【短編】1day彼氏は魔法使い

Akila

文字の大きさ
9 / 10

09 予言書

しおりを挟む
 クリスは朝からソワソワしていた。現在八時五〇分。ピンポ~ンと呼び鈴が鳴る。

「ちょっと早いけど、お邪魔します」

 山ちゃんとカノンが大きな荷物を持ってやって来た。

「山ちゃん? 何その荷物」

「あぁ、これ? プリンターとか」

「は?」

「まぁまぁ追々わかるって。それより早速始める? カノンが色々食料とか買ってるし」

「カノンも。ありがと」

「も~めっちゃ重いぃ。山ちゃん鬼だし~」

 カノンはずっしりと重たそうなコンビニ袋を二つドンと置いた。

「山ちゃん殿、カノン殿、本日はよろしく頼む」

「いいの~クリスさんの為だもの。あはっ」

 … 本当に、カノンは調子がいいな。

「じゃぁカノン、小説ある?」

「うん。へへ~、二冊持ってきたの。布教用だから山ちゃんとゆりちゃんにあげるね」

 差し出されたのは、水色の髪のヒロインが笑顔で微笑む後ろに男子が四人のお決まりの表紙の小説だった。

「これは… 本当に第一王子。どうなっている?」

 クリスは私に差し出された小説を私から奪い取りマジマジと見ている。

「クリスさん、本人に似ているの?」

「あぁ、それにこの後ろの… 宰相と騎士団長、魔法総長の子息達だ」

 … ベタだね。

「そう… 実在するのね。カノン、昨日の乙ゲーのビジュと少し違うくない?」

「それはね、小説が出たのがゲームが出る五年も前ので。小説の方はじわじわ人気が出た感じ? で、ゲームが大ヒットだから。どっちかって言うとゲームの方が先に知った人が大半なんじゃないかな~」

「そうなると、小説の方がクリスさんが求めてる方っぽいね」

 山ちゃんは小説をパラパラ読んでから考え出した。私はその内に、差し入れの整理とみんなにコーヒーを作る。クリスもじっとしていられないのか私を手伝ってくれる。

「ユーリ、どんな内容なのか… とても不安でしょうがない」

「大丈夫だって。乙ゲーになるくらいだし、恋愛小説でしょ? 第一王子とあの表紙の女の子と周りの男子達との恋愛模様が書かれたものじゃない?」

「そうなのか? 恋愛… アンドリュー様には婚約者がいるのがだ、その辺りはどうなのだ?」

「さぁ? 無難に略奪系じゃない?」

「サラッと言うな。無難とは、この世界はそんなことが普通に起きるのか?」

「いや、普通ではないけど。そう言う小説がいっぱいあるってことだよ。あくまで物語」

 クリスは納得いかない様子。まぁ、こっちの世界のあるあるネタを論じてもしょうがないよね。

「大丈夫だって。結構『な~んだそんな話?』で終わるんじゃない? 山ちゃんはどう考えてるかわからないけど。結構、真剣だよね。びっくりしたよ。二人とも仕事休んでるし」

「山ちゃん殿か…」

 こたつの部屋に戻ると、山ちゃんはプリンターをセットして、カノンはゲームのスタート画面でスタンバッていた。

「じゃぁ、始めようか。まず、クリスさん、私たちがこの小説の話を口頭で説明するのでこのノートにご自身でまとめを書いてください」

「了解した」

「カノンは、そうだな~オープニングをざっと見て一旦止めといて」

「了解~」

「私は?」

「ゆりは一回この小説を見てみな。あるあるのようで違うから」

 ん? と思いながら山ちゃんに言われた通り小説を読んでみる。横では山ちゃんがクリスに登場人物などを話していた。

『王国歴三〇六五年、エスヤーラ王国は長きに渡る魔法戦争に勝利し、隣国との和平条約を締結した。そして、まだ幼い第一王子アンドリューと隣国の王女との婚約も締結した』

 冒頭がこんな感じ? 具体的な年号とか… クリスが言っていた王子の婚約者ってこの隣国の王女様かな? 乙ゲーの原作にしてはちょっと感じが違う?

「ねぇ、山ちゃん、これって具体的すぎない?」

「そうなんだよね… 今、クリスさんにも確認したけど、冒頭の魔法戦争は本当にあったらしい。しかもそれは十年前の話だって」

「マジ! クリス、じゃぁ、これって」

「あぁ、我が国の、私が生まれた時代のものだ」

 私は山ちゃんをばっと見る。山ちゃんは『うん』と頷き話し始めた。

「十中八九、この小説はクリスさんの世界のことが書かれている。しかも年代が一致している。クリスさんは手違いでこっちに来たけど… 現にこの小説が存在する以上、今日の夜には帰るんだしわかる範囲で教えてあげようと思ってさ」

「なるほど。でもそれってどうなの? 未来? が合ってたとして、教えて大丈夫なの?」

「あはは、タイムトラベラー的な? 未来が変わるって? それは… 問題ないでしょ。多分…」

「多分って、山ちゃん。そこはちゃんとしなきゃ、クリスの未来が変わってしまうかもだよ?」

「だって…」

 山ちゃんと私が言い合っていると、カノンが脳天気に口を挟んだ。

「ま~ま~、もしって事でいいじゃん。違うかもしれないしさ~気楽に行こうよ。物語の主軸は恋愛なんだし~」

「そうね」「そっか」

「ユーリも山ちゃん殿もカノン殿もありがとう。私も『もしも』に備えると言う感じで受け止めるよ」

「って事で再開しようか」

 気を取り直し、小説の恋愛話はそこそこに説明文を読み解いていく。ちょいちょい出てくる時系列的な国の事情は、襲撃事件や飢饉問題、貴族間の争いなどだが、ふわっとしか書かれていない。知らないよりはいいと言うことで、クリスはノートにしたためていた。

「クリスさんの国の文字ってみみずみたいね~」

 カノンがノートを見ながら『これはなんて書いてあるの?』とか聞いている。確かに。アラビア文字っぽい。

 こうして、山ちゃんはプリンターでゲームの画面を印刷したり、カノンは小説通りにゲームを進めたりと、ある程度話をまとめた頃には夕方になっていた。

「みんな、これから先十年の出来事が把握できた。礼を言う」

「は~疲れた」「うん」「ほとんどが王子と奇跡の少女との恋愛話だったけどね~」

「いや、十分だ」

「でも残念だな~。本当の世界なら答え合わせしたかったな~。ハーレムとかマジでできるのかとかさぁ」

「カノン、ハーレムとか… そこじゃないでしょ」

「えへへ~」

「クリス、元の世界に戻っても… クリスはそんな事しないだろうけど悪用はしないでね」

「あぁ、国や民に関わる『もしも』の時は私のできる範囲で秘密裏に動く」

「う~ん、心配だな」

「クリスさん、マジで気をつけてね。これは予言書に近いんだし。時には目をつぶらないといけないわよ?」

「… あぁ、承知している」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

貧乏伯爵家の妾腹の子として生まれましたが、何故か王子殿下の妻に選ばれました。

木山楽斗
恋愛
アルフェンド伯爵家の妾の子として生まれたエノフィアは、軟禁に近い状態で生活を送っていた。 伯爵家の人々は決して彼女を伯爵家の一員として認めず、彼女を閉じ込めていたのである。 そんな彼女は、ある日伯爵家から追放されることになった。アルフェンド伯爵家の財政は火の車であり、妾の子である彼女は切り捨てられることになったのだ。 しかし同時に、彼女を訪ねてくる人が人がいた。それは、王国の第三王子であるゼルーグである。 ゼルーグは、エノフィアを妻に迎えるつもりだった。 妾の子であり、伯爵家からも疎まれていた自分が何故、そんな疑問を覚えながらもエノフィアはゼルーグの話を聞くのだった。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...