明星一番! オトナ族との闘い。

百夜

文字の大きさ
6 / 16

第05話 見かけ倒し

しおりを挟む
【百花繚乱!東京青春冒険活劇×第5話“見かけ倒し"】

襲われることは、怖くはない。自分を見失わなければ、大丈夫。

『散れ!そして“無”に還れ!』

かつて銀髪先生が企んだのと同じことを、鋼アルゼは踏襲している。二番煎じに屈する三咲では、もうない。

「私は、逃げない」

鋼アルゼ。
入れ替えると
羽根があるぜ。
更に
跳ね上がるぜ。

【俺に任せろ】

どん!と砂ぼこりが舞って、土の下から筋肉隆々のタンクトップ男が現れる。
彼は一撃でゾンビたちを凪払った。

「誰?」

格闘ゲームのコスプレみたいな風貌の、心強い助っ人。

【猿渡わをん。お前の味方だ】

おおお!一番に師匠と呼ばせている強者の登場だ。
だが、これではあまりにも多勢に無勢だった。

『邪魔するな、負けると分かっていて何故踏ん張る?』

歌うゾンビの首を引っこ抜き、滴る血を振り払ってわをんは答える。

【俺はもう“ドン底”にいるんでね】

堕ちるところまで落ちたら、後は昇るか、這い上がるかしかない。
アルゼは少したじろいだ。

『お、お前の姿など、み、見たくはない!』

真実は。

【破、破、破、破、破!】

猿渡わをんの体に、文字が書き込まれていく。
それはまるで耳なし芳一の夜の姿……。

「あ!」

わをんがガンを飛ばすと、歌うゾンビたちは口をつぐんでゲッソリとした肌を憂う。

それは、“たいそうひんそう”な光景だった。

【俺の目に、濁りはない!】

彼の力は!あらゆる事象から濁点を消し去る力!
故に、自称・師匠!そのガン飛ばしはただの勘!

「ゾンビ歌いそう、濁点消去で“そんひうたいそう”並べ替えると大層貧相!」

アルゼは、あせる。

『俺の歌を聴けぇー!俺の前に、立ちふさがるな!』

大層貧相な群衆の中、痛め付けられたような顔をした音響スタッフが、顔面蒼白になって泣いた。

〈にゃ~!〉

これで、決着。
空が割れて、“虚無”が顔を覗かせる。

何もかも、無ゃ~!

その無から、神崎るれろが身を乗り出す。
今度は弓矢を持っていた。

((あんたの鋼、身ぐるみ剥がして曝してやんよ!))

“い”抜かれて、彼のロック魂の本質が顕になる。

「ロック騙し!」

そう、鋼アルゼに“力”はない。
そう見せ掛けていただけなのだ!

『クソォ……このボケナスがぁ!』

自暴自棄になった彼は、全てのゾンビに辞令を出した。

彼の司令は、四方死期。

『みな、道連れにしてやる!』

意気揚々と高笑い。私たちを皆殺しにするつもりだ。

「そっちがその気なら、戦うまでよ!」

拳と拳がぶつかり合う、その瞬間。
群衆は"貝"になって殻の中に閉じこもった。

バチバチバチ!と明星一番。

《遅くなって悪い、三咲。るれろ、わをん》

何していたの?と聞くまでもなく、言葉を続ける。

《もう、争いごとにはウンザリだ》

なんと、脇にいるのはボケタヌキだった。

【キサマ!】

一番は、わをんを制する。

《彼は、もう仲間だ。彼は“たたかい”を終わらせる方法を知っている》

戦いから“た”を抜けば“貝”になる。
連れてきた甲斐があったというものだ。

『ウウウ……畜生めがぁ……』

さっきまで意気揚々としていた鋼アルゼは、そう言って息を引き取る。
その目はもう、誰も見ていない。
私は彼の最期を看取る。

〈彼は、もう用なしね〉

泣いているスタッフがはき捨てるように言った。

いきようよう
“よう”無しになって、
“いき”引き取って、
誰も“みない”
私が“み”とって、
もう、何も残ら“ない”

《敵はまだいるはずだ》

感傷とは無縁の一番が言った。

【この物語、俺たちは誰かが書いた物語の中にいるんだ】

"地面"から生まれた彼が言うのだから、間違いはないだろう。
私たちは今、"紙面"の中にいる。

((鋼アルゼはオタクだった。私たちと同じ中二病。鋼兄弟においてそれは異端。彼の力は“《腐》捨て威張る《腐》絵ロジック”だったのかもしれない))

並べ替えると“富士ロック・フェスティバル”になった。

余興の終わった会場に、一陣の風が舞う。
誰も彼もがもう知人だ。

「あれ?」

ステージの脇に倒れた白い猫を見つけた。その毛は血で赤く濡れている。

「かわいそう……」

労るように、猫を撫でる。

こうして私はこの身体を“日和ミーシャ”に乗っ取られた。

【第6話 “偽りのつわり” に続く!】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...