70 / 100
2章 王城と私
20 招待状
しおりを挟む
あれから防犯笛が王城で鳴る事はなかった。もう4月も半ばになる。
一緒の時期に捕まった男爵が、スケープゴートとして公開裁判されそのニュースが貴族界に広まった為だ。
この春には、国中の貴族のご令嬢が侍女募集に殺到したと侍女長に泣いて喜ばれた。ただ、継承放棄したとはいえ、まだ独身の2人の王子様目当てのお嬢様方が中心だそうで、少し手こずっているらしい。と言いながら、笑顔だったので良かったのだろう。うんうん、がんばれ。
「ドーン、平和だね~。こう暖かいと眠くなるよ」
「春も半ばになりましたしね。そう言えばドレスのご用意は出来ていますか?」
「ん?」
「皇太子殿下とイバンナ様の婚約披露のパーティーです」
「え? 団長服じゃないの?」
「違います」
「なら、この前公爵様に頂いたドレスか、まだ着ていないのがもう1着あるから。大丈夫」
「… そうですか」
そんな話をしていたら、珍しいお客さんがやって来た。
「ラモン、久しぶりだな? 今いいか?」
「あ~! アレク! トリスも、久しぶり~」
会議で顔を合わす事はあったが、まともに話す機会がなかった2人。何ヶ月ぶりだろう?
「どうぞ。めっちゃ久しぶりだね。第4はどう?」
「あぁ、あの事件のおかげである令嬢の付きまといから解放された。おかげでラモンにも会えなかったしな。今は、別の令嬢達が増えたが、所詮は遠目で見てるだけだしな。すっかり第4の業務に身が入るようになった。ありがとう」
「そんなに大変だったの? ご苦労様。第4って王宮が主だからすれ違ったりしないもんね」
「そうだな。それよりこれを」
アレクが手紙を差し出してくる。後ろでドーンが『チッ』と舌打ちした。
「何これ? 今開けていい?」
「あぁ。目を通してくれ。先に言うが~」
「アレク殿! 団長は他の方と面会がありますので今日はこれでお帰り下さい!」
いきなりドーンが大きな声でアレクの話を遮った。
「ど、どうしたの? びっくりした~。今日は何にもないじゃん」
ハテナになっている私を余所に、ドーンはアレクを追い返そうとする。
「アレク殿! さぁ」
と、ドアを開けて退出を促すドーン。
「ドーン、ラモンは用はないと言っている。諦めろ」
アレクはソファーに足を組んでニヤニヤしながら動こうとしない。その様子を見ているトリスは口を押さえて声を殺して笑っている。
ドーンはあからさまに不機嫌な態度でドアを閉め、戻るついでにトリスの頭をはたいた。
「痛っ。八つ当たりじゃん」
ボソッとこぼしたトリスをギロっと無言で睨むドーン。
ん? 何? 私だけ分かってない感じ?
「さぁ、ラモン。手紙を見てくれ、招待状だ」
「招待状?」
何々? 皇太子殿下とイバンナ様の~。
「これ、さっきもドーンと話してたんだよ。婚約披露のパーティーのだね」
「あぁ、それでな、パートナーとして一緒に行ってくれないか?」
ドーンから冷気が漂う。殺気がビンビンだよ。
「あ~。ドーン? ちょっと抑えて。てか、私はダメだよ」
「なぜだ?」
「だって団長同士じゃん。無理じゃない?」
「そんなルールはない。団長同士でも問題はない」
「そうなの? でも、他にいるでしょう、アレクなら」
「いや、ラモンがいいんだ」
ニコニコとアレクは答えを変えない。トリスはニヤニヤして傍観している。
「そう… う~ん。わかった」
「な!」
「ヒュ~」
「よし」
「え? え?」
どう言う反応? 簡単にOKし過ぎた?
「団長、きちんと考えて下さい」
ドーンが低~い声で注意してくる。
「いや、だって、私も行く人いないし… ドーンと行った方がいいのかな? ん?」
ちょっと怖いんですけど。ドーンの目力が怖い。
「ドーン、横入りは紳士としてどうなのだ? いつも近くに居るくせに出遅れたお前が悪い」
「クッ。クソガキが」
ケンカか? おい。
「ドーン落ち着いて。たかがパーティーの連れじゃない。お互いいないから行こうって事でしょ? 深く考えない方がいいよ。アレクはね、モテ過ぎてちょっと女性が苦手なんだよ。協力してあげなきゃ」
「ぷっ。アレク不憫」
またまたボソッとトリスが口走る。ドーンも冷気が治まったようだ。
「ははははは、そうですな。不憫な王子の友人として協力してあげないと、ですな。ははははは。私は団長とファーストダンスの約束もありますし、ここは譲って差し上げましょう」
「ダンス! クソッ、老いぼれが」
「老いぼれだと? クソガキ、表に出ろ」
2人はガンをつけ合い、今にも殴りかかりそうになっている。
「ちょっ。何でそうなるのよ。アレク座って。ドーンも。仲良くしてよ」
「団長ちゃん、鈍すぎでしょ。それともワザと? まぁ、オモロいから俺はどっちでもいいけど、ぷぷぷ」
は~。薄々はわかっていますよ。はいはい。逃げてますよ。だってね~。選べないじゃん。どっちも大切だし、どっちも友人の域を超えていない。
「トリス、ややこしくしないで。今はそう言うのはいいから」
「「!!!」」
2人は私の囁きを拾ってバッとこっちを見てくる。圧が、だから怖いって。
「あはは。この話あんまりしたくないんだけど?」
「ごほん。まぁ、今はいい。俺も不本意な形で聞きたくない」
「ん」
アレクはすんなり引いてくれて、ドーンはスッといつもの様に後ろに戻る。
「団長ちゃん… 実は魔性なの? 焦らすの上手いね~」
「トリス! 無駄口しか叩かないなら外に出すわよ?」
「は~い。すみませ~ん」
…。
気不味い。
間が。
…。
「まぁ、何だ。当日迎えに行く。ここに居てくれ」
「りょ、了解」
アレクは照れているのか、目を逸らしてそれだけ言って帰って行った。
…。
残された私とドーン。と、実は団長室の隅で話を聞いていたゲインとキリス。ごめん。
変な空気の中でその日は業務に勤しんだ。じっと、ずっと耐えたよ。この重い空気に。
は~。
前世でもモテた事のない私。こう言う場合はどうしたらいいのか。
一緒の時期に捕まった男爵が、スケープゴートとして公開裁判されそのニュースが貴族界に広まった為だ。
この春には、国中の貴族のご令嬢が侍女募集に殺到したと侍女長に泣いて喜ばれた。ただ、継承放棄したとはいえ、まだ独身の2人の王子様目当てのお嬢様方が中心だそうで、少し手こずっているらしい。と言いながら、笑顔だったので良かったのだろう。うんうん、がんばれ。
「ドーン、平和だね~。こう暖かいと眠くなるよ」
「春も半ばになりましたしね。そう言えばドレスのご用意は出来ていますか?」
「ん?」
「皇太子殿下とイバンナ様の婚約披露のパーティーです」
「え? 団長服じゃないの?」
「違います」
「なら、この前公爵様に頂いたドレスか、まだ着ていないのがもう1着あるから。大丈夫」
「… そうですか」
そんな話をしていたら、珍しいお客さんがやって来た。
「ラモン、久しぶりだな? 今いいか?」
「あ~! アレク! トリスも、久しぶり~」
会議で顔を合わす事はあったが、まともに話す機会がなかった2人。何ヶ月ぶりだろう?
「どうぞ。めっちゃ久しぶりだね。第4はどう?」
「あぁ、あの事件のおかげである令嬢の付きまといから解放された。おかげでラモンにも会えなかったしな。今は、別の令嬢達が増えたが、所詮は遠目で見てるだけだしな。すっかり第4の業務に身が入るようになった。ありがとう」
「そんなに大変だったの? ご苦労様。第4って王宮が主だからすれ違ったりしないもんね」
「そうだな。それよりこれを」
アレクが手紙を差し出してくる。後ろでドーンが『チッ』と舌打ちした。
「何これ? 今開けていい?」
「あぁ。目を通してくれ。先に言うが~」
「アレク殿! 団長は他の方と面会がありますので今日はこれでお帰り下さい!」
いきなりドーンが大きな声でアレクの話を遮った。
「ど、どうしたの? びっくりした~。今日は何にもないじゃん」
ハテナになっている私を余所に、ドーンはアレクを追い返そうとする。
「アレク殿! さぁ」
と、ドアを開けて退出を促すドーン。
「ドーン、ラモンは用はないと言っている。諦めろ」
アレクはソファーに足を組んでニヤニヤしながら動こうとしない。その様子を見ているトリスは口を押さえて声を殺して笑っている。
ドーンはあからさまに不機嫌な態度でドアを閉め、戻るついでにトリスの頭をはたいた。
「痛っ。八つ当たりじゃん」
ボソッとこぼしたトリスをギロっと無言で睨むドーン。
ん? 何? 私だけ分かってない感じ?
「さぁ、ラモン。手紙を見てくれ、招待状だ」
「招待状?」
何々? 皇太子殿下とイバンナ様の~。
「これ、さっきもドーンと話してたんだよ。婚約披露のパーティーのだね」
「あぁ、それでな、パートナーとして一緒に行ってくれないか?」
ドーンから冷気が漂う。殺気がビンビンだよ。
「あ~。ドーン? ちょっと抑えて。てか、私はダメだよ」
「なぜだ?」
「だって団長同士じゃん。無理じゃない?」
「そんなルールはない。団長同士でも問題はない」
「そうなの? でも、他にいるでしょう、アレクなら」
「いや、ラモンがいいんだ」
ニコニコとアレクは答えを変えない。トリスはニヤニヤして傍観している。
「そう… う~ん。わかった」
「な!」
「ヒュ~」
「よし」
「え? え?」
どう言う反応? 簡単にOKし過ぎた?
「団長、きちんと考えて下さい」
ドーンが低~い声で注意してくる。
「いや、だって、私も行く人いないし… ドーンと行った方がいいのかな? ん?」
ちょっと怖いんですけど。ドーンの目力が怖い。
「ドーン、横入りは紳士としてどうなのだ? いつも近くに居るくせに出遅れたお前が悪い」
「クッ。クソガキが」
ケンカか? おい。
「ドーン落ち着いて。たかがパーティーの連れじゃない。お互いいないから行こうって事でしょ? 深く考えない方がいいよ。アレクはね、モテ過ぎてちょっと女性が苦手なんだよ。協力してあげなきゃ」
「ぷっ。アレク不憫」
またまたボソッとトリスが口走る。ドーンも冷気が治まったようだ。
「ははははは、そうですな。不憫な王子の友人として協力してあげないと、ですな。ははははは。私は団長とファーストダンスの約束もありますし、ここは譲って差し上げましょう」
「ダンス! クソッ、老いぼれが」
「老いぼれだと? クソガキ、表に出ろ」
2人はガンをつけ合い、今にも殴りかかりそうになっている。
「ちょっ。何でそうなるのよ。アレク座って。ドーンも。仲良くしてよ」
「団長ちゃん、鈍すぎでしょ。それともワザと? まぁ、オモロいから俺はどっちでもいいけど、ぷぷぷ」
は~。薄々はわかっていますよ。はいはい。逃げてますよ。だってね~。選べないじゃん。どっちも大切だし、どっちも友人の域を超えていない。
「トリス、ややこしくしないで。今はそう言うのはいいから」
「「!!!」」
2人は私の囁きを拾ってバッとこっちを見てくる。圧が、だから怖いって。
「あはは。この話あんまりしたくないんだけど?」
「ごほん。まぁ、今はいい。俺も不本意な形で聞きたくない」
「ん」
アレクはすんなり引いてくれて、ドーンはスッといつもの様に後ろに戻る。
「団長ちゃん… 実は魔性なの? 焦らすの上手いね~」
「トリス! 無駄口しか叩かないなら外に出すわよ?」
「は~い。すみませ~ん」
…。
気不味い。
間が。
…。
「まぁ、何だ。当日迎えに行く。ここに居てくれ」
「りょ、了解」
アレクは照れているのか、目を逸らしてそれだけ言って帰って行った。
…。
残された私とドーン。と、実は団長室の隅で話を聞いていたゲインとキリス。ごめん。
変な空気の中でその日は業務に勤しんだ。じっと、ずっと耐えたよ。この重い空気に。
は~。
前世でもモテた事のない私。こう言う場合はどうしたらいいのか。
91
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる