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トーナメント
20(1/2)
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ポールの言いつけで城に帰ると、使用人たちが大騒ぎでおれの体をふき、風呂に入れさせた。
風呂から出て、連れられた食堂ではなぜか付き添いをしてくれていたルーが使用人に怒られていた。
「だからって、ジャン様を汚さないでくださいまし! あの様に返り血を浴びせられて、お可哀想に。ああ。ジャン様、大丈夫ですか? 温かい飲み物いかがですか?」
彼女はおれとリシャールの寝所に詰めてくれている中年の使用人で、コリンヌという。
身の回りのお世話も彼女のお世話になることも多く、すっかり馴染んでいる。
「コリンヌ。ルー殿をいじめないで。」
そう言うとコリンヌは自分の顔を両手で抑えながら盛大な悲鳴を上げる。
「まぁ、なんてことでしょう! 顔が見る見る腫れておいでではないですか! すぐに冷やさないと! 」
コリンヌはキビキビと他の使用人たちに指示を与えつつ、温かい飲み物も用意してくれる。
「ジャン様もジャン様でございます。丸腰で城下には行ってはならぬとあれほど申し上げましたでしょうに。かような傷をつけられて。リシャール様になんと申し開きいたしましょう。」
「コリンヌが謝る必要ないでしょ。おれが悪いんだから。」
「ジャン様。いいこと? 貴方様が身勝手な事をなさると、かように私の様な下々までも罰を受ける事も有るのです。これはリシャール様にもぜひとも知っていただきたい所。」
「ジャンを傷つけた奴らはオレが皆、殺したではないか。それでは駄目なのか?」
ついでにもらった温かいお茶を飲みながらルーがのんきな声で物騒なセリフを言っている。
「ルー殿は口を挟まないでくださいまし! そもそもあなたも聞けば随分前から見ていたと言うではありませんか。何故この様に怪我をする前に手をくださなかったのですか! 」
ものすごい剣幕でコリンヌに吠えられ、ルーはお茶のカップを抱えながら大きな体を少し小さくする。
「いや。だって、ジャンだって騎士だろ。簡単にやられやしねぇし。場数は必要だろ。」
「あたくしは騎士じゃありませんからね。そんな道理は知りません! 」
ピシャリと言われてモゴモゴと言いよどむルーを見ていると、一匹狼だ、と言われている癖にコリンヌに叱られている姿はまるで犬のようだ。
それを笑っていると裂けた唇が痛くて、つい声が漏れてしまった。
「いてて。」
「まぁ! ジャン様! 大丈夫ですか?」
「うん。コリンヌ。勘弁してあげてよ。ルー殿が助けてくれなかったら、ホントに、どうなってたかわかんないんだから。」
「わかりました。わかりました。とりあえず、腫れた場所を冷やしましょうね。」
そう言うと冷たい水の入った皮の袋を頬にあてがわせる。
鏡がないからわからないけど、随分腫れているのだろう。
熱を持った部分に冷たい袋が心地よい。
コリンヌに冷やして貰いながらお茶をすすっていると、すごい勢いで扉が開き、リシャールが飛び込んできた。
「ジャン! 大丈夫か!」
半ば室内を走るようにしながら近づいてくると、顔を覗き込み、頬に手が触れる。
腫れた場所が痛くて少し顔を歪ませると、リシャールのほうが痛そうな顔を浮かべて、「すまない」っと呟いた。
そして大きな手が恐る恐る頭に載せられる。
「痛むか?」
心底心配そうな顔って、こういう顔なんだろうなぁと、のんきに考えながら、心配させないように、明るく答える。
「少し痛むけど。大丈夫だよ。ルー殿が助けてくれたから。」
「ルーでいいよ。」
少し離れた場所に座っていたルーが口を挟んだ。
「ルー。ありがとう。トーナメントに来ていたんだな。どういう状況だったか、教えてくれるか?」
リシャールが厳しい顔をしてルーに問う。
なんだか、リシャール怒ってるのかな?
空気が少し張り詰めて感じる。
ルーはどうやら男たちに絡まれたあたりから見ていたらしく、オレがカウンターを決めた所や、ちゃんと反撃していた所も話してくれた。
まぁ、そこまで見ていたなら、止めろと言うコリンヌの気持ちもわからないでもない。
しかし、武器屋で手合わせをお願いしている経緯など、誰も知らないので、しょうがない。
リシャールも、何故早く止めなかったんだって、言うだろうか。
そう思っていると
「そうか。助かった。お前がいてよかったよ。何かお礼をしなければな。」
「いらないよそんなの。」
「しかし・・・。」
「オレ、今日個人戦エントリーしたんだ。ウィリアム殿とヤッてみたい。いいだろ?」
「ああ。それは全く構わない。アンリは個人戦は出場しないし。オレもお前とウィリアム殿の一騎打ちは見てみたい。」
「じゃ、行ってくる。」
ルーはそう言うとさっさと部屋から出ていく。
リシャールのルーへの対応は思ったものと違っていて、少し違和感を感じた。
もっと親密なのだろうと思っていたけど、そうでもないのだろうか。
どちらかと言うとライバルみたいな感じなのだろうか。
風呂から出て、連れられた食堂ではなぜか付き添いをしてくれていたルーが使用人に怒られていた。
「だからって、ジャン様を汚さないでくださいまし! あの様に返り血を浴びせられて、お可哀想に。ああ。ジャン様、大丈夫ですか? 温かい飲み物いかがですか?」
彼女はおれとリシャールの寝所に詰めてくれている中年の使用人で、コリンヌという。
身の回りのお世話も彼女のお世話になることも多く、すっかり馴染んでいる。
「コリンヌ。ルー殿をいじめないで。」
そう言うとコリンヌは自分の顔を両手で抑えながら盛大な悲鳴を上げる。
「まぁ、なんてことでしょう! 顔が見る見る腫れておいでではないですか! すぐに冷やさないと! 」
コリンヌはキビキビと他の使用人たちに指示を与えつつ、温かい飲み物も用意してくれる。
「ジャン様もジャン様でございます。丸腰で城下には行ってはならぬとあれほど申し上げましたでしょうに。かような傷をつけられて。リシャール様になんと申し開きいたしましょう。」
「コリンヌが謝る必要ないでしょ。おれが悪いんだから。」
「ジャン様。いいこと? 貴方様が身勝手な事をなさると、かように私の様な下々までも罰を受ける事も有るのです。これはリシャール様にもぜひとも知っていただきたい所。」
「ジャンを傷つけた奴らはオレが皆、殺したではないか。それでは駄目なのか?」
ついでにもらった温かいお茶を飲みながらルーがのんきな声で物騒なセリフを言っている。
「ルー殿は口を挟まないでくださいまし! そもそもあなたも聞けば随分前から見ていたと言うではありませんか。何故この様に怪我をする前に手をくださなかったのですか! 」
ものすごい剣幕でコリンヌに吠えられ、ルーはお茶のカップを抱えながら大きな体を少し小さくする。
「いや。だって、ジャンだって騎士だろ。簡単にやられやしねぇし。場数は必要だろ。」
「あたくしは騎士じゃありませんからね。そんな道理は知りません! 」
ピシャリと言われてモゴモゴと言いよどむルーを見ていると、一匹狼だ、と言われている癖にコリンヌに叱られている姿はまるで犬のようだ。
それを笑っていると裂けた唇が痛くて、つい声が漏れてしまった。
「いてて。」
「まぁ! ジャン様! 大丈夫ですか?」
「うん。コリンヌ。勘弁してあげてよ。ルー殿が助けてくれなかったら、ホントに、どうなってたかわかんないんだから。」
「わかりました。わかりました。とりあえず、腫れた場所を冷やしましょうね。」
そう言うと冷たい水の入った皮の袋を頬にあてがわせる。
鏡がないからわからないけど、随分腫れているのだろう。
熱を持った部分に冷たい袋が心地よい。
コリンヌに冷やして貰いながらお茶をすすっていると、すごい勢いで扉が開き、リシャールが飛び込んできた。
「ジャン! 大丈夫か!」
半ば室内を走るようにしながら近づいてくると、顔を覗き込み、頬に手が触れる。
腫れた場所が痛くて少し顔を歪ませると、リシャールのほうが痛そうな顔を浮かべて、「すまない」っと呟いた。
そして大きな手が恐る恐る頭に載せられる。
「痛むか?」
心底心配そうな顔って、こういう顔なんだろうなぁと、のんきに考えながら、心配させないように、明るく答える。
「少し痛むけど。大丈夫だよ。ルー殿が助けてくれたから。」
「ルーでいいよ。」
少し離れた場所に座っていたルーが口を挟んだ。
「ルー。ありがとう。トーナメントに来ていたんだな。どういう状況だったか、教えてくれるか?」
リシャールが厳しい顔をしてルーに問う。
なんだか、リシャール怒ってるのかな?
空気が少し張り詰めて感じる。
ルーはどうやら男たちに絡まれたあたりから見ていたらしく、オレがカウンターを決めた所や、ちゃんと反撃していた所も話してくれた。
まぁ、そこまで見ていたなら、止めろと言うコリンヌの気持ちもわからないでもない。
しかし、武器屋で手合わせをお願いしている経緯など、誰も知らないので、しょうがない。
リシャールも、何故早く止めなかったんだって、言うだろうか。
そう思っていると
「そうか。助かった。お前がいてよかったよ。何かお礼をしなければな。」
「いらないよそんなの。」
「しかし・・・。」
「オレ、今日個人戦エントリーしたんだ。ウィリアム殿とヤッてみたい。いいだろ?」
「ああ。それは全く構わない。アンリは個人戦は出場しないし。オレもお前とウィリアム殿の一騎打ちは見てみたい。」
「じゃ、行ってくる。」
ルーはそう言うとさっさと部屋から出ていく。
リシャールのルーへの対応は思ったものと違っていて、少し違和感を感じた。
もっと親密なのだろうと思っていたけど、そうでもないのだろうか。
どちらかと言うとライバルみたいな感じなのだろうか。
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