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今昔小豆百科-壱
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午前六時。ほとんど誰もいないこの学校で私は今日も図書室にやってきた。
事務室から借りてきた鍵で図書室入ると他の人が間違って入らないように内側から鍵をかけておく。まだ薄暗いものの慣れた足取りで迷うことなくカウンターに辿り着くとカウンターから繋がっている普段は書庫になっている部屋に入る。外に光が漏れないように扉を閉め、明かりを着ければいよいよ今日の業務が始まる。
「早々で申し訳けど、お仕事をお願いしてもいいかな?」
誰もいないはずの部屋に音もなく現れた小柄な男が現れる。男はニコニコと笑顔を浮かべながら私に話しかけると一枚の紙を渡した。私はいつも通り男から紙を受け取ると紙に記された出版社を確認する。
「妖伝社の書籍ですね。すぐに確認します」
「よろしくね」
私はいつものように書名を確認し金庫にしまわれた和本を取り出すと書名を探していく。一分もかからずに書名を見つけるとこの部屋から本を探し出しカウンターに持っていく。
「こちらの『今昔小豆百科 第三版』で間違いないですか?」
本を手渡すと男はじっくり表紙を眺め、パラパラとページをめくると納得したように笑顔を浮かべる。
「うん。この本が読みたかったんだ。見つけてくれてありがとうね」
私はすぐに先ほどとは別の和本を取り出すと貸し出しの手続きを行い始めた。
「すみません。名前を伺っても宜しいでしょうか?」
まだ自分が名前を名乗っていなかったことに気づいた男はわずかに眉を上げたものの、落ち着いた口調で名乗り始める。
「そういえば、まだ名乗っていなかったね。ワシは小豆洗いの善吉っていうの。よろしくね司書さん」
「私は司書ではありません。偶然、この業務の担当になったこの学校の生徒です」
初対面の妖怪達には必ず間違われる呼び方につい少し強い口調で作業的に呼び方の訂正を行ってしまった。
幸い、善吉は気にした様子もなく変わらずニコニコと笑顔を浮かべ私の顔を見ていた。
「いつもありがとね。ワシたち、君のおかげでこうやって妖伝社の本を楽しむことができるの」
「いえ、これも私が先代から引き継いだ業務ですし、好きでやっていることですから気にしないでください」
「そうかもしれないけど、ワシたちにとってはとっても大切な場所だから感謝を伝えたかったの」
私は胸の奥が少しむずかゆく感じた。ただ自分が好きでやっているこの業務を妖怪の方々は頻繁に御礼を言ってくる。そのうち慣れるかと考えていたが、今のところ一向に慣れる気がしない。そのためいつものように話題を変える。
「それでは、善吉さんのお話を聞かせてもらえませんか?」
私の言葉に善吉は小首をかしげる。
「それなら簡単だけど、ワシの話楽しくないかもよ」
少し不安そうに尋ねてくる善吉に私は安心させるように目を見つめる。
「私が聞きたいんです」
私の言葉に善吉は先ほどよりも嬉しそうな雰囲気を見せると近くにある椅子を引っ張ってくる。善吉が座るには少し大きな椅子へえっちらおっちらと座るとカウンターを挟んでちょうど私と向かい合う高さになる。
「それじゃあ、ワシの話をしようかね」
「お願いします!」
この業務の最も楽しい時間が幕を開けた。
事務室から借りてきた鍵で図書室入ると他の人が間違って入らないように内側から鍵をかけておく。まだ薄暗いものの慣れた足取りで迷うことなくカウンターに辿り着くとカウンターから繋がっている普段は書庫になっている部屋に入る。外に光が漏れないように扉を閉め、明かりを着ければいよいよ今日の業務が始まる。
「早々で申し訳けど、お仕事をお願いしてもいいかな?」
誰もいないはずの部屋に音もなく現れた小柄な男が現れる。男はニコニコと笑顔を浮かべながら私に話しかけると一枚の紙を渡した。私はいつも通り男から紙を受け取ると紙に記された出版社を確認する。
「妖伝社の書籍ですね。すぐに確認します」
「よろしくね」
私はいつものように書名を確認し金庫にしまわれた和本を取り出すと書名を探していく。一分もかからずに書名を見つけるとこの部屋から本を探し出しカウンターに持っていく。
「こちらの『今昔小豆百科 第三版』で間違いないですか?」
本を手渡すと男はじっくり表紙を眺め、パラパラとページをめくると納得したように笑顔を浮かべる。
「うん。この本が読みたかったんだ。見つけてくれてありがとうね」
私はすぐに先ほどとは別の和本を取り出すと貸し出しの手続きを行い始めた。
「すみません。名前を伺っても宜しいでしょうか?」
まだ自分が名前を名乗っていなかったことに気づいた男はわずかに眉を上げたものの、落ち着いた口調で名乗り始める。
「そういえば、まだ名乗っていなかったね。ワシは小豆洗いの善吉っていうの。よろしくね司書さん」
「私は司書ではありません。偶然、この業務の担当になったこの学校の生徒です」
初対面の妖怪達には必ず間違われる呼び方につい少し強い口調で作業的に呼び方の訂正を行ってしまった。
幸い、善吉は気にした様子もなく変わらずニコニコと笑顔を浮かべ私の顔を見ていた。
「いつもありがとね。ワシたち、君のおかげでこうやって妖伝社の本を楽しむことができるの」
「いえ、これも私が先代から引き継いだ業務ですし、好きでやっていることですから気にしないでください」
「そうかもしれないけど、ワシたちにとってはとっても大切な場所だから感謝を伝えたかったの」
私は胸の奥が少しむずかゆく感じた。ただ自分が好きでやっているこの業務を妖怪の方々は頻繁に御礼を言ってくる。そのうち慣れるかと考えていたが、今のところ一向に慣れる気がしない。そのためいつものように話題を変える。
「それでは、善吉さんのお話を聞かせてもらえませんか?」
私の言葉に善吉は小首をかしげる。
「それなら簡単だけど、ワシの話楽しくないかもよ」
少し不安そうに尋ねてくる善吉に私は安心させるように目を見つめる。
「私が聞きたいんです」
私の言葉に善吉は先ほどよりも嬉しそうな雰囲気を見せると近くにある椅子を引っ張ってくる。善吉が座るには少し大きな椅子へえっちらおっちらと座るとカウンターを挟んでちょうど私と向かい合う高さになる。
「それじゃあ、ワシの話をしようかね」
「お願いします!」
この業務の最も楽しい時間が幕を開けた。
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