ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

館花陽月

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恋は混戦模様。

はじまる新しい関係。

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「風呂が沸いたから温まっておいで。そこにバスローブを出しておいたから好きに使ってくれ。」

広い大理石張りのタイルの浴槽に浸かると、冷えた体温が温められていく。

ラベンダーのバスソルトの包み込まれるようないい香りに癒された。

髪を洗い、バスローブを羽織って部屋へと戻ると恐るべき光景が目の前に広がっていた。

「二条先生・・・!?何ですかこれ?」

「君の身につける物を、いくつか身繕ってもらって運んでもらった。」

絶句したまま立ち尽くした私に、サラリと慧が答える。

下着、靴、服、鞄が数種類程度、リビングに並べられている。

「これ・・こんなに受けとれませんよ!」

「君の好きなポロシャツとスニーカーも用意したよ?他に必要なものがあれば用意させる。」

得意気に笑っている慧に、私はガックリと項垂れた。

こういう人だった・・。

こんなの全部払えないっつーの!

「返さなくていい。返されても困るし、君に着て貰いたくて選んでくれたんだから。」

誰が!?

いつもながらパニックになっていた。

「二条先生はやることなすこと桁外れですよ。この先、ついていけるか分からなくなります!」

「俺は全然いいけど君はその色っぽいバスローブ姿でずっと過ごす気?
家の中で俺の理性がいつまで持つかの我慢大会でもやるのか?」

「・・すぐ着替えます。いずれ私が働いて全部返してみせますから!」

ビシッと慧を指差すと、下着と替えの服を持って逃げる。

電卓を頭で弾きながら桁が2桁ほどズレた金銭感覚に青ざめる。


その様子を慧は勝ち誇ったように笑って見ていた。

 悔しげに着替えをして戻った私の前に温かいスープが差し出された。

「はい。これ飲んで温まって。さて、俺もシャワー浴びて来る。」 

その言葉と意味ありげな視線に、私は石のように固まる。

「美桜、期待してるの?頬が赤いけど?」

からかうように美貌の天才外科医は微笑んだ。

「えーと、何ですか?私が何を期待するんですか?」

「何だろうな。・・行ってくる。」  

今のどうゆう事?

私は真っ青になって右往左往していた。

居ても立ってもいられなくなり、理央に電話する。

「好きだって気づいたなら、いいじゃないの。何を躊躇うの?
まさか、あんたの許嫁に初めてを捧げる気なの?」

「・・ない!・・それはないけど。」

それを想像しただけで恐ろしくなった。

「鈍感なあんたを気づかせてくれて、そこすら好きだなんて男はこれから先現れるかわからないんだから!
腹を括りなさい。頑張れ!!検討を祈る」

そんなこんなで、健闘を熱く祈られ電話が切れた。

ビビりまくりの私の前に、バスローブ姿で濡れた髪を揺らした慧が微笑んで立っていた。

長い睫毛が湿り、大きなハッキリとした瞳とが合うとドキッと胸が高鳴った。
 
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