明星一番! オトナ族との闘い。

百夜

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第10話 どストレート

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【直球勝負!東京青春冒険活劇×第10話“どストレート”】

剛徳学園において、体育祭で勝つことは重要だ。
勝ち負けはその後の人生を左右すると伝えられている。

《勝った者は勝ち続け、負けた者は負け続けるというジンクスだ》

三咲を失った今、誰かがオトナ族と戦わなければいけない。

((私も協力するよ))

“い”抜きの巫女・神崎るれろ。

【俺もだ】

濁点消去、猿渡わをん。
大切な仲間たち。

《サァ、行くぞ》

歓声沸き上がる校庭に、いざ出陣。



プール。

上腕二等筋が自慢の猿渡わをんは、競泳用のパンツを履いて位置につく。

「ヨォーイ、どん!」

見た目がゴツい割に、ゆっくり泳ぐ。自由形で平泳ぎを選ぶあたり、センスが良いのか悪いのか。
どんどん追い越されていき、応援しているこっちがハラハラしてくる。

皆がゴールに近付いた時。

「ピピィー!」

笛が鳴る。

「失格!退場!」

早めに着いた選手たちが、ゴールを前にして足をついた。

水がミスを誘ったのだ。

悠然と泳いできた猿渡わをんが一番になり、金メダルを手にしてそれを齧る。

【破!破!破!プールだけに、みんなフールだな!】

落ち込んだ参加メンバーは舌を噛み切って皆死んだ。

【バカが墓に入る、か】

ちょっとやりすぎたのでバツが悪い。
寒々とした空気が猿渡わをんを取り囲む。

【ゴールドだけに、コールド……】

思わず濁点を消し忘れた。

勝つとは、時に人を蹴落とすことでもある。
兎に角、

剛徳学園高校、体育祭。
ラウンド2:水泳競技

猿渡わをんの、コールド勝ち。



市野蔵三咲が立っている。

純白のドレス姿で、風に髪を靡かせて。

《三咲……》

否、中の人は日和ミーシャだ。
猫の手でもみあげを掻き上げた。

〈そういうお前は、かの有名な明星一番だにゃ〉

よく知っているはずの人によそよそしくされる事ほど、違和感を感じるものはない。

《日和ミーシャ。お前の目的は、なんだ》

分からないの?と問い掛ける表情で、首を傾げて大きく目を開けた。

〈この薄汚い世界から、おさらばするにゃ〉

死ぬという意味ではない。
宙返りして、新しい世界の主(ヌシ)となる。

《分かってないな、三咲》

一番はわざと彼女を三咲と呼んだ。

《人は誰もが、自分自身の“主(アルジ)”なんだよ》

2人の間に火花が散る。
驚くほどのスピードで三咲は一番に迫り、ツメを出し、引っ掻いた。

〈お前にも、この世界にも、用はにゃい!〉

しっかりと掴んだはずのツメが空を掻く。
明星一番の衣服だけが、切り裂かれてボロボロになった。

〈にゃにゃ?〉

異“様”な空気が、“衣”だけを残して一番を消し去った。

《いつか俺のことを透明人間だと言っていたな、三咲》

空気がビリビリと痺れ始める。
日和ミーシャは全身の毛を逆立てた。

《失礼千万だ!》

そして現れる素っ裸の一番。均整の取れた肉体美は、ミケランジェロの彫刻に匹敵する。

〈バカなッ!どうして用なしになった輩が徘徊してるにゃ!?〉

ゴゥゴゥと燃え上がる焔にも似た闘志。

《そんなのは全部、“なし”崩しなんだよ!》

能力がにゃくなって、無に捕われたミーシャは必死に藻掻く。

《帰るべきところに、還れ!》

ボーン。

隣の会場で行われていた“たま”入れ競技のボールが、無のホールにたまたま吸い寄せられていく。

〈タマって呼ぶにゃ!〉

家は、い“たま”えとなり、市野蔵の親父が寿司を握る。

「へぃ、お待ち」

日和ミーシャの大好物、ツナの軍艦。

〈にゃ~〉

掴もうとする度に、皿ごと逃げる。
幾らか繰り返しているうちに次元の狭間から引き摺り出された。

《捕まえたぞ》

明星一番が寄り合わせた紐を持っていた。

《これが本当の“つな”引きだ》

剛徳学園高校、体育祭。
ラウンド3:日和ミーシャ v.s. 明星一番!

明星一番の、勝ち。



そう、三咲は一番の腕の中で。

「あれ?」

ビリビリビリビリ!
電撃が奔って吹っ飛ばされる。

「いったーい!」

目を覚ました。

《やれやれ》

何も覚えていない三咲を責めるつもりはないが、此処に至るまでの事情を説明するのが厄介だ。

《まぁ、とにかく意識を取り戻してくれて良かったよ。あの時はまさか……》

校庭の隅で、三咲は紛れ込んできた猫を可愛がっている。

《って、おい!》

がくん、と三咲の首が仰け反る。

〈憶えておいで明星一番。化け猫の寿命は長いのよ〉

何故、猫はこの校庭に侵入してきたのだろう。
オトナ族によって、結界が張られていたはずなのに!

『何故“結界”が破られたのか?君が知りたいのはそれだな』

校門の前に立つのは、鋼チョス!
バットを肩に掛け、ピョンと門を飛び中に入ってくる。

『そんなものはとっくのとうに“決壊”しているんだよ!』

仇敵を見た神崎るれろが、すかさず矢を放つ。

((“異”端はさっさと“痰”になれ!))

だが、鋼チョスはバットを一振り、跳ね返す。

『悪いが負け犬、お前の相手をしている暇はない!』

一番に“や”が刺さり、“い”抜かれる。

いちばん
いちやばん
ちやばん

〈こんな茶番劇、見ているこっちが恥ずかしいにゃ〉

神崎るれろは諦めなかった。

((負け犬、だと?認めよう。でも、負けぬ!))

まけいぬ
“い”抜かれて
まけぬ!

不敵な笑みを浮かべて、チョスは言った。

『いいだろう。だが、勝つのは常にこの私と決まっている』

ほざけ、とるれろが唾を吐く。

『直球勝負だ!』

鋼3兄弟の親玉にして、地上最悪のバッドガイ、鋼チョスがバットを構える。
校庭に砂ぼこりが舞い、小さな竜巻を作りはじめた。

【第11話 “カタストロフィー” に続く!】
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