明星一番! オトナ族との闘い。

百夜

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第08話 体育祭前夜

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【千夜一夜!東京青春冒険活劇×第8話“体育祭前夜”】

家庭訪問と称して市野蔵家にやってきた宮藤政子は虎視眈々と暗殺の機会を窺っている。
酒の力を借りて一番に近づこうとするも、原酒・市野蔵は強烈すぎて完全に酒に呑まれてしまった。

「んもう!分からない!世の中、分からないことばかり!」

敵がいきなり味方になったり、味方がいきなり敵になったり。
"見方"を変えれば、どんな事象も都合の良いように解釈できる。

「あなた、敵なの?味方なの?」

標的のはずの一番に寄り添って、衿をはだけて素肌を曝すなんて危険極まりないことだ。
しかも"杖"の柄はだらしなく緩み、仕込み刀の鋼色が煌めいている。
だがそこはさすがの一番、我関せずでお酒にバチバチと指を入れ、電気ブランを楽しんでいた。

《分からなくても、娯しめればイイってことでしょ》

「ねえ」

一番は、相手の心を次々と開いていく才能の持ち主だ。

「わたしにも、チョウダイ」

酔えるお酒が欲しいのか、一番自身が欲しいのか、分からない境目の微妙なニュアンス。

《くれてやるよ、幾らでも》

わざとらしくキザに振る舞う。
そうすることで宮藤政子の心が掴めると知っている。

《家庭訪問なんだから、ぼくの部屋も見に来てくれない?》



正確に言えば市野倉三咲の部屋なのだが、当人は不在なので今は一番が使っている。
ふたりは酒蔵の鋳造所を通り、奥の階段に向かって歩いた。

「すごい。こんなに沢山の樽に囲まれたの初めて!」

宮藤政子はいきなり走り出し、思わず酒樽の中にダイブ!
ドッウ゛ァーン!

《ちょっと、先生ッ!!》

これには一番も驚いた。
奇抜すぎる…。

「プハァー!生き返ったァー!!!」

真っ赤な顔の宮藤先生がびしょ濡れだけど全然エロくない格好で酒樽から半身を出す。
泳ぎ続ける目を見る限り、上下左右の方向感覚を失っているようだった。

「ゲポッ」

あまり詳しくは描写すまい。

暫くして、何とか一番、宮藤政子を担ぎ上げて階段の前まで辿り着く。
だが、飲みすぎたのか(他に考えられる原因があるなら教えてくれ)足がふらついていて階段を登れない。
歩くのにも、支障をきたす。

《大丈夫?部屋は4階なんだけど、辿り着けます?》

宮藤政子は階段に足をかけ……
次の瞬間、明星一番の部屋にいた。

《え?》

理解するのに時間が掛かる。
もう一度言う。

階段に足をかけた瞬間、4階の部屋に来ていた!
しかも、酒樽まで部屋に来ている!

“たる”に囲まれ、支障を“き”足し

たる”き“たる、で
樽、来る。

ついでにふたりもやってきた。

《なるほどな》

さすがは一番、何だって看破してしまう。
腕の中でぐったりとした宮藤政子は意識を失い、顔面は赤を通り越して蒼白になっていた。

《クソッ、先生に訊きたいことがあったのに》

三咲の居場所を、三咲の部屋で聞き出すつもりだったのだ。
そして更に、悪いことは重なっていく……。
ミシリッ!

《まさか!》

狭い部屋に無理矢理詰め込まれた酒樽が、ミシリッ!ミシリッ!と割れ始めていたのだ!

《酒を飲ませるんじゃなかった!》

“くどう”が“さけ“に飲まれると
さ“くどう”け、になる。
割く、道化。

オトナ族の果てに行き着く”魔”の世界。

覚醒した宮藤政子が何も見ていない目を開く。

【汝、オトナ族を見くびることなかれ】

4階は、死界。
コドモには早いけれど、オトナはその速さを知っている。着々と忍び寄る”生”の期限…。
だからこそ発揮される、底無しのパワー!

【勝ったな!】

宮藤政子(またの名を、割く道化)は、仕込み刀を引き抜いて樽という樽を叩き斬った。

“たる”を
“た”たきき”る“と
たるの中から“たき”が溢れ出る。

《これは…想定外……》

頭から落ちて逆さまになる。

《なんてね》



【えっ?】

何もかもが逆さまな世界で、“つえ”は驚きの声に変わった。
ぼんやりとした視界に映る景色は、そう、全て逆さまだ。

《遠くの昔に封印された同音異義語の暗黒魔法、”4階”を”死界”と訳された時は正直、あまりのバカバカしさに負けたかと思った》

だが、いつだって魔法を解く手段はある。

《”死界“から甦った【割く道化】よ、人間はどんな機会をも“活かし”てこれまで生き残ってきたと知るがいい》

不利な事実までをもひっくり返し、何度でも、何度でも、自らに有利な状況を作り出す。

【キサマァー!これで、これで、勝った等と思うなよ!】

深い闇の深淵まで、ドンドン落ちて堕
ち続けながら悪魔は言う。

【必ず、必ずや、他の悪魔がお前たちを滅ぼしにやってくる。誰もこの運命からは逃れることはできない!】

黙って聞いていた一番だったが、まだまだ喋りたそうにしている”割く道化“に飽々してきた。

《で、いつまで落ち続けるつもりだい?》

まったく、引き際の悪い悪魔だ。

【えっと…それは……】

しつこい悪魔は、幕間に固執する。
人間を真似てこの事態をひっくり返そうとするが、上手くいかない。
猫のように宙返りしても、変わらない。

まくあいこしつ
しつこいあくま

《いくらやっても無駄だ。お前の本質は!何処を向いても同じままだからだ!》

フッ

諦めた悪魔が、宮藤政子の身体から抜けていく。
地面が近づき、一番はクルリと背を向けて彼女を庇った。

《イテテ》

正気を取り戻した宮藤政子、一番の腕の中で目覚め、白眼を剥いて嘔吐する。
ウエエ…。

「ご免なさい、一番」

明星一番は笑顔を作り、ハンカチを取り出す。そして、嘔吐して汚れた宮藤政子の口元を静かに拭った。

《大丈夫、悪い奴等にクスリを盛られていただけさ》

そう、宮藤政子は体罰推進委員会のメンバーから拷問を受けていた。
一番は彼女を抱き締めた時、既にそのことに気付いていたのだ。

《悪いものを吐いたら、もう、俺たちの仲間さ》

クスリは、その効果と裏腹にそれなりのリスクを併せ持つ。

「仲間って……私、どうすればいいの?」

一番はニッコリとして、杯を掲げる。

《飲もう!》



『飲もう!とか』

ビルの屋上にいて、その光景をからかうように見ている男女がいる。
鋼カオスと、日和ミーシャだ。

『・・・つうか!頭もあがらないんだな。何故こうまでも宮藤政子は酔うのだろ』

日和ミーシャ、いや、市野倉三咲の身体を借りた猫は、前肢で顔を掻きながら言った。

〈ぜったい、次の駒を考えるしかないのよねえ〉

次の駒…それは、ネバーランドを実現させる詰めの一手でなければならない。そんな都合のいい人材など……

『いまならあるで!』

スマートフォンを掲げながら、鋼カオスは言ってのける。
眼下では、宮藤政子を介抱する明星一番の姿が見えた。全てを見透かされているなどと、考えたことすらないだろう。
カオスはお絵描きアプリを起動して、指の腹でデッサンを始めた。

『何処までも虚空を彷徨う素人か。俄然うだつのあがらない田舎者だべ!』

そして、ウジウジとコドモのように身体を捩りながら駄々を捏ねる。

『使える駒はもうねえのかよ!』

ふとその時、電話が鳴った。

((着いたぜ!))

『なら今、銀行なのであるな』

この会話全てが、鋼カオスのロジックだった。

のもう!とか。つうか!こうべもあがらないんだな。なぜこうまでもくどうまさこはようのだろ。ぜったい、つぎのこまをかんがえるしかないのよねえ。いまならあるで!

並べ替えると

どこまでもこくうをさまようしろうとか。がぜんうだつのあがらないいなかものだべ!つかえるこまはもうねえのかよ!ついたぜ!ならいま、ぎんこうなのであるな。

“次の駒”と言われた男は銀行で、次々とオトナ族の貯金を下ろす。

男の名前は、澤田ゼッケン。



《下らないプライドなんて捨てちまえよ》

自らの髪にハサミを入れながら、宮藤政子は一番の言葉を思い出していた。

《悪い人など一人も居ない。結果としての行動があるだけだ》

決して否定も肯定もしない。
ただ、生き方は自分で選ぶことができる。

「大好きよ、一番」

報われない恋だとは分かっている。
オトナ族と、そうでない者との間に恋心など許されない。
だけど、そう。もう一度生き直すことが出来たなら。

バッサリと髪を切り落とす。



「明日は体育祭です」

誰だろう、妙にサッパリした性格の女の人だなと思ったら宮藤政子先生だった。

長く伸びた黒髪はショートボブに、古風な着物は薄茶色のネグリジェに変わっている。

「皆さん、張り切って行きましょう!」

そう、これがクライマックスの始まり。

体育祭前夜
たいいくさいぜんや

“た”ぬきの参加で……
いいくさいぜんや
るれろが“い”抜いて……
いくさぜんや
最後にわをんが濁点消去!

いくさせんや
戦千夜

永遠の戦いの、始まりだ。

【第9話 “決着” に続く!】
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