バッドエンド予定の亡国公女は幼馴染の騎士様と王子様に困惑する。

館花陽月

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亡国の公女は婚約者に捨てられる。

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エル・ドラート大陸の中心地にあるロンバビルス帝国。

様々な国から殉教者が訪れるが、帝国主義であるこの国には非情で冷酷な王とそれを守る堅固な竜騎士団が置かれ、竜の血が持つ魔力による軍事国家である。
この国の首都には、国教として信仰の中心に荘厳なエル・ドラート聖教の神殿が置かれている。
その神殿内に祭られたこの世界の建国記に、美しい
虹色の瞳を持つ女神と、銀色に輝く竜の王と出会い恋に落ちた後にこの世界が生まれたと記されている。

この物語は、このロンバビルス帝国の南側にある
産業と科学が盛んな大国アメルディア王国の王宮から始まった。

王族のみが入室を許される、謁見の間に呼びだされた私は緊張を持って書状を読み進める婚約者のシオフィン=マッドラム=アメルディアの声に
頭を垂れて跪く。

アイリスは結婚式を来月に控え、衣装直しの途中で急に呼び出された。

シオフィンは私の幼馴染で婚約者だ。
3年前に、他国からの打診があった際に父王が我が国の発展のため私の婚姻を秤にかけた。
結果、大国へと成長途上だったアメルディア王国からの申し出を受けることにしたのだった。
その頃から、世界情勢は不穏な動きを見せるようになり父王は
アメルディア王家に私の身柄を預け、17歳の誕生日の翌月には王子との
婚姻を行うことを約束した。

シオフィンは、スカイブルーの瞳を揺らして私を見た。

「・・アイリス。残念な知らせが2つある。
1つは、君の国「セレンダート公国」は、
隣国のロンバビルスによって滅ぼされてしまった。
よって君の母国はその名と領土を失い、セレンダートはかの国の支配下の元
統治されることになった。」

頭がパニックになった私は震える声でシオフィンを見上げた。
目の前が真っ暗になる感覚に、ハクハクと飲み込み切れず息を吐いた。

「そんな!?
わたくしの祖国が帝国に落ちた・・と??
父王やお母様・・。
何よりもわたくしの国の民たちは??
それに、レキオスお兄様はご無事なのでしょうか!?」

動揺を隠せずに背中には冷たい汗が伝う。

「ご存命かどうか・・。
この書状には降伏と王族の処刑が済んだと
書かれてあるのみなのだよ。」

「なんですって!?
処刑って・・何故そんなことに!?
わたくしは何も知らされておりませんでしたのに・・。」

「十日前に王城にロンバビルスの竜騎士が攻め入ったと・・。
制圧まで一週間かからなかったそうだよ。
何てことだろう・・。
アイリス、君の苦しみや痛みが変わってあげたいくらいだよ。
幼い頃からの仲だからな・・。
そして、もう1つ残念な知らせがある。
来月行う予定だった、僕達の結婚式は取りやめになった。
君との結婚の話は白紙にすると・・。
かの国からの圧力もあり、父上がそう決められた。」

<自国が亡国となった公女の私には何の価値もなくなったのね・・。>
私にはもう、この国の王子と婚姻を結ぶ益を齎す価値ある相手では
なくなったのだと宣言されたような感覚になった。

「そ、そうですか・・。
あの圧力・・とは、どのような?」

「帝国は、この国に身を置いている君を差し出せと・・。
僕はそれだけは出来ないと父王に言ったよ。
だけど、帝国が納得するかは分からない。
君の母国を滅ぼした危険な国に大切な君を渡すことは出来ない・・。
アイリス、僕は君が大好きで大切なんだ!!
だから、結婚は出来ないけど・・。
君をこの国に隠して、妾としてでも僕の傍に置きたい!!」

愛しい者を見つめるような熱を持った瞳で一段高い王座の横から私を見下ろしていた。
聞き捨てならない幼馴染の言葉に目を白黒させたまま私は空虚な瞳で
シオフィンを見上げていた。

「わたくしがフィンの妾、ですか・・。
日陰の身となり・・。
体を差し出し、・・貴方に尽くせと仰るのですか?」

元々勝気な姫君として育っていた私は、彼の言葉に
モヤモヤとした感情を燻ぶらせていた。
アースアイと呼ばれる青色とアメジストが混じった虹色の虹彩を持つ瞳で、キッとひと睨みを利かせた。

「そんな・・。
あ、貴方のその柔らかな体を差し出せなど・・。
そのような卑猥な感情ではなく
ただ、君が好きなんだ・・。
あの国だけには、君をくれてやることはしたくないだけだ!!」

妾として、幼馴染であるシオフィンの傍にいたいかと言えば否。
私は、セレンダート公国のたった一人の生き残りの公女。

しどろもどろになる私の動作に、長い髪を後ろにまとめていた
はずの白金のプラチナブロンドの髪が忙しなく視界に入る。

冷たい黒曜石の床に両手を置いて、重いロングドレスを持ち上げてゆっくりと立ち上がった。

「お断りです!!
どうか、帝国に私の身を差し出してください。
わたくしアイリスは、父王と亡きセレンダートの民に殉じます。」

私の言葉にあ然とした表情を浮かべたシオフィン王子は、自分の柔らかいアッシュブロンドの髪を掴んで不快な表情を浮かべた。

もう片方の手を挙げると、謁見の間の後ろに控えていた衛兵が私の後ろに駆けてくる。

気が付くと両腕を拘束されていた。

「何をするの!?放して・・!!シオフィン・・。
どうして??何故なの・・。
何故、私の気持ちを聞いてくれないの!?」

憂いを浮かべた蒼い瞳で私を一瞥したシオンは、ふいっと
視線を剃らして一言呟いた。

「美しいアイリス・・。君は僕だけのものだ。
君をあいつになんか渡すものか。衛兵、亡国の公女を王城の西にある塔の特別室へと連れて行け!!」

「何のことです??お願いよ、私を解放して!!
セレンダートに行かせて・・。
せめて、帝国に身柄を渡して祖国に殉じさせて欲しいの!!
それが私が私として生きるための矜持だから。お願いよ、フィン・・!!」

シオフィンは、下を見つめたまま美しい金色の髪を両手で抱え蹲った姿勢のままで私を見ようとしなかった。
何度抵抗しようとしても、私一人の力ではどうにもならなかった。

絶望の中で、重厚なビロードに豪奢な金を使用した大きな両扉が閉められる。

重苦しい甲冑を身に着けた数人の衛兵が無表情で私の腕と体をしっかりとホールドしたまま、謁見の間から特別室へと身柄を移したのだった。

アイリス=シェーラ=セレンダート
17歳の誕生日。

私は、祖国セレンダート公国を失い亡国の公女となった。
翌月に開催予定だった結婚式は中止となり、婚約者であった幼馴染のシオフィンとの婚約も白紙となる。

そしてその日から、私はアメルディア王国の王城にある西の塔に幽閉の身となった。
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