転生騎士団長の歩き方

Akila

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2章 王城と私

39 こめかみの痛み

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私は王都のタウンハウスで療養と言う名のヒマを持て余している。人生初めてぐらいの長期休暇で、こんなにも自分に趣味がないのかと落胆をした。

「父上、本日は登城のご予定だとか? 本当にお仕事ではないんですよね?」

「あぁ、仕事じゃない。ハドラーとお茶をするんだ」

「ハドラー様とお茶? 想像がつきませんね。とにかく、今は休暇中なんです。仕事を振られそうになったらお断り下さいね」

「ははは。いくらなんでもハドラーもそれは無いだろう」

若くして爵位を継いだ上の息子は、私と同じ騎士にならずに学校では経済学や農学など幅広い分野の勉強をしていた。恐らく、私が生涯騎士を引退しないと勘付いていたのだろう。私が当主にも関わらず領地を人任せにしているのが嫌だったのか、とにかく成人前に『私が領主になります』と言った時は大層驚いた。

「お前は、本当に… よくやってくれている」

「まだまだですよ。それより父上、今回の一件で分かったでしょう? 騎士はどうしても危険がついて回ります。これを機にそろそろ引退なされてはいかがです? 領地でゆっくりと。それこそ領兵達を鍛えて下さってもいいんです。うちは国境ですから、盗賊や闇商人など父上を飽きさせる事はないと思いますよ?」

「そうだな… 少し考えてみるよ」

「そうですか! いいお返事を待っています! 私は来月には領地へ帰りますので、ご一緒出来たらいいですね」

「来月はちょっと難しいんじゃないか? 早急すぎる。まぁ、私もそろそろ引退は考えていたんだ。少し待て」

「かしこまりました」

「では行ってくる」

上の息子は上機嫌で私を王城へ送り出してくれた。



「おぉ、ドーン20日ぶりか? ちょっと太ったか?」

ハドラーは今日はプライベートなので、王城の応接室を用意してくれた。いつもの団長室ではない。

「私が太るはずがない。お前の目が悪くなったんだ。歳じゃないか? 引退したらどうだ」

「!!! 俺のよく知ってるドーンじゃないか… 本当に久しぶりだ」

ん? 何を言っている?

「それよりお茶など… どうせ昼間だからお茶と言っただけだろう? お前の事だ、酒はあるのか?」

「お? 珍しいな」

「あぁ、昼間から酒も悪くない。と言うか、する事がなくて毎日死にそうだ。鍛錬してるだけなのも限界があるしな」

「お前さぁ、今回ぐらいはゆっくりしろよ。せっかくの休みだぜ?」

「もう休暇はいい。早急に復帰したい。あと、陛下にも話がある」

ハドラーはいつもならここで『また引退したい病か?』と揶揄するのだが… どうしたんだ?

「陛下と話か… それもいいかもな。前回は・・・それで上手く行ったしな」

「は? 前回?」

「いや、何でもない。それより今日はもう一人呼んでいる。もうすぐ来るから優しくな」

「誰だか知らんが、この私が優しくする義理があるのか? せっかくの友との時間、無駄な出会いにならなければいいが?」

「おいおい、今からそんなキレんなって。勝手に人を増やしたのは謝る。しかしいずれ話をしなければならない相手だ」

… あの娘か。

「いい。いい機会だ、お前も居る事だし」

「そ、そうだろ! 2人きりじゃ気まずいだろう?」

「… そうだな」

沈黙の中、グラスの中のウイスキーをクルクルと氷にからませる。

コンコンコン。

「失礼します」

「入ってくれ」

「ハドラー様。本日はお招き頂きありがとうございます」

簡素な薄グリーンのワンピースの小柄な女性が入ってくる。やはりあの娘だ。

「そんなお淑やかにして、普通に女に見えるな。ははは、普段からオシャレをしてはどうだ?」

「はぁ? 開口一番がそれですか? ちょっと~ムカつくんですけど。自分が一番分かってますよ~だ」

「ははは。こっちに来い」

例の娘はハドラーととても親しげだ。団長位で同じだとしてもここまで砕けた感じは珍しいな。ハドラーもそれを許しているとか。

「おい、ハドラー。私に改めて・・・紹介しろ」

そんな2人のやり取りを見て私はなぜかカチンときていた。失った記憶の時間で知らないうちに親友のハドラーを取られたように思ったのか… 嫉妬? いやいや、ハドラーに? うっ、我ながら気持ち悪い。

「おぉ、じゃぁ改めて。こちらはラモン・バーン子爵令嬢だ。お前の記憶がない間、ずっとお前の上官だった女性だ。戦時の功績で第7騎士団団長に任命され、今は第3を経て第2騎士団団長だ」

娘は小さくカーテシーをし自己紹介をした。

「ラモンです。ドーン様、以後よろしくお願いします」

「ドーンだ。よろしく」



「す、座るか? ラモン、酒飲むか? お茶の方がいいか? このあと仕事はないだろう?」

「お構いなくって。酒って… 総団長はこのあと仕事じゃないんですか? いいんですか? スナッチさんに怒られますよ?」

「いいって。こんなの飲んだうちに入らないって、ははは」

「もう、ほどほどにして下さいね」

「あぁ、ドーンはお代わりいいか?」

「あぁ。それより、単刀直入に聞く。その為の席だろう?」

「えぇ」

ラモン嬢は少し緊張しているのか、笑顔がスッと消えた。が、まっすぐ私を見てくる。

「私はラモン嬢の部下、副団長だったそうだが、どんな主従関係だったのだろうか? 自分でも想像がつかなくてな」

ラモン嬢は顎に手を当てて、しばらく考えている。

「そうですねぇ、周りにどの様に見えていたかは分かりませんが、親友の様な良好な関係だったと思います。私は全幅の信頼を置いていました」

親友? この娘と? ハドラーをチラッとみるがうんうんと頷いている。ウソを言ってる訳ではないのだな。

「失礼だが、おいくつになられる?」

「あっ… もうすぐ20歳です」

20。私の半分以下。本当に? こんな小娘と? とりわけ突出するモノがある様には見えないが。記憶がない間の私はこの娘の何に惹かれたのか。

「そうか。ラモン嬢から見た私の印象はどうだった?」

と、急にラモン嬢の手や首、顔など全身が赤くなった。

ん?

「印象… いつもどこに行くのも一緒で、団での政策や対策などアドバイスや補助を良くしてもらいました。私が事務仕事が苦手なもんでして… ははは。でもドーンは、すみません。ドーン様は有能なので、スイスイとやって退けてとても尊敬できる方でしたよ。あと、ちょっと過保護でお茶が淹れるのが上手で、笑顔も、その~、す、素敵でした」

はぁはぁと、赤い顔で言い切ったラモン嬢を、ハドラーがニヤニヤと見ている。

と、言うか笑顔? 過保護? 私が先頭に立たずに娘の補助だと?

「それは本当に私か?」

パタパタと顔を仰いでいるラモン嬢に代わりハドラーが答える。

「そうだ。私も近くで見てきた。正真正銘、お前だ。そしてお前はこのラモン嬢を上司としても友? としてもとても大切にしていたぞ。誰にも触らせない感じでいつも警戒していたし、真綿に包むかのような囲いっぷりだった」



私が? なぜだ? 訳がわからない。この娘にどんな魅力が…

「っ!」

今聞いたラモン嬢と私を想像しようとしたら、こめかみに激痛が走った。頭がガンガンする。

「おい! どうした! あのパーティーの時の様だぞ! ラモン、医者だ! 医者を呼べ!」

「はっ!」

私は慌てて2人を止める。

「大丈夫だ。あの痛みに似ているが… 今は治った」

「本当だな? 他は痛むか?」

「いや、大丈夫だ」

「は~良かったです。また何かあるんじゃないかと心配になりました」

2人共心から心配してくれたのか、笑顔で微笑み合っている。私はそんな光景を見ていたらつい口が滑ってしまった。いつもならこんな不確かな事は相談しないのだが。

「さっきだが… ラモン嬢と私がどんな関係だったのか想像しようとしたら… その、こめかみに激痛が」

ラモン嬢は目を大きく開けてびっくりした後、眉毛をハの字にして作り笑いをしながら言った。

「総団長。今の段階では私が居てはドーン様にご迷惑です。また痛みを伴ってはいけません。まだ療養期間中ですし… 今日はこれで、私は失礼します」

「そ、そうか? まぁ、またこうやって話をしよう。少しづつ思い出せるようになるかもしれない」

「いえ、無理に思い出そうとしてまた痛いんじゃぁ… 申し訳ないですし。しばらくはお大事になさって下さい」

「… ラモン。大丈夫か? 何かあれば第1に来いよ」

「ありがとうございます。では。ドーン様もお大事に」

「あぁ…」

ラモン嬢は最後まで笑顔でいようとがんばっていた。気丈に、つたない笑顔で退室していった。

「ハドラー… ご令嬢であの表情… 面白いな」

「ぷはっ。何だその感想! でも記憶のない時のお前もラモンと初対面の時にそんな感じの事を言ってたよ」

「そうか… 顔に出やすいのは貴族としてはアレだが、ラモン嬢は雰囲気が違うのか… きちんと本心が顔に出ているからか、好印象ではあるな」

「ふ~ん。いいんじゃないか? 俺もラモンは好きだな」

ズキっ。少しだけ痛みが走る。

「… そうか」
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