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第04話 足し算の効用
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【爆音上等!東京青春冒険活劇×第4話“足し算の効用"】
「キ、キス!?」
一陣の風のように、いきなり現れた恋敵・青い髪の巫女、神崎るれろ。ズンズンズン、とやってきて私の唇にキスをした。
女の子が!女の子に!
しかも、るれろるれろと舌を絡めて!【イヤラシ!】
『マァこの子!私の唇じゃ不満なのかしら?唇なんて、ただの肉の塊なのに』
貞操を守るとか、逆に弾けるとか、そういう概念すら通用しないらしい。
紫色の唇、気持ち悪い。
「ウゲェ……」
地面には百合の花が群生している。
まるで、この世界に2人しか居ないような孤立感。
『気付いたようね、三咲さん』
明星一番が!いない!
『此処は、私たち2人だけのための世界なんだわ!』
吐き気が収まり、次第に百合の香りが三咲を包んでいく。
白魚のような指先で手を胸に導かれて……。
「私、初対面なのに」
何故かこの指が、神崎るれろを知っている。
意思に反して、頬が赤らむ。
『何もかも忘れて、今この時を愉しみましょう?』
“た”抜きや“ふ”抜けのように、これも彼女の能力なのだろうか?
不思議と警戒心が消えていき、三咲はその腕に身を委ねた。
何にせよ、“い”ちじんの風のように現れた彼女が三咲の心を“い”抜いたことは間違いない。
もはや2人は“知人”だった。【痴人かも…】
『こんなことをして、阿呆よね、私たち。相性がいいのかしら…何もかも気にならないわ』
目の前で、神崎るれろが朽ちていく。
百合の花が枯れ、鼻が削げ落ちる!るれろはやっぱり死人だったんだ!
『また、会ってくれる?』
歯形だけになった彼女に、三咲は答える。
「あうよ」
“あほうよね”と思いつつ、すっかり“ほね”抜きになっていたのだった。
★
フフフ……
誰かが嘲笑う声が聞こえる。
『腑抜けども、俺の歌を聴け!もっと“ロック魂”を見せてくれ!』
ステージでは鋼アルゼがホットなギグを繰り広げていた。
《ダメだ三咲。耳を塞げ!そいつの歌を聴いちゃダメだ!》
居ないはずの一番の声が聞こえる。第1話で彼の身体を食べてからというもの、私たちの心は筒抜けなのだ。【だから“つっつく”と電流が奔って“苦”になるのかも】
《周りを見てみるんだ》
言われた通りにすると、観衆全員が首を振りながら暴れているのが見える。
《違うよ、三咲。君ならできる。彼らに隠された本質を見抜け》
スカートからぬっと出る野太い足には脛毛がボーボー、ブ細工な顔に塗りたくった白粉、ガニ股歩きのナヨナヨ男!
よく見ると、みんなオカマだった。
「なんてこと!」
いつの間にか自分までも、女装趣味の変態仮面になっている。
「違う、違うわ、こんなのは嫌よ!」
すると群衆はボロボロと崩れだす。
《まずはそれでいい。“皆、カマ”の本質を“み”抜けば“仲間”になる。だが、君は連中の仲間にはなるな》
朽ちていく身体をよろめかせて、彼らは互いにハグをして、熱い口づけを交わすようになる。
《何度も言うが、鋼アルゼの歌声に耳を貸すなよ?》
夢の中で耳なし芳一になったことのある私には容易いことである。
私は歌を歌詞だけで捕える。
『ビバ!口溶けのよい甘い誘惑!ビバ!その誘惑は天使の歌声!ビバ!死が2人を別つまで!』
手元にあったセットリストを見る。この曲のタイトルは……
《奪われた唇》
うばわれたくちびる
並べ替えると
びばみなくちるうた
「ビバ!皆、朽ちる歌!」
まったく、何ということだろう!
《敵は複数いる。その中の誰かが、この“並べ替え”の能力者のはずだ》
なるほど、富士ロックの客層からは“オクターブ”ほど掛け離れた彼ら、実は“オタク"で"プー”だったのだ。
「言葉のロジックを弄ると同時に、富士ロックと夏コミを入れ替えたのね!」
だが、それだけではない。
《よくやった、三咲。それが君の能力だ。“負”に対抗するためには“~抜き”の力だけでは足りない。もっと“正”の力、君の“気”付きが不可欠なんだ》
“き”付いた瞬間、その“違い”が“キチガイ”になったように。
「私の…力……」
自分に特殊能力があるなんて思ってもみなかった。
《だから君を選んだんだ》
鋼アルゼが演奏をやめる。
『どうやら気付かれたようだな……正体を』
その出で立ちは、まさにキチガイ。
「足して足して、あなたの心を満たしてあげるわ!」
漸く己の使命を自覚した市野蔵三咲。
とはいえ、初戦の相手としては少々厄介な相手だった。
『俺の力が、“言葉を入れ替える”能力だとでも思ったか?』
敵は複数いるのである。
『持ちネタが出尽くしたと思うなよ』
そう言ってメキメキと、肩胛骨から翼を生やす。悪魔の翼だった。
『まだまだアルゼ!』
群衆を越えて、ステージから飛び上がる。上空から三咲を狙おうとでもいうのだろうか?
鋼アルゼは忍者のように呪文を唱える。
《避けろ!》
ゾンビのような群衆が、三咲目がけて襲いかかった。
【第5話 “見かけ倒し” に続く!】
「キ、キス!?」
一陣の風のように、いきなり現れた恋敵・青い髪の巫女、神崎るれろ。ズンズンズン、とやってきて私の唇にキスをした。
女の子が!女の子に!
しかも、るれろるれろと舌を絡めて!【イヤラシ!】
『マァこの子!私の唇じゃ不満なのかしら?唇なんて、ただの肉の塊なのに』
貞操を守るとか、逆に弾けるとか、そういう概念すら通用しないらしい。
紫色の唇、気持ち悪い。
「ウゲェ……」
地面には百合の花が群生している。
まるで、この世界に2人しか居ないような孤立感。
『気付いたようね、三咲さん』
明星一番が!いない!
『此処は、私たち2人だけのための世界なんだわ!』
吐き気が収まり、次第に百合の香りが三咲を包んでいく。
白魚のような指先で手を胸に導かれて……。
「私、初対面なのに」
何故かこの指が、神崎るれろを知っている。
意思に反して、頬が赤らむ。
『何もかも忘れて、今この時を愉しみましょう?』
“た”抜きや“ふ”抜けのように、これも彼女の能力なのだろうか?
不思議と警戒心が消えていき、三咲はその腕に身を委ねた。
何にせよ、“い”ちじんの風のように現れた彼女が三咲の心を“い”抜いたことは間違いない。
もはや2人は“知人”だった。【痴人かも…】
『こんなことをして、阿呆よね、私たち。相性がいいのかしら…何もかも気にならないわ』
目の前で、神崎るれろが朽ちていく。
百合の花が枯れ、鼻が削げ落ちる!るれろはやっぱり死人だったんだ!
『また、会ってくれる?』
歯形だけになった彼女に、三咲は答える。
「あうよ」
“あほうよね”と思いつつ、すっかり“ほね”抜きになっていたのだった。
★
フフフ……
誰かが嘲笑う声が聞こえる。
『腑抜けども、俺の歌を聴け!もっと“ロック魂”を見せてくれ!』
ステージでは鋼アルゼがホットなギグを繰り広げていた。
《ダメだ三咲。耳を塞げ!そいつの歌を聴いちゃダメだ!》
居ないはずの一番の声が聞こえる。第1話で彼の身体を食べてからというもの、私たちの心は筒抜けなのだ。【だから“つっつく”と電流が奔って“苦”になるのかも】
《周りを見てみるんだ》
言われた通りにすると、観衆全員が首を振りながら暴れているのが見える。
《違うよ、三咲。君ならできる。彼らに隠された本質を見抜け》
スカートからぬっと出る野太い足には脛毛がボーボー、ブ細工な顔に塗りたくった白粉、ガニ股歩きのナヨナヨ男!
よく見ると、みんなオカマだった。
「なんてこと!」
いつの間にか自分までも、女装趣味の変態仮面になっている。
「違う、違うわ、こんなのは嫌よ!」
すると群衆はボロボロと崩れだす。
《まずはそれでいい。“皆、カマ”の本質を“み”抜けば“仲間”になる。だが、君は連中の仲間にはなるな》
朽ちていく身体をよろめかせて、彼らは互いにハグをして、熱い口づけを交わすようになる。
《何度も言うが、鋼アルゼの歌声に耳を貸すなよ?》
夢の中で耳なし芳一になったことのある私には容易いことである。
私は歌を歌詞だけで捕える。
『ビバ!口溶けのよい甘い誘惑!ビバ!その誘惑は天使の歌声!ビバ!死が2人を別つまで!』
手元にあったセットリストを見る。この曲のタイトルは……
《奪われた唇》
うばわれたくちびる
並べ替えると
びばみなくちるうた
「ビバ!皆、朽ちる歌!」
まったく、何ということだろう!
《敵は複数いる。その中の誰かが、この“並べ替え”の能力者のはずだ》
なるほど、富士ロックの客層からは“オクターブ”ほど掛け離れた彼ら、実は“オタク"で"プー”だったのだ。
「言葉のロジックを弄ると同時に、富士ロックと夏コミを入れ替えたのね!」
だが、それだけではない。
《よくやった、三咲。それが君の能力だ。“負”に対抗するためには“~抜き”の力だけでは足りない。もっと“正”の力、君の“気”付きが不可欠なんだ》
“き”付いた瞬間、その“違い”が“キチガイ”になったように。
「私の…力……」
自分に特殊能力があるなんて思ってもみなかった。
《だから君を選んだんだ》
鋼アルゼが演奏をやめる。
『どうやら気付かれたようだな……正体を』
その出で立ちは、まさにキチガイ。
「足して足して、あなたの心を満たしてあげるわ!」
漸く己の使命を自覚した市野蔵三咲。
とはいえ、初戦の相手としては少々厄介な相手だった。
『俺の力が、“言葉を入れ替える”能力だとでも思ったか?』
敵は複数いるのである。
『持ちネタが出尽くしたと思うなよ』
そう言ってメキメキと、肩胛骨から翼を生やす。悪魔の翼だった。
『まだまだアルゼ!』
群衆を越えて、ステージから飛び上がる。上空から三咲を狙おうとでもいうのだろうか?
鋼アルゼは忍者のように呪文を唱える。
《避けろ!》
ゾンビのような群衆が、三咲目がけて襲いかかった。
【第5話 “見かけ倒し” に続く!】
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