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最終話 遠い日の誓い、軽すぎる思い
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【老若男女!東京青春冒険活劇×最終話“遠い日の誓い、軽すぎる思い”】
試験の時間が嫌で嫌で堪らなかった。
私は結果を求めているんじゃない、その“過程”に生きていたいんだ。
澤田ゼッケンが造り出した“仮定”の世界を、闖入者の鋼チョスが壊す。
【異界(いかい)の扉は、開かれた】
それはひっくり返しても変わらない回文の牢獄。
澤田ゼッケンは、未来永劫落ち続ける!
((食らえ、“蚊”取り線香!))
異界の狭間から神崎るれろがグルグル模様の円盤を放つ。
『もう止めてくれ!』
円盤は豪邸の離れにある宝物殿、蔵の施錠を突き破って“か”足すトロフィーに直撃した。
価値あるものが“血”を流す。
【己の罪と真実を知り、その衝撃を受け止めろ!】
夢が壊れ、目覚めの光が降ってくる。
蚊取り“線香”から放たれる、唯一無二の“閃光”だ。
私もそれを浴び、目を閉じる。
「痛い……」
★
《真実》
皺くちゃ顔の澤田ゼッケンがガムを噛んでいる。惚けた様子で、ロビーの椅子に座り続けていた。
「無我のガム」
その手前で、大慌てで救急カートを押す年配の看護婦。
昼と夜とを使い分ける刃渡ネオンの昼間の顔だ。
「誰か、死んだの?」
彼女が来た方向へ目を移すと、明星一番がいるはずのベッドが空いていた。
「一番……私の一番……」
泣いても何も変わらない事は知っていたし、今ではそうそう涙も出ない。
行くあてもなく館内を彷徨う。
喫煙室に屯する老人たちが目に入った。歯のない口で笑っている。
歯がねー3兄弟だった。
『三咲さん……三咲さんだね?』
杖をついた爺さまに呼び止められる。
最近白内障になった猿渡わをん。
『今日こそ抜け出そうこの牢獄から!オトナ族の監視から自由になろう!』
濁ってしまった目には、監視辛めが“がんじがらめ”に見えてしまう。私有できる自由を求めて逃避していた。
「断るわ、わをん。あなた本当に中二病なのね」
中二のことを中二病とは呼ばない。
年齢を重ねても中二であり続けることが病なのだ。
『それがいけないことなのかね?』
世の中には悪いことばかりでなくて、良いこと楽しいこと正しいことが溢れている。
私の会社のそばには蕎麦屋があって、よく食べた。
「明星一番は偉大な人だった」
人生に疲労困憊した私を労り、老人ホームに入ってからもよく話に来てくれた。
来たり、来なかったり。まさに神出鬼没だった。
というのも、私たちは互いに惹かれ合っていたからだ。
高校卒業と時を同じくして一番は私の前から姿を消し、私は成り行き任せで澤田ゼッケンと結婚した。全てはカタストロフィーによって仕組まれた罠だった。
《せめて君の余生を見守ることが、僕に出来る唯一の償いだ》
それがこんなにも早く、向こうから先に行ってしまうなんて……。
だけど、一番は常に心の中にいる。
「偉大な人は皆、いずれ去ってしまうのね」
私もそろそろ、去る時間か。
「正々堂々、退陣します」
《これでも食えや》
“た”ぬきうどん。
退陣するのは皆偉人。
大切な思い出は、異説と化す。
《もう一度やり直そうよ、三咲》
これを輪廻というのだろうか?
中二病の私は、老齢になって尚、高校時代の夢を見る。
世界には幾つもの次元があって、誰もが望む世界を手に入れられるとは限らない。
「何処で何を間違ったのかしら」
私は“つらい時限”を生きてきた。
《君は君を生きてきた。その事実は誇るべきことだ。何処で何をしようとも、君は君であり続けた》
だから。
《これからもそれを、“つら”抜き通せ》
“つらい時限”は
“つら”抜き通すことで
“異次元”となる。
鋼ミュートが私を浄化し、生まれ変わるための準備を施す。
((ねぇ聞こえる?あなたは今、眠っているのよ。起きたら夜が明けて、真っ更な瞳で世界を見るの))
いびきが聞こえる。私自身が寝ている証拠だ。
“異次元”は
“い”引きによって
“字源”になる。
((あなたの目に、濁りはない!))
こうして私は旅立った。
★
目を覚ます。
長い間夢を見ていた。
《やあ》
隣の席には明星一番が座っている。
《頬っぺに答案が写ってるぜ》
「あ!」
周りを見ると学生服を着た同窓生たちがカリカリとペンを奔らせていた。
「試験中?」
“字源”は、透き通る目に“試験”となる。
《君は、合格だよ》
私たちの会話は誰にも聞こえていないみたいだ。
“不”思議な感覚……デジャ・ウ゛だろうか?
「あなたが歳を取って、私も歳を取っていた。……変かも知れないけど、そんな夢を見たわ」
変じゃない、と一番。
《それは君が“ふ”抜けていない証拠だよ》
私は思わず一番の手を掴む。衝撃と共に電撃が奔った。
「私、あなたに恋をしてるの」
一番も手を握り返す。
《来い》
私たちは身を寄せ合って、お互いをまさぐる。
唇と唇でキスをした。
時計の針は進み続ける。
だからこそ、今この時を大切にしたい。
生まれ変わった宮藤政子が教鞭を置き、試験時間の終了を告げた。
「おしまい!」
【完】
試験の時間が嫌で嫌で堪らなかった。
私は結果を求めているんじゃない、その“過程”に生きていたいんだ。
澤田ゼッケンが造り出した“仮定”の世界を、闖入者の鋼チョスが壊す。
【異界(いかい)の扉は、開かれた】
それはひっくり返しても変わらない回文の牢獄。
澤田ゼッケンは、未来永劫落ち続ける!
((食らえ、“蚊”取り線香!))
異界の狭間から神崎るれろがグルグル模様の円盤を放つ。
『もう止めてくれ!』
円盤は豪邸の離れにある宝物殿、蔵の施錠を突き破って“か”足すトロフィーに直撃した。
価値あるものが“血”を流す。
【己の罪と真実を知り、その衝撃を受け止めろ!】
夢が壊れ、目覚めの光が降ってくる。
蚊取り“線香”から放たれる、唯一無二の“閃光”だ。
私もそれを浴び、目を閉じる。
「痛い……」
★
《真実》
皺くちゃ顔の澤田ゼッケンがガムを噛んでいる。惚けた様子で、ロビーの椅子に座り続けていた。
「無我のガム」
その手前で、大慌てで救急カートを押す年配の看護婦。
昼と夜とを使い分ける刃渡ネオンの昼間の顔だ。
「誰か、死んだの?」
彼女が来た方向へ目を移すと、明星一番がいるはずのベッドが空いていた。
「一番……私の一番……」
泣いても何も変わらない事は知っていたし、今ではそうそう涙も出ない。
行くあてもなく館内を彷徨う。
喫煙室に屯する老人たちが目に入った。歯のない口で笑っている。
歯がねー3兄弟だった。
『三咲さん……三咲さんだね?』
杖をついた爺さまに呼び止められる。
最近白内障になった猿渡わをん。
『今日こそ抜け出そうこの牢獄から!オトナ族の監視から自由になろう!』
濁ってしまった目には、監視辛めが“がんじがらめ”に見えてしまう。私有できる自由を求めて逃避していた。
「断るわ、わをん。あなた本当に中二病なのね」
中二のことを中二病とは呼ばない。
年齢を重ねても中二であり続けることが病なのだ。
『それがいけないことなのかね?』
世の中には悪いことばかりでなくて、良いこと楽しいこと正しいことが溢れている。
私の会社のそばには蕎麦屋があって、よく食べた。
「明星一番は偉大な人だった」
人生に疲労困憊した私を労り、老人ホームに入ってからもよく話に来てくれた。
来たり、来なかったり。まさに神出鬼没だった。
というのも、私たちは互いに惹かれ合っていたからだ。
高校卒業と時を同じくして一番は私の前から姿を消し、私は成り行き任せで澤田ゼッケンと結婚した。全てはカタストロフィーによって仕組まれた罠だった。
《せめて君の余生を見守ることが、僕に出来る唯一の償いだ》
それがこんなにも早く、向こうから先に行ってしまうなんて……。
だけど、一番は常に心の中にいる。
「偉大な人は皆、いずれ去ってしまうのね」
私もそろそろ、去る時間か。
「正々堂々、退陣します」
《これでも食えや》
“た”ぬきうどん。
退陣するのは皆偉人。
大切な思い出は、異説と化す。
《もう一度やり直そうよ、三咲》
これを輪廻というのだろうか?
中二病の私は、老齢になって尚、高校時代の夢を見る。
世界には幾つもの次元があって、誰もが望む世界を手に入れられるとは限らない。
「何処で何を間違ったのかしら」
私は“つらい時限”を生きてきた。
《君は君を生きてきた。その事実は誇るべきことだ。何処で何をしようとも、君は君であり続けた》
だから。
《これからもそれを、“つら”抜き通せ》
“つらい時限”は
“つら”抜き通すことで
“異次元”となる。
鋼ミュートが私を浄化し、生まれ変わるための準備を施す。
((ねぇ聞こえる?あなたは今、眠っているのよ。起きたら夜が明けて、真っ更な瞳で世界を見るの))
いびきが聞こえる。私自身が寝ている証拠だ。
“異次元”は
“い”引きによって
“字源”になる。
((あなたの目に、濁りはない!))
こうして私は旅立った。
★
目を覚ます。
長い間夢を見ていた。
《やあ》
隣の席には明星一番が座っている。
《頬っぺに答案が写ってるぜ》
「あ!」
周りを見ると学生服を着た同窓生たちがカリカリとペンを奔らせていた。
「試験中?」
“字源”は、透き通る目に“試験”となる。
《君は、合格だよ》
私たちの会話は誰にも聞こえていないみたいだ。
“不”思議な感覚……デジャ・ウ゛だろうか?
「あなたが歳を取って、私も歳を取っていた。……変かも知れないけど、そんな夢を見たわ」
変じゃない、と一番。
《それは君が“ふ”抜けていない証拠だよ》
私は思わず一番の手を掴む。衝撃と共に電撃が奔った。
「私、あなたに恋をしてるの」
一番も手を握り返す。
《来い》
私たちは身を寄せ合って、お互いをまさぐる。
唇と唇でキスをした。
時計の針は進み続ける。
だからこそ、今この時を大切にしたい。
生まれ変わった宮藤政子が教鞭を置き、試験時間の終了を告げた。
「おしまい!」
【完】
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