ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

館花陽月

文字の大きさ
54 / 124
恋は混戦模様。

最恐の登場②

しおりを挟む
「お母様・・。何故、こんな所にいらしたの?」

小刻みに私の瞳は揺れる。

私は困惑の表情で母に問う。

女の艶を漂わせるうなじに手を当て、クスリと華やかに微笑んだ。

「あら、・・ご挨拶ね、今回は「仕事」みたいな物で東京に来たのよ。
東京まで来たから、久しぶりに可愛い娘の顔を見たくてね。
ふふふ。会えて良かったわ。」

背中に冷たい物が走る。

私は、胡乱げに母を見上げていた。

「お顔はよく似てるのね・・一目見た瞬間にビックリしたわ。美桜のお母さま、若くて、綺麗だね。」

理央は私と、母の顔を見比べ驚いていた。

口を大きく開けて、私の方へと近づいて来る母に、少し後ずさる。

「あら、有難う理央さん。あのね美桜さん、今日は帝都ホテルに宿泊する事になっているの。
貴方、今夜はご予定如何かしら?親子水入らずのお食事でもと思っているのだけど。」

無理・・!絶対嫌!!

私は、怪訝そうに母を見る。

「私、今日は博士論文完成の打ち上げがあるの・・。夜は都合が悪くて。ごめんなさい。」

「遠くからいらして下さっているのに、すみません。今夜私の家で開く予定なんです。集まって完成のお祝いするんです。」

私が断ると、理央が察して助け舟を出してくれる。

「そう。遠くから母が娘に数年ぶりに会いに来たのに・・。飲み会を優先される酷い扱いを受けるなんてね。・・こんな屈辱ないわね。」

母は、眉を引きつらせ、さっきまでの貴婦人のような雰囲気から明らかに不機嫌な表情と態度を示す。

・・こういう人なのよね。

全然、変わらない。

自己中心的で、周りの空気などわざと読んであげない・・そんな女性だ。

急に凍てついた緊張感が走り、理央が真っ青になる。

「あ・・あの、すみません!!でも、博士論文は院生はみんな、かなり苦労して書き上げてきた物なので・・。
完成を互いに労うための特別な慰労会みたいな物です。その、美桜もお母さんが来ると知っていたら・・その。」

「美桜さん、そのお集まりの時間は何時から?」

細く、白い手首に嵌った腕時計を見ながら、母が聞く。

「19時からです・・・。会場は私の家なので、神田駅のすぐ側なんですが。」

理央が、私を制して答えた。

「そう、それなら仕方ないわ。今からホテルのアフタヌーンティでも頂きしょうか?すぐに帰りの用意して頂戴。」

「お母様、私もう少しここでデータを纏めたいのですけど・・。いきなり来て、自分勝手をなさると私も友人も困ります。」

「あら・・、母の言う事が聞けぬと言うの?貴方、相変わらず頭が悪いのね。
こんな学校に通う事も私は許した覚えはないのに・・。
女に学歴は必要ないわ、美しさと品があればいいのよ・・。
特に我が家のような家系には花嫁修業ぐらいで丁度良いのに・・貴方ときたら昔から変わっているから。」

冷えた空気が漂い、睨み付ける私と含み笑いで見つめる母の間でオロオロしている理央を見てハッとする。

このまま、ここで親子喧嘩を初めても仕方がない。

この人と話しても、解決などはなく平行線を辿るだけだと言う事を嫌と言うほど知っているのだ。

「・・分かりました。その代わり、約束は守ってください。
集まりの開始は19時からなので、18時には私を解放して下さいますね。」

見上げるように笑った母に、私はゾクッと寒気を覚えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

処理中です...