バクオン エッセイ

ぽむぽむ

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好きなギタリストの話

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彼の訃報を知ったのは、新聞だ。
地元紙の小さな小さな記事で、見つけられたのが奇跡としか思えないほどのものだった。
日々の雑踏にまぎれて新聞など目を通す日のほうが少なかったのに、その日はその小さな記事まで目を通せた。

ライブに行ったのは一回限り。
当時ベーシストが好きだと言っていた私は、友人に進められて行った会場で、ベース側に陣取った。
小さな箱の、なんとも言えない冷たい空気が張り詰める。
バンギャもどきのようなことをしていた私には、通い慣れたライブハウスだったが、その日はめちゃめちゃ人が多かった。
それもそうだ。今考えると、伝説を作ってしまうほどのバンドだ。
いかついあんチャン達が大きな声で話していたので、小人の私達はしぶしぶ後方へと移動する。
友人曰く、危険だから。
演奏がはじまると、なるほど。危険だ。
激しい爆音とともに響くシャガレゴエ。
会場のボルテージは一気に上がり、ウッホウッホと男たちがモッシュを始める。
絶対に潰される。オソロシイ。
そして、人の上を転がる男たち。

最初は驚いたが、徐々に演奏に惹かれていった。
熱い演奏が終わり、あまりの熱に、うかされたように早々に会場を出る。

「反対側だったけど。ギターの人が、かっこよかった。」

感想はそれだけだった。
翌日、彼らのCDが欲しいと、友人と一緒にショップに行くが、まだインディーズのものしかおいておらずそれを購入し、たまに引っ張り出して聞いていた。

今考えたら、おそらくその場で購入できたのに。
色々思えばきりがない。後悔しか出ない。
もっと記憶にとどめておけばよかった。
もっと夢中で追いかければ良かった。
しょうがない。
苦学生だったのだ。
せめて、チケットの半券をちゃんと保管しておけばよかった。
残すのは残していたのだが、いつの間にかどこかに紛失してしまった。

そして、そのまま音楽から離れるのだが、やっぱり気になって、テレビに出れば必ず見ていた。
解散ライブは行けなかった。

そして、ある日その記事を見る。

ああ。
もう、見れないのだ。
もう、会えないのだ。

彼への喪失感を抱えたまま、今に至る。

ただの一ファンである、我々ですらこのような思いを抱えているのに。
メンバー達の事を思うと、更に張り裂けそうな気持ちになる。
視線だけで、人を消せてしまう、私には、そんな鋭い印象の彼の事を、
「小さく、優しく、引っ掻いて残していった。」
そんなふうに表現する。

ああ。彼の攻撃的だけど、優しい音の理由はこれなんだ。
不器用な愛に溢れていたんだ。
そうしてまた、振り出しに戻る。
ああ。
もう、会えないのだ。

同郷であった私は、彼の生まれた場所を徘徊してみたことがある。
何のことはない。
ただの〇〇(地名)だ。

そうして今日も彼の名をパソコンで打ち込む。
動画をみて、写真を見て。
そして、その思いの丈を文字にして。






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