明星一番! オトナ族との闘い。

百夜

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第09話 決着

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【古今東西!東京青春冒険活劇×第9話“決着”】

何にでも始まりがある。

18年前、夏

鋼ナオトは妻の美央(ミオ)を連れて高緒山へドライブに行った。
出産前の最後の旅行と決めていた。

「好きだ」

美央も。ってなわけで身重になった。
車を降り、ロープウェイで頂上付近までひとっ飛び。紅葉した山の木々が遠ざかっていく。

「こうやって見ていると、感じるわ。私たちの世界は、なんてちっぽけなのかしら」

天球を覆い尽くす大空と雲の群れ。
その下で吹き荒ぶ風と、大地に張り付いた幾千もの灯り。

「だな」

鋼ナオトも同意した。
細々とした人々の小さな争い。意地の張り合い。……下らない。
そうこうしているうちに登りきり、思い出の詰まったビアガーデンに到達する。

「私は飲まないけど、飲んでもいいよ?」

大自然の中で頬張るグルメほど美味しいものはない。ナオトは美央を座らせて、バイキングの列に加わった。
肉やサラダをお皿に盛る。

「ウッ!」

聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、美央がお腹を抱えてうずくまっている。

「美央!」

十中八九、陣痛だ。
ビアガーデンの照明がチカチカと閃いた。

「大丈夫か、美央!?」

足を伝って流れ落ちる血に戸惑う。
このままでは流産どころか、美央までも死んでしまう。

「車では、帰れない……」

その次に起きた出来事を、忘れることはできない。

バチバチと空気が電気を帯びて、天狗の集団が舞い降りた。
真っ赤な顔をして、鼻の長い、軍配を持った【【天狗】】の群れ。

「来るまでは、孵れない!」

美央の叫びに呼応して、奴らは下界に舞い降りた。

《何か用かい?》

妖怪変化が羽根を畳んで近付いてくる。
“陣痛”が“神通”となって彼らを呼び寄せたのだ。

「助けてやってくれ。子供も……母親も!」

言われるなり、天狗はグイッと一息で1番目の子供を引き抜いた。

『おぎゃあ、おぎゃあ』

勢いよく引っ張ったせいで、吊り目になる。

《チョス!》

ちょっとした挨拶がそのまま名前になった。

「ありがとう、ありがとう!」

だが、まだ陣痛は治まらない。
2番目の赤ん坊は爆音で泣いた。

『フギャアアアアアア!!!!』

思考が音に占領されてしまう。
この爆音、まさにヘウ゛ィメタル!

《名付けてやろう》

年老いた年長の天狗が言う。

《メタルだけに……“鋼アルゼ”?》

“おと”に“な”付けてヘウ゛ィメタル、皆、これを聴いてオトナになる。

(まだまだアルゼ)

そう、まだまだ顔を出さない子供がいる。
3番目の赤ん坊は、逆児で、ゆえに、難産だった。

《子供の命と母親の命、どちらを選ぶ?》

そんなの急に選べない。
迷っているうちに、美央が答える。

「子供を……」

天狗は母親の魂と“引き替え”に赤ん坊の命を救った。

美央の手首から力が抜ける。
ずっと握り締めていた掌がだらりと垂れた。

「美央ッ!」

ザワザワと奇妙 な胸騒ぎ。
ビクッと美央の身体が震える。

ポコッ

次に産まれたのは人間ではなかった。
次々に生まれた【【それ】】の名は……

魑魅魍魎。

ポコッ、ポコウッ、と次々に産まれては歩き、闇の中に消えていく。

《高緒山が“たかおさん”、並べ替えると“おさんかた”》

美央がこの世に遺したのは“お三方”、でもそれ以上に“お産過多”だ。

闇が騒めき、潮騒が聞こえてくる。

《“産み”は“海”に通じるからな》

それは“膿”かも知れなかったが、“ちみもうりよう”は“うち、最寄り、海”でもある。

〈ミョウ、ミョウ。ミョウ、ミョウ〉

その闇に宿る、幾千もの“光る眼”と猫の声。

〈見よう、見よう〉

その声は美央を感じさせる。もう絶対に喋ることの出来ない美央。ミュートの世界に行ってしまった美央。
話す代わりに、異次元の彼方から見守っている。

《彼の力は強力だ。誰も適う者はいないだろう》

飲んで“ぐでんぐでん”になった赤ら顔の天狗が言う。

《弱点があるとすれば、それは己自身の自惚れだけだ》

“自信”を失えば“自身”まで喪ってしまう。
“過信”はよき“家臣”ではない。

「任せてくれ」

鋼ナオトはきりりと言った。

「3人を、立派なオトナにしてみせる」

末っ子カオスに触れた瞬間、真っ黒だった髪が銀髪に変わった。
色白の肌は日焼けした褐色に変化する。

はがねなおと
オトナは、ネガ

世界は反転し、組み変わる。

銀髪先生……
本名・鋼ナオト。
鋼3兄弟の父親。
剛徳学園の“元”数学教師。

鋼美央……
鋼3兄弟と魑魅魍魎を産んだ母親。
異口同音を聞き違える力を持つ。
別名・鋼ミュート。



2年前、ドイツ

鋼カオスは岩壁に向かってピッケルを打ち込んだ。
吹雪が激しい。

『“天候”が悪いが、何とか“好転”させてみる』

一瞬、雲の切れ目から太陽が顔を覗かせるが、空は段々暗くなって雹を降らす。

『クソッ、“荒天”か……』

どんなに無理をしても、“登山”は“頓挫”してしまう。
こんな風に非生産的な活動に身を投じることが出来るのも、長兄チョスのおかげだと言えよう。

しっかりと親父の血を受け継いで、自立しているチョスは後継者と決まっていた。(まさか、裏切り、ネバーランドを作ろうとするなど当時は考えもつかなかった)
兎に角、あとの2人は気が楽なもので次男のアルゼは音楽の道を、末っ子のカオスは美術の道を無意識のうちに選んでいた。

『車で、帰ろう』

カオスは言って、ポケットの中のコイン“マルク”を車に替える。
が、ロールスロイスは崖の下へと転がり落ちて爆発した。並べ替えただけでは、どうにもならないこともある。

〈そうやっていつまで逃げているにゃ〉

ブロンド美人と入れ替わった白猫・日和ミーシャが嗜める。
フサフサで真っ白な防寒着は雪景色の山道と同化していた。

『日本に帰るつもりはない。ここの“国土”が性に合うんだ』

風土じゃなくて?と突っ込みを入れる。

『ああ。“孤独”な僕らには丁度いいだろう?』

ミーシャのポケベルが鳴る。

〈鋼チョスの兄さんが、また集まれって催促のメールだにゃ〉

『他に用事があると言ってくれ。“ドイツ”には“集い”が多いんだ』



現在、日本

「サァ、待ちに待った“体育祭”当日です!徒競走の順番、まだ決めてませんでしたよね?」

鋼カオスの策略に填まり、精神が吹っ切れて普通になってしまった宮藤政子先生。

どんなに困難な問題にぶちあたっても、全ては呆気なく決着がつく。
偉大な研究の成果は、偶然によるものが殆んどだ。

「これから“くじ”引きを始めようと思います」

鋼カオスの筆が止まった。

『クソッ』

もう、入れ替える言葉が何も浮かばない。

思い付く時間
“くじ”引きで
思いつかん!

これにて決着。

剛徳学園高校、体育祭。
ラウンド1:鋼カオス v.s. 宮藤政子

宮藤政子の、勝ち。

【第10話 “どストレート” に続く!】
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