転生騎士団長の歩き方

Akila

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2章 王城と私

17 親愛なる貴族様へ

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拝啓、貴族各位。

 向春の候、貴殿ますますご発展のこととお慶び申し上げます。
 さて、この度、王城内にて「防犯笛」なる物を王城の従業員各位に持たせる運びとなりました。これは、有事の際、王城内に高音が鳴り響く魔法具となっております。
 つきましては、神聖なる王城にてこの魔法具が使用されない事を願いつつ、皆様方にお知らせしたいと思います。
尚、第3騎士団はこの魔法具を監督し悪用されぬ様尽力を尽くす限りです。

 まだまだ寒さが厳しいですが、くれぐれもご自愛ください。

第1騎士団団長 ハドラー・ユナイト
第3騎士団団長 ラモン・バーン


「何だこれは!!!」

とある王都のタウンハウスに怒りの声が響いた。

ワナワナと手紙を握りしめるのはタッカー伯爵家当主のイグナーツだ。

「クソっ。どこから… おい、この手紙は全貴族宛か?」

「はい、ご主人様。そのように聞き及んでおります」

「そうか… それならばまだ間に合うか… この事を第2騎士団の息子に知らせよ」

「はい」

先週、登城した際に客室付きのメイドを… いかん。口止めをしていなかったな。どうするか。

イグナーツはそのままジャケットを羽織り、屋敷を出る支度をする。

「おい、登城する。先触れを」

「ご主人様、どのような御用で行かれますか?」

「そうだな… 娘に。イバンナの様子を見に行くと」

「畏まりました」

そうと決まれば、金だな。10万K程で良いかな。

イグナーツは金を懐に忍ばせて城に向かって出発した。


~*~*~*~*~

「団長、先程、中央玄関の隊員より知らせが届きました」

「誰?」

「タッカー伯爵が登城との事です」

「マジ!」

今日の今日じゃん。早速引っかかった? ぷぷぷ、バカ丸出し。

「ラモン団長、第1と侍女長に知らせておきますか?」

「そうね。一応。ゲインお願いしてもいい?」

「了解です」

ゲインは直ぐに知らせに走る。

「しかし、残念なオツムのようで… イバンナ様の方の準備が間に合いますか?」

「ん~。その辺りは総団長が何とかしたみたいだよ?」

今回、防犯笛の申請が通り至急製作が始まった。2週間で何とか数が完成し、2日前には侍女ちゃん達にもレクチャーが終えている。それとは別に、総団長へある事をお願いしていたのだ。

皇太子殿下の婚約者、イバンナ様の処遇。

娘がどうやら第1王子の心を射止めたと喜んだ伯爵家は、我が物顔で王城を闊歩かっぽし始める。そんな矢先、新年のパーティで婚約者の席が確定となった。

当主は、当然のように勘違いし己の爵位が伯爵家にもかかわらずわがままし放題。兄は兄で、妹のおかげで団長になったも同然なのに、肝心の団長職を放っぽり出し毎日遊び歩いている。妹は何かと理由をつけては姉に着いて回り、王族護衛の第4騎士団長、そうアレクの後を追っかけているとの事。母親に限っては領地で愛人と篭っている。

は~。不憫、イバンナ様。

何かと暴走しまくりの、この勘違い伯爵の親と兄妹に王宮の方も手を焼いていたそうで、王族は負にしかならない新しい親族が邪魔だった。

そこで渡りに船だったのが、伯爵の下半身問題だ。私が総団長にチクったの。てへ。

イバンナ様自身は家族と縁が薄いのか、家族を捕縛するかもとお伝えしても『そうですか。では、私は修道院かどこかへ?』と、さらっとしていたそう。そんな態度に『ん?』と思った陛下が第5を使って調べさせた所、イバンナ様だけが母親が違い、冷遇されて育った事実が明るみになった。色々あったみたいだよ~、伯爵家で。

さてさて、ここからが時間との戦いだった。

イバンナ様の母親は田舎の子爵の娘で、既に他界していたのだが、母方の祖母がなんと辺境伯爵出身だった。祖母がなぜ降下したのか理由はわからないが、それでも爵位の高いめちゃくちゃ遠い親族が見つかったので、イバンナ様との養子縁組を早急に勧めた。相手にしたら棚からぼたもちである。王族と親族になれるのだから。二つ返事で養子縁組が成され、晴れてイバンナ様は辺境伯令嬢になったのである。

「2日前ぐらいに正式に縁組が締結されたそうよ。だから、各貴族に総団長と連名で手紙を撒いたの」

「そうですか… しかしこんなにも早く食いつくとは」

キリスはどこかソワソワしている。親の派閥仲間だもんね。

「キリス、今は自分の仕事の心配をしなさい。もしかして私達が思っているような行動に出ないかもしれないし。純粋に娘に会いに来ただけかもよ?」

「それは… 養子縁組がなされた動きさえ知らないのに? 今まで王妃教育をしているイバンナ様を労って登城された事など一度もないのに… いつもイバンナ様の名を出すだけで… お部屋までお連れした事はありませんよ?」

「どうだろうね~。でもいいじゃない。単純バカなら早々に一つ片付くわ。それに他の貴族への見せしめにもなるし。グッと犯罪率が落ちて万々歳よ」

「まぁ」

ドーンは涼しい顔で十手の手入れを終え、私にも十手を渡す。

「要るかな?」

「恐らく」

「ふ~ん。じゃぁ、賭ける? 私は当主だけで今日」

「では、私は2人とも今日です」

珍しい、ドーンがこんな下品な賭けに乗るなんて。

「へ~、自信あるんだ? 何賭けようか? 城下のケーキ『てんこ盛りフルーツタルト』は?」

「いやいや、それでは賭けの商品としては私に利がありません。甘いの苦手なので」

「じゃぁ、何にする?」

「そうですね~。では、次の夜会でダンスはいかがでしょう?」

「はい?」

「そうしましょう。いや~楽しみですね」

いやいや、ドーンさんよ。ダンスって、それって私に利がないよね?

「そんなダンスなんて… そんなんで賭けになるの?」

「はい、十分です」

急にニコニコ、ワクワクし始めるドーン。顔が満面の笑みだ。

「… まぁ、私は損しないからいいけど」

「では、決まりです。キリス、ゲインが戻り次第巡回へ行くぞ」

「は、はい!」

さ~、当の本人、イグナーツ・タッカー伯爵。どう立ち回ってくれるかな~。楽しみだ。
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