしているだろうか、落ち込んでやいないだろうか、と、聞きたいことは山のようにある。

 それに、清十郎の保護者が学校に来訪しているのは担任に呼び出された可能性が高い。おそらく、登校しなくなった清十郎について話し合う、というような理由でやってきたのだろう。清十郎が不登校になった原因は、ミラにある。ならば保護者にも詫びを入れるのが、筋というものだ。

(……聞いてもいいかな。美影くんのお兄さんかどうか確認するだけで、美影くん本人のこと聞くわけじゃないし……き、聞いちゃえっ)

 ミラが逸る胸を押さえ、口を開こうとしたそのとき。

「ああ、なるほどね。ひとつ奥の階段を上がっていたのか。で、職員室がある校舎とは別のところを彷徨ってた、と。そりゃ辿り着かないわけだ」

 とある廊下の角で立ち止まった男が、ミラの真正面を向いた。

「ホントに助かったよ、ありがとう。ここからはひとりで大丈夫。それじゃ、お仕事頑張ってね」

 男はミラが引き留める間も与えず、しっかりとした足取りで廊下を突き進んでいく。
 その広い背中を見送りながら、廊下にひとりぽつんと取り残されたミラは肩を落とした。

(……これでいいんだよね。こそこそ調べ回るみたいなことしちゃ、ダメだよ)

 ミラは己にそう言い聞かせると、来た道をとぼとぼと辿って教室に戻っていった。
 しかし、清十郎が明日にでも登校してくれはしないだろうか、謝る機会をもらえないだろうかと願うばかりで、学級委員の仕事は遅々として進まない。

 結局、ミラが学校を出たのは、十七時を回った頃だった。

 空にかかっているオレンジ色の帳に、ゆっくりゆっくりと藍色の帳が覆い被さっていく。
 夕暮れと夜の狭間にある空は、まるでミラの心を反映したかのような不安定さで。

 学校の正門で立ち尽くすミラは、その空に向かって何度目かになるかもわからぬ溜め息を吹きかけた。

(こんな調子じゃいけないって、わかってるんだけどな……)

 清十郎のことも気がかりではあるが、ジェバイデッドの動向も探らなければならない。なにせ地球の存亡がかかっているのだ、私情ばかり優先していては正義の味方の名が廃る。
 いずれにせよ、いつまでもこんな腑抜けた体たらくでは白の女王ファイブでなくとも“しっかりしろ”、と怒号を飛ばしたくなるところだろう。
 そうとはわかっていても、ミラの全身は鉛にでも変わったかのように動いてくれなかった。

「あれ、さっきの親切な生徒さん」

 その声に導かれて、ミラは無意識のまま振り返った。先ほど職員室への道筋を尋ねてきた男が、不思議そうな顔でミラを眺めている。

「こんな遅くまでお仕事とはね、頭が下がるよ」

 笑顔を浮かべて気さくに声をかけてくれた男のすぐそばに、清十郎の顔がちらつく。

 ──そういえば、清十郎の笑った顔は見たことがない。
 そのことに気づいた瞬間、胸で渦巻いていたよくわからない感情が一気に込み上げてきて、ミラは叫んでいた。

「あの! 美影くんの、お兄さん、ですかっ」

 人気のない校門にミラの声が響き渡る。こんなにも大きな声を出してしまったことに、誰よりもミラ自身が驚き、羞恥で体温がどんどん上がっていった。

「し、失礼しました、いきなり……あの、私は保刈ほかりミラといいます」

 他人のこと尋ねるのなら、まずは自分から名乗る。そんな基本的な礼儀さえ忘れていたなんて、やっぱり情けない。男の方も呆れているのか、それとも清十郎の身内ではなかったのか、応えてくれず。
 気まずさから、ミラはついつい多弁になってしまった。

「人違いだったら、すみません。でも、雰囲気があんまりにも似てたから……美影くん、もう三日も学校に来てなくて、私が、酷いことしたから……せめて元気にしてるのかだけでも、知りたくて、その……」

 だんだんと何を言いたいのかもわからなくなってしまい、ミラの言葉尻はどんどん弱くなり、自然と顔も俯いていく。
 しかしすぐに、憂いを払うような「ふふっ」という笑い声が降り注いできて、ミラは反射的に頭を持ち上げた。

 清十郎に似た男が、微笑をたたえている。

「そうか。そんなに似てるんだ」

 優しげな琥珀色の瞳が、ミラをじっと見ていた。

「君は、清十郎と同じクラスの子かな? 初めまして、俺は黒鋼くろがね修介しゅうすけ。一応、清十郎の保護者ってことで。よろしくね」

 男に──修介に名乗られたところで、ミラは少しだけ首を傾いだ。

(苗字が違う……)

 保護者ではあっても、親族ではない、ということなのか。いや、でも、こんなにも似ているのに……。

「──苗字が違うから、驚いた?」

 修介が揶揄からかうように、完全に見透かしたように笑うので、ミラは頬を更に熱くして腰を九十度に曲げた。

「ごっ、ごめんなさい! 重ね重ね、失礼なことばかり……」

「いいよいいよ、気にしないで。実際、俺たちはちょっとワケありでね。俺は、表向きは清十郎の従兄ってことになってるけど、実情はもっとフクザツなんだ」

 黄昏に紛れる修介は、含み笑いを零しつつ、どこか遠くを見やっている。
 やはり清十郎は、他人が土足で踏み込んではいけないような事情を抱えていたようだ。それが遠因で、“学校に通うなど馬鹿々々しい”、と難色を示していたのだろう。だが清十郎は、学校で過ごすことのはそう悪いことでもない、とも零していた。
 頭を抱えながら、授業を真面目に受けている姿を見た。しかめっ面を浮かべながらも、クラスメイトたちと雑談をしているところだって見た。
 清十郎はきっと、学校生活を楽しんでいた。

 それなのに、清十郎を学校から追いやるような真似をしてしまった、と、ミラは心を痛める。

「あの、本当にごめんなさい……美影くんが登校しなくなったのは、私のせいです。私が、美影くんを傷つけたから」

 ミラは、子供は必ずしも学校に通うべきだ、とは思わない。それこそ、各々の事情で通いたくないと思う者だって大勢いるだろう。だがそれは、あくまでも本人の意志で決めるものであって、他人がその権利を侵したり取り上げたりするのは言語道断だ。

 しかし、ミラの心の中に巣食った暗雲を晴らすように、修介は実にあっけらかんと告げた。

「うーん? さっきから不思議に思ってたんだけど、担任の三村先生から聞いてない? 清十郎は三日間の謹慎処分になってるだけで、君のせいじゃないと思うよ」

「えっ」

 問われて、ミラはこの三日間の記憶を掘り返してみる。そういえば、担任教諭がそんなことを言っていた、ような気がする。
 清十郎が登校していないことにショックを受けて聞き逃していただろうか、と焦るミラを余所に、修介は苦笑して続けた。

「クラスメイトにボールを故意にぶつけたとか、なんとかで。俺も今日はその件で呼ばれて来たんだ。ホント、いつまで経っても喧嘩っ早くて手を焼くよ」

 どうやら清十郎は、体育館で起きたくだんの騒動が原因で自宅謹慎を言い渡されていたらしい。
 自分が原因ではなかったのか──と安堵しかけたミラであったが、すぐにそれは違うと思い直して修介を見上げた。

「それ、やっぱり私のせいです。ボールをぶつけたのは、私を助けるためだったと、思うので……」

「ああ、うん。その話も先生から聞いてるよ、それはそれで驚いたんだけどね。まさかあいつが、女の子を助けるために動くなんて思ってなかったから。そうか、助けた女の子って、君のことだったのか……なるほどね」

 なにやら得心したような素振りを見せた修介は、腕時計で時刻を確認したかと思いきや、ミラの目を見つめてにっこりと笑った。

「ねえ、良ければ君の時間を貰えないかな。道案内してくれたお礼がしたいんだ」

「いえ、私、そんなつもりじゃ」

 固辞しようとしたミラを、修介の笑顔が引き留める。

「ついでに、清十郎のことも色々聞いて欲しいんだけど」
 
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