明星一番! オトナ族との闘い。

百夜

文字の大きさ
5 / 16

第04話 足し算の効用

しおりを挟む
【爆音上等!東京青春冒険活劇×第4話“足し算の効用"】

「キ、キス!?」

一陣の風のように、いきなり現れた恋敵・青い髪の巫女、神崎るれろ。ズンズンズン、とやってきて私の唇にキスをした。
女の子が!女の子に!

しかも、るれろるれろと舌を絡めて!【イヤラシ!】

『マァこの子!私の唇じゃ不満なのかしら?唇なんて、ただの肉の塊なのに』

貞操を守るとか、逆に弾けるとか、そういう概念すら通用しないらしい。
紫色の唇、気持ち悪い。

「ウゲェ……」

地面には百合の花が群生している。
まるで、この世界に2人しか居ないような孤立感。

『気付いたようね、三咲さん』

明星一番が!いない!

『此処は、私たち2人だけのための世界なんだわ!』

吐き気が収まり、次第に百合の香りが三咲を包んでいく。
白魚のような指先で手を胸に導かれて……。

「私、初対面なのに」

何故かこの指が、神崎るれろを知っている。
意思に反して、頬が赤らむ。

『何もかも忘れて、今この時を愉しみましょう?』

“た”抜きや“ふ”抜けのように、これも彼女の能力なのだろうか?
不思議と警戒心が消えていき、三咲はその腕に身を委ねた。

何にせよ、“い”ちじんの風のように現れた彼女が三咲の心を“い”抜いたことは間違いない。
もはや2人は“知人”だった。【痴人かも…】

『こんなことをして、阿呆よね、私たち。相性がいいのかしら…何もかも気にならないわ』

目の前で、神崎るれろが朽ちていく。
百合の花が枯れ、鼻が削げ落ちる!るれろはやっぱり死人だったんだ!

『また、会ってくれる?』

歯形だけになった彼女に、三咲は答える。

「あうよ」

“あほうよね”と思いつつ、すっかり“ほね”抜きになっていたのだった。



フフフ……

誰かが嘲笑う声が聞こえる。

『腑抜けども、俺の歌を聴け!もっと“ロック魂”を見せてくれ!』

ステージでは鋼アルゼがホットなギグを繰り広げていた。

《ダメだ三咲。耳を塞げ!そいつの歌を聴いちゃダメだ!》

居ないはずの一番の声が聞こえる。第1話で彼の身体を食べてからというもの、私たちの心は筒抜けなのだ。【だから“つっつく”と電流が奔って“苦”になるのかも】

《周りを見てみるんだ》

言われた通りにすると、観衆全員が首を振りながら暴れているのが見える。

《違うよ、三咲。君ならできる。彼らに隠された本質を見抜け》

スカートからぬっと出る野太い足には脛毛がボーボー、ブ細工な顔に塗りたくった白粉、ガニ股歩きのナヨナヨ男!
よく見ると、みんなオカマだった。

「なんてこと!」

いつの間にか自分までも、女装趣味の変態仮面になっている。

「違う、違うわ、こんなのは嫌よ!」

すると群衆はボロボロと崩れだす。

《まずはそれでいい。“皆、カマ”の本質を“み”抜けば“仲間”になる。だが、君は連中の仲間にはなるな》

朽ちていく身体をよろめかせて、彼らは互いにハグをして、熱い口づけを交わすようになる。

《何度も言うが、鋼アルゼの歌声に耳を貸すなよ?》

夢の中で耳なし芳一になったことのある私には容易いことである。
私は歌を歌詞だけで捕える。

『ビバ!口溶けのよい甘い誘惑!ビバ!その誘惑は天使の歌声!ビバ!死が2人を別つまで!』

手元にあったセットリストを見る。この曲のタイトルは……

《奪われた唇》

うばわれたくちびる
並べ替えると
びばみなくちるうた

「ビバ!皆、朽ちる歌!」

まったく、何ということだろう!

《敵は複数いる。その中の誰かが、この“並べ替え”の能力者のはずだ》

なるほど、富士ロックの客層からは“オクターブ”ほど掛け離れた彼ら、実は“オタク"で"プー”だったのだ。

「言葉のロジックを弄ると同時に、富士ロックと夏コミを入れ替えたのね!」

だが、それだけではない。

《よくやった、三咲。それが君の能力だ。“負”に対抗するためには“~抜き”の力だけでは足りない。もっと“正”の力、君の“気”付きが不可欠なんだ》

“き”付いた瞬間、その“違い”が“キチガイ”になったように。

「私の…力……」

自分に特殊能力があるなんて思ってもみなかった。

《だから君を選んだんだ》

鋼アルゼが演奏をやめる。

『どうやら気付かれたようだな……正体を』

その出で立ちは、まさにキチガイ。

「足して足して、あなたの心を満たしてあげるわ!」

漸く己の使命を自覚した市野蔵三咲。
とはいえ、初戦の相手としては少々厄介な相手だった。

『俺の力が、“言葉を入れ替える”能力だとでも思ったか?』

敵は複数いるのである。

『持ちネタが出尽くしたと思うなよ』

そう言ってメキメキと、肩胛骨から翼を生やす。悪魔の翼だった。

『まだまだアルゼ!』

群衆を越えて、ステージから飛び上がる。上空から三咲を狙おうとでもいうのだろうか?
鋼アルゼは忍者のように呪文を唱える。

《避けろ!》

ゾンビのような群衆が、三咲目がけて襲いかかった。

【第5話 “見かけ倒し” に続く!】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...