明星一番! オトナ族との闘い。

百夜

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第12話 裸の王様

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【唯我独尊?東京青春冒険活劇×第12話“裸の王様”】

何でもできる力を手に入れたら、人は何をするだろう。

不可能だと思ってきた“壁”を壊し、諦めかけていた“夢”を叶えようとするはずだ。
“思うがまま”に振る舞い、私利私欲に奔るかもしれない。

無限に財を為し、心行くまで浪費し続ける人。
“ある才能”を手に入れて自由な生活を満喫する人。
人と交わり、暖かい家庭を築こうとする人。

人それぞれ願望は違う。
だが、澤田ゼッケンのそれは“強烈”だった。



『市野倉さん、好きだ!』

思い詰めた面持ちで下を向きつつも、直球勝負でぶち当たっていったのだ。

〈ごめんにゃさい〉

気色悪い。
だってそれまで面と向かって話したこともなかったし、眼鏡は指紋でベッタリ汚れていたから。

『どうして、好きなのに。市野倉さんは僕の何処が気に入らないって言うの?』

いや、そもそもよく知らないし。
猫たちを餌付けして集めて王様になって、我がもの顔で振る舞う男の言うことなんか聞きたくない。
“え”付けされて“永遠”に続く“胃炎”なんて耐えられるわけがない!

〈気に入らない、とかじゃにゃくて〉

生理的に無理……なんて言うと変な仕打ちをされそうなので口が避けても言えない。
猫の魂を持つ9人の女たちは今、この場所に集められてゼッケンに仕えている。カタストロフィーは一番手にしてはいけない者の手に渡ってしまった。

〈遺憾を表明するにゃ〉

しばらく“飯”抜きだったので、“使命感”が“遺憾”になる。
ここは難しい言葉を並べ立てて冷たく距離を置き、気がないことをそれとなく伝えることが肝要だ。

『ふぅん、そうなんだ。じゃあ、これはどう?友達になろうよ、ねぇ?友達から!友達から!』

不思議なことに、警戒心が解けていく。
哀れな子羊を見るのと同じ目で、市野倉三咲は澤田ゼッケンを見下した。

遺憾が、
“か”足すトロフィーによって
快感へと転じたのかもしれない。
でもそこは野良猫、知らない輩に無防備に背中を見せることはない。

〈さ、澤田さんは、生徒会長だし、頭もいいし、将来有望なのできっといい人が見つかると思うんだけどにゃッ〉

猿でも分かる究極の断り文句。
でも、断られることに慣れているゼッケンは諦めない。

『それが君じゃいけないのかい?』

〈駄目にゃーッ!〉

私は拒絶して、澤田ゼッケンを引っ掻いた。
これがいけなかった。

『アハ!アハハ!嬉しいよ三咲!君のその反応!君のその激情!僕のためにしてくれたんだね?僕のためにしてくれたんだよね!』

まったくもって手に負えない。

『好きだよ三咲、好きだぁ好きだぁ。ふ、普通の人だったらもう終わりだよね。あんなこと言われてこんなことされて。でも僕は受け入れるよ三咲、どんな三咲でも、僕の三咲なんだからね!』

身体の中から猫の魂が逃げていくのを感じ取った。
袋のネズミを放棄して、他の身体に乗り移ったのだろう。
他の猫たちも主導権を明け渡したようで、意識を失ってぐったりと倒れる。

『それともアレかい?今の僕では不満なの?地位や名誉や財産が必要?』

「助けて、一番!」

澤田ゼッケンはここで“身なり”を整えた。
“か”足すトロフィーの力で、それは小さな“雷”に変わる。

『そ、そう。分かったよ三咲。君はこれが恋しいんだね?触るとピリピリする刺激が欲しいんだね?』

指先が唇に触れて、ピリリッピリリッと少しだけ痺れる。

「やめて!」

『ホゥ、ホゥ、それだよ三咲!その感情だよ!僕が求めていたのは、それだ!』

私の顔は真っ青になって、次第に黒ずんでいく。
唇は割れて肌の表面には白い粉が噴く。
魅力0だ。

『ん?まぁ、君の言う通りかもしれないな。勝ち組の僕は女の子には困らないわけだし。……暫らく、僕のいない生活を経験してもらおうか……幸福から見放された生活を』

潔く立ち去る澤田ゼッケン。

疲れがどっと出て、目の下に出来た隈はもう取れない。
市野倉三咲は、オトナになった。



一体、幾つの年月が過ぎただろう。
呪いをかけられてからというもの、良いことは一つもない日々が続いた。

夜の新宿をフラリフラリと歩いているとショーウィンドーに映る自分の姿が目に入る。

服は乱れ、髪はボサボサ、人を寄せ付けない目をしていた。

《ふぅん》

鏡の中の女が言う。

《あんたも結局、棄てられたんだ》

振り返ると、不埒な格好をした娼婦が生足覗かせ立っている。

《自己紹介が遅れたね、あたいの名前は刃渡ネオン。アイツに囲われたおかげで、アバズレになっちまった。ザマぁねえや》

私は何も答えない。
するとネオンは痰を吐いて、ヒップをくねらせながら近付いてきた 。

《謝らなくちゃね、忠告しなかったこと。同じ元猫の仲間として》

ゆっくりと長い腕を回し、私の肩に手を置く。
煙草の煙を吹き掛けた。

《もうこれ以上、あんたに迷惑はかけたくない》

知らず知らずのうちに、澤田ゼッケンに加担していたことを後になってから知る。

“異端”の鋼チョス
“い”抜かれて“痰”、
“か”足されて“加担”
だから彼女は痰を吐き、呪いの毒素を排出した。

《早く効く呪いはすぐ消える。掛けられたことにも気付けない呪縛からは、一生掛かっても抜け出せない》

唐突に興味を失った刃渡ネオンが、私から身を離す。

《物事の本質は原因と結果の連続に過ぎない。何かを変えようと思ったら、レイデイ。目的の彼を“寝”取りなさい》

そう言って、喧騒の中に紛れる。会ったばかりだが早くも、もう二度と会えない気がしていた。

「分かったわ、ネオン」

携帯電話には未だ、澤田ゼッケンの着信履歴が残っている。



『おや、おや、おや』

ますます太った澤田ゼッケンは、私が来たという知らせを聞いて出迎えた。

『私の可愛いプリンセス!』

高級フランネルのガウンを着て、ワインを片手に大理石のら旋階段を下りてくる。

「私は、別に貴方の着せ替え人形なんかではないわ」

決別を宣言しに来たの。

『ハァ、ハァ、ハァ、相変わらず面白いね、三咲』

広間からメイドたちが集まってきて、三咲を囲む。
顔面に包帯をしている者、腐りかけた足に棒を巻いている者。皆、何処かを患っていた。

『この34年間、君のことを気に掛けたことすらなかったよ』

その間、私は不毛地帯に閉じ込められていた。

「クッ……」

『まぁ飲み給え、君。ロマネ・コンティ、私の血だ』

並々と注がれたワインを勧められる。私は激しく首を振って断った。

『まさか、この血の価値が解らないのか?』

【第13話 “唯一無二の希望の光” に続く!】
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