56 / 124
恋は混戦模様。
最恐の登場④
しおりを挟む
眠気覚ましの缶コーヒーを右手に持ち、大きな固めのソファに座る。
外来の診察を終えた慧は、医局に戻り携帯を確認していた。
その矢先、知らない番号からの着信に怪訝な表情を浮かべながらも、通話のボタンをそっと選択した。
聞いたことのない声の主は美桜から何度も話に聞いていた研究室の友人、館林理央の声だった。
彼女の声には、かなりのストレスがかかっていた。
落ち着かない調子で喋りだした理央の声に緊張が走る。
「館林さん、・・美桜は、彼女に何かあったんですか?」
理央から告げられた言葉に、慧は驚いて息を飲んだ。
その内容に自分の耳を疑った。
「分かりました。帝都ホテルですね。美桜の母親が出てきたとなると厄介だ・・・。
僕はすぐに、帝都ホテルへ向かいます。連絡してくれて有り難う、感謝します。」
通話ボタンを切ってズボンのポケットへと携帯を荒く突っ込んだ。
「大丈夫か・・。二条?」
強張った表情を浮かべた慧に、守田が心配そうに声をかける。
美桜の母親・・。
全く慧にとっては、良いイメージなどひとつもない女。
唯一の救いは、彼女を産んでくれた人間だと言うことだ。
彼女が出てきたとなると、あいつも・・・。
「守田先輩、出てきます。急いで行かないと・・。」
寛貴は、頷き「今日は午後のオペがないから大丈夫だ。気をつけて行けよ。お疲れ!」と、肩をポンと叩いた。
コーヒーカップを流しに置き、そそくさとホワイトボードに文字を書いた。
顔色が冴えない美貌を陰らせ、白衣を脱いだ慧は医局から早足に駆け出したのだった。
場所はそこから車で30分位離れた、宿泊客や、催しに大勢が訪れる豪華絢爛なホテルの中。
人が行き交うホテルのロビー近くにあるラウンジに美桜は居た。
母と向かい合って、フカフカの椅子に腰かけ、ホテルのオリジナル紅茶を頂いていた。
香り高く、華やかな茶葉の香りが鼻を抜けていく。
「美桜さん、貴方・・挙式が決まった事は海君から聞いているのよね?
何故、彼から逃げたのかしら・・。
携帯電話の番号も換えて、引っ越しまでするなんて。
流石に今までみたいにはこちらも黙っていられないわよ。どうなっているのか説明しなさい。」
目の前のテーブルには、ゴージャスな色とりどりのケーキや、マカロン、小さなサンドにフルーツのタルトなどが所狭しと宝石のように並んでいた。
しかし、私には折角のホテルメイドのお菓子の美味しい味は少しも感じられない。
砂を噛んでいるような感触がした。
「お母様、ごめんなさい。私は海君と結婚するつもりはないの。昔から、私は彼とはお互いの考え方も、価値観も違いすぎるのよ。」
母は、一際ラウンジ内でも目立つ着物姿と、麗しい美貌で私を冷たく一瞥した。
外来の診察を終えた慧は、医局に戻り携帯を確認していた。
その矢先、知らない番号からの着信に怪訝な表情を浮かべながらも、通話のボタンをそっと選択した。
聞いたことのない声の主は美桜から何度も話に聞いていた研究室の友人、館林理央の声だった。
彼女の声には、かなりのストレスがかかっていた。
落ち着かない調子で喋りだした理央の声に緊張が走る。
「館林さん、・・美桜は、彼女に何かあったんですか?」
理央から告げられた言葉に、慧は驚いて息を飲んだ。
その内容に自分の耳を疑った。
「分かりました。帝都ホテルですね。美桜の母親が出てきたとなると厄介だ・・・。
僕はすぐに、帝都ホテルへ向かいます。連絡してくれて有り難う、感謝します。」
通話ボタンを切ってズボンのポケットへと携帯を荒く突っ込んだ。
「大丈夫か・・。二条?」
強張った表情を浮かべた慧に、守田が心配そうに声をかける。
美桜の母親・・。
全く慧にとっては、良いイメージなどひとつもない女。
唯一の救いは、彼女を産んでくれた人間だと言うことだ。
彼女が出てきたとなると、あいつも・・・。
「守田先輩、出てきます。急いで行かないと・・。」
寛貴は、頷き「今日は午後のオペがないから大丈夫だ。気をつけて行けよ。お疲れ!」と、肩をポンと叩いた。
コーヒーカップを流しに置き、そそくさとホワイトボードに文字を書いた。
顔色が冴えない美貌を陰らせ、白衣を脱いだ慧は医局から早足に駆け出したのだった。
場所はそこから車で30分位離れた、宿泊客や、催しに大勢が訪れる豪華絢爛なホテルの中。
人が行き交うホテルのロビー近くにあるラウンジに美桜は居た。
母と向かい合って、フカフカの椅子に腰かけ、ホテルのオリジナル紅茶を頂いていた。
香り高く、華やかな茶葉の香りが鼻を抜けていく。
「美桜さん、貴方・・挙式が決まった事は海君から聞いているのよね?
何故、彼から逃げたのかしら・・。
携帯電話の番号も換えて、引っ越しまでするなんて。
流石に今までみたいにはこちらも黙っていられないわよ。どうなっているのか説明しなさい。」
目の前のテーブルには、ゴージャスな色とりどりのケーキや、マカロン、小さなサンドにフルーツのタルトなどが所狭しと宝石のように並んでいた。
しかし、私には折角のホテルメイドのお菓子の美味しい味は少しも感じられない。
砂を噛んでいるような感触がした。
「お母様、ごめんなさい。私は海君と結婚するつもりはないの。昔から、私は彼とはお互いの考え方も、価値観も違いすぎるのよ。」
母は、一際ラウンジ内でも目立つ着物姿と、麗しい美貌で私を冷たく一瞥した。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる