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第02話 大人になるということ(後編)
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【続き ↓ 】
とにかく翌日。
中間テストの結果が早々に発表された。
「ひゃ、100点!?」
思わず仰け反る。
だって空欄もたくさんあったのに。
すごーい、三咲すごーい、と歓声があがる。
三咲に100点取れるなら、私も取れるよね?と、その女子高生も仰天してイナバウアー。【未来の伴侶?】澤田ゼッケンに至っては鼻血を出して卒倒している。
《みんなが満点、がっかりだね三咲》
どこまでも冷静な明星一番は、時に、とても厭味な奴に見える。
「もちろん当然、この点数に胸はって帰れるわけじゃないことは重々承知よ」
でも、クラスメイトたちはこの結果に驚き、喜び、踊っていた。
サァ、踊ろうよ三咲も。
周りに流され手を取り合って、私は上手にクルクル回る。
世界がクルクル回って見える。
★
授業中。何もしなくても落第しないと知った結果、誰もノートを開かなくなる。
「ちょっとさすがにこれはまずいでしょ」
《自由!これこそが夢にまで見た自由気ままな世界なんだぞ》
私が見たのは耳なし芳一になった夢だ。
今見えるのは、ゲームしたりマニキュア塗ったり筋トレしたりする連中……学級崩壊の現場である。
「そこの殿方!」
登場してから初めて喋った宮藤政子が注意したのは、なんと【生真面目に先生の身体を眺めている】澤田ゼッケン1人だった。
どうしてアイツだけ!?
「ひぇえ!(嬉しい!)」
宮藤政子の鞭が飛ぶ。その威力は絶大、容赦のない反復が繰り返される。
「汝のような輩には、身体に罰の味を覚えさせないと!何度でも同じことを繰り返すのよ!」
ビュンビュンと風を切る鞭の音は、教室に谺して廊下にまで響く。
「あたっ!痛てっ!うぎゃ!せんせ!無知でごめ!ごめ!ごめんなさーい!(もっと!もっと!)」
アイツ本当の変態だ。
それを見てゲラゲラ笑うクラスメイトたちは、誰1人として注意されない。
「これって不自然……」
まるで、影になってしまったようだ。
《まあ見てろって》
教室の隅で小競り合いがあったのでそちらを見る。
「なあ、いいだろう。ちょっとぐらいさあ。減るもんじゃないんだし!」
正気を失った男子高校生が、同級生の女の子に身体の関係を迫っている。
ボディータッチをした瞬間、女子高生は男の手を払い……意外な者がその手を掴む。
黒ずくめの工作員。海を渡ってきたばかりなのかゴーグルをしていて、濡れている。
数人の部外者は頷き合って男を強引に教室から引きずり出す。
意味は分からないが、公然として行われた拉致だった。
「た、助けて~!ごめんなさーい!」
それで全員の目が覚めたのだった。
「コラァ-!汝ども、見ていないと思って!恥を知れ!許すまじ!許すまじ!」
怒りの矛先が他のクラスメイトに向いたのを見て、【ウゲ!生徒会長!】澤田ゼッケンが必死に手をあげる。
「先生!ここは!生徒会長のボクが責任を取ります!」
舌打ちされて、ちょっと来いと合図され、ガッツポーズを決める澤田ゼッケン。
もう好きにして下さい。
「で、一番。あなたにはこの意味が分かっているんでしょう?」
サァ、ここからが腕の見せ所、荒唐無稽な超絶推理の始まりだ。
《ああ。でも今回は、驚くほどに単純な、それゆえに重要な、一発トリックなんだ》
この教室は、呪われている。
悪い何かに、蝕まれている。
《銀髪先生のあの事件以来、僕らはみんな“ふ”抜けになっていたのさ》
不自然なことが、自然になったり。
不憫に思った誰かが、瓶を置いたり。
不埒なことをしたクラスメイトが、拉致されたり。
《誰かが何処かで、僕らから奪った“負”の感情を溜め込んでいる。そいつは僕らの最大の敵になるだろう》
地味な誰かが、"不"死身の力を手に入れた可能性も否めない。
私は私なりに、推理してみる。
「ひょっとしてそいつは、またあのボケタヌキ?」
違った。
《あいつはタフな奴だけど。“た”抜きに“ふ”抜けじゃ適わないだろ?》
そりゃそうだ。
「ねぇ一発。一体いつから気付いていたの?」
《咳をした時からさ、ハクション!》
あれは布石だったというわけか。
なるほどね!
コン、コンと咳き込めば、たぬきだって寄り付かない。
「って!分かってたなら!止めてくれれば良かったのに!」
《真の敵を見極めるためには、少し泳がせる必要が……》
「う・る・さ・い!」
《戻った途端に“不”機嫌かよ》
永遠に続く痴話喧嘩……。
★
目が覚めると、また地面が手に触れた。
「ひゃっ!」
家の前に散乱している一升瓶……。
はて、どうしたものだろう。
『おう、三咲!起きたか。お前のツレは、なかなかの男前だな!気に入ったぞ!』
なんとそこには酔ってヘロヘロになった明星一番が!
《お邪魔してます~》
なんで!なんで!
『なんだお前、何も覚えていないのか?……ん!そういえば。今日学校は?』
ハッとして時計を見る。
「ち!ち!ち!遅刻~ッ」
遅刻とか、寝坊とか、本当に耳が痛い。
★
『奪われた時間にも気付けない憐れな小娘か、フン』
物陰から見ていた男、鋼チョスは冷たく一言はき捨てる。
塀の上から可愛い子猫がニャーゴと鳴いた。
『だがタヌキ、お前の力はイマイチ冴えぬな』
足元で土下座するボケタヌキは、平謝りでペコペコとお辞儀をする。
「た、た、た、大変申し訳ありませぬ!」
『まぁいい』
その寛容は、恐ろしい悪夢の前兆。
男は顔を近付けて、ニッと笑った。
『お前が大変な思いをするほどに、“た”いへんは“異変”になる。酒を酌み交わして過ごす暖かいひとときは、あ“たた”かい頬を生み出す。この私はその赤を、真っ赤な焔と血の色に変えてやろう』
もう一度言う。
彼の名前は鋼チョス、愛腹町の支配を目論む鋼3兄弟の1人にして、銀髪先生の孫息子。この先を生き抜く目的はただ一つ。
“復讐”だ。
【第3話 “≪負≫ロジック” に続く!】
とにかく翌日。
中間テストの結果が早々に発表された。
「ひゃ、100点!?」
思わず仰け反る。
だって空欄もたくさんあったのに。
すごーい、三咲すごーい、と歓声があがる。
三咲に100点取れるなら、私も取れるよね?と、その女子高生も仰天してイナバウアー。【未来の伴侶?】澤田ゼッケンに至っては鼻血を出して卒倒している。
《みんなが満点、がっかりだね三咲》
どこまでも冷静な明星一番は、時に、とても厭味な奴に見える。
「もちろん当然、この点数に胸はって帰れるわけじゃないことは重々承知よ」
でも、クラスメイトたちはこの結果に驚き、喜び、踊っていた。
サァ、踊ろうよ三咲も。
周りに流され手を取り合って、私は上手にクルクル回る。
世界がクルクル回って見える。
★
授業中。何もしなくても落第しないと知った結果、誰もノートを開かなくなる。
「ちょっとさすがにこれはまずいでしょ」
《自由!これこそが夢にまで見た自由気ままな世界なんだぞ》
私が見たのは耳なし芳一になった夢だ。
今見えるのは、ゲームしたりマニキュア塗ったり筋トレしたりする連中……学級崩壊の現場である。
「そこの殿方!」
登場してから初めて喋った宮藤政子が注意したのは、なんと【生真面目に先生の身体を眺めている】澤田ゼッケン1人だった。
どうしてアイツだけ!?
「ひぇえ!(嬉しい!)」
宮藤政子の鞭が飛ぶ。その威力は絶大、容赦のない反復が繰り返される。
「汝のような輩には、身体に罰の味を覚えさせないと!何度でも同じことを繰り返すのよ!」
ビュンビュンと風を切る鞭の音は、教室に谺して廊下にまで響く。
「あたっ!痛てっ!うぎゃ!せんせ!無知でごめ!ごめ!ごめんなさーい!(もっと!もっと!)」
アイツ本当の変態だ。
それを見てゲラゲラ笑うクラスメイトたちは、誰1人として注意されない。
「これって不自然……」
まるで、影になってしまったようだ。
《まあ見てろって》
教室の隅で小競り合いがあったのでそちらを見る。
「なあ、いいだろう。ちょっとぐらいさあ。減るもんじゃないんだし!」
正気を失った男子高校生が、同級生の女の子に身体の関係を迫っている。
ボディータッチをした瞬間、女子高生は男の手を払い……意外な者がその手を掴む。
黒ずくめの工作員。海を渡ってきたばかりなのかゴーグルをしていて、濡れている。
数人の部外者は頷き合って男を強引に教室から引きずり出す。
意味は分からないが、公然として行われた拉致だった。
「た、助けて~!ごめんなさーい!」
それで全員の目が覚めたのだった。
「コラァ-!汝ども、見ていないと思って!恥を知れ!許すまじ!許すまじ!」
怒りの矛先が他のクラスメイトに向いたのを見て、【ウゲ!生徒会長!】澤田ゼッケンが必死に手をあげる。
「先生!ここは!生徒会長のボクが責任を取ります!」
舌打ちされて、ちょっと来いと合図され、ガッツポーズを決める澤田ゼッケン。
もう好きにして下さい。
「で、一番。あなたにはこの意味が分かっているんでしょう?」
サァ、ここからが腕の見せ所、荒唐無稽な超絶推理の始まりだ。
《ああ。でも今回は、驚くほどに単純な、それゆえに重要な、一発トリックなんだ》
この教室は、呪われている。
悪い何かに、蝕まれている。
《銀髪先生のあの事件以来、僕らはみんな“ふ”抜けになっていたのさ》
不自然なことが、自然になったり。
不憫に思った誰かが、瓶を置いたり。
不埒なことをしたクラスメイトが、拉致されたり。
《誰かが何処かで、僕らから奪った“負”の感情を溜め込んでいる。そいつは僕らの最大の敵になるだろう》
地味な誰かが、"不"死身の力を手に入れた可能性も否めない。
私は私なりに、推理してみる。
「ひょっとしてそいつは、またあのボケタヌキ?」
違った。
《あいつはタフな奴だけど。“た”抜きに“ふ”抜けじゃ適わないだろ?》
そりゃそうだ。
「ねぇ一発。一体いつから気付いていたの?」
《咳をした時からさ、ハクション!》
あれは布石だったというわけか。
なるほどね!
コン、コンと咳き込めば、たぬきだって寄り付かない。
「って!分かってたなら!止めてくれれば良かったのに!」
《真の敵を見極めるためには、少し泳がせる必要が……》
「う・る・さ・い!」
《戻った途端に“不”機嫌かよ》
永遠に続く痴話喧嘩……。
★
目が覚めると、また地面が手に触れた。
「ひゃっ!」
家の前に散乱している一升瓶……。
はて、どうしたものだろう。
『おう、三咲!起きたか。お前のツレは、なかなかの男前だな!気に入ったぞ!』
なんとそこには酔ってヘロヘロになった明星一番が!
《お邪魔してます~》
なんで!なんで!
『なんだお前、何も覚えていないのか?……ん!そういえば。今日学校は?』
ハッとして時計を見る。
「ち!ち!ち!遅刻~ッ」
遅刻とか、寝坊とか、本当に耳が痛い。
★
『奪われた時間にも気付けない憐れな小娘か、フン』
物陰から見ていた男、鋼チョスは冷たく一言はき捨てる。
塀の上から可愛い子猫がニャーゴと鳴いた。
『だがタヌキ、お前の力はイマイチ冴えぬな』
足元で土下座するボケタヌキは、平謝りでペコペコとお辞儀をする。
「た、た、た、大変申し訳ありませぬ!」
『まぁいい』
その寛容は、恐ろしい悪夢の前兆。
男は顔を近付けて、ニッと笑った。
『お前が大変な思いをするほどに、“た”いへんは“異変”になる。酒を酌み交わして過ごす暖かいひとときは、あ“たた”かい頬を生み出す。この私はその赤を、真っ赤な焔と血の色に変えてやろう』
もう一度言う。
彼の名前は鋼チョス、愛腹町の支配を目論む鋼3兄弟の1人にして、銀髪先生の孫息子。この先を生き抜く目的はただ一つ。
“復讐”だ。
【第3話 “≪負≫ロジック” に続く!】
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