神様放浪記

水嶋川千遊

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目覚めた世界

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 エウシアが長い眠りから目覚めるとそこは森の中の湖の畔だった。
「ここは……」
 エウシアは周囲を見渡すが周囲には木々と色とりどりの花があるのみで人はおろか鳥や虫といった生き物すら見当たらない。木々の多さから森の中であろうと推察できるものの生物がいない理由については皆目見当がつかなかった。
 不思議に思い湖を離れ森の中を探索すると以前には感じなかった違和感を理解した。
「神の気配を感じない」
 眠りにつく前は世界中で溢れんばかりに漂っていた自らの同類である神が発する気配が一切感じられなかった。湖の周囲に薄く漂う程度でありそれ以外にはわずかながらも神の気配を感じることはできなかった。
「これはいったいどういうことなんだろうね」
 訳がわからないまま森を彷徨うと次第に生き物の気配が周囲に増えていく。虫や鳥、獣と眠りにつく前に感じていた気配立ちと似た気配を多く感じるようになっていった。気配が増えていく中、エウシアは以前は感じたことのない禍々しい気配を感じた。
「この気配はいったい何の気配だろうね」
 疑問に感じながらも現状を確認するため、会話のできる存在を探そうと森の中を再び歩き始めた。
しかし、どれだけ歩き続けてもその存在を見つけることはできなかった。エウシアが少し離れた位置に気配を感じるため森の中に生き物がいないというわけではない。しかし、エウシアが近づくと生き物が逃げてしまい、エウシアが出会うことができずにいるのである。
 湖と同様にエウシアから出る神の気配を感じて逃げているのだと推測したものの、エウシア自身が神の気配を消すことはなく、結局湖の周囲を一周しその周辺の森を探索するのみであった。
 唯一の収穫を上げるとすれば、草がかなり生い茂ってはいたものの最近生き物が通ったらしい跡のある道を見つけたことであった。
「他に宛てもないし、話ができる存在に出逢えることを期待しますかね」
 エウシアはどこか楽しげにそう呟くと迷いなく道を歩いて行った。
 エウシアが道を歩き始めまず始めに感じたことは道の歩きにくさだった。道は長い間放置されていたようで草木が生い茂り、本来道となっていた場所は枝葉で溢れていた。幸い、最近この道を誰かが通ったようで人一人分だけ枝が折られていたため全く進めないということはなかったものの、それでも進むことが容易な道というわけではなかった。
 道を進んでいくと次第にエウシアが感じることのできる気配が徐々に増加していく。しかし、湖の周囲同様にエウシアが一定の距離まで近づくとそのことを察知したかのようにあらゆる生き物が周囲から去っていった。眠りにつく前では起こりえなかった現象に対しエウシアは疑問を覚えずにはいられなかったものの、疑問を解消する術を持ち合わせているわけではないため仕方なく今は探求を諦め道を進んでいった。
 太陽が真上に来た頃、エウシアは少しばかりの休息を取っていた。
 道を歩きながら見つけた赤い果実を頬張りながら少し大きめの石に腰掛け休息を取っていると、エウシアのいる場所に向かって移動してくる二つの気配に気づく。片方の気配はどうやら歩いているようでゆっくりと近づいてくる。しかしもう片方の禍々しさを感じさせる気配は全力で走っているようで急速に近づいていた。
 気配が近づくにつれうなり声も聞こえるようになってきたものの、エウシアは気にする様子もなくのんびりと休息をとり続けていた。
 ついに禍々しい気配は真後ろまでやってきたようで草木に身体がこすれる音が大きくなるとようやくエウシアはゆっくりと音のする方へと振り向く。
 そこには大人の何倍もの大きさのも熊がうなり声を上げて今にも襲いかかろうとしていた。
 熊の様子をエウシアはどこか愉快そうに眺めているばかりで逃げるそぶりはおろか立ち上がろうともしない。
「僕を食らおうとするのか。君の望みは随分欲張りなようだね」
 熊にだけ聞こえるように言葉を発すると同時にわずかにエウシアの気配が強まる。そして、それが合図であったかのように熊はエウシアに牙を剥こうと飛びかかった。
 その瞬間、
「少年、怪我はないか」
 エウシアと熊の間に突然現れた男が割り込み純白の剣で襲いかかる熊を受け止めた。
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