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ルーアン
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結局そのまま数日をリヨンスでのんびりと過ごしている。
貴族達の狩猟の為に建てられたこの城だが、狩りに欠かせない鷹やハヤブサ、猟犬も居る。
それらを飼育する狩人達はそのついでに城の管理までも任されているようだった。
12月も中頃にもなれば中々大きな獲物等は居ないく、鷹やハヤブサ狩りを教えて貰った。
狩人や犬達ともすっかり打ち解け、雪も降ることもなく穏やかな日が続き、気を良くしたリシャールはルーアンで合流予定だったルーに使い出してリヨンスに呼び寄せた。
ルーアンでの情報収集をしていたルーの報告では、小さな声でアデルの話をするものは居るがその他には左程気にするような噂も流れて居ないらしかった。
父親の招待で宮廷に参加するだけだが、リシャールにとっては敵地に行く位の感覚なのだろうか。
ポールと難しい顔をしながら打合わせしているのが珍しかった。
その情報を得て出発するのかと思ったが、ピュルテジュネ王の狩り場を荒らさぬ程度楽しむぞと言いつつ我が城のように過ごす事、更に数日。
中々重い腰を上げようとしないリシャールだったが、クリスマスの宮廷の前日の朝、諦めたように深いため息を着きながら「行くとするか。」と呟いた。
今回はポールもリシャールを急かす事はせず、黙って待っている様子だったが、そのつぶやきに待ち構えていたのだろう、即座に皆に出発の合図をだし、驚く速さでリヨンスを出ることになった。
馬での移動は早く、小一時間ほどでルーアンの街の城壁をくぐる。
街はクリスマスを迎え賑やかさをましており、道行く人々もどこか楽しげだ。
前回来た時は街外れあたりまでしか入っていなかったが、改めて大通りを通り城を目指すと繁栄の大きさがよく分かる。
内外から多く人が流入するのだろう、検問も厳しいがそれさえクリアすれば大いに楽しめる。
宿や食べ物の他に土産物を売る店も多く、クリスマスの宴の間近に商売に熱心な民達が此処ぞとばかりに旅人たちに声をかけ、街は活気づいていた。
城門前に来ると前触れがあったのだろう、予想外に簡単に城に入れてもらえ、リシャールとおれ達側近随従は、早々にピュルテジュネ王に挨拶するために謁見の間に通される。
そう言えばリシャールは王の息子だから検問などしなくてもいいに決まっている。
などとのんびりと考えながら謁見の間で待たされること数分。
王座近くの大きな扉が開き、数名がリシャールに軽く挨拶をしながら横に並ぶなか、王冠を被った中肉中背な男性が足早に部屋に入るとサッと王座に座った。
少し赤みのかかった髪はリシャールと同じだが、全体としてこの親子はあまり似ていない。
むしろリシャールと兄のアンリは母親のエレノアに良く似ているのだろう。
王座を前に家臣の礼を取ろうとすると、横に控える宰相が口を開く前に王が発言する。
「礼は不要である。リシャール。良く来たな。」
「この度は招待いただきありがとうございます。父上に置かれては息災な様子で安堵いたしました。」
リシャールは無表情に跪礼すると、いつもの様子と違い、恭しく話し出す。
「カペーの倅はいががであったか。」
「はい。中々抜け目のない、好青年に成長しておいででした。」
「ふん。好青年か。あの血筋はなにを考えているか全くわからんからなぁ。一見お人好しそうに見えて、腹の中はなにを企んでおるか分からぬのよ。まことに抜け目の無い奴らだ。たしか、かの倅は半年ほど病に伏していたらしいが問題は無いのか。」
「はい。特に後遺症と言ったものも見受けられませんでした。至って健康そのものかと。」
「ルイの奴、大騒ぎしおって。カペー家の男子の血が経たれるのではないかと期待して損したわ。しかしこれであやつも心置きなく天寿を全う出来るという事だ。」
「ルイ様の様態のほうが問題かと。もはや歩けぬほど悪化しているらしく、戴冠式に出席する事も出来ずにおいででした。」
今、目の前で王座に座る人物と話しているのは本当にリシャールなのだろうか。
そう、疑いたくなるほど見たことのない姿だった。
お互いになにか見えない壁に話しているかの様に、目が合っているようで合っていない。
拒絶しているのが手に取るように分かった。
アデルの件もあるからだろうかと思ったが、ここ最近の問題でこの様な雰囲気になったというより、幼少時代から変わらぬやり取りのように、ふたりとも自然に拒絶しあっている。
だったらなぜ?
クリスマスの宮廷にリシャールを呼んだのだろうか。
リシャールの話に「ふむ。」とうなずいていたピュルテジュネ王が思い出したように口を開いた。
「そう言えば、マグリットだが。」
貴族達の狩猟の為に建てられたこの城だが、狩りに欠かせない鷹やハヤブサ、猟犬も居る。
それらを飼育する狩人達はそのついでに城の管理までも任されているようだった。
12月も中頃にもなれば中々大きな獲物等は居ないく、鷹やハヤブサ狩りを教えて貰った。
狩人や犬達ともすっかり打ち解け、雪も降ることもなく穏やかな日が続き、気を良くしたリシャールはルーアンで合流予定だったルーに使い出してリヨンスに呼び寄せた。
ルーアンでの情報収集をしていたルーの報告では、小さな声でアデルの話をするものは居るがその他には左程気にするような噂も流れて居ないらしかった。
父親の招待で宮廷に参加するだけだが、リシャールにとっては敵地に行く位の感覚なのだろうか。
ポールと難しい顔をしながら打合わせしているのが珍しかった。
その情報を得て出発するのかと思ったが、ピュルテジュネ王の狩り場を荒らさぬ程度楽しむぞと言いつつ我が城のように過ごす事、更に数日。
中々重い腰を上げようとしないリシャールだったが、クリスマスの宮廷の前日の朝、諦めたように深いため息を着きながら「行くとするか。」と呟いた。
今回はポールもリシャールを急かす事はせず、黙って待っている様子だったが、そのつぶやきに待ち構えていたのだろう、即座に皆に出発の合図をだし、驚く速さでリヨンスを出ることになった。
馬での移動は早く、小一時間ほどでルーアンの街の城壁をくぐる。
街はクリスマスを迎え賑やかさをましており、道行く人々もどこか楽しげだ。
前回来た時は街外れあたりまでしか入っていなかったが、改めて大通りを通り城を目指すと繁栄の大きさがよく分かる。
内外から多く人が流入するのだろう、検問も厳しいがそれさえクリアすれば大いに楽しめる。
宿や食べ物の他に土産物を売る店も多く、クリスマスの宴の間近に商売に熱心な民達が此処ぞとばかりに旅人たちに声をかけ、街は活気づいていた。
城門前に来ると前触れがあったのだろう、予想外に簡単に城に入れてもらえ、リシャールとおれ達側近随従は、早々にピュルテジュネ王に挨拶するために謁見の間に通される。
そう言えばリシャールは王の息子だから検問などしなくてもいいに決まっている。
などとのんびりと考えながら謁見の間で待たされること数分。
王座近くの大きな扉が開き、数名がリシャールに軽く挨拶をしながら横に並ぶなか、王冠を被った中肉中背な男性が足早に部屋に入るとサッと王座に座った。
少し赤みのかかった髪はリシャールと同じだが、全体としてこの親子はあまり似ていない。
むしろリシャールと兄のアンリは母親のエレノアに良く似ているのだろう。
王座を前に家臣の礼を取ろうとすると、横に控える宰相が口を開く前に王が発言する。
「礼は不要である。リシャール。良く来たな。」
「この度は招待いただきありがとうございます。父上に置かれては息災な様子で安堵いたしました。」
リシャールは無表情に跪礼すると、いつもの様子と違い、恭しく話し出す。
「カペーの倅はいががであったか。」
「はい。中々抜け目のない、好青年に成長しておいででした。」
「ふん。好青年か。あの血筋はなにを考えているか全くわからんからなぁ。一見お人好しそうに見えて、腹の中はなにを企んでおるか分からぬのよ。まことに抜け目の無い奴らだ。たしか、かの倅は半年ほど病に伏していたらしいが問題は無いのか。」
「はい。特に後遺症と言ったものも見受けられませんでした。至って健康そのものかと。」
「ルイの奴、大騒ぎしおって。カペー家の男子の血が経たれるのではないかと期待して損したわ。しかしこれであやつも心置きなく天寿を全う出来るという事だ。」
「ルイ様の様態のほうが問題かと。もはや歩けぬほど悪化しているらしく、戴冠式に出席する事も出来ずにおいででした。」
今、目の前で王座に座る人物と話しているのは本当にリシャールなのだろうか。
そう、疑いたくなるほど見たことのない姿だった。
お互いになにか見えない壁に話しているかの様に、目が合っているようで合っていない。
拒絶しているのが手に取るように分かった。
アデルの件もあるからだろうかと思ったが、ここ最近の問題でこの様な雰囲気になったというより、幼少時代から変わらぬやり取りのように、ふたりとも自然に拒絶しあっている。
だったらなぜ?
クリスマスの宮廷にリシャールを呼んだのだろうか。
リシャールの話に「ふむ。」とうなずいていたピュルテジュネ王が思い出したように口を開いた。
「そう言えば、マグリットだが。」
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