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回想

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ペランが宿屋へ行くと、店では親父が一人ブツブツ言いながら、客にエールを出している。

「親父。忙しそうだな。ジャン来なかったか? 」
「ああ、来てねぇけど、なんか家のヤツがジャンにオレの外套を着せるとかって、持っていったところだ。アイツ、どこで油売ってんだか。」
「外套? どこに持っていったんだ? 」
「だから、ジャンの所っつって持っていったって言ってんじゃねぇか。」
「だから、ジャンはどこに居るって? 」
「ん? そういやぁ、アイツどこに持っていったんだ? 」

宿屋の親父が首をかしげると、店の客が笑い声を上げる。

「お前の外套売り飛ばされたんじゃねぇのか。ババアとか言ってるからそんな目に合うんだぜ。」
「いやいや。アイツ何だかしらねえけどよ、ジャンの事すげえかわいがってんだよ。あの顔は、ジャンの所に持っていく顔だったな。しばらくしたら二人で帰って来るんじゃねぇかなぁ。ペラン、ここで待ってたらどうだ。」
「そうだな。そのほうが結果的に早いかもな。オレにもエールくれよ。」

そうしてしばらく宿屋の1階で待っていると、おかみさんが一人帰ってきた。


「おや。ペランじゃないかい。どうしたんだい? 」
「あれ。おかみさん、ジャンと一緒じゃなかったのか? 」
「ああ。ジャンなら、旅に出たよ。」
「は?? 」
「リシャールに言っときな。ジャンと仲直りするまで家は出入り禁止だよ。」
「え?? 」
「あの子、泣いてたよ。リシャールが何したか知らないけど。あたしゃあの子が泣くのなんて見てらんないから。ちゃんと仲直りして、二人で来るなら、許してやる。」
「仲直りも何も、ジャン、旅って?? どこに行くって?? 」
「全身黒い格好したかっこいいお兄ちゃんが一緒だったけど、親しそうにしていたから、アンタたちの仲間だろう? どこに行くまでは聞いてないけど、すぐ帰ってくるんじゃないかい? 」
「ルーだろ! それ! ジャンのヤツ、ブリテンまで行く気か? 」
「ブリテンかい! そりゃまた。・・・まぁ。でもリシャールにゃいい薬になるだろう。」
「・・・ジャン、リシャールのことなんか言ってた? 」
「いや。なんにもあの子は言ってないよ。でも、どうせリシャールのせいだろう? 」
「・・・まぁ、そうだけど・・・。」
「ほら、ご覧。あたしゃそういう事はすぐに分かっちまうんだからね。」

そういうとおかみさんは自慢そうに笑うと、すぐに顔をしかめる。

「とっとと仲直りさせて来とくれよ。」

そう言うとおかみさんから店から追い出されたペランは、港にゆく。
港にはすでにブリテン行きの船が出たばかりで、日もすでに暮れかけていた。





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