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第10話 どストレート
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【直球勝負!東京青春冒険活劇×第10話“どストレート”】
剛徳学園において、体育祭で勝つことは重要だ。
勝ち負けはその後の人生を左右すると伝えられている。
《勝った者は勝ち続け、負けた者は負け続けるというジンクスだ》
三咲を失った今、誰かがオトナ族と戦わなければいけない。
((私も協力するよ))
“い”抜きの巫女・神崎るれろ。
【俺もだ】
濁点消去、猿渡わをん。
大切な仲間たち。
《サァ、行くぞ》
歓声沸き上がる校庭に、いざ出陣。
★
プール。
上腕二等筋が自慢の猿渡わをんは、競泳用のパンツを履いて位置につく。
「ヨォーイ、どん!」
見た目がゴツい割に、ゆっくり泳ぐ。自由形で平泳ぎを選ぶあたり、センスが良いのか悪いのか。
どんどん追い越されていき、応援しているこっちがハラハラしてくる。
皆がゴールに近付いた時。
「ピピィー!」
笛が鳴る。
「失格!退場!」
早めに着いた選手たちが、ゴールを前にして足をついた。
水がミスを誘ったのだ。
悠然と泳いできた猿渡わをんが一番になり、金メダルを手にしてそれを齧る。
【破!破!破!プールだけに、みんなフールだな!】
落ち込んだ参加メンバーは舌を噛み切って皆死んだ。
【バカが墓に入る、か】
ちょっとやりすぎたのでバツが悪い。
寒々とした空気が猿渡わをんを取り囲む。
【ゴールドだけに、コールド……】
思わず濁点を消し忘れた。
勝つとは、時に人を蹴落とすことでもある。
兎に角、
剛徳学園高校、体育祭。
ラウンド2:水泳競技
猿渡わをんの、コールド勝ち。
★
市野蔵三咲が立っている。
純白のドレス姿で、風に髪を靡かせて。
《三咲……》
否、中の人は日和ミーシャだ。
猫の手でもみあげを掻き上げた。
〈そういうお前は、かの有名な明星一番だにゃ〉
よく知っているはずの人によそよそしくされる事ほど、違和感を感じるものはない。
《日和ミーシャ。お前の目的は、なんだ》
分からないの?と問い掛ける表情で、首を傾げて大きく目を開けた。
〈この薄汚い世界から、おさらばするにゃ〉
死ぬという意味ではない。
宙返りして、新しい世界の主(ヌシ)となる。
《分かってないな、三咲》
一番はわざと彼女を三咲と呼んだ。
《人は誰もが、自分自身の“主(アルジ)”なんだよ》
2人の間に火花が散る。
驚くほどのスピードで三咲は一番に迫り、ツメを出し、引っ掻いた。
〈お前にも、この世界にも、用はにゃい!〉
しっかりと掴んだはずのツメが空を掻く。
明星一番の衣服だけが、切り裂かれてボロボロになった。
〈にゃにゃ?〉
異“様”な空気が、“衣”だけを残して一番を消し去った。
《いつか俺のことを透明人間だと言っていたな、三咲》
空気がビリビリと痺れ始める。
日和ミーシャは全身の毛を逆立てた。
《失礼千万だ!》
そして現れる素っ裸の一番。均整の取れた肉体美は、ミケランジェロの彫刻に匹敵する。
〈バカなッ!どうして用なしになった輩が徘徊してるにゃ!?〉
ゴゥゴゥと燃え上がる焔にも似た闘志。
《そんなのは全部、“なし”崩しなんだよ!》
能力がにゃくなって、無に捕われたミーシャは必死に藻掻く。
《帰るべきところに、還れ!》
ボーン。
隣の会場で行われていた“たま”入れ競技のボールが、無のホールにたまたま吸い寄せられていく。
〈タマって呼ぶにゃ!〉
家は、い“たま”えとなり、市野蔵の親父が寿司を握る。
「へぃ、お待ち」
日和ミーシャの大好物、ツナの軍艦。
〈にゃ~〉
掴もうとする度に、皿ごと逃げる。
幾らか繰り返しているうちに次元の狭間から引き摺り出された。
《捕まえたぞ》
明星一番が寄り合わせた紐を持っていた。
《これが本当の“つな”引きだ》
剛徳学園高校、体育祭。
ラウンド3:日和ミーシャ v.s. 明星一番!
明星一番の、勝ち。
★
そう、三咲は一番の腕の中で。
「あれ?」
ビリビリビリビリ!
電撃が奔って吹っ飛ばされる。
「いったーい!」
目を覚ました。
《やれやれ》
何も覚えていない三咲を責めるつもりはないが、此処に至るまでの事情を説明するのが厄介だ。
《まぁ、とにかく意識を取り戻してくれて良かったよ。あの時はまさか……》
校庭の隅で、三咲は紛れ込んできた猫を可愛がっている。
《って、おい!》
がくん、と三咲の首が仰け反る。
〈憶えておいで明星一番。化け猫の寿命は長いのよ〉
何故、猫はこの校庭に侵入してきたのだろう。
オトナ族によって、結界が張られていたはずなのに!
『何故“結界”が破られたのか?君が知りたいのはそれだな』
校門の前に立つのは、鋼チョス!
バットを肩に掛け、ピョンと門を飛び中に入ってくる。
『そんなものはとっくのとうに“決壊”しているんだよ!』
仇敵を見た神崎るれろが、すかさず矢を放つ。
((“異”端はさっさと“痰”になれ!))
だが、鋼チョスはバットを一振り、跳ね返す。
『悪いが負け犬、お前の相手をしている暇はない!』
一番に“や”が刺さり、“い”抜かれる。
いちばん
いちやばん
ちやばん
〈こんな茶番劇、見ているこっちが恥ずかしいにゃ〉
神崎るれろは諦めなかった。
((負け犬、だと?認めよう。でも、負けぬ!))
まけいぬ
“い”抜かれて
まけぬ!
不敵な笑みを浮かべて、チョスは言った。
『いいだろう。だが、勝つのは常にこの私と決まっている』
ほざけ、とるれろが唾を吐く。
『直球勝負だ!』
鋼3兄弟の親玉にして、地上最悪のバッドガイ、鋼チョスがバットを構える。
校庭に砂ぼこりが舞い、小さな竜巻を作りはじめた。
【第11話 “カタストロフィー” に続く!】
剛徳学園において、体育祭で勝つことは重要だ。
勝ち負けはその後の人生を左右すると伝えられている。
《勝った者は勝ち続け、負けた者は負け続けるというジンクスだ》
三咲を失った今、誰かがオトナ族と戦わなければいけない。
((私も協力するよ))
“い”抜きの巫女・神崎るれろ。
【俺もだ】
濁点消去、猿渡わをん。
大切な仲間たち。
《サァ、行くぞ》
歓声沸き上がる校庭に、いざ出陣。
★
プール。
上腕二等筋が自慢の猿渡わをんは、競泳用のパンツを履いて位置につく。
「ヨォーイ、どん!」
見た目がゴツい割に、ゆっくり泳ぐ。自由形で平泳ぎを選ぶあたり、センスが良いのか悪いのか。
どんどん追い越されていき、応援しているこっちがハラハラしてくる。
皆がゴールに近付いた時。
「ピピィー!」
笛が鳴る。
「失格!退場!」
早めに着いた選手たちが、ゴールを前にして足をついた。
水がミスを誘ったのだ。
悠然と泳いできた猿渡わをんが一番になり、金メダルを手にしてそれを齧る。
【破!破!破!プールだけに、みんなフールだな!】
落ち込んだ参加メンバーは舌を噛み切って皆死んだ。
【バカが墓に入る、か】
ちょっとやりすぎたのでバツが悪い。
寒々とした空気が猿渡わをんを取り囲む。
【ゴールドだけに、コールド……】
思わず濁点を消し忘れた。
勝つとは、時に人を蹴落とすことでもある。
兎に角、
剛徳学園高校、体育祭。
ラウンド2:水泳競技
猿渡わをんの、コールド勝ち。
★
市野蔵三咲が立っている。
純白のドレス姿で、風に髪を靡かせて。
《三咲……》
否、中の人は日和ミーシャだ。
猫の手でもみあげを掻き上げた。
〈そういうお前は、かの有名な明星一番だにゃ〉
よく知っているはずの人によそよそしくされる事ほど、違和感を感じるものはない。
《日和ミーシャ。お前の目的は、なんだ》
分からないの?と問い掛ける表情で、首を傾げて大きく目を開けた。
〈この薄汚い世界から、おさらばするにゃ〉
死ぬという意味ではない。
宙返りして、新しい世界の主(ヌシ)となる。
《分かってないな、三咲》
一番はわざと彼女を三咲と呼んだ。
《人は誰もが、自分自身の“主(アルジ)”なんだよ》
2人の間に火花が散る。
驚くほどのスピードで三咲は一番に迫り、ツメを出し、引っ掻いた。
〈お前にも、この世界にも、用はにゃい!〉
しっかりと掴んだはずのツメが空を掻く。
明星一番の衣服だけが、切り裂かれてボロボロになった。
〈にゃにゃ?〉
異“様”な空気が、“衣”だけを残して一番を消し去った。
《いつか俺のことを透明人間だと言っていたな、三咲》
空気がビリビリと痺れ始める。
日和ミーシャは全身の毛を逆立てた。
《失礼千万だ!》
そして現れる素っ裸の一番。均整の取れた肉体美は、ミケランジェロの彫刻に匹敵する。
〈バカなッ!どうして用なしになった輩が徘徊してるにゃ!?〉
ゴゥゴゥと燃え上がる焔にも似た闘志。
《そんなのは全部、“なし”崩しなんだよ!》
能力がにゃくなって、無に捕われたミーシャは必死に藻掻く。
《帰るべきところに、還れ!》
ボーン。
隣の会場で行われていた“たま”入れ競技のボールが、無のホールにたまたま吸い寄せられていく。
〈タマって呼ぶにゃ!〉
家は、い“たま”えとなり、市野蔵の親父が寿司を握る。
「へぃ、お待ち」
日和ミーシャの大好物、ツナの軍艦。
〈にゃ~〉
掴もうとする度に、皿ごと逃げる。
幾らか繰り返しているうちに次元の狭間から引き摺り出された。
《捕まえたぞ》
明星一番が寄り合わせた紐を持っていた。
《これが本当の“つな”引きだ》
剛徳学園高校、体育祭。
ラウンド3:日和ミーシャ v.s. 明星一番!
明星一番の、勝ち。
★
そう、三咲は一番の腕の中で。
「あれ?」
ビリビリビリビリ!
電撃が奔って吹っ飛ばされる。
「いったーい!」
目を覚ました。
《やれやれ》
何も覚えていない三咲を責めるつもりはないが、此処に至るまでの事情を説明するのが厄介だ。
《まぁ、とにかく意識を取り戻してくれて良かったよ。あの時はまさか……》
校庭の隅で、三咲は紛れ込んできた猫を可愛がっている。
《って、おい!》
がくん、と三咲の首が仰け反る。
〈憶えておいで明星一番。化け猫の寿命は長いのよ〉
何故、猫はこの校庭に侵入してきたのだろう。
オトナ族によって、結界が張られていたはずなのに!
『何故“結界”が破られたのか?君が知りたいのはそれだな』
校門の前に立つのは、鋼チョス!
バットを肩に掛け、ピョンと門を飛び中に入ってくる。
『そんなものはとっくのとうに“決壊”しているんだよ!』
仇敵を見た神崎るれろが、すかさず矢を放つ。
((“異”端はさっさと“痰”になれ!))
だが、鋼チョスはバットを一振り、跳ね返す。
『悪いが負け犬、お前の相手をしている暇はない!』
一番に“や”が刺さり、“い”抜かれる。
いちばん
いちやばん
ちやばん
〈こんな茶番劇、見ているこっちが恥ずかしいにゃ〉
神崎るれろは諦めなかった。
((負け犬、だと?認めよう。でも、負けぬ!))
まけいぬ
“い”抜かれて
まけぬ!
不敵な笑みを浮かべて、チョスは言った。
『いいだろう。だが、勝つのは常にこの私と決まっている』
ほざけ、とるれろが唾を吐く。
『直球勝負だ!』
鋼3兄弟の親玉にして、地上最悪のバッドガイ、鋼チョスがバットを構える。
校庭に砂ぼこりが舞い、小さな竜巻を作りはじめた。
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