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2章 魔法使いとストッカー
45 ピンクちゃん再び
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お兄様とロダンと夏休みでの私の過ごし方を話し合った。まさか例の人、ロッド先生がこんな辺境まで来ないだろうけど。念には念を!
と言うことで、領内では基本自由だが、部屋の外へ一歩でも出る際は護衛を必ず2人付けることになった。
「お兄様、私、やりたい事がたくさんあります! 魔法を使えるようになったので、まずは道路を整備したいのです!」
「道路? 他領への道の事か?」
「違います。馬車が通るような道ではなく、主に領民が使う道です」
「村と城下町を結ぶアレか……しかし必要か? 結構な距離があるが? どう整備するんだ? 今は作業員を雇う余裕はないぞ?」
えっへんと胸を張りながらずっと思っていた内容をレクチャーする。
「まずですね、私の魔力量を思い出して下さい。プラス家魔法の土魔法です!」
「はぁー? まさかとは思うがジェシーがするのか?」
「もちのろんです!」
お兄様とロダンは顔を見合わせて困り顔だ。
「いや~、出来ないことはないだろうが…… 何でそれをする必要が? つい最近魔力欠乏症で倒れたのを忘れたのか」
「ふっふっふっ。お兄様、心配には及びません。私は領民が使う道をきれいにならして、スルーボードを普及させたいのです!」
「あのおもちゃの乗り物か? おもちゃの為にやり過ぎじゃないか?」
「いえいえ。スルーボードが普及すれば村と城下町への行き来がとても楽になります。領民には必須です」
「……」
お兄様は眉間に皺を寄せて考えている。黙って聞いていたロダンが口を開く。
「お嬢様、具体的な計画書はあるんでしょうか? ご主人様、私はそれ次第と考えます」
「ロダン! お前まで!」
「ご主人様、よく考察なさって下さい。現在、領民は領の事業を担っています。作業員が効率よく動くのであれば領にとっては必要と言えるでしょう」
「う~ん。でもなぁ……本当に魔力は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。土をならすだけだもの。もし、一度に魔力が結構いるなら少しずつ道路整備すればいいんだし。夏はまだ始まったばかりよ?」
「……わかった。ロダンに計画書を渡すように」
「やった~!!!!」
むふふ、これでスルーボードでスイスイ出来る! ツーリングまでは行かないけど気分転換にお散歩できるぞ!
「まずやりたい事が道路整備とは……お前大丈夫か? 本当に年頃の女子だよな?」
「失礼な! ちゃんと女子です~だ!」
「あははは。ごめんごめん。では、本題だ。ロダン?」
ロダンは入り口の騎士に合図を送り、両手を後ろにし下を向いた少女を招き入れる。
「……」
アレってピンクちゃんだねぇ。う~ん。
「お嬢様、ルーベン様の案件です」
ロダンはピンクちゃんの斜め前で警戒しながら立つ。お兄様は『ふ~』と息を吐いてから立ち上がった。
「オーロラ、私はロンテーヌ領の領主のカイデールだ。この度、第一王子様よりそなたの身柄を引き継いだ。そして、今後だが我々の監視下に置かれることは承知しているな? あと、お前にはもう一人の主人がいる。私の妹のジェシカだ」
オーロラことピンクちゃんは鬱陶しそうに顔を上げると私を見た。
「あ、あんた!」
「勝手に話すな!」
ガシッと後ろ手を持っていた騎士がピンクちゃんの膝をつかせ抑え込んだ。
「お前はもう平民だ。私達と許可なく話すことは許されない」
「クッ……」
し~んとなった部屋に微妙な空気が流れる。
「お、お兄様。まぁまぁ。私が話しても?」
「ん? あぁ」
「お久しぶりね、オーロラさん」
ピンクちゃんはギラっと私を睨んで下唇を噛んでいる。
「なぜ怒っているかはわからないけど、今のあなたの状況はわかってるのかしら?」
ん? と尋ねるが話さない。あっ。
「話してもいいわよ。どうぞ」
すぐさま噛みついてくるかと思いきや、目を一度とじ落ち着いてから話し出した。
「わかってるわ。私は失敗して平民に落とされた。しかも魔法も封じられて、この先一生魔法が使えない。いろんな修道院をたらい回しにされて、どこにも行くあてがない。死んだも同然よ、こんな世界……どん底」
「……そこまでではないわ。もっと悲惨な人は五万といるわよ? 日本が平和すぎたせいもあるでしょうけど、あなたはこの世界でもまだマシな方よ?」
「マシって……私は前世でもどん底だったんだよ! 働かない、育児しないシンママの長女で、学校にも行かず年誤魔化して働いて、2人の弟の世話してたんだ! やっと幸せになると思っていたのに……ゲームの世界のように……しんどい毎日から抜け出したのに……」
「そう……苦労したのね。よく頑張ったわ。でもね、生まれ変わったから、しかもゲームの世界だからと好き勝手はよろしくなかったわ。それは、今ではわかるわよね?」
ピンクちゃんは渋々ながらも『うん』と頷いた。
「よかったわ。後悔はちゃんとしてるのね。罪悪感、人としてまだ心は死んでないようね」
悲壮な顔のピンクちゃんを見ながら考える。
「オーロラさん、あなたこのロンテーヌ領で生まれ変わりなさい。それこそ新しいゲームをスタートさせるの」
「何言ってんのオバはん?」
「あはは、オバはんって。そりゃ~確かに前世はおばさんだけど、今は? よく見て? 同じぐらいの歳よ?」
「……」
「まぁ、いいわ。あなたは領民になってもらいます。そうね、名前も変えちゃう? オーロラなんて平民にはあまりいないし……ローラはどう?」
「……ローラ」
少し口の端が笑っている。気に入ったのかな?
「決まりね。で、王子様は教会へ入れて欲しいと言っていたのだけど、ウチは領民登録って言うのがあるから教会に閉じ込めなくても、領内であれば自由に過ごしてもらっても問題ないと思うの。どうかしら、ロダン?」
「問題ないかと」
「でね、前世も含めてでいいから、やりたい事か得意な事ってない?」
「はっ? 自由にしてくれるの?」
「ん~。領内限定だけど。得意なものは?」
「スマホゲーム」
「じゃぁ、やりたい事は?」
「……DIY。ウチ貧乏だったからボロくて部屋を改造したかった」
「DIY? なかなか渋いわね、中学生だったのよね? う~ん。じゃぁ、サムの弟子になってもらおうかな」
「サムって?」
話を見守っていたお兄様がようやく口を挟む。
「スルーボードの制作者です。城下町に店を構えてるのよ。弟子が足りないと言っていたから」
ふ~んとお兄様は特に興味がないようだ。
「ロダン、この子の領民登録をお願いね。あと、私から3つ仕事を与えるわ。もちろん給与も出す。それで自活できるようになるでしょう」
「……ありがとう」
下を向いて悔しそうだが、お礼を言ってるところを見ると、この領で生活することには抵抗はないみたいでよかった。
「1つ目『冬の領民学校で先生になる事』。2つ目『以前のオーロラの記憶は封印する事』。3つ目『休日は教会へ行って子供たちの世話をする事』。以上よ」
「わかった。3つ目の子供たちって? もしかして孤児とか?」
「うん。事故や病気で両親を亡くした子が4人ほどいるの」
「……ねぇ、あんた」
「おい」
騎士がローラの両手を締め上げた。
「いいの。私はジェシカよ。ローラ、今の自分を受け入れて、周りをよく見なさい。もう一度言うわ、私は領主一族の一人、ジェシカ。ジェシカお嬢様と呼びなさい」
「ジェ、ジェシカお嬢様。その教会に住んでもいいですか?」
「え? いいけど。でも教会に閉じ込めるつもりはないのだけど?」
「私も監禁されるつもりはないわ。子供だけではかわいそうだから、世話役として住むわ。前世で弟たちの世話をしていたと言ったでしょ? 放っておけない。仕事もそこから通うわ」
「まぁ、あなたがそれでいいのなら」
お兄様に目で合図を送る。お兄様もそれでいいようで『うん』とロダンに合図を送った。
「最後に、ジェシカお嬢様。ありがとう。普通に扱ってくれて」
「では、お嬢様。この者は以降私が処理しておきます」
と、騎士に命じてローラは部屋を出て行った。
「いいの。第2の人生がんばってね」
と言うことで、領内では基本自由だが、部屋の外へ一歩でも出る際は護衛を必ず2人付けることになった。
「お兄様、私、やりたい事がたくさんあります! 魔法を使えるようになったので、まずは道路を整備したいのです!」
「道路? 他領への道の事か?」
「違います。馬車が通るような道ではなく、主に領民が使う道です」
「村と城下町を結ぶアレか……しかし必要か? 結構な距離があるが? どう整備するんだ? 今は作業員を雇う余裕はないぞ?」
えっへんと胸を張りながらずっと思っていた内容をレクチャーする。
「まずですね、私の魔力量を思い出して下さい。プラス家魔法の土魔法です!」
「はぁー? まさかとは思うがジェシーがするのか?」
「もちのろんです!」
お兄様とロダンは顔を見合わせて困り顔だ。
「いや~、出来ないことはないだろうが…… 何でそれをする必要が? つい最近魔力欠乏症で倒れたのを忘れたのか」
「ふっふっふっ。お兄様、心配には及びません。私は領民が使う道をきれいにならして、スルーボードを普及させたいのです!」
「あのおもちゃの乗り物か? おもちゃの為にやり過ぎじゃないか?」
「いえいえ。スルーボードが普及すれば村と城下町への行き来がとても楽になります。領民には必須です」
「……」
お兄様は眉間に皺を寄せて考えている。黙って聞いていたロダンが口を開く。
「お嬢様、具体的な計画書はあるんでしょうか? ご主人様、私はそれ次第と考えます」
「ロダン! お前まで!」
「ご主人様、よく考察なさって下さい。現在、領民は領の事業を担っています。作業員が効率よく動くのであれば領にとっては必要と言えるでしょう」
「う~ん。でもなぁ……本当に魔力は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。土をならすだけだもの。もし、一度に魔力が結構いるなら少しずつ道路整備すればいいんだし。夏はまだ始まったばかりよ?」
「……わかった。ロダンに計画書を渡すように」
「やった~!!!!」
むふふ、これでスルーボードでスイスイ出来る! ツーリングまでは行かないけど気分転換にお散歩できるぞ!
「まずやりたい事が道路整備とは……お前大丈夫か? 本当に年頃の女子だよな?」
「失礼な! ちゃんと女子です~だ!」
「あははは。ごめんごめん。では、本題だ。ロダン?」
ロダンは入り口の騎士に合図を送り、両手を後ろにし下を向いた少女を招き入れる。
「……」
アレってピンクちゃんだねぇ。う~ん。
「お嬢様、ルーベン様の案件です」
ロダンはピンクちゃんの斜め前で警戒しながら立つ。お兄様は『ふ~』と息を吐いてから立ち上がった。
「オーロラ、私はロンテーヌ領の領主のカイデールだ。この度、第一王子様よりそなたの身柄を引き継いだ。そして、今後だが我々の監視下に置かれることは承知しているな? あと、お前にはもう一人の主人がいる。私の妹のジェシカだ」
オーロラことピンクちゃんは鬱陶しそうに顔を上げると私を見た。
「あ、あんた!」
「勝手に話すな!」
ガシッと後ろ手を持っていた騎士がピンクちゃんの膝をつかせ抑え込んだ。
「お前はもう平民だ。私達と許可なく話すことは許されない」
「クッ……」
し~んとなった部屋に微妙な空気が流れる。
「お、お兄様。まぁまぁ。私が話しても?」
「ん? あぁ」
「お久しぶりね、オーロラさん」
ピンクちゃんはギラっと私を睨んで下唇を噛んでいる。
「なぜ怒っているかはわからないけど、今のあなたの状況はわかってるのかしら?」
ん? と尋ねるが話さない。あっ。
「話してもいいわよ。どうぞ」
すぐさま噛みついてくるかと思いきや、目を一度とじ落ち着いてから話し出した。
「わかってるわ。私は失敗して平民に落とされた。しかも魔法も封じられて、この先一生魔法が使えない。いろんな修道院をたらい回しにされて、どこにも行くあてがない。死んだも同然よ、こんな世界……どん底」
「……そこまでではないわ。もっと悲惨な人は五万といるわよ? 日本が平和すぎたせいもあるでしょうけど、あなたはこの世界でもまだマシな方よ?」
「マシって……私は前世でもどん底だったんだよ! 働かない、育児しないシンママの長女で、学校にも行かず年誤魔化して働いて、2人の弟の世話してたんだ! やっと幸せになると思っていたのに……ゲームの世界のように……しんどい毎日から抜け出したのに……」
「そう……苦労したのね。よく頑張ったわ。でもね、生まれ変わったから、しかもゲームの世界だからと好き勝手はよろしくなかったわ。それは、今ではわかるわよね?」
ピンクちゃんは渋々ながらも『うん』と頷いた。
「よかったわ。後悔はちゃんとしてるのね。罪悪感、人としてまだ心は死んでないようね」
悲壮な顔のピンクちゃんを見ながら考える。
「オーロラさん、あなたこのロンテーヌ領で生まれ変わりなさい。それこそ新しいゲームをスタートさせるの」
「何言ってんのオバはん?」
「あはは、オバはんって。そりゃ~確かに前世はおばさんだけど、今は? よく見て? 同じぐらいの歳よ?」
「……」
「まぁ、いいわ。あなたは領民になってもらいます。そうね、名前も変えちゃう? オーロラなんて平民にはあまりいないし……ローラはどう?」
「……ローラ」
少し口の端が笑っている。気に入ったのかな?
「決まりね。で、王子様は教会へ入れて欲しいと言っていたのだけど、ウチは領民登録って言うのがあるから教会に閉じ込めなくても、領内であれば自由に過ごしてもらっても問題ないと思うの。どうかしら、ロダン?」
「問題ないかと」
「でね、前世も含めてでいいから、やりたい事か得意な事ってない?」
「はっ? 自由にしてくれるの?」
「ん~。領内限定だけど。得意なものは?」
「スマホゲーム」
「じゃぁ、やりたい事は?」
「……DIY。ウチ貧乏だったからボロくて部屋を改造したかった」
「DIY? なかなか渋いわね、中学生だったのよね? う~ん。じゃぁ、サムの弟子になってもらおうかな」
「サムって?」
話を見守っていたお兄様がようやく口を挟む。
「スルーボードの制作者です。城下町に店を構えてるのよ。弟子が足りないと言っていたから」
ふ~んとお兄様は特に興味がないようだ。
「ロダン、この子の領民登録をお願いね。あと、私から3つ仕事を与えるわ。もちろん給与も出す。それで自活できるようになるでしょう」
「……ありがとう」
下を向いて悔しそうだが、お礼を言ってるところを見ると、この領で生活することには抵抗はないみたいでよかった。
「1つ目『冬の領民学校で先生になる事』。2つ目『以前のオーロラの記憶は封印する事』。3つ目『休日は教会へ行って子供たちの世話をする事』。以上よ」
「わかった。3つ目の子供たちって? もしかして孤児とか?」
「うん。事故や病気で両親を亡くした子が4人ほどいるの」
「……ねぇ、あんた」
「おい」
騎士がローラの両手を締め上げた。
「いいの。私はジェシカよ。ローラ、今の自分を受け入れて、周りをよく見なさい。もう一度言うわ、私は領主一族の一人、ジェシカ。ジェシカお嬢様と呼びなさい」
「ジェ、ジェシカお嬢様。その教会に住んでもいいですか?」
「え? いいけど。でも教会に閉じ込めるつもりはないのだけど?」
「私も監禁されるつもりはないわ。子供だけではかわいそうだから、世話役として住むわ。前世で弟たちの世話をしていたと言ったでしょ? 放っておけない。仕事もそこから通うわ」
「まぁ、あなたがそれでいいのなら」
お兄様に目で合図を送る。お兄様もそれでいいようで『うん』とロダンに合図を送った。
「最後に、ジェシカお嬢様。ありがとう。普通に扱ってくれて」
「では、お嬢様。この者は以降私が処理しておきます」
と、騎士に命じてローラは部屋を出て行った。
「いいの。第2の人生がんばってね」
応援ありがとうございます!
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