ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。

館花陽月

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廻りだした運命。

父の誤算。④

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ハルが慧なら、間違いなく彼に信じて着いていけばいい。

2度といなくならないと、約束をくれた慧の言葉を私は、信じればいいんだ。

冷たい光が宿る慧の瞳に、少しだけ不安が過る。
貴方は一体今までどうやって生きてきたの?

一人で、運命と戦ってきた彼に聞きたいことは沢山あった。

ただ、ひとつだけ引っ掛かることもある。

藤堂 海から聞いたハルの父親の違和感が残る事件の話・・。

ハルのお父様の不審な死因?

唯一人の親に一体、何が起こったのだろう・・。

不思議な寒気にぶるりと体が震えた。

駅前のロータリーには、薄っすらと白い月が姿を見せていた。

茜色から、薄いブルーへと変わる逢魔が時。

黒塗りのリムジンのドアから、執事にドアを開けられて恰幅の良い父の姿が中から現れた。

変わらない威圧的なオーラを放つその人物に、私は無意識に背筋が緊張状態になる。

「美桜、久しぶりだな。
数年ぶりになる薄情な娘の帰郷の報には驚いた。」

紺色のスーツ姿に、真っ黒な革靴を履いた父がにやりと微笑む。

「さて、こんなに急いで逃げるように帰るのは何故なんだ・・?
数年間音沙汰が無かった娘が急に現れたのだ・・。
お前は一体、何をしに山科へ戻った?」

私は、眉根を寄せ小さく息を吐いた。

震える手は温かい右手の温もりに包まれ、勇気づけられるように握りしめられる。

「・・お父様、随分ご無沙汰しております。
私が家に帰ったのは忘れ物を取りに参りましたの。
それもすぐに見つかりましたので、これにて東京に戻ります。」

「戻る??はははっ。・・・戻るとな。
お前の帰る場所はここだけだろう?
東京はただの一時的な逃げ場であろうが。
あそこにも、もう長くいれないのだぞ。
愚かな事を相変わらず口走る娘だな、お前は。」

「ですから、私は今後も、こちらに帰るつもりなどないのです。
貴方に何を申しても通じないのでしょうから、話すことなどありません。もう、結構です。」

私は父から目線を逸らして、駅の方へと視線を投げる。

一刻でも早くここから去りたい気持ちだった。

「ふははは・・。お前は、まだ夢を見ているのだな。お前や菫が愚図だから、結婚式の準備も藤堂とこちらで進めているのに。・・・逃げられる筈がないのだぞ?
式の招待状もこちらで発送済みだ。
まだ諦めぬとは・・愚図で愚かで、あいつにそっくりだな。残念な娘だ・・。」

私は、父の威圧にビクともせずに冷たく蔑むように睨み付ける。

ここが家なら、私はぶたれているだろう。

「何を勝手なことをおっしゃってるんですか?
私の人生は私が決めると再三、申しております。
それなのに、結婚の準備など、、私の気持ちを無視するのも、いい加減にして下さい!」  
  
足先から凍りつくような寒さに、身動きが取れず私は全身が震えていた。 
              
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