7 / 16
第06話 偽りのつわり
しおりを挟む
【形勢逆転?東京青春冒険活劇×第6話“偽りのつわり”】
嘘つきは平然と偽りの世界を生きるけれど、正直者にはそれができない。
“慣らそう”と思っても、平常心ではいられない。
“うそ”付きにとっては、ならそ“うそ”う。
成るように為るとの思いで日常を過ごせる。
だが、ひとたび心を“い”抜かれれば、偽りはただの“つわり”になる。
その痛みは、何かを産み出すための代償……。
★
〈ニャニャニャ!〉
富士ロック・フェスティバルのスタッフが私を見て喜ぶ。
私もそれを見て歓んだ。
〈猫は9つの魂を持っているのよ。だから“入れ替わり”も9回できる。今、元の身体には9人の人間の魂が入っているわ。朽ちていく脱け殻にね!猫は何匹も子供を産むでしょ?分かったかにゃ?〉
敵は複数いる、と一番は言った。その敵は今や皆味方だ。
〈新月の夜、鋼チョスが会合を開く。場所は端元公園の集会場。そこで今後の動きについて相談するにゃ〉
私の名前は日和ミーシャ。市野蔵三咲の皮を着て、明星一番の懐に忍び込む使命を受けた。
〈それじゃまたにゃん〉
さっと身を翻して、猫は闇へと消えていく。
★
新月の夜。
いつものように道端には一升瓶が散らばっており、腹を出してグーグー寝ている親父と階段に凭れかかるように突っ伏した一番がいる。
白猫の私はもう酔わない。
〈酔うはにゃい、用はにゃい〉
今するべきことは、この路地を抜けて端元公園に行くことだ。
〈そこで鋼チョス様に会い、教えを乞うのにゃ〉
そう、私たちは企む。この世界をオトナ族から守るために。
罵り、蔑み、貶める。
★
まるで自分と同じように【ドッペルゲンガー?】何かに導かれて歩く夢遊病者を見つけた。
行き先はどうやら同じみたいだ。
〈猫には9つの魂があって、それぞれが別の人間に転移しているんにゃ〉
見知った他人の正体は、分裂した自分に他ならない。
つまり、元々9つの魂を持っていた猫が、9人の人間に可愛がられてそれぞれ1つずつ魂を転移させていたのだ。
端元公園で、9つの魂が遂に1ヶ所に集う。
その中心にいるのは、鋼チョスだ。
『今夜』
持っていたバットを肩に回す。
『世界は変わる』
その言葉はどうしてか絶対的で、彼が変わると断言すれば世界までもが変容するのだと誰もが自然に受け入れる。
『約束しよう。今夜この地に"ネバーランド"を建国すると』
鋼チョスによる、コドモたちの為の、終わらない楽園。
『移り住め。そしてオトナ族の呪縛から自らを解き放て』
闇の中から、新市民たちが沸き上がる。よく見えないが奇怪な格好をした魑魅魍魎、昼間の世界では見掛けない日陰者たちだった。
ヨウ、セイ!ヨウ、セイ!と掛け声があがる。
『彼らが築いた“偽り”の中で育ったコドモたちよ。今こそ半旗を翻し、産まれ出よ!』
妖しい宗教団体の教祖みたいに、鋼チョスは金属バットを振り回す。
『打って、疑われて、撃たれて、討って、打ち拉がれても立ち上がる。その心は、何処にも売っていない。これがお前たちに、うってつけの世界だ』
ちょっとやりすぎだし、意味が分からない。
ドン!とバットが人に当たってその人は倒れこんだ。
『痛みを知れ。その苦しみは何かを産み出す原動力となるだろう』
バットで叩かれた人が立ち上がる。腰に大きな瘤が出来ており、腫れていた。
パックリと割れた傷口からニヤリと笑う歯が見える。
『つ“う”ふうの“ち”からだ』
普通の身体(ふつうのからだ)
“うち”付けられて
(ふうつうのちからだ)
並べ替えると
痛風の力だ!
閉じた世界では、言葉の力で事実さえもがねじ伏せられる。
その場所の名前は、ネバーランド。永遠が存在するロジカルな世界。
〈で、具体的には何をするのにゃ?〉
チョスは眉を片方吊り上げた。
『自由だ、何をするのも。それを奪う者全てを、排除しろ』
★
散々になった"仲間たち"の背中を見て、私は暫く考えた。
〈自由にやれと言われてもにゃ~〉
闇の中に一人、取り残されて路頭に迷う。
気ままに過ごすのが猫だけど、何かに向かって邁進するのは慣れていない。
{{にゃ~にをお悩み?}}
ブランコの支柱にもたれかかる先輩の猫。
三咲と同じ制服を見事に着崩し、髪は明るめの茶色で肌は白い。というか化粧が厚くて粉を噴いている。瞼にのせた紅色がチャームポイントか。
〈だ、誰にゃ~!〉
すると女は姿勢を正して名乗りをあげた。
{{刃渡ネオン。あんたと同じ、ネコ目ヒト科の魂のひとつ}}
絡まった痰を吐き捨てると、刃渡ネオンは言い忘れたと云わんばかりに付け加える。
{{にゃ}}
ネコ目ヒト科の習性上、語尾にニャを付けずには居られにゃい。
{{自由に何かをやるという事。そんなに難しい?……あたしにはね、"夢"があるの。だからそんなに難しくない}}
刃渡ネオンは、またまた慌てて付け加えた。
{{にゃ}}
この女、本当に忘れっぽい猫だ。
居心地が悪くなって、私は思わず咳払いする。
〈で、貴女の"夢"はにゃに?〉
他人の夢が自分の夢になることは無いけれど、ここは魂を分かち合った猫同士。
目的は異なるとしても、生き方だけは同じであると考えたい。
{{オトナ族が群がる夜の蝶になって、奪われたものをこの手に奪い返すことにゃ}}
反対に奪われるものの方が大きいのでは?とも思ったが、口には出さない。
〈そんな夢、懐いたことも無いにゃ~。夢は夜に見るだけだからにゃ〉
私が知っているのは、ゴッホのように耳を切り落とす夢。耳なし芳一になった夢。
それだけだ。
{{人の"選択"は自由だけど、"生き方"は過去の経験に左右される。考えることね。日和ミーシャである以前に貴女が誰であったのか。にゃ}}
市野倉三咲という人間について。
酒蔵で生まれ、不自由なく育ち、何の疑問も持たずに毎日高校に通っている。将来なりたいものとか、夢を語ったことは一度もない。
〈にゃ、にゃに者でもにゃいにゃ〉
何者でもない私。
日和ミーシャでしかない私。
{{何者でもにゃいのなら}}
刃渡ネオンは言葉で私を切り裂いた。
{{にゃにもしないで見ていれば?}}
でも一つだけ、特性がある。
孤独な猫は縄張りを追われ、他人の縄張りでこっそりと冷えた残飯に食らいつく。
〈にゃかまに入れて?〉
切実すぎて、ニヤニヤと出来ない。自分というものを持っていないから、取り残されると不安になる。【仲間になりたい】
私はネオンにしがみついた。
〈ねぇ、お願い〉
★
かくして、私たちのオトナ狩りが始まった。
数人で闇に潜んで飲み会帰りのサラリーマンを襲う。刃渡ネオンが色仕掛けで迫り、魑魅魍魎が"虚無"の世界に引き摺り込む。
トイレに入ってきた裏社会のボスをいきなり壁に打ち付ける。リンチが終わると鋼チョスが現れて"お前の罪、全ての罪を水に流してやろう"と言う。トイレが詰まって下水が噴き出る。
新市民たちが交通量の多い道路にバナナの皮を撒いて、スリップ事故を誘う。猫たちがボンネットに集まり、オトナ族がハンドルを誤ったところを掴み出す。痛風の力を手にした化物が運転者を食べると、悪い噂の立ったその道を通る者は少なくなる。
或いはまた、金属バットで学校の窓をすべて壊して、教職員と対決する。
非常階段を“ペンローズの無限階段”に替えて、掃除をサボっていた不良生徒を奈落の底に突き落とす。
私は職員室のドアを蹴破り、雄叫びをあげながら机の上に広がる書類を踏み躙った。
〈校長は何処にゃー!〉
すると、絵に書いたような校長先生【バーコード頭に大きめの眼鏡!】が、毅然とした態度で名乗り出る。
((私、だが。君は何を勘違いしているのかな?))
上着を脱ぐ校長を見て、言葉を失う。
肩から腹にかけて、禍々しい 髑髏の刺青が入っていたからだ。
〈ま、まさかそんにゃ……〉
その徴は、泣く子も黙る体罰推進委員会、その中でも悪名高い親衛隊員の証だった。
((悪い娘には、お仕置きだ))
ダン!
校長先生が机を叩くと、その衝撃波で私はよろめく。
〈や、やめて欲しいにゃ。わ、私には何の恨みもにゃいのら。やれと言われたことをやっただけにゃ〉
((そんな言い訳が通用するほど、オトナの世界は甘くはない))
ダン!ダン!
力無くひれ伏した私を見下して、先生は言った。
((私に見放された時にはもう、君を救う手立ては残されていない。夢や希望を懐くことすらもう出来ない。そう思って、精々今をもがき、苦しみ、生きるがいい))
★
ぼんやりと目が覚める。
真っ白な天井が見えた。
「えっと、あれから……」
思い出せない。
漏れだした言葉は猫語ではなかった。
身体が重い。
《やぁ》
聞き覚えのあるような、無いような、ひどく嗄れた声が言う。
《一晩中、うなされていたよ。悪い夢でも見たのかい?》
年老いた明星一番が、私の顔を覗き込んでいた。
皺くちゃで、ゾッとした。
震えが奔る。
「いやだ、いやだいやだいやだ!」
目覚めたくない!
どんな悪夢の中だっていい!
今は兎に角、この現実から目を反らしたい!
もう、何も見たくない。
《クソ、またか……》
一番が言って、無理やり眠りにつこうとする私を慰める。
《おやすみ》
その言葉で、私は再び安らかな気持ちになれる。
痛いは嫌い。
苦しいは嫌い。
毎日笑って過ごしていたい。
"市野倉三咲"という人生には、楽しいと思える時間があまり無かった。
だから夢で、"補完"する。
「なあに、今日は、ハロウィーンなの?」
夢の中の一番は、【【虎】】のお面を被っている。鏡を見ると、私は【【猫】】のお面をしていた。
「ねえ一番、私、かわいい?」
本当の姿など見ないようにして。
目を閉じ、耳を塞ぎ、口をつぐんで。
私は再び、猫を被る。
【第7話 “鋼カオスの憂鬱な日常” に続く!】
嘘つきは平然と偽りの世界を生きるけれど、正直者にはそれができない。
“慣らそう”と思っても、平常心ではいられない。
“うそ”付きにとっては、ならそ“うそ”う。
成るように為るとの思いで日常を過ごせる。
だが、ひとたび心を“い”抜かれれば、偽りはただの“つわり”になる。
その痛みは、何かを産み出すための代償……。
★
〈ニャニャニャ!〉
富士ロック・フェスティバルのスタッフが私を見て喜ぶ。
私もそれを見て歓んだ。
〈猫は9つの魂を持っているのよ。だから“入れ替わり”も9回できる。今、元の身体には9人の人間の魂が入っているわ。朽ちていく脱け殻にね!猫は何匹も子供を産むでしょ?分かったかにゃ?〉
敵は複数いる、と一番は言った。その敵は今や皆味方だ。
〈新月の夜、鋼チョスが会合を開く。場所は端元公園の集会場。そこで今後の動きについて相談するにゃ〉
私の名前は日和ミーシャ。市野蔵三咲の皮を着て、明星一番の懐に忍び込む使命を受けた。
〈それじゃまたにゃん〉
さっと身を翻して、猫は闇へと消えていく。
★
新月の夜。
いつものように道端には一升瓶が散らばっており、腹を出してグーグー寝ている親父と階段に凭れかかるように突っ伏した一番がいる。
白猫の私はもう酔わない。
〈酔うはにゃい、用はにゃい〉
今するべきことは、この路地を抜けて端元公園に行くことだ。
〈そこで鋼チョス様に会い、教えを乞うのにゃ〉
そう、私たちは企む。この世界をオトナ族から守るために。
罵り、蔑み、貶める。
★
まるで自分と同じように【ドッペルゲンガー?】何かに導かれて歩く夢遊病者を見つけた。
行き先はどうやら同じみたいだ。
〈猫には9つの魂があって、それぞれが別の人間に転移しているんにゃ〉
見知った他人の正体は、分裂した自分に他ならない。
つまり、元々9つの魂を持っていた猫が、9人の人間に可愛がられてそれぞれ1つずつ魂を転移させていたのだ。
端元公園で、9つの魂が遂に1ヶ所に集う。
その中心にいるのは、鋼チョスだ。
『今夜』
持っていたバットを肩に回す。
『世界は変わる』
その言葉はどうしてか絶対的で、彼が変わると断言すれば世界までもが変容するのだと誰もが自然に受け入れる。
『約束しよう。今夜この地に"ネバーランド"を建国すると』
鋼チョスによる、コドモたちの為の、終わらない楽園。
『移り住め。そしてオトナ族の呪縛から自らを解き放て』
闇の中から、新市民たちが沸き上がる。よく見えないが奇怪な格好をした魑魅魍魎、昼間の世界では見掛けない日陰者たちだった。
ヨウ、セイ!ヨウ、セイ!と掛け声があがる。
『彼らが築いた“偽り”の中で育ったコドモたちよ。今こそ半旗を翻し、産まれ出よ!』
妖しい宗教団体の教祖みたいに、鋼チョスは金属バットを振り回す。
『打って、疑われて、撃たれて、討って、打ち拉がれても立ち上がる。その心は、何処にも売っていない。これがお前たちに、うってつけの世界だ』
ちょっとやりすぎだし、意味が分からない。
ドン!とバットが人に当たってその人は倒れこんだ。
『痛みを知れ。その苦しみは何かを産み出す原動力となるだろう』
バットで叩かれた人が立ち上がる。腰に大きな瘤が出来ており、腫れていた。
パックリと割れた傷口からニヤリと笑う歯が見える。
『つ“う”ふうの“ち”からだ』
普通の身体(ふつうのからだ)
“うち”付けられて
(ふうつうのちからだ)
並べ替えると
痛風の力だ!
閉じた世界では、言葉の力で事実さえもがねじ伏せられる。
その場所の名前は、ネバーランド。永遠が存在するロジカルな世界。
〈で、具体的には何をするのにゃ?〉
チョスは眉を片方吊り上げた。
『自由だ、何をするのも。それを奪う者全てを、排除しろ』
★
散々になった"仲間たち"の背中を見て、私は暫く考えた。
〈自由にやれと言われてもにゃ~〉
闇の中に一人、取り残されて路頭に迷う。
気ままに過ごすのが猫だけど、何かに向かって邁進するのは慣れていない。
{{にゃ~にをお悩み?}}
ブランコの支柱にもたれかかる先輩の猫。
三咲と同じ制服を見事に着崩し、髪は明るめの茶色で肌は白い。というか化粧が厚くて粉を噴いている。瞼にのせた紅色がチャームポイントか。
〈だ、誰にゃ~!〉
すると女は姿勢を正して名乗りをあげた。
{{刃渡ネオン。あんたと同じ、ネコ目ヒト科の魂のひとつ}}
絡まった痰を吐き捨てると、刃渡ネオンは言い忘れたと云わんばかりに付け加える。
{{にゃ}}
ネコ目ヒト科の習性上、語尾にニャを付けずには居られにゃい。
{{自由に何かをやるという事。そんなに難しい?……あたしにはね、"夢"があるの。だからそんなに難しくない}}
刃渡ネオンは、またまた慌てて付け加えた。
{{にゃ}}
この女、本当に忘れっぽい猫だ。
居心地が悪くなって、私は思わず咳払いする。
〈で、貴女の"夢"はにゃに?〉
他人の夢が自分の夢になることは無いけれど、ここは魂を分かち合った猫同士。
目的は異なるとしても、生き方だけは同じであると考えたい。
{{オトナ族が群がる夜の蝶になって、奪われたものをこの手に奪い返すことにゃ}}
反対に奪われるものの方が大きいのでは?とも思ったが、口には出さない。
〈そんな夢、懐いたことも無いにゃ~。夢は夜に見るだけだからにゃ〉
私が知っているのは、ゴッホのように耳を切り落とす夢。耳なし芳一になった夢。
それだけだ。
{{人の"選択"は自由だけど、"生き方"は過去の経験に左右される。考えることね。日和ミーシャである以前に貴女が誰であったのか。にゃ}}
市野倉三咲という人間について。
酒蔵で生まれ、不自由なく育ち、何の疑問も持たずに毎日高校に通っている。将来なりたいものとか、夢を語ったことは一度もない。
〈にゃ、にゃに者でもにゃいにゃ〉
何者でもない私。
日和ミーシャでしかない私。
{{何者でもにゃいのなら}}
刃渡ネオンは言葉で私を切り裂いた。
{{にゃにもしないで見ていれば?}}
でも一つだけ、特性がある。
孤独な猫は縄張りを追われ、他人の縄張りでこっそりと冷えた残飯に食らいつく。
〈にゃかまに入れて?〉
切実すぎて、ニヤニヤと出来ない。自分というものを持っていないから、取り残されると不安になる。【仲間になりたい】
私はネオンにしがみついた。
〈ねぇ、お願い〉
★
かくして、私たちのオトナ狩りが始まった。
数人で闇に潜んで飲み会帰りのサラリーマンを襲う。刃渡ネオンが色仕掛けで迫り、魑魅魍魎が"虚無"の世界に引き摺り込む。
トイレに入ってきた裏社会のボスをいきなり壁に打ち付ける。リンチが終わると鋼チョスが現れて"お前の罪、全ての罪を水に流してやろう"と言う。トイレが詰まって下水が噴き出る。
新市民たちが交通量の多い道路にバナナの皮を撒いて、スリップ事故を誘う。猫たちがボンネットに集まり、オトナ族がハンドルを誤ったところを掴み出す。痛風の力を手にした化物が運転者を食べると、悪い噂の立ったその道を通る者は少なくなる。
或いはまた、金属バットで学校の窓をすべて壊して、教職員と対決する。
非常階段を“ペンローズの無限階段”に替えて、掃除をサボっていた不良生徒を奈落の底に突き落とす。
私は職員室のドアを蹴破り、雄叫びをあげながら机の上に広がる書類を踏み躙った。
〈校長は何処にゃー!〉
すると、絵に書いたような校長先生【バーコード頭に大きめの眼鏡!】が、毅然とした態度で名乗り出る。
((私、だが。君は何を勘違いしているのかな?))
上着を脱ぐ校長を見て、言葉を失う。
肩から腹にかけて、禍々しい 髑髏の刺青が入っていたからだ。
〈ま、まさかそんにゃ……〉
その徴は、泣く子も黙る体罰推進委員会、その中でも悪名高い親衛隊員の証だった。
((悪い娘には、お仕置きだ))
ダン!
校長先生が机を叩くと、その衝撃波で私はよろめく。
〈や、やめて欲しいにゃ。わ、私には何の恨みもにゃいのら。やれと言われたことをやっただけにゃ〉
((そんな言い訳が通用するほど、オトナの世界は甘くはない))
ダン!ダン!
力無くひれ伏した私を見下して、先生は言った。
((私に見放された時にはもう、君を救う手立ては残されていない。夢や希望を懐くことすらもう出来ない。そう思って、精々今をもがき、苦しみ、生きるがいい))
★
ぼんやりと目が覚める。
真っ白な天井が見えた。
「えっと、あれから……」
思い出せない。
漏れだした言葉は猫語ではなかった。
身体が重い。
《やぁ》
聞き覚えのあるような、無いような、ひどく嗄れた声が言う。
《一晩中、うなされていたよ。悪い夢でも見たのかい?》
年老いた明星一番が、私の顔を覗き込んでいた。
皺くちゃで、ゾッとした。
震えが奔る。
「いやだ、いやだいやだいやだ!」
目覚めたくない!
どんな悪夢の中だっていい!
今は兎に角、この現実から目を反らしたい!
もう、何も見たくない。
《クソ、またか……》
一番が言って、無理やり眠りにつこうとする私を慰める。
《おやすみ》
その言葉で、私は再び安らかな気持ちになれる。
痛いは嫌い。
苦しいは嫌い。
毎日笑って過ごしていたい。
"市野倉三咲"という人生には、楽しいと思える時間があまり無かった。
だから夢で、"補完"する。
「なあに、今日は、ハロウィーンなの?」
夢の中の一番は、【【虎】】のお面を被っている。鏡を見ると、私は【【猫】】のお面をしていた。
「ねえ一番、私、かわいい?」
本当の姿など見ないようにして。
目を閉じ、耳を塞ぎ、口をつぐんで。
私は再び、猫を被る。
【第7話 “鋼カオスの憂鬱な日常” に続く!】
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる