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リヨンス

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厩ではポチが嬉しそうにおれを迎えてくれた。
隣ではリシャールの黒く大きな馬が眠りながら尻尾をパタパタと少し揺らした。
おれはポチの横のわらの束の上にまとった布を広げ、持ってきた衣服に着替えるとポチの鼻を撫でた。
しばらくそうしていると、後ろから足音が近づいてくるのが聞こえた。

「・・・悪かった。ジャン。」

リシャールの声だ。
振り向くと厩の外で佇むリシャールが月明かりに照らされていた。

「リシャールは、悪くないじゃん。お前は、悪くないじゃん!!ってか、なんでおれに謝るんだよ・・・。 」
「・・・それは・・・もう、お前が離れていくのが、嫌だから・・・。」
「おれだって!! おれだって、嫌だよ・・・。」

その言葉が口らか出たとき、覚悟を決めた。

「おれ、リシャールが好きだ。」

後ろからの月明かりでリシャールの表情は見えなかった。けれど、そのまま続ける。

「凶器みたいな顔も、笑ったらかわいい所も、自由な所も、そんで、やらかしちゃう所も、全部好きだ! でも・・・」

リシャールは「・・・でも? 」と先を促すように繰り返した。

「おれは、子どもは産めないから、リシャールを繋ぎ止める方法がない。好きだと言った所で、一緒になる事はルール上出来ないって言うのも知ってるから。そして、リシャールがいつか誰かと結婚しなければいけない立場なのも、知ってる。だから、こんな告白しても、意味が無いかもしれない。それでも、その、愛妾として飽きられたとしても、今度はトルバドールとして、ずっとリシャールの側に居たいって、思ってる。思ってるんだけど・・・」

リシャールは今度は黙ったまま次の言葉を待っている。
おれは少し怯む気持ちにムチを打ちながら、次の言葉をひねり出す。

「リシャールが、あの子どものことを認めることが出来ないというなら、リシャールから離れておれが育てようと思ってる。」

厩には数匹の馬が眠っていて、彼らの寝息が聞こえている。
隣でポチが小さく嘶く。
11月下旬の外は、虫の声もなくただ月明かりが優しい光を注いでいる。
しばらく無音だった厩に、リシャールの低い声が響く。

「・・・どうして? お前が? 」
「おれ、母親にいらないって、言われて育ったんだ。要るって言ってくれたおばあちゃんは、小さい頃にすぐに死んで。それからは、ずっといらないって言われ続けた。・・・だから、あの赤ん坊が、あの子が自分と同じ様にいらないって言われるのが、苦しいんだ。もしかしたらおれが生まれ変わった理由は、あの子の為なのかもしれないとも、思うんだ。」

たまらず抱きしめたポチの鼻面は暖かく、生きているぬくもりが感じられた。
前の世界で感じられなかった命を、この世界ではぬくもりと痛みとともに鮮烈に感じている。
ポチをひと撫でして、リシャールに振り返る。

「リシャールの事、好きだけど、この世界に来て沢山もらった愛情をおれも誰かにも返したい。それが、大好きなリシャールの血を分けた子どもだったら、むしろそれごと、愛したい。」

月を背に佇むリシャールは、まるで絵のように幻想的だ。
狩りから帰ってそのままの格好のリシャールは鎧こそ脱いではいるが、屈強な戦士そのもので、相変わらずどこから見てもかっこいい。

そう思っているとリシャールが近づいて来て、力強く抱きすくめられた。
横では繋がれた状態のポチが嘶いている。

「ジャン。」

リシャールの優しい声が耳元で囁く。

「もう二度と離れないでくれ。お前が居ないと、息も出来なくなりそうなんだ。」

強く強く、抱きしめられたかと思うと力が緩み、そっと体が離れるか離れないかの距離で、柔らかな唇が重ねられた。
軽く触れて離れると、今度は互いの視線が絡み合う。
そしてもう一度、今度は深く、互いに唇を重ねた。







ーーーあとがきーーー

馬は立って寝れるそうです。
もちろん横になっても眠るらしいです。
その場合の睡眠は3時間程度。
草食で狩られる側なので、日中にこまめに休息しているとか。



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