ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

館花陽月

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廻りだした運命。

ハル③

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僕は生まれつき苦もなく何でも出来た。

勉強も、人生すらも簡単で余裕すぎてつまらなく感じていた。

人の表情を見れば、心すら読めた。

だから、前髪を長く伸ばして人を見ないように下ばかり向いて歩いていた。

残念なことに、身長は人よりも発育が遅く、中1にして彼女より少し高いくらいの頼りなさだった。

こんな僕が彼女を助けたいと思っても、今の自分じゃ高が知れていた。

僕は彼女の背景や柵の重さを、引っ越して1年もしない内に理解していたから。

あの日、僕とあいつが言い争っている間に彼女が傷ついて目の前のアスファルトに赤い血が広がった日・・。

無力感で一杯だった僕は、医学の教科書を中古の本屋で買って読み始めた。

彼女の怪我をきっかけに医学の道へ進むのは、当たり前の流れだった。

医学の勉強は楽しかったし、難しい症例を見るとワクワクしてドーパミンが放出する。

すぐに起こった父の事故・・いや、事件で僕は身寄りすら失くすことになった。

親戚をたらい回しにされた挙句、一時的に養護施設に厄介になった。

父の兄の存在はずっと秘匿されていたが、新聞の報道を見た父の兄から養護施設へ連絡があった。

父の事故はあいつの仕業だと気づくきっかけを得た僕は、二条記念病院へ足を運んだ。

「二条には跡継ぎはいませんよね?僕を買ってくれませんか。」

その言葉を聞くや否や、二条記念病院の院長であった僕の今の義父は笑った。

「確かにうちは子供に恵まれなかった。養子も考えてはいたんだ。だけど、君はどうしてうちの子になりたいんだ?
別に君の母方の姓のままで養育する事は可能なんだよ。
あいつは二条を嫌っていた。無理に僕の子供にならなくても・・・。」

「貴方の姓がいい。二条の力が必要なんです・・。ついでに、貴方の親戚筋の西園寺の力も。」

義父は、目を見開いて僕を見た。

信じられないような眼で僕を厳しい視線を以って見つめていた。

「家の力は、君を守るものだけではないのだよ。
家名を背負う事は生きる上での重責ともなる・・。
そして、同時に汚せぬ重石ともなるんだ。だが、それを得て君はどう生きる?」

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