ゲームスタート時に死亡済み王女は今日も死んだふりをする

館花陽月

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聖女ルルドの恋模様

初めての死んだふりは入学式で①

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死んだふりの心得、その①
「死んだふりは最強の防御である。攻撃のターゲットを一時的に回避出来る効率的で最良の方法である」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・駄目だ。いくら探してもルルドがいない。」
大きなラベンダーの小道を抜けた学園の庭先で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
心なしか入学式この前なのに、首もとにある赤いリボンは斜めになっている。
仕立ての良い皺ひとつないピカピカの白いブレザーと、膝下まである長めのグレーと赤のチェックのスカートをすでに埃まみれにしていた。

身に着けていたお守り替わりのペンダントをぎゅっと握りしめた。
細い首に銀色の鎖が光る。
真っ白な胸元を飾るのは、女神から聖女の印として授けられたアレキサンドライトの石が涙型に象られた石で、自分の瞳と同じように様々な角度の光と調和した色を映す。
何故だか触ると、ホッとするのだ。
どうもこの石は聖女が持つべき物らしい。
おまけに1つだけ、女神の力をもらったのだけど、どうも物騒な内容だったので聞かなかったことにしたい・・。

「死んだふりって・・。誰得?
聖女の力の中で本当に死んだふりが最強なの?絶対嘘よね・・。」

「「9歳までの貴方はよく命を狙われていたのよね。10歳になると女神の力を受け継ぐ儀式があるから
その前に消してしまいたい物騒な人たちがいたのね。貴方が目を覚ましたとなると・・。
今後、また命を狙われることが多いと思うから8つの内の1つ。防御の力を授けようと思ったの。」」

他の7つ聖女の力は9歳の誕生日にそれぞれ力を必要とする人の元に散り散りになって霧散したそう。
私は、目が覚めた時には防御の力は備わっているらしいんだけど。

「「攻撃を受けた瞬間、仮死状態になるわ。
でも、ちゃんと攻撃の大きさに比例して眠るだけよ。
どう?最大の防御でしょ??
オマケに聖女の持つ「口」の力のもう1つ、防御の中でも役立つ癒しの力もセットで与えておいたのよ。
聖女の歌は聞くものに癒しと回復を与えるから、死んだふり中に怪我したらちゃんと都度治してね」」

自慢気に笑う女神様の楽しそうな笑い声・・。
もはや玩具じゃないの・・。
意識を取り戻した三日前の午後、目を覚ますと愛情深い両親や親族に涙ながらに迎えられた。
鏡を見ると、エメラルドと光の反射で紫と赤にも見える溢れ落ちそうなぱっちりの二重に、長くカーブしたバサバサの毛量を誇る睫毛、色白で透き通るような白い肌に、小振りだけどふっくらとしたピンク色の口唇。その少し下には色っぽさを増す黒子があった。
細い足首と折れそうな腰にアクセントになる胸もちゃんと膨らんでいたので、ついドレスの胸元から除き込んで驚いてしまった。
「さすが女神の再来!!ルルドも可愛いけど、アリアは輪をかけて見た目が垂れ目で儚げよね・・。
聖女はどこも非の打ち所がない訳ね。綺麗すぎていつまででもこの顔を見ていられるよ!!」

「自分もみんなと一緒に行って、アーミッシュアカデミー・パレスへ留学したい!!」と両親や幼馴染みに希望を伝えてみると、慌てたお父様から取り急ぎアーリシャス王国に連絡が行き、王様の計らいでみんなと一緒に入学することが可能となった。
1学年は3クラス編成で、特位クラス(王族や高位貴族・主に侯爵・公爵・名門伯爵家)、
名門クラス(一般伯爵・子爵・男爵)、魔法特科クラス(魔法に秀でた貴族・魔術師の系譜・魔法の資質が高い一般人)でのクラス分けがなされている。
私は入学式の早朝に飛び起きると、昨夜取り急ぎ準備された真新しいアーミッシュアカデミー・パレスの制服を身に着けて部屋を飛び出して学園中を走り回っていた。

「ルルドがいない「聖女ルルドの恋模様」なんてあんこが入っていない大福と一緒よ!
私の人生の楽しみは!?乙女ゲームで主人公が登場しないゲームってどうなる訳!?
ああっ・・。目の前で生ルルドの恋模様が見たかったのにっ!!楽しみに早起きしちゃって損した。」
「・・・オトメゲーム??気になってたんだけど昨日からアリアが叫んでいるルルドって誰?
名前から考えて違うとは思うけど・・。まさか男じゃないよね?」
項垂れた私の背後から白い制服を着た長い腕が巻き付いてきた。
「ク、クレトス!?」
「聖女ルルドの恋模様」の攻略対象の中で一番人気だったクレトスがやんちゃな藍色の瞳で横から私をのぞき込むようにして抱き着いていた。
「ビックリするでしょう!?おっ、男じゃないし。それよりも距離が近いってば!!」
元気・笑顔が爽やかな王子様だけど、ルルドには執着して何処にでも金魚の糞のように付いて回ってたっけ・・。
ストーカー体質っぽいクレトスの視界には出来るだけ入らないようにしよう。
「なんだ!それならいいけど。あー・・。アリアはいい匂いだな・・。馨しいよ。ホワイトローズのような可憐で繊細な香りがする。朝から大好きなアリアを胸に抱けるなんて幸せだ。癒される。元気が出るなぁ。」
「・・・やめてよ。走り回ってきて埃っぽいから嗅がないで!!」
青ざめた私はストーカー体質のクレトスを離そうと肩を揺すってみるがびくともしない。
首元をスンスンと嗅がれているようなスースー感がした。
「お前、仮にも自国の領土にある学園で王子が隣国の王女に拒まれているのにも関わらず、朝から過剰なスキンシップをしている状況を見られたら・・。わが国の信用問題になると思わないのか?」
冷めた声でクレトスを見下ろしていたアドルファスが、私の肩からクレトスを面倒くさそうに引き離した。
急に抱き着かれたせいで、しゃがんだ膝から前のめりに倒れそうになった私を前から咄嗟に支えてくれたみたいだ。
「アドルファス、有難う。助かったわ。」
「別に。愚弟の暴走を止めるのは兄の役割だからな。」だるそうにため息をついて手を貸して立たせてくれた。
しかし、今日も底知れない深さの瓶底眼鏡が太陽にキラリと輝いて眩しい。
「なんだよー。邪魔ばかりして・・。兄貴は嫉妬してるのか??」
「嫉妬でなく躾だな。
待てが出来ない犯罪に片足を突っ込みかけてる弟に自国の王太子として、そして風紀を守る生徒会役員として注意をしている」
「まぁまぁ、喧嘩する程仲がいいという事でいいのかしら・・。」
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