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リヨンス
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しおりを挟むポールがおれの頭に手を載せた瞬間、後ろから声と共にずしりと頭に重みが加わる。
「誰が動物の勘だって? 」
「あんたしか居ないでしょ。オレにまで牽制しなさんな。」
どうやら頭に載せられたポールの手の上にリシャールが顎を載せているらしく、頭の上からリシャールの声が響いてくる。
「誰のお陰でこんなに獲物にありつけたと思ってんだよ。俺の勘のおかげだろうが。ジャン。見ての通り大猟だ。」
背中に体の温かみを感じ、嬉しくなって頭上のリシャールを抱きしめるように手を伸ばす。
「リシャール! 」
「確かに背が伸びたな。背伸びしないと頭に顔を載せられなくなったな。」
「バカ。どんな測り方だよ。そしてオレの手を巻沿いにイチャつくのはやめろ。」
ポールはリシャールの顔を抑え自分の手を抜くと、ついでにオレの体もリシャールから引き離す。
「おら。ちゃんと騎士らしくしろ。外ではイチャつくな。風紀が乱れる。」
「ポールはうるせえなぁ。ちょっとぐらいいいじゃねぇか。」
「ケジメです。ケジメ。ほら、まだ作業あんでしょ。ジャンも手伝えよ。」
眼の前では動物たちが食品へと加工されようとしているのだが、確かにこんなに食べられるのだろうか、というほどの量が捌き切らずに置いてある。
「ひょっとしてルーアンに持っていくの? 」
「ああ。父上は肉が好きだからな。とりあえず機嫌取っとかないと、文句言い出したら長えんだよ。さっさと母上の所に行きたいからな。そう言えば、ジャン、お前ルーと一緒に母上の所に行ったんだろ? 」
「うん。一足先に、エレノア王妃に謁見させていただいたよ。すごく優しい方だったよ。後ね! 聞いてよ! おれ、リシャールお抱えのトルバドールとして認めて貰えたんだよ! ベルナルト様から、リュートももらったんだ! 」
リシャールは作業する手を止めると、嬉しそうに笑った。
「はっは! そりゃそうだろう。俺お抱えのトルバドールだぞ? 褒美がベルナルトのリュートじゃ少ねぇくらいだ。」
「いやいや、ジャン、そりゃ大したもんだ。宴で褒美をもらうなんざ、ちょっとした事件だ。しかもエレノア様の宴で詩を披露出来るだけでも噂になるからな。ひょっとしたらもう、ルーアンでも噂は広がってるんじゃないか? 」
「えー。おれ、有名人になっちゃうじゃん。」
「お前、自作は一曲しかないくせに調子に乗んなよ。」
でへでへと笑いながら照れていると、リシャールに真面目な顔でたしなめられた。
「それだけハードルが上がんだからな。むしろこっからだぞ。声は良くても演奏と詞が駄目なら終わりだからな。」
「う、うん。分かってる。」
「ははは。リシャールが師匠面してんな。でも確かに言う通りだな。そういう事ならジャンはちょっと練習しといたほうが良いだろ。たぶんルーアンでも演奏求められるぞ。そんで、ウィンザーでもまた演奏しろって言われるんじゃねぇか? 今度は同じ曲はできねぇからなぁ。」
ポールにそう言われると、急に気持ちが焦ってくる。
「・・・えっと、お、おれ、練習してくるわ・・・。」
「・・・。俺、師匠。ジャンの練習、指導する。」
立ち上がるおれの横でリシャールがポールに訴えている。
「なにカタコトになってんだよ。あんたはまだこっちの手伝いですよ。ジャンは戦力になんねぇけど、あんたが抜けたらこっちの作業が困りますから。」
「えー。なんでだよ、師匠だぞ? 」
「どうせ指導っつっても邪魔しかしないでしょ。ほら、さっさと手を動かしてくださいよ。」
確かにそんな気がする。
リシャールの顔がどことなくニヤけてる。
さすがポール。察しがいい。
おれは話がこじれる前にそそくさと練習するためにリュートの元へと急ぐのだった。
ーーーあとがきーーー
リシャールの身長は196cmの8頭身。
ポールの身長が172cmで、ジャンはポールの身長をついに抜きました。オメデトウ。
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