ゲームスタート時に死亡済み王女は今日も死んだふりをする

館花陽月

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聖女ルルドの恋模様

初めての死んだふりは入学式で②

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私は賑やかな兄弟喧嘩を、斜め横目で見ながらも周りの音に気づいて辺りを見渡していた。

早朝には静かだった学園の庭には、ザワザワと大きな声が周りには広がっていた。
新入生達が真新しい制服を身に着けて両親や友達と登校してきていた。
新入生名簿が靴箱に貼ってあるので朝から血眼になって探しても新入生350人の生徒の全員の名前を確認した所、聖女ルルドの名前である「ルルド=ウォルドルフ」は見当たらなかった。

ルルドのいない乙女ゲームはどうなるんだろう・・。
王族だらけの豪華絢爛なメンバーが周りを取り囲んでいる状況で平和な学園生活なんて出来るのか・・。

「・・いやいや、平和とか絶対に無理よね。」
「あっ、おはようございます!!アリア様。」
ため息をついた私の後ろから肩までの長い深紅の赤い髪をくるりと毛先を内側に巻いた
可愛い少女の声がした。
「わぁとっても制服が似合うわ。可愛らしい!!体調は大丈夫ですか?」
振り向くと、好奇心の強さが感じられる
奇麗な紫色の瞳を細めてオーガスタの王女カリーナが私に抱き着いてきた。
「おはようございます、カリーナ様。ええお陰様で元気ですわ。長身のカリーナ様にはこの制服がよく似合いますね。足が長くて羨ましいです!!」
お姫様らしい美貌を持つカリーナを見ながら眼福ですと朝から潤いをもらってほっこりした。
その後ろから、ひょこっと長身の男性が顔を出した。カリーナと同じ紫色の瞳に漆黒の髪が濡れ烏のように黒く艶やかだった。
カリーナもカインも砂漠の国の出なので肌の色にこの白い制服はより映えて見える。
男性は青と黄色のチェックのズボンを併せて、同色のネクタイを付けている。
顔を上げた私に向かって視線を向けたカインは瞳を細めて笑った。

「おはよう、アリア。昨日移動してきたと聞いて驚きました。疲れはないの?」
「うん、お陰様で移動も快適でした!
カイン様も制服が良く似合っていますね。3年間どうぞ宜しくお願い致します!!」
カリーナの双子の兄であるオーガスタ王国の王太子カインは、眩しそうに眼を細めた。
カリーナは抱き着いたままで嬉しそうに笑っていた。
後ろからイグナス王国の王子ケイドルがお母様と並んで登校してきた。
母の姉妹である叔母に当たる王妃様は、ケイドルによく似た銀色の髪を纏めて、薔薇の縫い付けられた帽子を被り、落ち着いた青いスーツに身を包んでいた。遠くから王妃を守る護衛も数名付き添っていた。
私の姿を見つけた二人はこちらに手を上げて歩いてくる。
「・・・ああ、アリアちゃんっ。会いたかったわ!!
貴方がグラスを落として倒れた時はお姉様も相当取り乱してケイドルも数日間泣きはらして暮らしたのよ。無事に目を覚ましてくれて、こうして元気なお姿で会えて嬉しいわ。」

「お母様もアリアが目を覚ましたって知って、絶対に入学式に来るって聞かなくて・・。本当に
大事な従妹であり、幼馴染の君の目覚めをみんなが喜んでいるよ。こうして入学出来て嬉しいよ」

銀色の長い髪を1つに結んでいたケイドルは私と似た不思議な色の瞳を嬉しそうに輝かせていた。
私の母の妹がイグナス王国の王様に嫁いで、生まれた頃からケイドルや叔母様とは会議の時以外でも
交流をしてきたのだった。
「叔母様、お久しぶりです!!来て下さってどうも有難うございます。お目にかかれて嬉しいわ!!
9歳の誕生日までの記憶で止まっていて、目が覚めたら16歳なんて何だか不思議な気持ちだけど・・。」
「急なことで身体も不慣れないだろうから、不安なこともあると思うから、うちの息子に頼ってくれていいからね!!」
ケイドルの母である王妃様は、アリアの母に似たアッシュブロンドの髪をかき上げてけて微笑んだ。
胡蝶蘭を模った白蝶貝のイヤリングが品格を更に高めていた。
「ああ、そうだ。・・もし、クレトスにつき纏われて迷惑な時は僕を頼ってくれたら駆けつけるから、遠慮しないで困ったら言ってね?」
片目でウィンクを飛ばされ、私の心臓は何故か居をつかれて固まった。
美しい・・。
そこら変の名画よりも鮮やかだった。
ケイドルもアリアの従妹というだけあって女神様のような中性的な容姿で一瞬見惚れてしまった・・。

「つき纏いって言わなかったか?さらっと今、俺の悪口言ったよね!?」
「・・・相変わらず地獄耳ですね。(ボソッ)もう時間ですわ。
入学式が始まるわよ。ほら、クレトスもケイドルも入学式が始まるわ!
睨み合ってないでみんな移動するわよ」
「分かったよ。・・アリア、こっちだよ!!一緒に行こう」
白い歯と、爽やかな藍色の瞳で私を見つめてそっと手を差し出した。
クレトスが、眩い金色の髪が太陽に映し出されて眩しい。
歩き出したクレトスに手を引かれながら、私は掴まれた手に汗を滲ませて困ったように見上げた。
「お前は何処行くんだ。入学式は講堂だぞ、そっちは図書館だ。方向音痴なのか?」
アドルファスが、クレトスの首根っこを引っ張って迷子になっている弟の軌道修正をしていた。
「こちらのようですわ!!ご一緒に参りましょ」
カリーナが、慌ててクレトスの手を引き離して自分の腕を私に絡めて目を合わせると嬉しそうに笑った。

私の目の前には4大国の王子達が並んでいた。
カイル王子、アドルファス王太子、クレトス王子、ケイドル王子。聖女ルルドの恋模様の5人の攻略対象の内の3人が並んでいる圧巻のビジュアルだった。

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