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2章 王城と私
18 イグナーツ・タッカーの誤算
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「皇太子殿下の婚約者、イバンナの父親だ。面会を希望する」
「はい。先触れが来ておりましたね。ご案内致します」
「いい。自分で参る」
私は城の入り口で警備騎士を振り払い、1階奥の休憩の為の応接室へ進む。
「おい、そこの侍女。ミーシャと言うメイドを呼んでくれ。この部屋だ」
ビクッとなった侍女はコクリと頷きミーシャを呼びに行く。
よしよし。今日は金を払って口止めをするか… いや待てよ。今日の今日だ。まだいけるか? ふふふふふ、もう一度ぐらい遊んでもよかろう。
私はソファーに座り、ミーシャが来るのを待つ。先週の情事を思い出すと身体が昂ってきた。
ふふふ。
コンコンコン。
「し、失礼します。お呼びとの事で参りました」
蚊の鳴くような小さな声でおずおずとミーシャが入ってくる。
「ドアを閉めてこちらへ来い」
「…」
ミーシャは両手を胸の前に組んで、ドアをチラチラ見ながらこちらへやって来る。
よしよし。
「ほら、金だ。先週の事はこれで水に流せ」
「しかし…」
ガタガタ震えて今にも泣きそうになっている。ふふふ、いいな。
「あとは、そうだな~」
と、私はミーシャの腕を掴み自分に寄せる。
「最後に楽しもうじゃないか」
「や、止めて下さい。大事な事になります」
「いいではないか。ほら、こっちへ来て奉仕しろ」
ここでミーシャが組んでいた両手を離し、手の中の小さな物から出ている紐を引っ張った。
ピーーーーーーーーーー!
もの凄い騒音が鳴り響く。
「おい、おい、止めないか! 今すぐ止めろ!」
「私は… 私は…」
ミーシャは泣きじゃくって手に持っている物を投げつけてくる。
何だこれは? どうすれば鳴り止む? 私はそれを色々見て回したが止め方が分からなかった。まさかコレが例の笛か?
「おい、これを止めろ!」
と、ミーシャの胸ぐらを掴んで張り手をした瞬間、ドアから警備騎士が流れ込んで来た。
「お止め下さい。タッカー伯爵」
途端に騎士達に押さえつけられる。
「無礼者。私はタッカー伯爵だぞ? 離せ!」
後から入って来た少女? 女性騎士がアゴで音の鳴る物に指示を出す。騎士の一人が音を消した。
次々と、人が入って来た。これは… 大事になり過ぎじゃないか。
「貴様、誰の許可を得て私を捕縛するんだ。名を名乗れ。どこの家の者だ!」
「はぁ~。私は第3騎士団団長ラモンです。イグナーツ様ですね?」
「あ? そ、そうだが? 早くこれを何とかしろ!」
私は捕まれている手を振り払おうとするが解けない。
「おい、お前! キリス殿ではないか! 私だ。タッカーだ。これを何とかしてくれ」
しかし、キリス殿は蔑んだ目で私を見ただけで無視をした。
貴様!!! 脳天に怒りと屈辱が込み上げる。
「はいはい。イグナーツ・タッカー伯爵。婦女子への乱暴の現行犯として捕縛します」
「誰が! メイド風情に手を上げただけで捕縛とは! どうなっている。上を出せ、上を連れて来い!」
「私が上です。団長ですから」
「貴様、小娘。見た事がないぞ! 爵位は? どこの家だ!」
「どこでも関係ないですよ。私は団長なんです。権限があります。ちなみに子爵位ですけど」
「子爵だと! 貴様、後で痛い目をみる事になるぞ。今なら許してやろう。今すぐ解放しろ」
「バカなの? こんな状況証拠まであるのに?」
と、小娘は私が先ほど机に上に放り投げた10万Kが入った袋を持ち上げている。
「… それはただ置いただけだ」
「ははは。ご自分のと認めるのですね?」
しまった。悔しさで思わずクッと下唇を噛む。
「あとで尋問しますので。では。連れて行って、第6よ」
「第6だと? あそこは牢ではないか」
「そうですよ。王城での事件は第6の担当なんで」
誰か、誰か味方は居ないか?
「お~! そこの、侍女長殿。イバンナを呼んで来てくれ。誤解なんだ、な?」
「… 私にはその権限はございません」
侍女長はメイドの肩を抱いてキリッと睨みつけてくる。
何なんだ! これは一体どうしたと言うのか!
何もかもが思い通りにいかない。どうしてだ!
「私は、皇太子の婚約者の父親だぞ! 未来の王妃の父親、そして未来の王子の祖父になる男だ! おい、聞いているのか! 離せ! 離せ!」
誰も私の話を聞かない。誰もが無視をしている。
「いい加減黙ってくれない? 手が滑って私のコレがあなたの大事なそこに飛んでいくかもよ? この十手、投げる事も出来るんですよね」
ペシペシと棒の様な武器を手に打ちつけながら、私の息子をゴミのように見てくる小娘。
クソっ。思わず一歩下がってしまった。
それから警備騎士達は腕を掴んだまま私を第6へ移送した。
どうなっている。
どうしてこうなった。
なぜだ。
なぜだ。
~※~※~※~※~※~※~※~
一方、時間を少し置いてリネン室では、息子のトロイ・タッカーがドーンと第1騎士団長に捕まった。
バカだ。
未遂だったが、侍女ちゃんの露わな姿に言い逃れが出来ず…
あっさり御用となった。
本当にバカばっか。
そして、今日の通達で釣れたのがあと1人。男爵位の官僚だった。
「本当に男って… いや、こんなにも犯罪が横行していたのね。防犯笛を開発してよかったわ」
「そうですな」
ふ~っとため息を吐いて報告書に目を通す。
これで少しでも侍女ちゃん達が怯えずに済むなら。本当に良かった。
「はい。先触れが来ておりましたね。ご案内致します」
「いい。自分で参る」
私は城の入り口で警備騎士を振り払い、1階奥の休憩の為の応接室へ進む。
「おい、そこの侍女。ミーシャと言うメイドを呼んでくれ。この部屋だ」
ビクッとなった侍女はコクリと頷きミーシャを呼びに行く。
よしよし。今日は金を払って口止めをするか… いや待てよ。今日の今日だ。まだいけるか? ふふふふふ、もう一度ぐらい遊んでもよかろう。
私はソファーに座り、ミーシャが来るのを待つ。先週の情事を思い出すと身体が昂ってきた。
ふふふ。
コンコンコン。
「し、失礼します。お呼びとの事で参りました」
蚊の鳴くような小さな声でおずおずとミーシャが入ってくる。
「ドアを閉めてこちらへ来い」
「…」
ミーシャは両手を胸の前に組んで、ドアをチラチラ見ながらこちらへやって来る。
よしよし。
「ほら、金だ。先週の事はこれで水に流せ」
「しかし…」
ガタガタ震えて今にも泣きそうになっている。ふふふ、いいな。
「あとは、そうだな~」
と、私はミーシャの腕を掴み自分に寄せる。
「最後に楽しもうじゃないか」
「や、止めて下さい。大事な事になります」
「いいではないか。ほら、こっちへ来て奉仕しろ」
ここでミーシャが組んでいた両手を離し、手の中の小さな物から出ている紐を引っ張った。
ピーーーーーーーーーー!
もの凄い騒音が鳴り響く。
「おい、おい、止めないか! 今すぐ止めろ!」
「私は… 私は…」
ミーシャは泣きじゃくって手に持っている物を投げつけてくる。
何だこれは? どうすれば鳴り止む? 私はそれを色々見て回したが止め方が分からなかった。まさかコレが例の笛か?
「おい、これを止めろ!」
と、ミーシャの胸ぐらを掴んで張り手をした瞬間、ドアから警備騎士が流れ込んで来た。
「お止め下さい。タッカー伯爵」
途端に騎士達に押さえつけられる。
「無礼者。私はタッカー伯爵だぞ? 離せ!」
後から入って来た少女? 女性騎士がアゴで音の鳴る物に指示を出す。騎士の一人が音を消した。
次々と、人が入って来た。これは… 大事になり過ぎじゃないか。
「貴様、誰の許可を得て私を捕縛するんだ。名を名乗れ。どこの家の者だ!」
「はぁ~。私は第3騎士団団長ラモンです。イグナーツ様ですね?」
「あ? そ、そうだが? 早くこれを何とかしろ!」
私は捕まれている手を振り払おうとするが解けない。
「おい、お前! キリス殿ではないか! 私だ。タッカーだ。これを何とかしてくれ」
しかし、キリス殿は蔑んだ目で私を見ただけで無視をした。
貴様!!! 脳天に怒りと屈辱が込み上げる。
「はいはい。イグナーツ・タッカー伯爵。婦女子への乱暴の現行犯として捕縛します」
「誰が! メイド風情に手を上げただけで捕縛とは! どうなっている。上を出せ、上を連れて来い!」
「私が上です。団長ですから」
「貴様、小娘。見た事がないぞ! 爵位は? どこの家だ!」
「どこでも関係ないですよ。私は団長なんです。権限があります。ちなみに子爵位ですけど」
「子爵だと! 貴様、後で痛い目をみる事になるぞ。今なら許してやろう。今すぐ解放しろ」
「バカなの? こんな状況証拠まであるのに?」
と、小娘は私が先ほど机に上に放り投げた10万Kが入った袋を持ち上げている。
「… それはただ置いただけだ」
「ははは。ご自分のと認めるのですね?」
しまった。悔しさで思わずクッと下唇を噛む。
「あとで尋問しますので。では。連れて行って、第6よ」
「第6だと? あそこは牢ではないか」
「そうですよ。王城での事件は第6の担当なんで」
誰か、誰か味方は居ないか?
「お~! そこの、侍女長殿。イバンナを呼んで来てくれ。誤解なんだ、な?」
「… 私にはその権限はございません」
侍女長はメイドの肩を抱いてキリッと睨みつけてくる。
何なんだ! これは一体どうしたと言うのか!
何もかもが思い通りにいかない。どうしてだ!
「私は、皇太子の婚約者の父親だぞ! 未来の王妃の父親、そして未来の王子の祖父になる男だ! おい、聞いているのか! 離せ! 離せ!」
誰も私の話を聞かない。誰もが無視をしている。
「いい加減黙ってくれない? 手が滑って私のコレがあなたの大事なそこに飛んでいくかもよ? この十手、投げる事も出来るんですよね」
ペシペシと棒の様な武器を手に打ちつけながら、私の息子をゴミのように見てくる小娘。
クソっ。思わず一歩下がってしまった。
それから警備騎士達は腕を掴んだまま私を第6へ移送した。
どうなっている。
どうしてこうなった。
なぜだ。
なぜだ。
~※~※~※~※~※~※~※~
一方、時間を少し置いてリネン室では、息子のトロイ・タッカーがドーンと第1騎士団長に捕まった。
バカだ。
未遂だったが、侍女ちゃんの露わな姿に言い逃れが出来ず…
あっさり御用となった。
本当にバカばっか。
そして、今日の通達で釣れたのがあと1人。男爵位の官僚だった。
「本当に男って… いや、こんなにも犯罪が横行していたのね。防犯笛を開発してよかったわ」
「そうですな」
ふ~っとため息を吐いて報告書に目を通す。
これで少しでも侍女ちゃん達が怯えずに済むなら。本当に良かった。
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